かれん

青木ぬかり

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10月2日(日)

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 携帯電話の画面には、強制的にセーブされた地点……理学部5階の突きあたりが表示された。
 するとすぐ、上からヒラヒラと紙が降りてきて廊下に落ちた。
 真琴はそれに近付いてボタンを押す。


  まことはチラシをよんだ。

 『おトクなセールじょうほう!
  本日は『消火器』が29,800円!
  頭が火事でお困りの貴方に!
        売店店主より 』


 ……再開直後に落ちてきたこの紙を無視できる人はいないだろう。

 これで火を消す方法はみんなに示された。きっとみんな、おカネを貯めて売店に行く。

「おカネ、あと1万円くらいだよ。やった……これなら間に合う」

 そう言ったのは、チラシを見てはじめて消火器の存在を知った理沙だ。
 情を知る島田が笑顔で応じる。

「ああ、そうみたいだ。まずはひと安心だな、清川」

「うん。これなら……3人で頑張れば1時間もかからなくない? 貯まるまで」

 理沙は心底嬉しそうだ。1時間……か。
 たしかに3人がかりで問題を解いていけば、消火器を買うだけのおカネはすぐに貯まりそうだ。
 真琴は画面下のステータスを見る。

   つるぺた まこと
   ¥:18700円
   ☆:102個
   ○:

 結局、カレンのアプリでは徳と業、そして所持金とスター……4つものランキングが表示されることになった。

 そのうち「業」は、今や完全に負の要素……。
 あとの3つは多いほど良いのか?
 星の下にある丸はなんだろう?
 そもそも星……スターにはどんな意味があるんだ?
 もう、わけが分からなくなりそうだ。

 いずれにしても、できれば消火器は売店で買わず、松下刑事から教えてもらった場所……理学部の3階に落ちているというものを拾って済ませたい。
 真琴は時計を見る。まだ午後6時50分か。
いちばん乗りで拾いに行けば目立ってしまう。
 自分たちが3万円を貯めてしまうより前に、落ちている消火器を誰かが見つけて掲示板に書き込んで、そのあとで拾いに行く……そんな展開が理想だ。

「よしよし、どんどん解くよ~。うりゃっ」

 消火器という救いが示されたので理沙は俄然やる気だ。敵が出してくる問題もまだ小学生のレベルなので躓く要素もない。

 真琴もゲーム内の「まこと」を動かし、遭遇した敵が出す問題を解いていく。


   次の漢字の読み方を答えなさい。

        汽笛


 小3国語……か。今の自分には難しくないけど、小学3年でも意外と難しいの習ってたんだ……。

 チープな音に合わせてレトロ情緒の敵が出す小学生の問題……。
次々と答えているうち真琴は既視感に似た感覚に落ちる。
 この感じは……夏。そうだ、子供の頃の7月の終わり……夏休みの宿題にとりかかったときみたいだ。

 7月のうちに終わらせろ……。
 ……毎年言われてたよな、私。


 3階に立ち寄りたい衝動を抑えながら「まこと」が率いるチーム「つるぺた」は理学部の外に出た。出入口の掲示板の前に女の子のキャラクターがいる。
 あれ? 昨日もいたな、そういえば。そう思いながら真琴は女の子に近付く。今日は逃げていかないようだ。
 話しかけたが女の子は掲示板の方を向いたまま、そしてウインドウにセリフが表示される。

『なによこれ……。なんでわたしだけ……』

 そこで女の子の頭の上に「!」と表示され、女の子がこちらを向く。

『わたしだけ再追試なんてありえない。ぜったいおかしいよ。ねえ、そう思わない?』

 再追試? この掲示板、たしか昨日は「追試のお知らせ」だった。
 つまり昨日から話は進んで、この女の子は再追試を受けることになったのか。
 ウインドウには女の子のセリフのあとに

   ・はい
   ・いいえ

と表示されている。

 ……なんだこれは。この見ず知らずの女の子の愚痴にイエスかノーで答えなくちゃいけないのか?
答えるにはあまりにも判断材料が乏しいだろう。
 でも、これはカレコレ……。この問いかけは運営からの問いなんだ。
 選択を誤れば……そう、それこそ理沙の頭に点火したように何か悪いことがあるかもしれない。

 ん……。そうだ、理沙だ。理沙は私や島田くんよりも先にカレコレを始めていたんだから、このシーンを過ぎているはず。
 真琴は手を止め、ちゃぶ台の向こうにいる理沙に尋ねる。

