かれん

青木ぬかり

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10月6日(木)

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 体育館に着いた真琴は、シューズを履き替え気持ちを切り替える。
 シューズは体育館に置いているのでいつもどおりだ。
 ただ、家を出た時点でサークルことなど考えていなかったので、ラケットは家に置いたままだった。
 それは3人とも同じだったので、3人とも体育館の用具置き場にある俗称「置きラケ」を漁る。
 
「しかしバカにできないよな、ここの置きラケ」
 
 ラケットを決め、面の感触を人差し指で確かめながら島田が言う。
 たしかにそのとおりだと真琴も思う。
 置きラケは、主に卒業していった先輩たちの置き土産なので、共有品とはいえ安物ではない。
 なので徹底的にツルツルしたラケットを好む真琴は、ラケットを探すのに苦労した。
 しかし、それはあった。
 表面が劣化し、すっかり硬くなって板のような手触りの逸品を見付けたのだ。

 これはいい……。
 これならいける。
 真琴は密かに喜んだ。

「古川……。なんでそんなボロいの選ぶんだ?」

「え? ……まあ、アレかな? なんとかは筆を選ばずってヤツ?」

「それにしたってカチカチになってんじゃん、それ」

「目下1位の真琴サマに偉そうに意見すんなしこのザコめ」

 割って入ったのは理沙だった。
 どうしてそんなに偉そうなのよ……。

「理沙、なんでアンタが偉そうなのよ」

「え? ホラ私、古川式卓球術の門下生だし」

 いつ決まったんだ? そんなこと。
 まあ、理沙は見てたんだもんな。
 野崎さんに勝った奇跡の瞬間を……。

「ゴメン理沙。一子相伝なんだよ、私の流派は」

「おおカッコイイ! ……今日はどうなるだろね、けっこうみんな来てるし」

 サークルに来るのは久しぶりだが、理沙の言うとおり今日は人数が多かった。

 ああ、ここでも分かる。
 収まりつつあるんだ。
 カレンの騒ぎは。
 きっと……。
 
 ラケットを選び終えた3人は卓球台へ向かう。
 
 練習開始の時、集合をかけた野崎が告げる。
 
「今日から練習時間は通常どおりに戻そうと思う。それぞれの事情で早めに切り上げるぶんには構わないから」

 そして基本練習が始まった。
 真琴はラケットの感触を確かめるように丁寧に打つ。

 ……これ、このラケット……いいかも。
 まるで羽子板……木で打ってるみたいだ。

 人数が多いので、台の数はフル……6面だ。
 基本練習のあいだ真琴は、離れた台にいる島田からの視線を感じていた。

 ……さすがに気になるみたいだね、島田くん。
 できれば1番台で勝負したいけど、さすがに無理かな。
 
 そして基本練習が終わり、いよいよ試合形式……例の11点勝負の練習が始まる。
 サークルの各々が、自分の実力に相応なポジションの台に向かった。
 1位のまま勝ち逃げしていた真琴は、野崎に言われて1番台の上座に着く。
 こういう場合、真琴が不在だった間の1位……つまり暫定1位と最初の勝負をすることになっている。

 誰が相手なんだろ。
 野崎さんか……大島さんかな?
 真琴は野崎に尋ねる。
 
「それで、誰が暫定1位なんですか? 野崎さんですか?」

「忘れた」
 
「は?」

「忘れたから仕方ない。……おい島田、やってみろ」

 3番台にいた島田も、この振りには驚いたようだ。
 しかし誘いは1番台、しかも侮りきっている真琴に勝てば自分が1位……。

「……いいんですか?」

 島田くんが乗った……。
 てことは……いきなり島田くんと?

 真琴は急いで島田のプレイスタイルを呼び覚ます。

 島田くんはペンドライブ……。
 野崎さんほどではないけど、私のツルツルとの相性は悪くないはずだ。

 真琴は目を閉じて集中する。
 そして再び目を開けたとき、サークルの全員が1番台を取り囲んでいた。
 ぐるりと1周見渡すと、真琴の後方には野崎と理沙がいた。
 まるでコーチと同僚のように……。

 理沙……なんでタオルまで持ってんのよ……。

 この〝全員に注目されている〟という状況を見て真琴は知る。

 みんな私と島田くんが付き合い始めたの知ってるんだ。
 そして、この勝負を楽しみにしてたんだ……。
 それも興味本位で……。

 でも……と真琴は思う。

 興味本位だろうけど、悪くない。
 ここ、この観衆に邪な感情はないんだ。
 じゃ、魅せてやろうじゃないの。私の……力を。

 心の準備ができた真琴は島田に話しかける。

「思いっきり注目されてるけど、あんまり好きじゃないでしょ? こういうの」

「……舌戦もこなすようになったのか? 古川なのに」

 さすがに島田くんだ。口では負けない。

「練習見てたけど、要はテニスの延長なんだろ?」

「うん、そうだよ。……でも完成に近いよ」

 短い鍔迫り合いの中、観衆から「島田、花もたせてやれよ」という言葉が飛ぶ。
 真琴はそれを受けて、さらに島田に言う。

「だってよ。観客は私の味方だよ」

「……サイレントマジョリティって知ってるか?」

 さすがに島田くんだ。
 口では敵いそうにない。

 そう判断した真琴は、台上に転がる白球を拾う。

「じゃ……いくよ、島田くん」

「ん」

 真琴の掌から白球が高く放られた。
 まずは油断があるうちにリードを……と考えた真琴は最初のサーブ、島田のバックに向けて真横に切ってみた。
 自分のバックサイドをがら空きにして……。

 そしてその思惑は大当たり……。真琴のバックを狙った島田のリターンは、打った本人の予定以上にコースを外れ、真琴が先取した。
 それだけで観客が沸く。悪くない気分だった。

「……切ったのか。わざと空けたうえで」

「さあ、どうかしら」

「……なんか人格まで変わってないか?」

「変わらない。これが……私よ」

「思いっきり変わってんじゃん」

 舌戦を仕掛けてくる島田を無視し、真琴は次のサーブを放つ。

 中身は最初のサーブと同じ……。
 だけど今回は返してくる。……きっと。

 真琴の予想どおり、島田は返してきた。
 ラケットがツルツルなだけに、どれほどの回転がかかっているか量りかねたのだろう、島田は台の中央に返してきた。
 そこからはラリーが続く。
 徐々にラリーのテンポが上がっていく感じは、野崎を破ったときと同じ感覚だ。
 まだ様子を見ている島田は、真琴のフォアにだけ返してくる。

 基が素人の真琴が、小動物のような動きで速いラリーを繰り広げている姿……。
 それだけで充分に〝観ていて面白い〟のだろう。
 ラリーが長引くにつれて堪えきれなくなった観客から笑いが漏れる。
 いわゆる〝ツボにはまった〟状態のようで、中には腹を抱えて涙ぐんでいる者もいた。
 そして真琴は、島田の様子見を断ち切るようにバックを衝いて2本目を終わらせた。
 
