2 / 7
第2話 聖女候補
しおりを挟む
聖女になれるかもしれない。
女性の言葉は、あっという間に周囲の街に広まっていった。
しかし、私はどうしてあれだけの魔法が使えたのか分からなかった。
失った魔力がなぜ戻って来たのかを。
「聖女の候補だと聞いています。私と結婚をしていただけませんか」
あまり日を置かずに、隣国の貴族から縁談の申込みが舞い込む。
両親はとんでもないチャンスだと、話を前向きに進める様子だった。
私も自分を認めてくれる人がいたのだと、心が弾んだ。
この人なら尽くしてもいいのかもしれない。
世間知らずな私は、ただただ喜んでいた。
早速花嫁修業を、と思っていた矢先のこと。
街に出たとき、たまたま縁談の相手である貴族令息を見つけ、嬉しくなって彼に近寄った。
十分に近づいて声をかけようとしたとき、彼とその友人の会話が耳に入ってくる——。
「本物の聖女が見つかったんだって?」
「ああ、あんな出来損ないの——次点の聖女など……。王家が目を付けていると言うから唾を付けておいたわけだが、こうなっては不要だな」
「はっ。聖女候補を集め、ヤッた女をトロフィーのように飾るのが好きなんだろ? 愛人にでもしたらどうだ? そこそこ可愛いんだろう?」
「それもそうだな。どうせ平民だし遊ぶのも、おもちゃにするのも悪くないな——」
私のことを次点の聖女などと呼んだのはこの男が初めてだった。
出来損ないの——。
その言葉は、私の心に黒い傷を刻む。
この時からいつも胸を締め付けることになる、呪いのように。
同時に、少しでも浮かれた自分のことが馬鹿に思えてくる。
所詮、相手にとってただの遊びの相手。
おもちゃと考えてもいいような人間。
二番手の私に価値などない。
「すまない、縁談の話は残念ながら……」
縁談の話は一瞬にして立ち消える。
両親はとても落胆し、しばらくは私に声をかけづらいようだった。
「この話はなかったことに。だけど君さえ良ければ——」
「分かりました。お引き取り下さい!」
やってきた令息の顔も見ずにそう言い切る。
私は、もう金輪際彼らと関わりたくないと考え、一切の連絡を絶つことにした。
なんとか顔を上げ、前を向いて歩こうとしたとき。
今度は王城から使者がやってきた。
「聖女候補として城勤めをして欲しい」
今さら私に何の用だと思ったのだけど、これが最後のチャンスだと言わんばかりに両親は私を送り出してくれた。
城で貴族たちと知り合うチャンスだと。
しかし、私は次点の聖女という言葉がどうしても頭から離れない。
価値の無い私が貴族や王族の男性と知り合うというのは、あまりピンとこなかった。
そもそも、神官職の女性ならたくさんいるのに。
なぜ私なのだろう?
また、上げて落とされる運命なのか。
そう思い、あまり期待せずに王城に向かった。
——果たして、その考えは正しかったことをすぐに実感する。
「ふん、所詮あなたは二番手なんでしょう? 次点の聖女サマ」
「ッ……」
王城にて、いきなりそんな嫌味を聖女マヌエラ様から浴びせられる。
あー、そういうことね。
分かった分かった。
私はハイハイと、軽く受け流すことにする。
もっとも、聖女マヌエラ様はそれが気にくわなかったようだ。
そのためか、益々いびられる日々が続いた。
次第に仕事を丸投げされるようになる。
女性の言葉は、あっという間に周囲の街に広まっていった。
しかし、私はどうしてあれだけの魔法が使えたのか分からなかった。
失った魔力がなぜ戻って来たのかを。
「聖女の候補だと聞いています。私と結婚をしていただけませんか」
あまり日を置かずに、隣国の貴族から縁談の申込みが舞い込む。
両親はとんでもないチャンスだと、話を前向きに進める様子だった。
私も自分を認めてくれる人がいたのだと、心が弾んだ。
この人なら尽くしてもいいのかもしれない。
世間知らずな私は、ただただ喜んでいた。
早速花嫁修業を、と思っていた矢先のこと。
街に出たとき、たまたま縁談の相手である貴族令息を見つけ、嬉しくなって彼に近寄った。
十分に近づいて声をかけようとしたとき、彼とその友人の会話が耳に入ってくる——。
「本物の聖女が見つかったんだって?」
「ああ、あんな出来損ないの——次点の聖女など……。王家が目を付けていると言うから唾を付けておいたわけだが、こうなっては不要だな」
「はっ。聖女候補を集め、ヤッた女をトロフィーのように飾るのが好きなんだろ? 愛人にでもしたらどうだ? そこそこ可愛いんだろう?」
「それもそうだな。どうせ平民だし遊ぶのも、おもちゃにするのも悪くないな——」
私のことを次点の聖女などと呼んだのはこの男が初めてだった。
出来損ないの——。
その言葉は、私の心に黒い傷を刻む。
この時からいつも胸を締め付けることになる、呪いのように。
同時に、少しでも浮かれた自分のことが馬鹿に思えてくる。
所詮、相手にとってただの遊びの相手。
おもちゃと考えてもいいような人間。
二番手の私に価値などない。
「すまない、縁談の話は残念ながら……」
縁談の話は一瞬にして立ち消える。
両親はとても落胆し、しばらくは私に声をかけづらいようだった。
「この話はなかったことに。だけど君さえ良ければ——」
「分かりました。お引き取り下さい!」
やってきた令息の顔も見ずにそう言い切る。
私は、もう金輪際彼らと関わりたくないと考え、一切の連絡を絶つことにした。
なんとか顔を上げ、前を向いて歩こうとしたとき。
今度は王城から使者がやってきた。
「聖女候補として城勤めをして欲しい」
今さら私に何の用だと思ったのだけど、これが最後のチャンスだと言わんばかりに両親は私を送り出してくれた。
城で貴族たちと知り合うチャンスだと。
しかし、私は次点の聖女という言葉がどうしても頭から離れない。
価値の無い私が貴族や王族の男性と知り合うというのは、あまりピンとこなかった。
そもそも、神官職の女性ならたくさんいるのに。
なぜ私なのだろう?
