「次点の聖女」

手嶋ゆき

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第2話 聖女候補

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 聖女になれるかもしれない。
 女性の言葉は、あっという間に周囲の街に広まっていった。
 しかし、私はどうしてあれだけの魔法が使えたのか分からなかった。
 失った魔力がなぜ戻って来たのかを。

「聖女の候補だと聞いています。私と結婚をしていただけませんか」

 あまり日を置かずに、隣国の貴族から縁談の申込みが舞い込む。
 両親はとんでもないチャンスだと、話を前向きに進める様子だった。
 私も自分を認めてくれる人がいたのだと、心が弾んだ。
 この人なら尽くしてもいいのかもしれない。
 世間知らずな私は、ただただ喜んでいた。

 早速花嫁修業を、と思っていた矢先のこと。
 街に出たとき、たまたま縁談の相手である貴族令息を見つけ、嬉しくなって彼に近寄った。
 十分に近づいて声をかけようとしたとき、彼とその友人の会話が耳に入ってくる——。

「本物の聖女が見つかったんだって?」
「ああ、あんな出来損ないの——など……。王家が目を付けていると言うから唾を付けておいたわけだが、こうなっては不要だな」
「はっ。聖女候補を集め、ヤッた女をトロフィーのように飾るのが好きなんだろ? 愛人にでもしたらどうだ? そこそこ可愛いんだろう?」
「それもそうだな。どうせ平民だし遊ぶのも、おもちゃにするのも悪くないな——」

 私のことを次点の聖女などと呼んだのはこの男が初めてだった。
 出来損ないの——。
 その言葉は、私の心に黒い傷を刻む。
 この時からいつも胸を締め付けることになる、呪いのように。

 同時に、少しでも浮かれた自分のことが馬鹿に思えてくる。
 所詮、相手にとってただの遊びの相手。
 おもちゃと考えてもいいような人間。
 二番手の私に価値などない。


「すまない、縁談の話は残念ながら……」

 縁談の話は一瞬にして立ち消える。
 両親はとても落胆し、しばらくは私に声をかけづらいようだった。

「この話はなかったことに。だけど君さえ良ければ——」
「分かりました。お引き取り下さい!」

 やってきた令息の顔も見ずにそう言い切る。
 私は、もう金輪際彼らと関わりたくないと考え、一切の連絡を絶つことにした。



 なんとか顔を上げ、前を向いて歩こうとしたとき。
 今度は王城から使者がやってきた。

「聖女候補として城勤めをして欲しい」

 今さら私に何の用だと思ったのだけど、これが最後のチャンスだと言わんばかりに両親は私を送り出してくれた。
 城で貴族たちと知り合うチャンスだと。

 しかし、私は次点の聖女という言葉がどうしても頭から離れない。
 価値の無い私が貴族や王族の男性と知り合うというのは、あまりピンとこなかった。

 そもそも、神官職の女性ならたくさんいるのに。
 なぜ私なのだろう?
 また、上げて落とされる運命なのか。
 そう思い、あまり期待せずに王城に向かった。

 ——果たして、その考えは正しかったことをすぐに実感する。


「ふん、所詮あなたは二番手なんでしょう? サマ」
「ッ……」

 王城にて、いきなりそんな嫌味を聖女マヌエラ様から浴びせられる。

 あー、そういうことね。
 分かった分かった。
 私はハイハイと、軽く受け流すことにする。
 もっとも、聖女マヌエラ様はそれが気にくわなかったようだ。

 そのためか、益々いびられる日々が続いた。
 次第に仕事を丸投げされるようになる。
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