「……速さには対応できるんだな」

「いちいち分析していただかなくて結構よ」

「ホント、そのキャラ……誰だよお前」

「誰って、私よ。ついでに言うなら、コースにも対応できるし」

「そっか……」

 そして3本目、島田はレシーブからカットをかけてきた。

 やっぱりね。そうくるよね……。〝手は抜かない〟って言ってたもんね。

 しかし真琴は、カットがかかったレシーブをも捌く。
 面食らった島田がそれをネットにかける。
 これで早くも真琴の3点リードだ。
 島田は驚きを隠せない。

「……カットも……捌けるのか?」

 カットへの対応もお父さんから伝授されてる。
 だけど、最大の弱点であることは確かだ。
 これ以上の種明かしは自分の首を絞める……。

 そう判断した真琴は、強がりを込めて言い返す。

「これが古川式卓球術……だよ。島田くん」

 しかし、この真琴の言葉を島田は冷静に返す。

「でもまあ、理屈は解った。……あらぬ方向に磨きをかけたもんだな、それにしても」

 4本目以降、島田は一変してカットマンスタイルとなった。
 対する真琴は、心中穏やかではないものの慎重に返していく。

 ツルツルラケットでのカットへの対応……。
 父が真琴に最初に言ったのは「気にするな」だった。
 〝こっちはツルツルなんだから〟と。
 
 それが夏休み中の真琴の上達に合わせ、より高度な技術を伝授された。
 曰く「等速で振れ」、また曰く「面を薄くしながら、普通の軌道で」……。
 真琴をして「そんだけ情熱があるなら基礎からやれよ」を思わせるほどだった。
 伊達に古川式卓球術などと名付けてはいない……。
 それほどの内容だった
 
 現に正当伝承者たる真琴の卓球に、島田は当惑の色を隠せない。
 真琴には、島田の頭上に3つほどのクエスチョンマークが見えるようだった。

 ……どうよ島田くん。
 わたしの卓球は……。


 試合は中盤、真琴と島田の根比べとなった。
 にわか仕込みのカットを繰り出す島田と、おそるおそる返す真琴……。

 そして勘が外れ、真琴が高く浮いたリターンをする。
 島田がスマッシュの体勢に入ったとき、真琴はこの1本を諦めた。
 そして案の定、島田の鋭いスマッシュが突き刺さる。

 これで6対4か……。
 ジリジリ詰められてるな……。

「タイムアウトだ」

 背中で野崎の声がした。
 振り向くと真琴に向かって手招きしている。

 ……なに? ホントにコーチになりきってんの?
 真琴は、ためらいながらもタイムアウトの申告をする。
 初めてかも……。タイムアウトするなんて。

「なんですか? 野崎さん」

「おまえ今、諦めたろ?」

「え? ……ああ、はい、そうですね。あんなに浮いちゃ……」

「勝てるもんも勝てないぞ。それじゃ」

「え……」

「おまえと俺の試合の最後の一打を思い出せ。あれは俺のミスじゃなかった」

「え……」

「1分しかない。言いたいことはそれだけだ」

「はい……」

 にわかコーチの一方的な指導を受け、真琴は台に戻る。
 幸いサーブ権が真琴に戻ってきたので、すこしのあいだ真琴は考える。

 野崎さんとの試合の最後……たしか思いっきり浮いた球返して……。
 あ、ああそうだ。野崎さんがハズしたんだ。あんなチャンスを……。
 でも今、野崎さんはミスじゃないって言った。

 ミスじゃない……か。……そっか。
 つまり私が打つ球は「謎」なんだ。
 どんなに失敗に見えても……。
 相手がしくじる可能性が高いんだ。普通の球より。
 だから諦めちゃいけないんだ。
 構えなくちゃ。最後まで。

 心構えができた真琴は、ここで島田を挑発してみる。

「そのにわかカット……。みんなさ、観ててつまんないんじゃないの?」

「…………。」

 島田は答えない。
 しかし、それはすなわち〝理解している〟ことを示していた。
 真琴は追い打ちをかける。

「見応えのある試合にしたいじゃない?」

「……分かった。乗ろう」

 よし……。真琴は努めて表情に出さず、内心でガッツポーズをした。

 これで島田くんはもう、カットをしてこない。
 本来のスタイルに戻るはずだ。
 それなら……勝てる。

 果たして真琴の思惑どおり、そこからは見応えのある打ち合いになった。
 まるで野崎との試合の再現のように、ラリーは徐々に速く、そして低くなっていく。
 この凌ぎ合いこそが真琴の領域であり相手にとっては未知の感覚なので、当然の帰結として真琴はリードを広げていく。

 9対6……。
 あと2点だ。
 あと2点で島田くんに勝てる。

 ここで自分にサーブ権が戻ってきた島田が間を取ってなにか考えている。

「たいむあうとだ」

 またしても真琴の後ろで声がする。

 これは理沙の声……。
 でも、タイムアウトって1試合に1回だけじゃなかった?

 真琴が振り返ろうとすると、視界を理沙が横切っていく。
 そして理沙は島田になにか告げている。
 言われている島田の方は不満顔だ。

 ああ……タイムアウトって、島田くんの分ね。
 ……で、なにを言われてるワケ? 理沙ごときに。

 島田のタイムアウトは理沙のひと言……一瞬で終わった。
 島田がサーブの構えをとる。
 
 そして、理沙の言葉でなにかが変わった様子もなく、その試合は最後まで速いラリーの応酬だった。

 そして、リードを保つかたちで真琴は勝ちを収めた。
 大歓声と喝采の中、負けた島田の顔はなにやら満足そうだ。

「たいしたもんだな。参った」

「……勝っちゃったね、私」

「2番台で待ってる」

「……そうだね、うん」

 それだけの言葉を交わして、島田は2番台へ向かい、真琴は次の挑戦者と対峙する。
 挑戦者は当然、腕に覚えのある3年生だ。

 真琴はあっという間に負けた。
 あ~あ、負けちゃった。
 でも、楽しかったな……うん。

 達成感に満たされた真琴は4番台で順番待ちをしていた理沙のところに行く。

「アンタ……さっきなに言ったのよ、島田くんに」

「え? ……ああアレね」

「なに言ったの?」

「〝男に二言はないよね〟って言ってやった」

「……なにそれ?」

「だってあのとき、絶対セコいこと考えてたもん。なおっち」

 なるほどね。なにかまた、慣れない奇手を打とうとしてたんだ。
 その臭いを理沙が嗅ぎつけたってことか。

「たしかに追い詰めてたもんね。あの時点で」

「そ。感謝してもらいたいね」

「うん、ありがと」

「え? 違うよ真琴。私が感謝してもらいたいのはなおっちだよ」

「……え?」

「仮にあそこで小細工してさ、なおっちが勝ってたとしてさ、なんかいいことあった? なおっちに」

 真琴は、すこし時間をかけて理沙の言葉を咀嚼した。
 うん。理沙の言うとおり……相変わらずの心遣いだ。

「理沙、アンタもなかなかやるね」

「なによいまさら。感謝の気持ちはキャッシュでどうぞ」

「晩ごはんくらい奢ってくれるんじゃない? ……島田くんが」

「おお、そうかもね」


 そこから真琴は、当然のように負け、当然のように勝った。
 手の内がバレた真琴の実力は、ちょうど中間……3番台と4番台を往復した。
 2番台から落ちてきた島田との再戦もあったが、あっさり負けてしまった。

 ま、これが現実よね……と真琴は思う。
 同時に、これで充分ではないか、とも。

 そうしてひとときの「古川フィーバー」も去り、サークルの時間が終わる。
 解散後は、少なからぬ人がカレンの話をしていた。
 そして少なからぬ人が「運営」たる真琴の活躍と苦労を称えてくれた。
 明日の試験の内容について尋ねてくる者もいたが、それについては「知らない」とだけ答えた。

 理沙と並んでシューズを外履きに履き替えながら、真琴は理沙に尋ねる。

「今日はどうする?」

「ん、どうでもいいけど……とりあえず山は越えたカンジなの?」

「まあ、そうなのかな」

「じゃさ、なおっち誘って晩ごはん食べに行こうよ。ホントに」

「あ、イイね、それ」

 そして理沙と共に体育館を出ると、既に島田が二人を待っていた。
 真琴と島田の関係は既にみんなの知るところなので、島田は堂々としていた。
 その誇らしげな表情に、真琴の方が喜びを感じる。

「ねえ島田くん」

「ん?」

「今日のこれからなんだけどさ」

「うん」

「3人でどっか食べに行かない? 作戦会議も兼ねて」

「ナル夫のおごりで」

「……分かった。ちょっとした慰労会だな」

「じゃ、どこ行く? 昼は学食だったし、外の方がいいかな」

「もっす」

「……え?」

「私もっすバーガー行きたいな。真琴」

「お、いいなそれ。俺、行ったことないんだよな、古川のバイト先」

「……マジで?」

「マジで」

 真琴の頭の中にバイトのシフト表が展開される。
 その「心の中のシフト表」は、バイト隊長「伊東」の名で埋め尽くされていた。

 たぶん隊長がいる……。
 でも……理沙と3人でなら……いいかな。
 真琴はすこしだけ考えたが、あまり考えるのも分が悪いと思い、了承する。
 
 そして島田が原付で、真琴と理沙が自転車でもっすバーガーに向かう。
 

「行ってよかったね。やっぱ楽しいね、サークル」

 もっすバーガーに向かう道すがら、真琴はしみじみと言う。

「うん、今日も楽しませてもらったよ。古川式卓球術に」

 楽しませてもらった……か。
 実際どうなんだろ? 私の卓球って。
 
「……やっぱ邪道、なのかな?」

「そうでもないみたいだよ」

「え? ホント?」

 思わぬ評価に真琴は浮かれる。
 なに? アリなの? 私の卓球も。

「うん。先輩が言ってた」

「なにを? どんな風に?」

「真琴の打ち方は亜流のフラット、で、返ってくる球は結構な割合でナックルになってるって」

「……いずれにしても正当派じゃないんだね」

「私もそう言ったんだよ。その先輩に」

「そしたらなんて?」

「今の時代の主流じゃないだけだろって」

「どういう意味よ、それ」

「なんかね、私もよく理解できなかったけど、その時に強い……ってか、一流選手に多いスタイルがその時の〝主流〟になってるだけだろ……みたいな?」

「たしかによく解んないね」

「でもね、ナックルっていう戦術はあるらしいよ。初心者じゃなくても」

「……自覚はないんだけどね」

「うん。私もよく分かんないけど、上手い人から見るとナックルは〝揺れて〟〝落ちる〟んだって」

「……野球かなんかのハナシじゃないの? それ」

「違うよ真琴。野球のボールよりもずっとエグいんだよ。ピンポン玉なんだから」

「ああ、そんな気もするね。……言われてみると」

「古川が言うツルツルってのは、要はアンチラバーだろって言ってた」

「……初めて聞くよ、そのワード」

「意図的にツルツルなラバー……いわゆる永久脱毛みたいなカンジ?」

 その発言……後半部分は要らないんじゃないの?
 でも、そんなのがあるんだ。
 いつか探してみようかな。

「そんなのがあるんだね」

「うん。でもね、今はあんまりいないみたいだよ。それ使う人」

「ふ~ん」

「だから、かえってやりにくいみたいだよ。上手い人からみたら」

「つまり……レアってことね」

「そうそう、それよ。まさに真琴じゃん」

「……どういう意味よ」

「そのまんまの意味よ。絶滅危惧っていうか、珍獣っていうか」

「珍獣はアンタじゃないの?」

 真琴の言葉に理沙が笑う。
 ホントに楽しそうだ。
 すこし間を置いて、理沙がつぶやく。

「……やっと日常が戻ってきたカンジだね。真琴も」

 日常……日常か……。
 軽く投げられた理沙の言葉に真琴は考え込む。
 返事がないのを気にした理沙が、真琴の顔を覗き込む。

「真琴? どした?」

「ん? ……ああ、またカレンのこと考えてた。私」

「なんで急に?」

「たぶん……理沙が言った〝日常〟に引っかかった」

「……どう引っかかったのよ」

「……なんだろ? 上手く言えないや」

「なによそれ。……てか着くね。もう」

 話が途切れぬまま二人は目的地に着く。
 もっすバーガーの駐輪場では、携帯電話を片手にした島田が待っていた。

「なにしてんの? 島田くん」

「なにって、待ってたに決まってんだろ」

「じゃ質問変える。なにして待ってたの?」

「カレコレ」

「あ、そっか。もうカレコレ時間なんだね。そういえば」

「ま、もうやることないのかもしんないけどな」

「入ろ」

「うん」

 島田と理沙を連れて、真琴はもっすバーガーに入る。
 銅製のドアベルが鳴ったが、すでに店は混雑時……すぐに店内の喧噪に溶けた。


 幸いにも席は空いていた。
 真琴たちはまず席を確保する。

 そして真琴は席に着くと、理沙に注文を託した。

「さすがだね。なんにも見ないで注文するなんて」

「あたりまえでしょ。イヤってほど聞いてんだから」

「ま、そりゃそうよね」

 席に残った真琴は、島田と理沙を追うように視線をカウンターに向ける。
 そしてキッチンとカウンターの間をせわしなく動く伊東をみつけた。
 今日も頑張ってるな、隊長……。

 すると伊東は、カウンターで注文している島田たちを一瞥したかと思うと店内を見渡して真琴を見付ける。
 あれ、もう見付かっちゃった。
 しかも島田くんたちに話しかけてるし……。
 なに話してんのよ。……いったい。


「なかなか面白い人だね。広大の先輩でしょ?あの人」

 戻ってくるなり隊長の話題だ。
 面白い人って……。

「……なに話したの? 隊長と」

「隊長?」

「え? あ、うん。バイトのとりまとめ役なんだ。だから隊長って呼ばれてる」

「ああ、なるほどね。なんか落ち着いてるもんね」

 理沙はカウンターの方に視線を投げながら言う。
 理沙はのんびりと感想を語るが、真琴の方は気が気ではない。

「で、なに話したのよ」

「なんでも遠慮なく注文してくれって」

「は? なにそれ」

「真琴と一緒に来たのかって聞かれて、ね」

「で?」

「はいって答えたら、それなら食べ放題だ、ってさ」

「なによそれ」

「もちろん聞き返したよ。〝マジッすか?〟って」

 隊長のも問題ある発言だけど、その聞き返し方にも問題があるような気がする……。
 ま、理沙らしいけど……。

「そしたら?」

「古川のバイト代から天引き……だそうだ」

 割って入ったのは島田だった。
 島田の表情も明るかった。

「ああ、そういうオチね。……そんな冗談言う人じゃないんだけどな、いつもは」

「つまり冗談なんかじゃかった……ってことか?」

「これは冗談ではない。くりかえす。これは冗談ではない」

「やめてよ理沙、せっかくのバイト代なんだから」

「なによムキになって。冗談に決まってんじゃん。ちゃんと払ったし。なおっちが」

「え……島田くん……が?」

「そ、今日はなおっちの、お・ご・り」

 理沙が人差し指でリズムをとりながら言う。
 ホントに奢りなの?

「いいの? 島田くん」

「うん。今日は清川コーチのおかげで助かったからな」

「……そんだけの理由?」

「ん? ……ああ、もちろんアレだ。大学を救う道筋を立てた古川への労いも含めて、だよ」

「……でもそれって、みんなでやったじゃん。島田くんも一緒に」

「ふるかわ、こまかいことはいいんだ」

「……アンタ、だんだん似てきたね」

「そう? でもさ、いいじゃん。なおっちのおごりで。なおっちがそうしたいって言うんだし、またいつか真琴が奢ればいいんだし」

「ま、それもそうね。……って、あんたは奢らないの?」

「え……ミー?」

 理沙が、さも意外そうな表情で人差し指で鼻を指しながら言う。

「そう」

「ミーはホラ、そもそもがボランティア……みたいな?」

「なんだよそれ。ずいぶん助けてやった気がするぞ、オレ」

 声を立てて笑いいながら島田が理沙にツッコミを入れる。
 そのさまを見て真琴は思う。
 ああ楽しいな……と。

 そして、先刻に引っかかった言葉が不意に頭をもたげる。
 日常……。これが日常……か、と。

「お待たせしました、勇者御一行さま」

 聞き慣れた声を聞いて真琴は顔を上げた。
 できたてのバーガーを乗せたトレーを両手に持ち、テーブルまで運んできたのは伊東だった。

「……なんでわざわざ……隊長が……」

 真琴は思わず口にしていた。
 口にさえしなければ他の2人はなんとも思わない疑問を。

「なんだよ。オレが持ってきちゃ悪いのか?」

「あ、いえ……そんなこと、ないです……けど、滅多にないですよね」

「知り合い、それもバイト仲間が友だち連れて来たんだ。いいだろ、別に」

「ええ、そりゃあもう」

 調子よく受けたのは理沙だった。

「だよね。それに一躍英雄になった古川を見てみたかったしな」

「英雄……ですか? 私が?」

「なんだよ、自覚ないのか?」

「はい……。というか、私は英雄なんかじゃないですよ」

「いや英雄だ。オレが託した希望を叶えつつあるんだし」

「……まあ、隊長がそう言うんなら、それでもいいですけど……」

「はい」

 理沙がいきなり挙手をする。
 伊東になにか尋ねるつもりだ。
 真琴の心が心配で埋め尽くされる。

「はいどうぞ」

「いま先輩〝叶えつつある〟って言いましたよね」

「うん、言った」

「叶えた、じゃないんですか? まだなにかあるんですか?」

 よかった……ホントに。まともな質問で。
 そう胸を撫で下ろすと同時に、理沙が呈した疑問がそのまま真琴の疑問になる。

 そうよ……。まだなにかあるの?

 真琴は伊東の答えを待つ。

「え? ああ、えっと……上手くは言えないんだけどな……」

「それでもいいです。教えてください」

 真琴は伊東に促した。

「ま、最後まで気を抜くなってことだ」

「え……それってどういう……」

「彼氏の方は解ってるみたいだぞ」

 言われて真琴は島田を見る。
 先刻とは一変して真剣な表情で視線を下げていた。

「そういうことだ。だから古川、まだシフトは予定どおり、お前は10日までバイト謹慎だ」

「謹慎って……」

「冗談だよ。ホントはすぐにでも復帰してもらいたいところだ。でもまだ終わりじゃないんだ。カレンは」

 それはどういう……。
 真琴はさらに問い返そうとしたが、伊東は「じゃあな」といってカウンターの方へ引き返してしまった。
 疑問だけ残ったかたちになり、真琴が呆然としていると、理沙が島田に問う。

「ねえなおっち、なおっちには解るの? いま先輩が言ったこと」

「……ん、まあ……なんとなく、な」

「じゃあ教えてよ。なにがあんのよ、この先に。もう終わったも同然じゃないの? カレンのことは」

 詰め寄る理沙に、難しい顔をした島田が答える。

「たぶん……あくまで予想だけど、もうひと山あるんだよ」

「なにそれ。なにしろってのよ」

 理沙のさらなる追及に、さらに難しい表情で島田が答える。

「古川にしかできないこと。人質の解放交渉だよ。……黒幕との」

「なにそれどういうことよ」

 理沙はすぐさま反応するが、真琴は言葉が出ない。
 なので島田は、理沙に答えるかたちになった。

「そのまんまの意味だよ。……まあ、ここまできたら慌てる必要もない気はするんだけど」

「黒幕と交渉って……。なおっちが言う黒幕って誰よ」

「理沙、声が大きい」

 真琴は咄嗟に口を挟んだ。

「あ……ゴメン」

 理沙も理解したようだ。
 これが、この場に似つかわしくない話題だと。
 しかし話を閉じることができない真琴は、囁くようにして島田に尋ねる。

「……どういう意味よ。私が黒幕と交渉って」

「あのな古川……この際、運営とか黒幕とかいう単語は忘れた方がいい。ごっちゃになりすぎてる」

 え……忘れろって……。
 忘れたら理解できんの?

「……ゴメン、よく解んない」

「現実として古川は運営なんかじゃないし、俺たちが黒幕って呼んでる人も現実的にはもう黒幕なんかじゃない」

「まあ、言われてみれば、そうだけど……」

「だから言葉にとらわれちゃダメなんだ。でも情勢は単純。古川は交渉を託された者として、学生のデータを握ってるヤツと話を付ける必要があるんだ」

「誰よその、データを握ってるヤツって」

「それ……は、帰ってから話した方がいいな」

 島田の表情は真剣だった。
 なので真琴は異を挟まない。
 そんな真琴を見て、島田は「ま、とりあえず食おうか」と、まるで励ますような口調で言った。


 せっかくの外食が一気に味気なくなってしまったことを真琴は呪う。
 しかし、肝心の呪うべき対象が霧の中にいるようで、真琴の気持ちは落ち着かない。

 そして、島田のおごりを事務的に腹に納めて3人は店を出た。



「清川もやるんだろ? 一緒に」

 原付バイクにまたがる島田が理沙に尋ねる。
 話題は今日のこれから……どこに集まるかだ。

「うん、いいよ」

「ここから近いのは古川んちだけど……寄り付かない方がいいな、今日は」

「そうね。目立ち過ぎたね」

 ……そっか。そうだよね。
 悪い目立ち方じゃないとは思うけど、どんな人が来るか分かったもんじゃない。
 じゃ、理沙んちか島田くんちか……。2人に任せよう。

 チーム「つるぺた」の集合場所が決まるまでの間、真琴は思い出したことをする。
 それは伊東の顔を見て、伊東の言葉を聞いて思い出したこと……。現在の伊東の肩書きを確かめることだった。

 真琴は、小暮から届いていたメッセージを再確認して伊東の学籍番号を記憶する。
 それからカレンを開き、徳300の特典……「個人ステータスの確認」というボタンをタップして伊東の学籍番号を入力する。


  261143F
  「大人」
  徳:502
  業:32


 表示された伊東のステータスを見ても、真琴はすぐには感想が思い浮かばなかった。
 ん……あれ? 疲れてんのかな、私。
 まあ、あんまり寝てないし、調子に乗ってサークルにも行ったしな……。

 回らない頭で伊東のステータスについて考える。
 徳……は、けっこうすごいよね、これ。
 ほぼ毎日バイトしてんだから、もともと高かったんだろな……。
 業もぜんぜん問題ないじゃん。
 まあ、隊長らしいけど……。
 問題はこの肩書きだよね。
 なによこの「大人」って……。
 大人になる前はなんだったってのよ。
 でも、大人……か。
 


「古川、大丈夫か?」


 島田の声を上に聞いて、真琴は自分がしゃがみこんでいることに気が付く。
 あ……なんか私、お年寄りみたいだな、これじゃ。

「あ、ゴメン。なんかちょっと疲れてるみたい」

 答えた声の弱々しさに、真琴自身が驚いた。
 島田も、そして理沙も心配顔だ。

「……そりゃまあ、無理もないよな。ずっと気を張ってたんだしな」

「かもね。……で、どうなったの? 今日の拠点は」

「なおっち、真琴んちでもいいんじゃない? 3人でいれば」

 真琴の問いを撥ねて理沙が言う。

「……そうだな。自分の部屋ですこし横になった方がいいかもな、これは」

「え……大丈夫だよ。私」

「そう見えないから心配してんじゃないのよ。いちばん近いのが真琴んち、そして自分のベッドで休んだ方がいいに決まってんでしょ。決まりだね」

 結局、2人に押し切られるかたちでこの夜の集合場所は真琴の家になった。

 真琴のアパートまでの道、3人は大通りを1本外れ、ほとんど車が通らない道を選ぶ。
 そして、真琴の右に島田の原付が寄ってきたかと思うと、真琴は島田に背中を押された。

 わ……自転車が勝手に進んでく。
 ちょっと怖い……ってか危ないと思うんだけど……楽しい。

 それは、原付の免許すら持たない真琴にとって遊園地のアトラクションのような刺激を与えた。
 速度は控えめ……自転車とさほど変わらないのだが、何もせずとも自分が風を切る爽快感に、真琴は島田とのドライブを思い出した。
 ああ、あれも楽しかったな。
 真っ赤なオープンカー……。

「古川、まだ寝るなよ。死ぬぞ」

 風を切る気持ちよさに浸る真琴の表情を見て、心配した島田が声をかけてくる。

 ……寝るわけないじゃん。
 こんなに楽しいのに……。

「これ、楽しいね」

「……これも立派な違反なんだけどな」

「そうなんだ。島田くんも大変だね」

 自分の口から出た、まるで他人事のような言葉……。
 それに真琴自身が感想を抱く。それこそ他人事のように。

 もうすこし……もうちょっと力を抜いていいのかもね、私は。

 そうして、羽目を外した束の間を経て、真琴と島田はアパートに着く。
 すこし遅れて、全力で自転車を漕いできた理沙が到着する。
 その表情は恨めしそうだ。

「よくもやってくれたが百年目」

「なんだよ。ゆっくり来てもよかったのに」

「……それもそうね。ま、いっか。入ろ」

 それぞれ原付と自転車を駐輪場に置き、3人は真琴の部屋の玄関に向かう。
 途中、真琴が郵便受けを確認すると、10通くらいの無記名の封書が入っていた。

「……なにこれ」

「心配すんなよ。どうせアレだよ。今になっても心配な人が誰かに古川の家を聞いて〝頼みごと〟を入れたんだろ」

「あんまりいい気分じゃないね、それは」

「まあ……たしかにな。そういう礼儀知らずに家を知られたんだもんな」

「なおっちの家で同棲すりゃいいじゃん。それで万事オッケー」

 そんなことを話しながら真琴は玄関を開け、島田と理沙を招き入れる。
 自宅に帰ってきただけで力が抜けていく感覚に、あらためて真琴は己の疲労を自覚する。
 なので真琴は、いつになく素直にそれを訴える。

「で、私は休んでていいの?」

「うん。すこし寝てていいよ」

「なおっち、添い寝して寝かしつければいいじゃん」

「……そういう趣味はない」

「どういう趣味よ」

「清川を喜ばせるような趣味」

 これに理沙が舌打ちしたが、その頃にはもう真琴はベッドで横になっていた。
 リラックスした気分で天井を見ながら、真琴は2人に言う。

「楽しい……けど、日常って楽しいだけじゃないんだよね」

「……なに言ってんだ? 古川」

「うん……。やっと日常が戻ってきたって理沙に言われたけど、島田くんに言わせればまだやることがある……。つまり脅威は残ってるんだよね」

「まあ、そうだけど……。そんなに急ぐ必要はない気がする」

「それにさ、もっす行って伊東先輩の姿見たらさ、選ばれた自分だけが英雄じゃないよなって。自分は地獄のシフトでバイト入って、私に時間をくれたんだよなって」

「いいから寝ろよ、古川」

「愛だってさ、ずっと苦しんでてさ、私はそんなこと知らないでさ……」

「違うよ真琴」

「え?」

「それは違う」

 理沙が意外な発言をするのにもずいぶん慣れてきた。

 そう……理沙もいろんなこと考えてるんだよな。
 それもカレンがなければ気付かないままだったかも。

「なにが違うのよ、理沙」

「楽しいだけが日常だよ」

「……え?」

「いいじゃん。楽しいだけの日常で。誰に遠慮してんのよ」

 真琴は横になったまま、理沙に視線を流す。
 理沙の表情はいつにも増して真剣だ。

「いいの? 楽しいだけで」

「あったりまえじゃん。楽しいだけが日常だよ」

 理沙は真剣な表情のまま、部屋を出て行こうとする。

 え? なによ理沙、どこ行くのよ。
 真琴がそれを尋ねる前に理沙が告げる。

「ちょっとトイレ」

「ああ……そう」

 理沙は部屋を出ると、仕切り戸を締めてしまった。
 部屋の主も普段は閉めない戸だが、異性……島田がいるからだろうと納得する。
 島田と2人で部屋に残されたので、真琴は再び天井に視線を戻して島田に尋ねる。

「今の、どういう意味だろ?」

「たいして意味ないんじゃないか?」

「そう……かな。なんか最近、よく分かんないカンジなんだよね、いろいろ」

「……いろいろってなんだ?」

「よく分かんない。カレンのことだってそうだし。これから何したらいいのかも、自分が決めたことが正解なのかも分かんない」

「正解なんてないだろ」

「え……」

「そもそも答えがないんだ。だから目指すのは〝正解〟じゃなくて〝最善〟だ。そして俺は、古川のやってることは最善だと思う」

「……そう、そうだね。ありがと」

 そういって真琴は流し目で島田を見る。
 島田の表情は穏やかで、優しさに満ちていた。

「とにかくさ、ちょっと寝た方がいい。やるべきことはそんなに多くないけど、元気な方がいい……と思う」

「多くないって……。さっき言ってたよね、人質の解放交渉だって」

「うん。言った」

「どういうこと? 普通に考えれば高山先生が持ってるんじゃないの? 私たち……学生みんなから盗んだデータは。実質は黒幕も運営も高山先生なんだし」

「そうじゃなさそうなんだよ。どうも」

「そうじゃないって……どうなってんの? ワケわかんないし」

「高山先生はなんか言ってたか? 学生のデータについて」

「……言ってない……ね。そういえば」

「もしかしたら今、高山先生は自分で交渉……というかお願いしてるところなのかもしんない」

「高山先生が……お願い? 誰に?」

「学生のデータを持ってる人。あ、いや違うか……。高山先生だって持ってるはずなんだ」

「つまり高山先生以外に持ってる人がいるの?」

「いる」

「誰よそれ」

「分かんない」

「え……分かんないの?」

「高山先生は正体を知ってるかもしれないし、もしかしたら知らないかもしれない。でも、たぶん知ってる」

「ああもう、ちっとも分かんないし。教えてよ」

「俺の推測よりも、先生に現状を聞いた方がいいんじゃないのかな。もしかしたら高山先生が話をつけて終わってる可能性もある」

「聞いてみるのはいいけど教えてよ。島田くんの推測ってのを」

「できれば古川が一眠りして、スッキリしてから言いたかったんだけどな……」

「ああ、それは無理だね。気になって眠れないよ、もう」

 島田はここで真琴から視線を逸らし、ポツリと「そうだよな……」とつぶやく。
 そして一呼吸おいてから、真琴の求めに答える。

「たぶんAIだよ」

「え?」

「カレコレで蝶の質問を評価してたAI……。そいつはたぶん、高山先生と同等か、それ以上のデータを握ってる」

「え? え?」

「だってそうだろ? 学生の弱みをかき集めた方法は『ネットワーク』に繋がれた『デジタル』な方法なんだから。高山先生のところに行く前に、いろんなところを経由するんだ」

「それが……AIなの?」

「もしかしたらAIを造った人なのかもしれないけど、少なくともAI本人はそう言ってた」

「…………本人?」

「例の雲で登った先にいる『黒幕』だよ。俺はカレコレで黒幕に会って話した。古川が出した宿題だったろ?」

「例の雲って、えっと……なんだっけ、カレン塔? に登った先にいる『黒幕』ってのがAIだっての?」

「そう。けっこういろいろ話したけど、古川を待つって言ってた」

「え……待ってんの? 私を」

「うん。そう言ってた」

 ……AIが、私を待ってる?
 なにそれ……。
 でも……。

 カレコレで蝶への回答を評価してたのがAIで、そして私の徳はどんどん増えた。
 考え方次第じゃ、AIに認められたから「運営」になったんだ。私は。
 なんだか休む気分じゃなくなってきたな……。

 カレンに関して自分がやってきたこと、それが実はすべてAIの思惑の中にあるような、そんなイメージが真琴を襲う。
 そしてその延長で漠然と思う。

 松下さんは、9月28日にカレン騒動が始まることを知らなかった。
 高山先生には聞いてないけど……高山先生も知らなかったのかも……。
 もしかして、AIを管理してる人がやったの?

 ゆっくり休んでなどいられない気分になったが、疲れている体は重い。
 真琴は横になったまま携帯を手に取り、カレンを立ち上げる。

「おい古川」

「ん、ゴメン。気になったら眠れないや。横になったままやってみる」

「……そっか。ま、それでもいいか」

「てかさ、遅くない? 理沙」

「……そういやそうだな」

「ちょっと心配だよね。なんかヘンだったし」

「でもトイレだからな……。俺は見に行けない」

 それはもっともだと思った真琴は、理沙の様子を確認しにいくために重い身を起こす。
 そして戸を開き、トイレのドアをノックする。

(どうぞ~)

 トイレのドアをノックするのは久しぶりだけど……。
 中から「どうぞ」と言われたのは初めてだよな……。

「理沙、なにやってんの? 大丈夫なの?」

 返事がないので真琴はドアノブを回してみる。
 ……開いてる。
 そして、そっとドアを引いて開ける。
 あれ? ……いない?

「うわあああああ」
「うわあああああ」

 真琴の足元……視野の死角にしゃがみ込んでいた理沙が、声をあげながら立ち上がる。
 驚かせる声と驚く声……。
 奇しくも同じような響きだった。

「…………これがやりたかったの? 理沙」

 真琴は腰砕けになりながら理沙を睨む。

「フザけるだけが日常だよ、真琴」

 してやったりという顔を見せてから、理沙は部屋に戻っていく。
 真琴はなにも言えなかった。
 それは理沙の目が、こころなしか潤んでいるように見えたからだった。

 理沙……今、もしかして泣いてた?
 なんかあった? 泣くようなことが。
 気のせいかな? それならいいけど。

 真琴は理沙に続いて部屋に戻る。
 理沙は元の場所、ちゃぶ台に肘を立てて背中を向けている。
 どう声をかけたものか、真琴は言葉を探す。

「なおっち、今日こそ私、することないんじゃない?」

「……なんだよ、まさか帰るとか言いだすのか?」

「そんなんじゃないけど、なにしたらいいのかなって」

「……清川……か」
 
 島田くんの口調から察するに、理沙に異常はないみたいだ。
 じゃ、ホントに気のせいだったのかな……。
 なら、まあ……いいか。

 真琴はベッドに腰掛け、そっと理沙の横顔を窺う。
 そこにはいつもどおりの理沙がいた。
 真琴はそれを見て安心する。

「私は黒幕に会いに行けばいいんだね?」

「あ、うん。……でもホント、ヘタに急ぐよりも休んでからの方がいいと思うんだけどな」

 まだ休憩を勧める島田に真琴が言い返そうとしたとき、理沙が割って入る。

「ね、黒幕ってどこにいんの? 黒幕ってアレでしょ? みんなでエンディングみたいなの見たときに、〝さらばだ〟とか言って『運営』を落としたヤツでしょ?」

「そっか。みんなで見たんだったな。そう、それ。あの、失敗して、言い訳して、やり直したヤツ」

「私も会いに行けんのかな」
 
「……やってみる価値はあるな」

「なにそのダメもと扱い」

「いや、まあ……そのとおりだからな。でも……うん、清川も会いに行ってみるといい。売店で『例の雲』っての買って」

「例の雲? ……ってことは、空飛ぶワケ?」

「そう、それでカレン塔……現実の広大タワーのある場所で使う」

「分かった。よし、行ってみるよ」

 なんだかやる気になってるけど……。
 理沙が……黒幕と話すの?
 なに話すのよ……。

「島田くん、大丈夫なの?」

 真琴は思わず問うていた。
 島田は真琴の方を見て答える

「たぶん心配ない。それに……気が合うかもしれない」

「気が合う? 誰と……誰が?」

「清川と黒幕が」

「黒幕ってAIなんでしょ? こんなファジーな生き物と話が成り立つの?」

「おおファジーな悪口。やるね真琴」

「いや……うん、黒幕もこんなノリなんだよ。清川と話してる気分になるくらい」

「え? そういや島田くん、食堂でも言ってたね。いつだったっけ?」

 真琴の問いに島田が首をかしげる。
 そしてたどり着いた記憶を口にする。

「あ、ああ……言ったな、そういえば。あのアレ、古川が運営にメッセージ送ったときだ。恩赦の行使は古川の了解を得るようにしてくれって」

「あ、そうか。やけに軽いノリの返事が来たね、そういえば」

「そうそう、あんなカンジなんだよ、黒幕」

 あんなカンジって……。
 あのときは運営に宛てたメッセージだったから、その先にいるのは「人」だと思ってたけど……。

「島田くん、黒幕ってホントにAIなの?」

「ん? ああ……もしかして、らしくない?」

「うん……。ま、会ってみないことにはなんとも……だけど」

「たしかに人工知能らしくない話しっぷりだけど……。本人がそう言うんだしな……」

「あ、聞いてみたんだ。島田くんは」

「うん。あなた何者ですかってね」
 
「で、言ったの? 自分はAIだって」

「そう」

 島田の説明を受け、真琴は興味を持ってきた。

 松下さんは言ってた。田中美月の事件で情報をくれたのも黒幕だって。
 黒幕はそれほどの情報網を持ってるんだ。
 たぶんXデー……9月28日に騒ぎを仕掛けたのも黒幕……。
 それが人工知能だっていうの?

「よし、私も行くよ。黒幕に会いに」

「あ、うん。でも古川は寝ながらやれよ」

「分かった」

 真琴は、島田に言われたとおりベッドに横になる。
 そして楽な姿勢を探りながら、同時に携帯電話でカレコレを立ち上げる。
 表示されたのは昨日の夜に中断した場所……みっちゃんが転落した場所だった。
 真琴は例の雲を買うために、チームを売店に向かわせる。

「お、もょもとが復活してる」

「え?」

「もょもとが書き込みしてるんだよ、掲示板に」

「……なにを?」

「ちょうど今、俺たちが話してること」

 ……え?
 どういうこと?
 掲示板に書いていいようなことじゃないでしょ?
 秘密も秘密……ウチらしか知らないことだらけのはずじゃないの?

 真琴は横になったまま島田に右手を伸ばし「見せろ」と催促する。
 そして島田は、黙って携帯電話を真琴に手渡した。



336)10/6/19:12 宮本聖哉(文3)
 もょもとはどうなってんだよ、今

337)10/6/19:20 酒井隆(工2)
 だよな。なんか知ってるかもな。もょもとなら。
 出てきてくんねえかな。

338)10/6/19:22 田崎優一(経2)
 マジ肝心なところがわかんねえもんな。
 でも、もょもとはもう関係ないんじゃねえか? 警察とは。

339)10/6/19:23 宮本聖哉(文3)
 そうかもしんないけど、それならそれでもう一回活躍してもらいたいな。
 もょもとを門前払いにはしないだろ警察も。

340)10/6/19:29 小山浩介(経3)
 もょもとだ。なにか質問あるか?

341)10/6/19:29 島本啓二(理2)
 警察にも分かんないんじゃねえの?
 古川とかいう1年に聞いてみるしかねえよ。

342)10/6/19:32 佐々木勝也(農3)
 >>341しっかり口止めされてんだろ、その辺は。

343)10/6/19:32 宮本聖哉(文3)
 >>340おい、本物か?

344)10/6/19:35 田崎優一(経2)
 >>342でもさ、どんな試験かもよく分かんねえし、ホントに助けてくれるのかも分かんねえだろ。
 そもそも古川とかいう女も放送で言ってたじゃん。
 運営からの伝達と思って聞いてくれって。
 たいした裁量ないだろ。
 まだ俺らの運命は運営の気分次第だ。

345)10/6/19:35 小山浩介(経3)
 >>343本物だ。なにか聞きたいのか?

346)10/6/19:37 加藤美保(教2)
 本当にもょもとさんなんですか?

347)10/6/19:40 宮本聖哉(文3)
 本物なら教えてくれ。明日の試験の結果次第で俺たちはどうなるんだ?

348)10/6/19:42 小山浩介(経3)
 放送でも言ってたじゃないか。
 成績次第でカルマトールを分けてもらえる。
 それで業が減れば、執行されないだろ?

349)10/6/19:44 宮本聖哉(文3)
 >>348それじゃ結局、運営が決めたルールの中でやってるだけか?
 例の古川ってヤツは、運営からなんか特権もらったんじゃないのか?
 警察が捕まえた運営ってのは誰のことなんだ?

350)10/6/19:44 川崎健太(総1)
 おお、勇者復活!

351)10/6/19:46 小山浩介(経3)
 >>349古川って子にどんな権限があるのかは警察も教えてくれなかったけど、古川って子の言葉は運営の言葉と思っていいそうだ。

352)10/6/19:47 川崎健太(総1)
 つまり、古川さんは言わされてるだけなんですか?
 現状は>>348で書かれてるとおりなんですか?

353)10/6/19:49 首藤明人(法3)
 だとしたら、「運営を捕まえた」って話はデマに近いよな。

354)10/6/19:52 小山浩介(経3)
 まったくのデマじゃないんじゃないかな。
 イメージとしては、ようやく運営と交渉できる状態になったって感じじゃないかな。
 なんか警察も古川ってヤツに期待してるみたいなこと言ってたし。

355)10/6/19:53 宮本聖哉(文3)
 もょもとはまだ警察と良い関係なのか?

356)10/6/19:53 川崎健太(総1)
 >>353ですよね、そうなりますよね。
 あ、書いてる途中でもょもとが……。
 その交渉ってのは警察がしてるんですか?
 それとも古川って子がしてるんですか?



「これ……この板ってアレ? 〝勇者もょもとの戦い〟?」

「うん。他の板もけっこう話題……ってか、それしかないんだろな。みんな現状分析に忙しいみたいだ」

「そっか、そうだよね。じゃ、私の名前も結構出てるんだね? 他の板でも」

「それは想定内……だろ? 古川は表に立って大学を救うんだ」

「進んで表に出たのは確かだけど……。なんか怖いね。有名になっちゃうのって」

「悪い方向に有名になるんじゃないから気にしなくていい。それにこうして松下さんがもょもととして復活したんだから、もっと良い方向に向けてくれるよ。みんなで古川さんを応援しよう、みたいな」

「……そうかもね。どのみち退くことはできないんだし、たいした問題じゃないね。これは」

「おお真琴カッコイイ、大物みたい」

 理沙が茶化すように言う。


 ん……もょもとのアカウントって、たしか9月28日に保護されて入院した学生のアカウントだったよな……。
 経済の3年……小山浩介か……。

「理沙」

「なに?」

「3年の小山浩介って人、知ってる?」

「え? 経済なの?」

「うん、ホラ」

 真琴は島田の携帯電話を理沙に差し出す。
 理沙はそれを覗き込み、そして首をひねる。

「聞いたことないね。ほら、ウチって所帯おっきいし」

「そっか、そうだよね」

 真琴は再度、掲示板に目を戻す。

 いずれにしてもこの〝もょもと〟の言葉は松下さんの言葉……。
 そこから窺えるのは、警察も私が出す結果を待ってるという雰囲気だ。
 それなら高山先生も同じなんだ。……きっと。

「やっぱり私が会わなきゃいけないんだね、黒幕と」

「そんなカンジだな。俺も今から会いに行く」

「島田くんも……黒幕に?」

「うん」

「同時に話せるの? 順番待ちになったりしないの?」

「順番待ちはないだろ。AIなんだし」

 結局、チーム全員が黒幕のいる「カレン塔」をめざすことになった。

 エンディングで「黒幕」が登場しなかった理沙でも会えるとしたら、会うための条件は例の雲を買うおカネだけ……。
 たしか500万円……。安くない。
 カレコレ内の金貸しで借りても足りないし、普通のパチンコで大勝ちしても足りない。
 この額もやっぱり、裏パチンコが必要だ。
 だとすれば、会えるのは一握りの人……。

 そんなことを考えながら真琴は売店で「例の雲」を買い、そしてフィールドの北端にあるカレン塔へ着いた。
 カレン塔の下でアイテム「例の雲」を選ぶと、画面右から安っぽい雲が現れて「まこと」を乗せる。
 そして「まこと」ひとりを乗せたまま、雲はエレベーターのように画面上端に消えて、場面が切り替わる。


 切り替わった場面は、記憶にある風景だった。
 それはエンディングの後に出てきた神殿のようなフロア……。
 逃げていった「運営」が、黒幕によって床の穴に落ちた場所だ。
 すでに例の雲の姿はないので、真琴は「まこと」をフロア奥……上に向かわせる。


『あ、やっと来た』

 それが黒幕の第一声だった。
 その姿に真琴は意表を突かれる。
 女の子……。これ……は、セーラー服?

 前回、つまりエンディングの時、画面の表示は机越しの黒幕までは届いていなかった。
 姿を見るのはこれが初めてだ。
 まあこれ……このカクカクのドット絵が「真の姿」であるはずはないけど……。
 それにしたって……。

 画面下には入力フォームがある。
 「はい」とか「いいえ」じゃない。
 これで会話ができるんだ。
 姿に惑わされぬように努め、真琴は慎重に言葉を選ぶ。
 駆け引きの始まり……。真琴はそんな心地だった。
 意を決して第一声を入力する。

『お待たせしました』
『いいよ、そんなの』

 ……反応が早い。入力を終えると同時に瞬間に返事が表示された感じだ。
 それだけのことで、真琴はにわかに背筋を寒くした。
 この……女子高生みたいな絵にだまされちゃいけない……。
 今、私が話しているのは黒幕……。
 たぶん高山先生から主導権を乗っ取った……黒幕なんだ。

 怯まぬように画面に集中しながら、真琴は次の言葉を入力していく。
 まずはこの、黒幕の正体を知らなくちゃ……。
 それから、実態を知らなくちゃ……。


『あなたは誰ですか?』
『黒幕だよ。それじゃダメ?』

 まただ……。また間髪入れぬ返答……。
 高い処理能力を持つAIなら驚くに値しないのかもしれない。
 だけど……これはすごい圧力を感じる。
 真琴は画面上、セーラー服姿の女の子を睨む。
 なんでこんな可愛らしいカッコしてんのよ。
 それで? 中身はなに? ……悪魔?

『黒幕ってことは、全部知ってるんですか?』
『うん、たぶんね』

 怯むな私……。怯んじゃダメだ。

 真琴は急かされるように言葉を繋ぐ。
 相手のレスポンスが早いので、画面上の会話はどんどん進む。

『なにを知ってるんですか? いったい』
『だから全部だよ、真琴』


 く……「まこと」じゃなくて真琴か……。
 カレコレなのに……。


『じゃ、誰が9月28日にきめ
『わたしが決めたんだ』

『どうして9月2
『ベストタイミングだと思ったんだよ』

『それはどういういみで
『そのまんまの意味だよ真琴。ほぼ計画どおりだし』

『なにがもくて
『真琴はどう思うの?』


 なによこれ……。
 まだ送信してないのに答えが返ってくる……。
 焦るな……。まだ交渉にも入ってない。
 まずは……相手を知るんだ。
 
『どうしてそんなカッコしてるんですか?』

『え? あ、これ? 制服のこと?』

 ん……今、ちょっとだけ間が空いたような……。
 ……うん、気のせいじゃない。
 ちゃんと最後まで入力できたし。

『そうです。なんでそんな女子高生みた
『そういうコンセプトなんだ』

『コンセプトって、なんか意味があるんで
『これなら怖くない、でしょ?』

『怖くないって、それだけのりゆ
『じゃ、こっちは?』

 返答と共に、黒幕の姿が水色のクマに変わった。
 ……たしかにこっちの方が怖くはない……けど。

 つまり、姿は関係ないんだね。
 そうよ、姿なんか関係ない。
 肝心なのは……これよ。

『あなたは私の』

 真琴はそこまで……つまり文章の途中までで送信してみる。
 主導権を握るのはスピードだけじゃない……でしょ?
 含みを持たせることだってできるんだ。言葉には。

『私の、なによ?』

 真琴の狙いどおり、すこしの間を置いて、黒幕が尋ねてくる。

 無視できないでしょ?私を。
 待ってたんだもんね。私を。

 わずかに落ち着きを取り戻した真琴は、ゆっくりと入力する。

『やめてください。まずは』

『なにを?』

『私の言葉を遮って返すことです。あまりいい気分はしません』

『あ、ゴメン。そっか、そうだよね。つい興奮しちゃって。分かった、そうするね』

 あれ?
 もしかして、そんなに怖くないのかな……。
 そうだよな。島田くんは「怖い」なんて言わなかったしな。

『じゃ、あらためて。あなたは私の敵ですか?』

『味方のつもりだよ』

『黒幕になったっていうのは、高山先生の立場を奪ったということですか?』

『聞こえは悪いけど……。結果としてはそうなっちゃったね。たしかに』

 うん。いいカンジになってきた。
 敵じゃないのね。それに、悪意もないって言いたいのね。
 じゃ、あらためて聞こうかな。
 これはどう?

『目的はなんですか?』
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高校2年生の神藤葉羽は、学年トップの成績を誇る天才だが、恋愛には奥手な少年。彼の平穏な日常は、幼馴染の望月彩由美と過ごす時間によって色付けされていた。しかし、ある日、彼が大好きな推理小説のイベントに参加するため、二人は不気味な孤島にある古びた洋館に向かうことになる。 その洋館で、参加者の一人が不審死を遂げ、事件は急速に混沌と化す。葉羽は推理の腕を振るい、彩由美と共に事件の真相を追い求めるが、彼らは次第に精神的な恐怖に巻き込まれていく。死者の霊が語る過去の真実、参加者たちの隠された秘密、そして自らの心の中に潜む恐怖。果たして彼らは、事件の謎を解き明かし、無事にこの恐ろしい洋館から脱出できるのか?

【完結】湖に沈む怪~それは戦国時代からの贈り物

握夢(グーム)
ミステリー
諏訪湖の中央に、巨大な石箱が沈んでいることが発見された。その石箱の蓋には武田家の紋章が。 ―――これは武田信玄の石櫃なのか? 石箱を引き上げたその夜に大惨劇が起きる。逃げ場のない得体のしれないものとの戦い。 頭脳派の時貞と、肉体派の源次と龍信が立ち向かう。 しかし、強靭な外皮をもつ不死身の悪魔の圧倒的な強さの前に、次々と倒されていく……。 それを目の当たりにして、ついに美人レポーターの碧がキレた!! ___________________________________________________ この物語は、以下の4部構成で、第1章の退屈なほどの『静』で始まり、第3章からは怒涛の『動』へと移ります。 映画やアニメが好きなので、情景や場面切り替えなどの映像を強く意識して創りました。 読んでいる方に、その場面の光景などが、多少でも頭の中に浮かんでもらえたら幸いです^^ ■第一章 出逢い   『第1話 激情の眠れぬ女騎士』~『第5話 どうやって石箱を湖に沈めた!?』 ■第二章 遭遇   『第6話 信長の鬼伝説と信玄死の謎』~『第8話 過去から来た未来刺客?』 ■第三章 長い戦い   『第9話 貴公子の初陣』~『第15話 遅れて来た道化師』 ■第四章 祭りの後に   『第16話 信玄の石棺だったのか!?』~『第19話 仲間たちの笑顔に』 ※ごゆっくりお楽しみください。

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