「……ねえ理沙」

「ん? なに?」

「理沙はこの、掲示板の前の女の子からの質問になんて答えたの?」

「掲示板の前? なんかあったっけ」

 理沙は首をかしげながら、座ったままズリズリと真琴に寄ってくる。そして真琴の携帯電話の画面を覗き込んだ。

「……ああ、あったね、こんなの」

「これ、理沙はなんて答えたの?」

「『はい』」

「……なんで?」

「テキトー」

「……それで、『はい』って答えてどうなったの?」

 理沙は更に深く首を傾ける。
 こいつは……憶えてないぞ。

「忘れた」

「……そうみたいね。でも、忘れるくらいってことは、悪いことはなかったってこと?」

「たぶんそう。この私が忘れるくらいだからね」

 じゃ……いいのか? 『はい』で……。

 答えを躊躇する真琴に島田が告げる。

「古川、それ、たぶんどっちでもいい」

「え?」

「どっちでもいいんだ。自分が思うように答えたらいい」

「なんで……なんで知ってるの? そんなこと」

「掲示板だ」

「……どういうこと?」

「俺たち昨日、出遅れたろ? かなり」

「うん」

「だから俺、頑張って掲示板で情報集めたんだ。その質問、どっちを答えても話は進む」

「そうなんだ」

「うん。掲示板は今、カレコレのことで持ちきりだ。『カレコレ攻略情報』なんて板も立ってる」

「そっか。じゃ、私は『いいえ』で」

「なによ真琴、私を裏切んの?」

「だって普通に考えて、試験も追試もダメだったから再追試なんでしょ。この子」

「え~ でも可哀想じゃん」

「いや、でも……じゃあ頑張るしかないじゃん。とにかく簡単にはこの子に同情できない。……事情もよく知らないし」

「ぷ~んだ。お好きなように。あ、そうだ。なおっちはどっちにすんの?」

「う~ん……。俺もたぶん『いいえ』だな」

「なによ、なおっちまで。だいたいなんで二人ともいまだに『古川』『島田くん』なのよ」

「おかしいか? なにか」

「だって二人はラブラブチュッチュなんだから『なおっち』と『マコリン』でしょ、当然」

「…………。」

「あ、なおっちが軽蔑してる」

「……いや。ホント……いい性格だよな、清川」

「グゥ……。これは……褒められてない。私でも判る」

「いや、褒めてるつもりだぞ。俺は」

 二人はまだ何か言い合っているが、キリがないので真琴は画面に目を戻し、女の子の問いに『いいえ』と答える。

『なによ、ふん。ぜったいおかしいんだから。わたし、めっちゃ勉強したし。あいつ……ゆるさない』

 そう言い残して女の子は昨日のようにツーッと画面の外に消えた。

 真琴は掲示板を見る。


   再追試のお知らせ
  以下の者は再追試を行う

    087122B

     202佐藤まで


 202とは担当教授……佐藤の部屋だろう。
だが女の子は理学部の建物には入らずに何処かへ行ってしまった。

 ……どうしたらいいんだ?
 そもそもこのゲーム、何をどうすればクリア……大学にかけられた呪いを解けるんだ?
 ロールプレイングよりアドベンチャーに近い……。松下刑事はそう説明した。ということは、やみくもに敵を倒すんじゃなく、この女の子のエピソードを進めた方がいいのかな。

 まあ、動き回っていれば嫌でも敵は出現するんだから、問題を解くこととストーリーを進めることは同時にできる。

 真琴は理学部の中に戻り、敵と戦いながら202号室を目指すことにした。

 階段をひとつ上って2階に行き、左に進むとすぐに202号室があった。各部屋のドアの上に部屋番号が表示されているので迷うことはない。真琴は中に入った。
 そこは狭い部屋で、白衣を着た男のキャラクターがいた。真琴はその眼鏡をかけたキャラクターに話しかける。

『大学教授なんだから、少しくらい役得があって当然だよね?』

  ・はい
  ・いいえ


 え? 役得? ……役得とはなんのことだ?
 とりあえず良い意味ではなさそうなので、真琴は『いいえ』と答えた。

『今までずっと……まわりの奴らが遊んでても我慢してきたんだ。女子学生との秘め事くらいあっていいじゃないか。そう思うだろ?』

  ・はい
  ・いいえ


これは……これはもしかして、あの女の子は危ないんじゃないのか?
 真琴はもう一度『いいえ』を選ぶ。

『いや、あの子だってまんざらじゃないんだよ。追試のときにあの子、俺に気があるようなこと書いてたんだ。たまにはこんなのもあっていい。そうだろ?』

  ・はい
  ・いいえ


 駄目だ。どうしたらいいんだ? これは。
 真琴は三たび『いいえ』を選ぶ。

『うるさい! ……まあいいか。どのみちあの子は僕の言うことをきくしかないんだ。僕が単位を出さないと留年だからね』

 それきり、何度話しかけても男は『もう出てってよ』としか言わなくなってしまった。


 いけない。このままじゃ……あの女の子が危ない。
 ……探さなきゃ。真琴はこのアブない教授の部屋を出た。

 理学部の建物を出た。掲示板の前に例の女の子はいない。
 もしかしたらまた戻ってきてるかもしれないという真琴の淡い期待は外れた。

 じゃ……何処にいるんだろ、あの子。とにかく見つけて教えてあげなきゃ。
 あの教授はヤバいよって。


 ……よし、ここは島田くんに聞こう。
 それが真琴が出した結論、とりあえずの手段だった。
 このゲームはチームで取り組んでいいんだ。だったらチーム内で情報交換しても問題ないはず。
 島田くんは掲示板で情報を集めたって言ってたし……なによりもこのゲーム、楽しんで攻略する義理なんかない。
 手段を選ぶ必要はないんだ。……きっと。

「……島田くん」

「ん?」

 島田は自分の携帯画面に視線を落としたまま、返事だけを返す。

「掲示板の女の子、どこに行ったか知ってる?」

「……ああ、え~と……たぶん売店」

「わかった」

「俺もすぐ追いつくよ」

「うん」

 ここで理沙が割り込む。

「なによアンタたち、なんかズルくない?」

「ズルくないよ理沙。チームだもん」

「でもさ、ゲームって自分の力で進めるもんじゃない?」

「これが普通のゲームならね」

 理沙が少し考える。

「……そっか、そだね、うん。あ、じゃあさ、私の場合はどしたらいいの?なおっち」

「清川は……まだ教授の部屋にも行ってないんだろ? まず教授の部屋に行けよ」

「わかった。で、教授の部屋ってどこ?」

「202号室。……てかお前、理学部の掲示板見てないのか?」

「見てないよ」

「そうか。……清川」

「ん?」

「なにを……してたんだ? 今まで」

「ああっ。なおっちの目……呆れてるっ」

「まあ……そうだな。だって俺らより先に始めてたんだからな」

「なにしたらいいか分かんないから、いろんなとこ歩き回ってたよ。敵は結構やっつけたし。……これでも」

「ああ、それはそうみたいだな。まあ……そうか、女の子が消えたあとに掲示板を調べてみるって発想がなきゃ……そうなるよな」

 島田はそこで手を止めて言葉を切り、何か考え始めた。
 真琴も、そして理沙も手を止めて次の言葉を待つ。
 しばらくして、島田が顔を上げて話し始めた。

「うん、このゲーム……ネタバレなんか気にする必要ないよな。みんなで話しながら進めればいいんだ」

 どうやら島田も、先刻の真琴と同じようなことを考え、同じような結論を出したようだ。

 島田は「え~と……じゃ、大事な部分から」と前置きしてから説明を始める。

「まず、このゲーム、基本はたぶん謎解き……いや、物語なんだ。それも短編の」

「短編の……物語?」

「うん。再追試の女の子の話…あれはどんな風に答えても、結局俺たちプレイヤーは胸糞悪い物語を読まされる」

「そう……なの?」

「ああ、カレン掲示板で見た限りだけどね」

「胸糞悪いって……あの女の子にハッピーエンドはないの?」

「たぶん……ない。いろんな人が書き込んでるけど、ハッピーエンドの人はひとりもいない。でも、とにかく最後まで話を進めたらステージクリア。次の法学部ステージが照らし出される」

「ああ、なるほどね」

 合いの手を入れたのは理沙だ。
 なるほどって……なにが?
 真琴は島田に尋ねる。

「照らし出されるってどういうこと? 今は行けないの? 法学部には」

「ん? ……ああそっか。まだ古川はあんまり歩き回ってないのか」

「まあ、そうだね」

「今、というか最初に動けるのは、ゲームがスタートした地点を中心に理学部周辺までなんだ。そのエリア以外は真っ暗。光が当たってないんだよ」

「ああ、そうなんだ。そういえばそんな始まりかただったね」

「なおっちステキッ。じゃあ、とにかく話を進めたらいいんだね?」

「今のところはそんな話になってる。掲示板では」

「じゃあ、とりあえず私は売店で女の子に会って、話を進めればいいんだね?」

「そう。で、このゲームにおけるカネと星、これの位置付けも言っとこう」

「……位置付け?」

「うん。カレンのメインアプリでランキングが4つに増えたろ?」

「うん。なんだか混乱してきたね」

「それが、案外シンプルなんだ」

「え? どういう意味?」

「カネも星も、今のところゲームの本筋には関係ないみたいなんだ。カネでいろんなものが買えるみたいだけど、みんなが飛び付いて買っているのは業を減らす薬……カルマトールだ」

「あ、そうだよ。ねえ真琴、私、買っていい? カルマトール」

「え……と、どうなんだろ? 島田くんがいいって言うなら……私は別にいいけど」

 真琴は島田の方を見た。理沙もそれに倣う。

「それは清川の業による。どんだけあるんだ? 業は」

「えっと……350くらい」

「じゃあダメだ」

「え~なんでなんで~。いいじゃん。なおっちのケチ」

「その数値なら買う必要ないだろ」

「え~、でもなんだか真琴よりもずっと多いし……怖いし」

「運営が言う特典の執行は500からだろ? 要らないよ。こぞって買いに走ってんのはもっと切羽詰まった人……1000とか2000とかの人たちだ」

「ううう……でも……」

「じゃあ清川、こう考えろ。買おうと思えばいつでも買える。んで、特典の執行は今月の10日まではないんだ。それまでにカネが要らなくなったり、清川の業が500を超えたりしたら買おう。最優先で」

 この島田の言葉に、理沙が少し考えてからうなづく。どうやら納得したようだ。

「わかった。もし途中で500超えたりしたら、すぐ買ってもいいよね?」

「ああ、うん、買っていい」

「じゃあ我慢する。消火器も買わないといけないしね」

「よし、話を戻すぞ。ええと……なんだっけ?」

「みんながおカネでカルマトールを買ってるって話だったよ」

「ああそうだった。うん、つまりこのゲームのカネは業とリンクしてるんだ。業の心配がない余裕のある人だけがカネを貯めたり、他のものを買ったりできる」

「……そうかもね。たしかに」

「で、星はな……これは徳にリンクしてるんだ」

「え? そうなの?」

「うん。次の法学部のステージには食堂が登場する。そこでメシを食うと増えるんだよ、徳が」

「は? スターで……ご飯?」

「うん。カネの単位がモロに『¥』だから、そのせいで分かりにくく感じるけど、カネも星も通貨なんだよ。……つまりは」

「ああそうか。所持金の円は業と、スターは徳と連動したおカネなんだね」

「そう、そうなんだ。徳が星、そして業がカネと繋がってる……。明と暗っていうか、清と濁というか……理想と現実……いや、これはさすがに違うか。まあでも、なんとなく分かりやすくなった気がしないか? つまり結局2本のままなんだよ、軸は」

「なおっちスゴい! わかったよ! わたしでも」

 そう言ったのは、しばらく黙って聴いていた理沙だった。

「清川が解ったなら、みんな解ったな?」

「うおおおっ! その言い方! 3人しかいないのに!」

「ということは、チームの中に一人でも業がヤバい人がいたら貯まんないよね、おカネ」

「そういうこと。もっと悲惨なのは業の多い人が集まったチームだよ。カネはチームの共有物だからね」

「うわそれ……ヤバそう」

「ああ、ヤバい。カレン掲示板を見ればなんとなく判るけど、すっげえ醜いことになってそうだぞ。そういうチームは」

「……だね」

「ま、今は消火器のせいで気を削がれてるだろうけどな。先が怖い感じだよ」

 島田はここで「さ、俺たちも再開しよう」と言い、話を終わらせる。

「説明……終わり?」

「うん。俺が知った情報はこんなもんだよ。進んでる人でもまだ第2ステージに入ったとこみたいだし」

「わかった」

 島田は真琴の返事を聞いてから携帯画面に目を落とし、カレンコレクションを再開する。
 真琴も理沙もそれに続いた。


「……楽しんでるのかな。運営は」

 再開してすぐ、真琴は思ったことを口にした。
 島田がその言葉を拾う。

「それは分からない。でも……試されてるよな、広大生は」

「……うん」

 試されてる……か。確かにそうだ。悪意は悪意だが単純じゃない。かなり複雑で、それでいて強い。

 真琴は画面の中央で足踏みする「まこと」を眺める。
 大学の、明けない夜……か。


 10月2日、日曜日。
 時刻は午後8時になろうとしていた。

 真琴は島田から言われたとおり、チームつるぺたを率いて売店に行く。
 売店は現実の工学部食堂がある場所……今は警察が詰めている場所だ。
そして売店のすぐ下……南側は真っ暗になっていた。
 ホントだ。ここまでしか行けないんだ……。

 中に入るとカウンターに店員がいたので話しかける。

『いらっしゃいませ。どれにしますか?』

 店員のセリフが流れたあとでウインドウが現れる。

 →・カルマトール     3000円
  ・こたえなおし     5000円
  ・うんどうぐつ    12000円
  ・きょうかしょ(小6)15000円
  ・なにも買わない

 カーソルは一番上、カルマトールのところにある。
 さらに右上にはもうひとつ小さいウインドウが表示されていて、そこにはカルマトールの効果が書かれている。

    業を2~5へらす

 考えてみれば、2と5じゃ全然違うよな……。
 今のところ自分たちは買う必要がないから他人事だけど、カルマトールを買うために敵を倒して売店に駆け込んでいる人にとってはイヤなギャンブルだろうな。

 とりあえず何も買うつもりはないものの、真琴はカーソルを下に動かす。
 するとカーソルの移動に合わせてそれぞれのアイテムの効果が表示されていく。

    こたえをやりなおせる
    少しだけはやくあるく
    正解が見える(小6)

「…………。」

 どうやら予想以上に奥が深いというか、作り込まれたゲームみたいだ…。
 アイテムの説明を見て、真琴はそんな感想を抱いた。

「……島田くん」

「うん?」

「島田くん、運動靴……買えば?」

 真琴の提案を聞いて、島田が僅かに顔をしかめる。
 あれ……なにかマズいことを言ってしまったようだ。

「ああ、いずれ……な」

 あ、そうか……。売り物に表示されてないから思わず言ってしまったけど、私たちは今、おカネを貯めてるんだった。
 消火器を買うために。

「なに言ってんの真琴。わたしが爆発してもいいの?」

 理沙に食いつかれた。
消火器は拾えばいい……。そんな油断が招いた失言だ。
 真琴は慌ててとりなす。

「そうだったね。ゴメン理沙、忘れてた」

「わたしの頭が花火になってんのに忘れるってどういうことよ?」

「いや……ほら、ウインドウで消えちゃって……」

「だいたいなんの意味があんのよ、早く歩いて」

 ここですかさず島田が割って入る。

「意味はあるぞ、清川」

「え? ホント?」

「うん。このゲーム……カレコレに時間の概念はない。まあ、清川の頭の上のタイマーは例外として」

「だからなによ」

「ゲーム内に時間の縛りはないけど、俺たちみんな、リアルの時間に縛られてんだよ。たぶん期限は10月9日の23時59分までだ」

「ああそっか。……げ。しかもカレコレできんの夜だけじゃん」

「そういうこと。だから早く歩くことに意味はあるんだよ。ちゃんと」

「ゲームは1日6時間、だね?」

「そうそう」

「そっか……。チームのエースは……なおっちだもんね。うん、そうだよ、買えば? 運動靴」

 理沙の言葉に島田が苦笑いする。

「今は消火器が優先なんだろ? 清川だって忘れてんじゃん」

「うわあ、そうだった。ダメだよ買っちゃ」

 島田くんのお陰でなんとか理沙の追及を免れた。
 気を付けなきゃ……。理沙にはわるいけど、言えない秘密があるんだった。
 だいたい理沙が悪いんだ。理沙がもっと口が固いキャラだったら言えるのに。
 胸を撫で下ろしながら、真琴はそんなことを考えた。


 気を取り直して真琴は売店内を歩く。
 ……いた。あの子だ。
真琴は書籍コーナーに例の女の子を見つけて話しかける。

『よく考えたけど、やっぱ私の勉強が足りてないんだよね?』

  ・はい
  ・いいえ


 あの下心でいっぱいの教授に会ったから答えられる。この子は狙われてるんだ。
 真琴は迷わず『いいえ』を選ぶ。

『なんなのよ。ひとがせっかくやる気になったのに。こんどは邪魔する気なの?』

  ・はい
  ・いいえ


 邪魔と言われようがなんだろうが、あのエロ教授と関わっちゃダメだ。真琴はここで『はい』を選んだ。

『ふん。とにかく留年なんて御免だわ。こんどこそ勉強するわよ、カンペキに』

「あ……」

 女の子は例によってツーッと画面の外に消えた。
 選択肢が「はい」と「いいえ」しかないのがもどかしい……。
 あの子は真面目に再追試に取り組もうとしている。
 でも、あの教授は……。真琴は踵を返してチームつるぺたを理学部……202号室に向かわせる。


 敵の問題に答えるのを煩わしく感じながら202号室の前に着くと、ドアを開ける前にセリフのウインドウが現れた。
 イヤな予感が背中を走る。

『先生……できました』

『うん? どれどれ……。ああ、これじゃダメだ』

『え……まだダメ……ですか?』

『ああ、これじゃ単位は出せない。チャンスはこの再追試までだ』

『そんな……。それじゃわたし、留年しちゃう』

『仕方ないだろう。また来年頑張ればいい』

『そんな……』

 ドア越しに漏れ聞こえる会話は勝手に進む。真琴は何度も「まこと」を動かそうとするが動かない。
 方向キーを押しても、画面のどこをタップしてもどうにもならなかった。

『……先生』

『ん? なに?』

『おねがいします。留年だけはしたくないんです』

『でも、仕方がないだろう』

『おねがいします。……なんでもしますから』

『……なんでも?』

 ああああ、ダメだダメだ、この変態教授は……はじめからそれが狙いなんだ。
 無機質なドットで描かれたゲーム内の女の子……。そんな架空の存在に真琴の心は激しく揺さぶられた。

『……じゃあ……こっちに来なさい』

『……え』

『なんでもするんだろ? いいから来なさい』

『……は、はい』

『ここに座って。……よし、いい子だ』

『……! んん! んんんんっ!』

『ぷはっ。……こら、暴れるな』

『なに……するんですか。……いきなり』

『なんでもするんだろ? 留年するのか?』

 いいんだ。今は留年のことはどうでもいいから……。
 とにかくこの場から逃げて……。
 真琴は女の子の無事を必死に祈る。

『……いえ……ごめんなさい』

『よ~しいい子だ。さ、おいで』

『は……い』

『うはっ、柔らかいんだね』

『……う……う』

『どれどれ……。あれ、くそっ。めんどくさいな。……自分で脱いでよ、もう』

『え……ここで……ですか?』

『うん、ここで。さ、早く』

『そんな……できません。先生』

『じゃあ留年ね』

 このゲス野郎……。真琴は携帯電話をへし折りたい衝動に駆られる……が、すんでのところで堪えた。

『……あんまり……見ないでください』

『それじゃ脱いだ意味ないだろ。手、どけて』

『……うう、うっ……』

『はぁ~若いね~。もう芸術だね』

『うっ……うっく』

『泣いてもダメだよ。さ、下も脱いで』

『うっ……え? 下も……ですか?』

『当たり前だろ。いちいち聞かないでよ』

『……もう許して……ください』

 そうだ、もういい。もう逃げるんだ。
 お願い……逃げて……。

『許す? なんのこと? 僕は別にいいんだよ』

『……ごめんなさい。……でも、誰か来たら……こんな』

『ん? ああそうか、そりゃ困るね』

 〝ガチャリ〟
 〝中からカギがかれられた。〟

『さあこれで大丈夫。脱いでいいよ』

『…………。』

『うわ……見てる方が恥ずかしいね』

『うっ……うう……』

『あ、そうだ。ねえ、こっちにお尻向けてむこう見てよ』

『……こう……ですか……』

『もっとお尻上げて……。そうそう……。うわっ……すごい眺め』

『ううぅ……』

『ちょっとそのまま。え~と……よし、あった。はいチーズ。パシャッと』

『えっ。撮った……ん……ですか?』

『うん。念のためにね。あ、顔は写ってないよ』

『……ひどい』

『なにその言い方。貼り出しちゃうよ、これ』

『そんな……』

『僕のいうこと聞いてれば心配ないよ。さ、続けよ』

 なにが「心配ない」だ。くそ……ちくしょう……。
 真琴の願いも虚しく、女の子はそれからも教授に「泣くなよ」とか「声出すなよ」などと言われながら蹂躙された。
 携帯の画面に水滴が落ちた。そのときに初めて真琴は自分が泣いていることに気が付いた。
 私、泣いてる……。 こんな……こんなゲームで……。

「な、胸糞悪いだろ?」

 真琴の様子で進捗状況を察した島田が言った。

「うん……。ヒドいね、これは」

「まだ終わらないんだぞ、この話」

「そう……なんだ」

 まだ続きがあるのか、この話に……。
 チープな画面のふざけたフォントとはいえ言葉は言葉……。
悲話には悲話なりの悲哀が宿る。

 こんな醜い話をこの先延々と読まされるのか……。
 半ば途方に暮れながら理沙を見ると、鼻息を荒くして画面をタップしまくっている。
 どうやら理沙もイヤな展開を見ているようだ。

「っか~。この女めっちゃムカつく」

 ……理沙も憤っている。
 え? ……この ……女?

「ちょっと理沙……なに言ってんの?」

「はぁ? なにが? だってクズじゃん、この女」

 真琴は耳を疑った。

「クズって……それは教授でしょ」

「真琴こそなに言ってんのよ。チョー可哀想じゃん、この教授」

 ……どういうことだ?
 この話の展開で教授の肩を持つ人間がいるのか?
 少なくとも理沙はそんな人間ではないはずだ。

「古川、違うんだ」

「え?」

「違うんだよ。俺たちが読んでいる話と、清川が読んでいる話は」

「……え?」

「違うって……。なにが? なんで?」

「女の子と最初に話したとき、古川と俺は『いいえ』つまり女の子に否定的な答えをして、清川は『はい』つまり女の子に同調する答えをしたろ?」

「うん、そうだね」

「そこでストーリーは分岐したんだ。それぞれがムカつく方向にね。……マルチシナリオだよ」

「……それぞれが……ムカつく?」

「うん。俺たちは女の子がもっと頑張るべきじゃないかと思って答えた。逆に清川は女の子の肩を持った」

「うん」

「ところが俺たちが読まされたのは、実は教授が変態野郎で、女の子がひどい目に遭う話だ」

「え? そうなの真琴?」

  理沙も話に加わってきた。真琴が受ける。

「そうだよ。このドスケベ教授、留年を盾にとってあの子にひどいことしたよ」

「……マジで?」

「うん、マジで。……理沙は違うの?」

「わたしの方は、めっちゃ真面目でオクテの教授を、あの女が色仕掛けで騙して弱味握ったよ」

「……なにそれ、全然違う……てか正反対じゃん」

 どう選択しても胸糞悪いとはこういうことか……。
 答えに込めた思いと正反対の方向に話が進む。……これは気分が悪い。

「……島田くん」

「うん?」

「これ、どっちが正解だったの?」

「どっちも正解だよ。進めれば判る」

「……そうなんだ。……じゃ、とりあえず進めるしかないんだね?」

「そう。進めるんだ。……気が進まなくても」

「わかった」

 それからまた3人は、各々ゲームを再開した。

 島田に教えてもらい、真琴は大学の敷地を北に出たところ……アパートの前で教授と並んでいる女の子を見つけた。
 そうか。ゲームのスタート地点が中心なんだから敷地の外も光が当たってる。行けるんだ。

 真琴は女の子に話しかけるために「まこと」を近付ける……が、話しかける前にセリフが表示された。

『さ、はやくはやく』

『……もう……おわりにしてください。先生』

『ダメだよ、ダメダメ。せっかく仲良くなったのに。ささ、行こ』

『……はい』

 女の子と教授はアパート1階の一室に消えた。真琴はその部屋のドアの前に行く。
 またしてもドア越しにセリフが表示される。

『さあ、今日も1枚ずつ脱いでよ』

『先生……それ……。また撮るん……ですか?』

『うん。この前もよく撮れてたよ。もしかしたらカメラマンの才能があるかもね、僕』

『……おねがいします。撮らないで…』

『え~ヤダよ。なんかね、すっごいドキドキするんだよ、これ』

『……もうイヤ……です』

『しょうがないな、じゃ貼っちゃうよ? この前の写真。顔が写ってないからヒヤヒヤだね』

『……駄目です……そんなの』

『じゃあ脱ぎなよ。ぐずぐずしないでさ』

 最低だ……とことん。この教授……あの1回では飽きたらず、今度は女の子のアパートに上がり込んで関係を強要している。
 どうなるんだろう。この先……。

『う~ん……いいねいいね、その儚げな表情』

『おねがいします。顔は……顔は撮らないでください』

『大丈夫だよ。僕だけの宝物にするんだから』

 腐ってる……。部屋の中であられもない姿を撮られているであろう女の子の境遇に、真琴は自分を重ねる。
 カレン運営はみんなの恥ずかしい姿、知られたくない秘密を握ってる…。そしてそれを後ろ楯にこの愛憎劇の傍観をみんなに強いている。
 ちくしょう……。似たようなもんじゃないか。逆らえない。

 この醜いストーリーは嫌悪と共に、自分が置かれている立場を再認識させる。
 真琴は9月28日の午後8時…携帯画面に踊った自分の恥態……その姿を思い出し、呼吸を速くした。



『うっく……うっ……うう。もう……これでゆるして……ください』

 これはいったい何回目なんだろう……。最後まで行為を終えたあと、女の子は教授に懇願する。
 だが、教授に情けはないようだ。

『まあ、ここを使い続けるのもヤバいよね。ホテルもカネがかかるしな。あ、そうだ。僕がマンション借りとくよ。今度からそこでしよう』

『もう……もうゆるして……』

『そうだ、防音がしっかりしたマンション借りよう。今度からは遠慮なく声出していいよ。聞かせてよ。いい声』

『うっ……ううぅ……ううぅ』

『そんなに泣くなよ。気分悪いな。貼っちゃうよ? しかも留年』

『ううっうっ……ごめ、ごめんな……さい』

『でもさ、キミってほんと気持ちいいよね。もう病みつきだよ。じゃあまた連絡するからね』

 教授がアパートから出てきて画面の外に消えたが「まこと」はまだ動かない。
 ドアの向こうで、ひとり残された女の子の嗚咽がしばらく続いた。最悪の余韻だ。

 ようやく動くようになったので女の子の部屋を訪ねようとするが、何度試しても

『うっ……うう。もういや……もういやあぁ……』

 と、女の子の慟哭が返ってくるだけだった。
 この一幕はここまで……。そういうことか。

「……島田くん。アパートの次は?」

「教授が借りたっていうマンション。西の端にある」

「分かった。行ってみる」

 真琴はチームつるぺたを西に向かわせる。
 移動の途中に理沙のシナリオの状況を尋ねてみた。

「こっち? こっちは女が教授におカネをせびり始めたよ。教授、借金させられてる」

 本当に胸の悪い物語だ。私と島田くんが見ているシナリオも、そして理沙のシナリオも、いい結末が想像できない。
 この先の展開に思いを馳せて憂鬱になりながら、真琴はそれらしきマンションの前に着いた。
 その一室の前に女の子がいる。真琴は歩み寄った。

『……先生……わたしです』

『ああやっと来た。遅いよ。お仕置きだよ』

 教授が女の子を招き入れる。お仕置き……。今度はどんなひどい目に遭うんだろう。

『イヤッ! そんなのイヤッ。やだやだやだやだあぁ』

『あ、なにその変態を見るような目。もう許さないよ』

『ううう……いやあぁ……やだあぁ』

 うう……くそう。どうにかならないのかこのゲーム。
 こんな……こんなゲームなら、やらなくてもいいんじゃないか?
 そもそも業で困ってるわけじゃないんだ。やめても支障ないんじゃないのか?
……私たちに限っては。

 そんなことを考えながら流れるセリフを眺めていると、画面の端から黒服姿の男のキャラが4人やって来てドアの前で止まる。

『佐藤さ~ん。お届けものです~』

 ドアが開いて教授が姿をみせる。……この人たちは、もしかして警察か?
 真琴はこの黒服の男たちが刑事で、教授を捕まえて女の子を助け出す展開を期待した。

『ったく、こんな時間に……って誰? アンタたち』

『先生……警察とヤクザ、どっちがいい?』

『………警察』

『あ~ざんね~ん。ヤクザで~す。先生ひとりでイイことしてズルいなぁ。仲間に入れてよ』

『……いや、それは……。ウグッ!』

『断れるわけねえだろ。一緒にヤろうぜ。おもいっきり』

 そう言って男たちは教授を引きずりながら部屋に入っていった。

『……なに? ウソでしょ。イヤ……イヤ……助けて』

『そう言うなよ。ほら、いいものいっぱい持ってきてやったぞ』

『や……ぃやあああっ! ゃああああっ! うぐっ。んんっ! んん……んんんんっ!』

『はは、こりゃすげえ。見てみろよ、キレイなもんだ』

『んんーっ! んんーっ!』

『暴れんなよ……この。……おい、ガムテープ』

『! んん……んんんっ!』

 なにが起こっているのか、もはや想像できない。
 でも、事態は最悪の方向にまっすぐ進んでいる。
 本当に自分がこの場にいるなら通報できるのに。

 真琴は唇を噛み締めながらセリフを追った。
 言葉にできないような凄惨な状況が続く。
 このままじゃ、あの子……死んじゃう。
 真琴の目に再び涙が溢れる。

 やがて男たちは「もう飽きた」と言わんばかりの態度をとったあとで部屋を出てきた。
 最後尾の男がドアの前で部屋の中に向かって言う。

『センセ、あとはよろしく。あ、くれぐれも警察には言わないでね。センセーの恥ずかしい姿もバッチリ押さえたから。また連絡するね』

 ……男たちが消えた。

 真琴は「まこと」をドアの前に立たせ、心の準備をしてからボタンを押す。
 しかし、教授も女の子も出てくることはなく、なんの反応もなかった。

 真琴は島田に尋ねる。

「次……は、どこ? 島田くん」

「……理学部」

「……わかった」

「……古川、無理すんな。ちょっと休めよ」

「いや、いいよ。ありがと」

「うわああっ! やり過ぎやり過ぎ!」

 突然叫んだのは理沙だ。真琴はビクッとした。

「……なによいきなり。やめてよ理沙」

「ヤバいヤバいヤバい。あああダメだ」

 ……どうやら理沙の方もひどいシナリオが進行中らしい。
 どんな展開なんだろう。

「理沙、どうなってんの? ……そっちは」

「え? 借金が返せなくなったらヤクザが出てきて二人ともやられた」

「……やられたって……なによ」

「聞くな古川。似たようなもんだ」

「そっか……」

「清川も、そのシーンが終わったら理学部な」

「理学部の……どこよ」

「……行けば分かる」

 チームつるぺたは理学部に向かう。
 ああもう、めんどくさいな……敵。
 真琴は頻繁に出現しては場違いな問題を出す敵に激しい苛立ちを覚えた。

 やがて理学部が見えてくると、そこには人垣ができていた。やけに可愛らしいパトカーも停まっている。
 なんだ? なにがあったんだ?

 その場にいるたくさんのキャラのひとりに話しかけてみる。

『なんか、屋上から飛び降りたらしいよ』

 飛び降り……。自殺ということか?
 どっちだ? 教授か……それとも……

 真琴は人だかりを掻き分けて前に進む。
 現実であれば近寄ることなどできないだろうが、警察官と思しきキャラも「まこと」を制止しない。

「あ……」

 建物の前、地面に倒れていたのは教授だった。血溜まりができている。
 血溜まりのせいで近付けないので、真琴はすぐそばの警察官のキャラに話しかけた。

『かわいそうに、なんか悩みがあったんだろうな』

 警察官のセリフも、これが自殺であることを示している。
 ……飛び降りたんだ。教授は。

 ……あれからどんなことがあったんだろう。このシナリオで教授は悪人だったが、それでもあの……ヤクザが入り込んだ時点で警察に駆け込むべきだったろう。
 発端に責がある教授は、最後まで警察に言えなかったんだ。それで追い詰められた。

 そのとき、画面の上からヒラヒラと白い紙切れが現れて「まこと」の前に落ちた。真琴はそれを調べる。

   もうつかれました
      ごめんなさい

 これは遺書……か。これだけじゃ経緯は判らない。
 詳しくは書けなかったということか……。

 あの女の子はどうなったんだろう。無事だといいけど……。

 真琴がそんなことを考えていると、「まこと」の前の白い紙……遺書が白い玉に変わり、〝ピコーン〟という効果音と共に「まこと」に重なった。

 次に画面は空……星々が消えて光の玉だけになった夜空を映す。そして地面を照らす光が少し太くなった。

 画面は地上に戻る。そこにはもう教授の亡骸も警察官のキャラも、そして人だかりも消え失せていて、チームつるぺたの3人が理学部の建物の前にいるだけだった。

「これで……ステージ……クリア?」

 真琴は誰にともなく口にする。島田がそれに答える。

「教授が死んだなら……そうだ」

「最悪じゃん……こんなの。あの女の子はどうなったの?」

「分からない」

「分からないの?」

「うん。もしかしたらゲームの中で後日談みたいなのがあるかもしれないけど、まだ誰も見つけてない」

「そう……なんだ」

「ああっ! 教授が死んでるっ!」

「え……理沙も……教授が死んだの?」

「うん。飛び降りた」

「なにそれ。ウチらと一緒じゃん」

「そうなんだよ。シナリオは別でも結末は同じなんだ。少なくともこのステージは」

「女の子がどうなったのかも分かんないなら……後味も最悪だね。これ」

「古川、あのな」

「ん、なに?」

「これ……実話なんだ」

「…………え?」

「あ、いや、実話じゃないのか。え……と、そう、事実なんだ。教授の飛び降り自殺は」

「……どういうこと?」

「昨日のうちにこのステージをクリアした人が調べたんだ。20年くらい前に理学部の教授が飛び降りた事実がある」

「え? それじゃ……女の子のことも?」

「それは分かんないんだ。昔のことだし、もう記録もないだろうしな」

「自殺の理由……分かんないんだ……」

「掲示板の書き込みによれば当時の新聞記事を見つけたみたいだけど、自殺の背景までは書かれてない小さな記事だったみたいだ」

「これでステージクリアなら……また次のステージで嫌な話を読まされるんだね」

「……そうだな」

 飛び降りの現場にいた警察官も「なにか悩みがあったんだろうな」程度の認識だった。
 もしかしたらこれ、当時から真相が分かっていないのかもしれない。

「……古川」

「ん?」

「ひとりの教授が昔、理学部の屋上から飛び降りた。これは事実みたいだけど、俺たちが読んだシナリオが事実かどうかは怪しい。まあ、自殺するだけの理由があったのは間違いないんだろうけど」

「シナリオの部分はフィクションかもしれないってことだね?」

「うん。シナリオが2つあった以上、少なくとも片方は嘘だろ。俺は……どっちも空想の産物だと思う」

「真相は闇なのね。でも女の子が気になるね」

「気になるなら現実で真実を調べろ……。運営はそう言いたいんじゃないか? とにかくステージはクリア……。ゲームは進むんだ」

「……もともと呪われてた、か」

「ん? なんだ? それ」

「ゲームの初めに魔女みたいなキャラが言ってたセリフ」

「ああ、あったな。まあ、大学にまつわるこういう暗い過去を知らずに呑気に遊んでる俺たちに何か考えさせようとしてるのかもな」

「ああっ! 貯まってる!」

 理沙が大声をあげた。
 貯まってるって……まさか……。真琴はステータスを見た。

  つるぺた まこと
  ¥:32600円
  ☆:238
  ○:①

 3万円を超えてる……。しまった…消火器を買わない理由がない。
 理沙が嬉しそうに言う。

「ま、かなり気分の悪い話だったけどさ、とにかくこれで消火器買えるね」

「そう……だね」

「清川、買わなくていいみたいだぞ、消火器」

「え?」

「今、掲示板見てたんだ。次の法学部ステージの情報集めに」

「で?」

「落ちてるんだよ」

「は?」

「理学部の部屋のひとつに落ちてるんだ……消火器が。誰かが見つけて書き込んでる」

「……マジ?」

「ああマジだ。えっと……理学部の3階、奥から4番目の部屋だ」

「分かった、行ってみる」

 真琴は島田の方を見るが、島田は無表情……思考は読み取れない。
 真琴は一旦カレコレを閉じ、カレン掲示板をタップして「カレコレ攻略情報」の板を開く。

 ……あった。ホントだ。


433)10/02/20:36
 拾ったぞ。消火器

434)10/02/20:39
 え? どこで?

435)10/02/20:40
 理学部の3階、4番目の部屋だよ

436)10/02/20:41
 マジか行ってみる

437)10/02/20:46
 うおおおっ! マジだ! すげえ!

438)10/02/20:47
 こマ?

439)10/02/20:47
 まだ買ってない俺たち大勝利

440)10/02/20:52
 マジで落ちてた!
 火、消えた!


 これは……。ギリギリのところで理想の展開になった……のか?
 まさか島田くんが書き込んだのか? この、最初の発見の報を。

「うほぅ! いえい! ホントにあった。よ~し、今から使うよ~。えいっ!」

「……どうなった? 理沙」

「ぐふふ……消えた。消えたよ真琴」

 真琴は再度カレンコレクションを立ち上げてチームつるぺたの真ん中……「りさ」の頭の上を見る。
ホントだ、消えてる……。

「じゃ……次のステージに行かなきゃ……だね」

 真琴が重い口調で言うと、島田が制した。

「まあ待てよ古川。あんまり根詰めるとヤバいぞ、このゲーム。一息いれろよ。……火も消えたんだし」

「……うん、そうだね。あ、そうだ、お腹空いてない? カップ麺の買い置きがあるんだ」

「お、いいね」

「イイね!」

 真琴は電気ケトルに水を注ぎ始める。
 その時、3人の携帯電話が相次いで、聞き覚えのある不協和音を奏でた。真琴は振り返る。

「……今のなに? 地震?」

 携帯を操りながら島田が答える。

「ええと……アンケートだ。強制の」

「アンケートって、カレンで?」

「そうだ。必ず答えろってよ」

「……なに……を、聞いてきたの?」

「……自分で見てくれ」


 真琴は電気ケトルをセットしてからちゃぶ台に戻り、自分の携帯でカレンを見る。「みなさんへのお知らせ」に新着がある。タイトルは「アンケートの実施について」だ。


〝カレンユーザのみなさんにアンケートです。本アンケートは回答必須なので、必ず期限までに回答してください。回答期限は10月3日18:00です。〟

【あなたの初めての性体験(セックス)はいつですか】

 □14歳未満
 □14歳
 □15歳
 □16歳
 □17歳
 □18歳
 □19歳
 □20歳
 □21歳
 □22歳以上
 □経験なし

【初めての性体験(セックス)の相手は誰ですか】

 □同級生
 □下級生
 □学校(大学含む)の先輩
 □その他年上の異性
 □その他
 □経験なし


「なによこれ……。こんなこと聞いてどうすんのよ」

「や~ん。恥ずかし~い」

「古川……これ、運営からのアンケートか?」

「うん。……あ、そうか。ええと……分かんないね」

「なに? 運営じゃないかもしんないの?」

「うん。徳が230を超えると、カレンでアンケートを立ち上げられるんだよ、理沙」

「真琴も……できんの?」

「うん。できる」

「じゃ、これ、悪趣味な学生が立ち上げたアンケートかもしれないんだ」

「そうなるね。うん。私はこれ、学生だと思う。運営はわざわざこんなこと聞かない気がするし」

「聞いてどうすんのよ」

「知らないよ、そんなこと」

「いやこれ……けっこう得難いデータだぞ」

「え?」

「回答は必須……。カレンを介してるからあんまり嘘はつかないだろ? このアンケートの結果を性別、学部別、学年別……いろいろ分析すれば下手な卒論より価値がある」

「……卒論のため?」

「それは分かんないな。でも、いちおう名門で通ってる国立大学の学生、その性の実態……。うん、やっぱり貴重なデータになるよ。正直なデータが手に入りにくい類いだろうし」

「なおっち、でもこれさ、ウソついてもいいんじゃないの?」

「清川、カレンはリニューアル前、俺たちのメッセージを全部把握してたんだぞ。ウソついてもいいけど、バレるリスクはゼロじゃない」

「あ、そうか」

「ウソついて変に不安を抱えるより、正直に答えた方がいい……。みんなそう考えると思うぞ俺は。ウソをつくにしても今までのメッセージを見られてもバレない範囲で、だ」

「ん……わかった」

 お湯が沸いたので3人でジャンケンし、好きなものを選んでお湯を注ぐ。
 待っているあいだ、理沙が携帯を弄り続けていたので真琴は島田に話しかける。

「島田くん、次はどんな話なの?」

「う~ん……。ビミョーだな。気分の悪い話ではあるけど、最初の話よりは惨くないかな。ま、掲示板を見たカンジではね」

「今、なに考えてんだろね。……運営は」

「さぞかし良い気分なんじゃねえの? 言い返せない人間相手に説教垂れて」

「……説教?」

「ああ、要は説教だろ、これ。敵に問題を出させて知識を試して、不幸な物語を読ませて軽率な行動を戒めてる」

「じゃ、運営の正体は……何?」

「大学に恨み、いや……歪んだ執着みたいなもんを持ってるヤツなんだろな。なんか単純じゃない気がするけど」

「やっぱり大学の関係者なのかな」

「う~ん……。まだ絞れないな。少なくともコンピュータの知識はあるよな、かなり。そしてカネもかかってる。子供にできることじゃない」

「つまり、学生ではない?」

「いや…子供ではない、としか言えないな。ほら、たとえば留年を重ねて大学7年目とかいう人とかはもう子供ではないし、存在も目立たない」

「ああ、なるほど。それなら大学に歪んだ感情もありそうだね、なにかしらの」

「でも、教授とか職員とかの線も強いよな。手際が良すぎるし、情報も持ってそうだ。なんか秘密組織みたいなのがあんじゃねえの?」

「それで目的が……説教? ……なんかおかしくない?」

「堂々とできない説教なんだろ。あ、ちょっとテキトー過ぎるよな、これじゃ。それじゃ……報復、かな」

「報復……か。それもあり得るよね、たしかに」

「それにしちゃ回りくどいよな、やり方が」

「ぷは~美味かった。真琴、ごちそうさん」

「ああ、うん」

「じゃ私、帰るね」

「え? ……なに言ってんの理沙。まだほら、2時間以上あるじゃん」

「ん? うん……。でもまあ、火も消えたんだし、今日はもう帰って一人でボチボチやるよ」

「……本気なの?」

「私だっていつまでもいるほど野暮じゃないよ。あとはアツアツの二人でやらしくやってよ」

「理沙……」

「なんかあったら連絡するからさ……ね?」

「……分かった」

 理沙は私たちに気を使ってるのか……。
 なんだか理沙らしくないし、そんなことしなくてもいいのに。
 理沙はそそくさと帰ろうとしている。

 理沙が玄関に向かった時、ちゃぶ台から島田が声をかける。

「清川」

「ん~?」

「お前がつくったチームなんだ。……疑うなよ、俺たちを」

 理沙は振り返って、確かめるように島田の顔を見た。

「なおっち……。うん、それは解ってる。しばらくは他人の言うこと無視するよ」

「解ってるならいいんだ。じゃ、またな」

「うん、バイバ~イ。じゃあね真琴」

「え、う……うん」

 理沙は帰ってしまった…。
 なんだ? 今の意味深げなやりとりは。


 真琴はちゃぶ台に戻り、携帯画面を見つめる島田に問う。

「島田くん。何? 今の」

 島田が手を止めて顔を上げる。

「ん? なんのこと?」

「疑うなよって……。今……理沙に」

「……ああ、あれね。……清川は解ったみたいだぞ」

「そうだね。でも私は解ってないよ」

「そっか……。古川」

「なに?」

「1年狩りのこと、知ってるだろ?」

「……うん」

「あれな……収まるどころか、どんどんエゲツなくなりそうなんだ」

「え? そうなの?」

「うん。古川も覚悟した方がいい。俺や清川の悪口を吹き込んでチームを壊しにくるヤツが出てくる」

「なにそれマジで言ってんの?」

「マジマジ、大真面目だよ。追い詰められた3年のチームから見たら、俺たちのチームは恵まれすぎてる」

「……たしかに……そうかもね」

「で、俺たちは実感ないけど、業を減らさなきゃなんない人たちは必死だ。……それこそ文字どおり」

「……手段は選ばないってことだね」

「そう。だからしばらくの間は、俺や清川のことをわざわざ古川に聞かせてくるヤツがいたら、絶対に信じちゃダメだ。耳を貸してチームを疑ったらもう……それは思うつぼ、だ」

「ヤな感じだね。なんか」

「でもしょうがない。俺たちみたいに余裕ぶっこいたチーム組んでるだけで人でなし扱いしてくるぞ、たぶん」

「……分かった。気をつける」

 なるほど、そうなるのか……。「こんなに困ってるのに助けてくれないんだね」みたいなことを言われだすんだな。
……これからしばらく。

 たしかにそういう機微に敏感なのは私よりも理沙だ。
 私、頭の中が平和だったんだろうな。今まで……。

 真琴は食べ終えたカップ麺の容器を小さく潰してゴミ箱に捨てる。……グシャッ。その音が真琴の心にさざ波を立てたが、それが飛び降りた教授を連想したからか、それともボロボロにされた女の子への感傷なのか、あるいはその両方なのかは真琴自身にも判らなかった。
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