また、上げて落とされる運命なのか。
そう思い、あまり期待せずに王城に向かった。
——果たして、その考えは正しかったことをすぐに実感する。
「ふん、所詮あなたは二番手なんでしょう? 次点の聖女サマ」
「ッ……」
王城にて、いきなりそんな嫌味を聖女マヌエラ様から浴びせられる。
あー、そういうことね。
分かった分かった。
私はハイハイと、軽く受け流すことにする。
もっとも、聖女マヌエラ様はそれが気にくわなかったようだ。
そのためか、益々いびられる日々が続いた。
次第に仕事を丸投げされるようになる。
10
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
妹に裏切られた聖女は娼館で競りにかけられてハーレムに迎えられる~あれ? ハーレムの主人って妹が執心してた相手じゃね?~
サイコちゃん
恋愛
妹に裏切られたアナベルは聖女として娼館で競りにかけられていた。聖女に恨みがある男達は殺気立った様子で競り続ける。そんな中、謎の美青年が驚くべき値段でアナベルを身請けした。彼はアナベルをハーレムへ迎えると言い、船に乗せて隣国へと運んだ。そこで出会ったのは妹が執心してた隣国の王子――彼がこのハーレムの主人だったのだ。外交と称して、隣国の王子を落とそうとやってきた妹は彼の寵姫となった姉を見て、気も狂わんばかりに怒り散らす……それを見詰める王子の目に軽蔑の色が浮かんでいることに気付かぬまま――
聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件
バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。
そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。
志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。
そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。
「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」
「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」
「お…重い……」
「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」
「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」
過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。
二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。
全31話
聖女は寿命を削って王子を救ったのに、もう用なしと追い出されて幸せを掴む!
naturalsoft
恋愛
読者の方からの要望で、こんな小説が読みたいと言われて書きました。
サラッと読める短編小説です。
人々に癒しの奇跡を与える事のできる者を聖女と呼んだ。
しかし、聖女の力は諸刃の剣だった。
それは、自分の寿命を削って他者を癒す力だったのだ。
故に、聖女は力を使うのを拒み続けたが、国の王子が難病に掛かった事によって事態は急変するのだった。
無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました
天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。
伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。
無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。
そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。
無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
聖人の番である聖女はすでに壊れている~姉を破壊した妹を同じように破壊する~
サイコちゃん
恋愛
聖人ヴィンスの運命の番である聖女ウルティアは発見した時すでに壊れていた。発狂へ導いた犯人は彼女の妹システィアである。天才宮廷魔術師クレイグの手を借り、ヴィンスは復讐を誓う。姉ウルティアが奪われた全てを奪い返し、与えられた苦痛全てを返してやるのだ――
結婚式前日に婚約破棄された公爵令嬢は、聖女であることを隠し幸せ探しの旅に出る
青の雀
恋愛
婚約破棄から聖女にUPしようとしたところ、長くなってしまいましたので独立したコンテンツにします。
卒業記念パーティで、その日もいつもと同じように婚約者の王太子殿下から、エスコートしていただいたのに、突然、婚約破棄されてしまうスカーレット。
実は、王太子は愛の言葉を囁けないヘタレであったのだ。
婚約破棄すれば、スカーレットが泣いて縋るとおもっての芝居だったのだが、スカーレットは悲しみのあまり家出して、自殺しようとします。
寂れた隣国の教会で、「神様は乗り越えられる試練しかお与えにならない。」司祭様の言葉を信じ、水晶玉判定をすると、聖女であることがわかり隣国の王太子殿下との縁談が持ち上がるが、この王太子、大変なブサメンで、転移魔法を使って公爵家に戻ってしまう。
その後も聖女であるからと言って、伝染病患者が押しかけてきたり、世界各地の王族から縁談が舞い込む。
聖女であることを隠し、司祭様とともに旅に出る。という話にする予定です。
石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど
ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。
でも私は石の聖女。
石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。
幼馴染の従者も一緒だし。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる