ファウスト−FAUST-

藤田吾郎

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第4話 精霊の長老 -我ラノ理想-

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「もぉ~遅いよ!大翔!」

「おい、何なら自分の荷物を俺に持たせないで自分で持てよ。」

「え~だって重いんだもん!」

「お前ね……」

「もぉ~早く~!」


今、俺と優菜が馬鹿みたいに長い上り坂を歩いている。

優菜は荷物が重いからと俺に荷物を持たせて優菜は手ぶらでどんどん俺を置いて上り坂を登って行く。

俺達が向かう目的地はと言うと、なんと温泉宿だ。店はと言うとオジサンとオバサンに任せている。

自分が言うのもアレだけど仕事に真面目な俺が何で泊まりがけで温泉旅行に行くと言うと、まぁ其処は回想シーンにいってみた方が早いな。





~回想シーン~

俺はいつもの様に店の手伝いをしていて、ちょうどランチタイムの時間も過ぎて客足が全く無いのでオジサンとオバサンの計らいで少し休憩しながらオジサンの淹れてくれたコーヒーを飲みながら一休みしていた。


そこで学校が終わり走って帰ってきた優菜が店のドアを勢いよく開けてきた。
優菜の息は荒く何か大変な様子だ。

「た、ただいま。ハァハァ……」

「おぉ、おかえり優菜。どうしたんだ?息なんか切らして。」

「あら~おかえりなさいってどうしたのぉ?」

「何か起きたのかい?」

優菜は暫く息を切らしていたが時間が経つにつれて息が整ったのか話を始めた。

「当たったの……」

「はい?一体どぉ言う事だ?」

俺は訳が解らず言い返した。
優菜は少し頬を膨らませながら再度言った。

「だから当たったの!コレ!見てよ!」

俺の顔に自慢気に優菜が見せたのは宿泊ご飯付きの温泉の旅行券だ。

「どうしたんだよコレ?」

「何か学校から帰る時に友達が福引き券をもらって帰る途中に何となくで福引きやったら当たったのよ!」

えっへんと自慢気に言う優菜。俺はどれどれと見てみると俺はあることに気付いた。

「優菜。これ二人一組だぜ。」

俺は優菜に旅行券を見せた所、優菜は驚いた。

「本当だ!どうしよ!」

オバサンは何か思い付いたのか俺と優菜の間に入ってくる。

「どれどれ優菜。見せてみなさい。」

優菜は温泉旅行券をオバサンに見せて暫くしてオバサンは何か思い付いたのか黒い笑みを浮かべてこう言った。

「折角なんだし~ひろ君と優菜で温泉旅行に行ってきなさい。」

「えっ!良いの?お母さん?!」

「えぇ。ひろ君と行ってきなさい。」

「ありがとー!お母さん!」

と無邪気に喜ぶ優菜だが、俺はと言うと正直、素直に喜べない。

「えっ、ちょ、ちょっとオバサン俺には店の手伝いが……」

そう言い掛けた所でオバサンはニッコリ笑いながら。

「行ってきなさい。」

今のオバサンは顔は笑ってるけど明らかな俺に対する殺意がある。つーか後ろから般若の怖い顔が……

「わ、わかりました。行ってきます。」

俺はオバサンに説得、いや脅迫により優菜との温泉旅行を行かざる負えなくなった。

最後にオバサンはオジサンに聞く。

「ねぇ、貴方もひろ君と優菜の温泉旅行に行かせても良いわよね?」

「勿論だとも。二人とも若いんだ。若い内に遊んできなさい。」

オジサンも了解したので抵抗するだけ無駄だと思い、渋々だが温泉旅行に行く事に決まる。そして、最後に温泉旅行券には小さぐ子宝に恵まれる宿゙と書いてある事も知らなかった。

それを知ってオバサンが行かせたのも知るよしもなかった。



ってな感じな回想シーンだ。わかってくれたか?

電車で乗ること1時間。最寄りの駅から更に歩いて30分とやっとの思いで着いた温泉宿。宿の外装は結構な歴史を思わさせる古風な感じな旅館だ。

そして、俺は宿の扉を開き居間には女将さんらしき人がお出迎えをしてくれる。

「ようこそ遠路はるばるとお越し頂き有難うございます。予約して頂いた、飯島大翔様に高橋優菜様ですね?」

「「あっ、はい。」」

「どうぞ。こちらへ御上がり下さい。今夜泊まる部屋へと御案内を致します。」

俺と優菜は靴へ脱ぎ結構、若い女将さんに案内された部屋へと向かう。部屋に辿り着き、女将さんが襖を開けるとそれはそれは二人では広すぎる広い部屋だった。

俺は部屋を見渡すとあることに気付く。

「あの~……女将さん。布団が1つしかないんだけど……?」

女将さんはニッコリ笑って

「えぇ。この宿は古くから、お泊まりになった若い男女に子宝に恵まれるっていう言い伝えがあります。不妊に悩んでいた夫婦がこの宿に泊まり子供を授かったとの言伝てが今でもあります。」

イヤ、イヤ、イヤ~……おかしいだろ……
えっ何?俺達カップルに見えた?

「へぇ~そうなんですか!凄いね、大翔!」

イヤ明らかにおかしいだろ優菜……ってか、すんなり納得するなよ!何?このデジャブ……何?このラブコメ展開……そんな事させねぇよ!

例え神様、仏様、作者が許しても俺が許さねぇよ!

そう思っている内に女将さんが俺に近づき耳元で呟いた。

「旦那さん。今日は奥さんと何発でもイケる様に精のつく夕食を作りますので……」

「イヤ!おかしいだろ!つーか俺は旦那でもなければ彼氏でもありません。ただの友達です!」

「ちっ!折角こっちが子作り出来る環境を作って後は勝手にヤって子供が出来れば、うちの株が出来るのに……」

「何、とんでもねぇ事を言ってんだよ!」

「今まで、代々そうしてきたんだよ。」

どんだけドス黒い伝統の守りかたなんだよ!

更に女将さんは続けて言った。

「なんなら今日カップルになりましょう。」

「イヤ!何でだよ!」

「まぁ私が簡単に女の子をイチコロに落ちる告白の内容があります。」

何か企んだようなゲスな笑みを見せた女将さん。

明らかに嫌な予感しかしないだけどさ。

「ねぇ、今日は疲れてカチカチに固くなってるからマッサージしてくんない?特に俺の竿の方が……」

「下ネタじゃねぇかよ!!」

「えぇ~普通にいけると思ったのに……」

「んな訳あるかあぁー!」

「んじゃ~次はっと……今日の料理は美味しかったな。しかも今、飲んでる、お茶も上品だ。ほら茶柱も勃ってるよ……」

「゙も゙って何だよ!しかも漢字も違うし!」

「もう、我が儘だね~」

「もっとマシな事を言え!」

「ほら星が綺麗だね。でも君の下半身に着いてる一番星が……」

「言わせねぇよ!」

「全部、下ネタだろうがああぁぁ!!どんだけ卑猥な告白の仕方だろオカシイだろ!全部とあるお笑い芸人のネタだろ!パクってんじゃねぇよ!」

「いちいち文句の多い人ですね。男は黙って一発ヤれ!」

「明らかに狙ってるよな?狙ってるでしょ?またお笑い芸人のネタだろ!」

「ハンセイシテマース。」

「今度は何年か前のオリンピック選手かコノヤロォー!」

そんな風に女将さんと漫才していると暫くした後。

「では、ごゆっくりと……」

襖を締めなが静かに出ていった。俺と優菜は旅の疲れを汗と一緒に流す為に温泉へと向かい男湯と女湯に別れた。

俺は間違えがないか男湯と女湯をもう一度確かめた。間違って女湯に入れば俺は速攻で御用となり言い訳も出来ないままブタ箱に入るだろう。

服をルパン顔負けのキャストオフ。脱衣場を開け、先ずは頭を洗い、そして、身体を洗いタオルを頭に乗せて静かに湯船に浸かった。温泉というのは結構、癒されるなと思い窓から外が見え露天風呂も見えた。

俺は露天風呂にも入ってみたいと思い外に繋がるドアを開けてみると外の景色は森林で囲まれていて目の保養になりそうなくらい山だった。

そして、陽も沈んできて所々に星も見えてきた。星を眺めてみると人の気配がした。ゆっくり人の気配のを向いてみるとそこには何故か優菜がいた。俺はビックリして大声を出してしまう。

「えっ!何で優菜がっ!」

「大翔こそ何で?!」

「え~……だって俺は確かに男湯って書いてある所から入ったんだけど……」

「わっ私も女湯って書いてある所から……」

お互いにビックリしていて気付かなかったが我に帰ると優菜は素っ裸だった。

「あっ!わ、わっ悪りぃ!優菜!」

俺はすぐにソッポ向き、それに気付いた優菜。

「あっ、ゴメン!大翔!」

優菜もソッポ向き、俺と優菜は今、背中合わせの状態だ。気まずいせいか沈黙が続いた。正直、何を言って良いのか分からず、ずっとお互いに黙ったままだ。

その沈黙を破ってくれたのが優菜だった。

「ここって混浴だったんだね……」

「そうみたいだな…」

俺の馬鹿。また沈黙の雰囲気じゃないか。

お互いにずっと黙ったまま。露天風呂から眺められる景色は綺麗で山の方に来たためか都会よりも星がはっきりと見える。

また月明かりに照らされて森林も少し妖しくボンヤリとするが、その妖しさに吸い込まれるみたいだな。

ボンヤリとしていると冷たい風が吹く。もう10月だ。さすがに夜になると冷え込んでくる。

俺がファウストとして戦い始めて1ヶ月弱。まだまだ数体しかべリアルを倒していない。全ては優梨が殺されたあの日から……

優梨は今、俺のやっている復讐という名の正義で、たとえ人間だろとべリアルだろうと今、俺のやっている事は殺しだ。

憎しみの正義を振りかざして戦い、そして殺す。何処かで聞いた事ある言葉゙憎しみは憎しみしか生まれない゙ってな。

果たして優梨は今やっている事を許してももらえるのか?


「ひ、大翔!」

いきなり優菜が呼ぶからビックリしたぜ。

「ん~何だ?」

「あのさ……」

「どうしたんだ?」

「なんか大翔とこうやって二人っきりでいるのって久しぶりだよね?」

「まぁ、確かにな。」

言われてみれば、ここ最近は出掛けたりするけど二人っきりは久しぶりかもしれない。

「そ、それでさ。」

「なんだ?」

「お姉ちゃんの事なんだけど……」

「……」

少し胸が痛んだ。ついさっきまで優梨の事を考えてたのもあるけど優菜の口から久しぶりに優梨の名前が出てきた。

「ご、ゴメンね!変な事聞いて。」

「イヤ、大丈夫だ。優梨がどうかした?」

「あの日の事なんだけど……」

優菜の言うあの日は恐らく優梨がべリアルに殺された時か……

「悪い……本当に暗くて何も覚えていないんだ……」

-違う……本当は知っている-

「ゴメン……私……」

-謝るのは俺の方だ-

「悪い……俺が情けないばかりに……」

-心の底から情けない……-

「ううん……大翔は悪くないよ……」

-俺が弱いばっかりに優梨を失った……-

「ゴメンね。私より大翔が一番辛いのに……」

-そんな事ない優菜も俺よりも辛いに決まってる-

「俺が悪いんだ……」

-だから決めたんだ……-

「自分ばっかり責めちゃダメだよ……」

-たとえ憎しみで殺そうと復讐の正義だろうと-

「……」

-自分の手が汚れようと自分が間違ってようとべリアルが許せない-

「大翔……目が怖いよ?」

優菜の言葉にふと気付いた。そんなに怖い目をしていたのか?知らず知らずに心の闇に呑まれそうになっていたのか?

優菜も少し恐がっているな……優菜に心配掛けないために少し誤魔化そうか……

「あ、少し逆上せてきたかも。ちょっと先に出るわ。」

「う、うん。わかった大丈夫?」

「大丈夫。」

まだ心配そうな顔をしているけど俺は精一杯の作り笑いで温泉から出た。身体を拭いて用意されていた浴衣に着替え部屋に戻った。

部屋に戻り部屋の窓を開けた。窓からくる冷たい風は今は気持ち良い。星も綺麗なもんだから見とれてしまった。

少ししてから部屋の襖を開ける音が聞こえた。そこには風呂上がりの優菜が出てきた。優菜も俺と同じ浴衣の姿にタオルを肩に掛けている。

顔も火照っていて髪も少し濡れていた。
な、なんか優菜が色っぽくく見える。イヤ、正確にはエロく見えるだろうか……

「はあ、良いお湯だった。」

「そうか。そういや腹も減ってきたな。」

「あ~言われてみれば私も!」

そう言った後に襖の向こうから声が聞こえた。

「失礼します。夕食をお持ちしました。」

女将さんが夕食を持ってきた。御膳をみると海鮮の刺身やら山菜の天婦羅やら蟹の味噌汁やら豪華な食材ばかりだ。

女将さんが運び終わった後、優菜は早速、食べ始めた。俺も最初は刺身を少し醤油に食べ始めてみるとこれが美味い。次は蟹の味噌汁を一口、これも出汁がよくきいて美味い。

優菜なんか山菜の天婦羅を口にほうばって食べている。かなり俺も山菜の天婦羅を食べてみるとかなり美味い。

ここの旅館は飯も美味いし景色も良いし温泉も良いが混浴ってところが少しアレだが、まぁ良い所だ。

薄暗くて冷たい場所……

石畳に周りにはまるでローマ神話に出てくる様な石像が多々並んでいる。まるでその石像は俺を威嚇している様にも見える。

確か俺は優菜と温泉旅行に行っているはずだった。何故だ?これは今のこの状況は夢なのか?それとも現実?さっぱり解らない……

ここは何処だ?訳が解らない……

何か人の声が聞こえる。行ってみよう。ここが何処なのかも解るかもしれない……

でも、なんだか嫌な予感がする。凄く、凄く嫌な予感がする。まるで心臓が誰かに鷲掴みされて胸が絞まる感じみたいだ。

声が近づくに連れて、どんどん強く胸が締め付けられる。声が聞こえる。聞いた事ある声だ。

急がないと……嫌な予感が当たらなきゃ良いが……

「えっ……優菜?」

「助け……て……大翔……」

優菜がほぼ半裸で十字架に貼り付けられている。誰の仕業か知らないけど早く助けないと!

急いで優菜の元へ行くと1人の怪物が俺の元へ立ちはだかった。

「コノ娘ヲ助ケタクバ俺ヲ倒セ。仮面ノ戦士……」

「ふざけんなぁ!」

俺は怒声をべリアルに浴びせ両手にファウストグローブを嵌めて両手を腹部に当てるように構えファウストバックルを出現させ、俺はズボンのポケットからファウストフォンを開き、CLEARボタンを押し、さらにENTERボタンを押した。

【Standby OK Master】

ダビデの機械音が鳴る。

「変身!」

掛け声と同時にファウストフォンをファウストバックルに入れて

【Wake Up Change】

ダビデの機械音と同時に白いボディーに赤い複眼、そして2本の強靭の角を生やしたファウストに変身した。


「はああぁぁー!」

俺はべリアルの胸元にパンチを入れたが全く効いていない。次は蹴りを入れてみても微動だにしない。

「弱過ギル……仮面ノ戦士。」

直後にべリアルからのパンチが飛んできた。避けきれず諸に喰らってしまった。
ファウストに変身していてもかなりのダメージ……

身体を起こし両手の掌を合わせ地面に両手を着きしゃがみながら、地面を着き、何かを出す様なイメージで手を挙げた。地面から銀色の槍を出す。

俺はべリアルに向けて槍を振り回したが、余裕な感じで槍を片手で受け止められてしまい、そして、槍を掴み軽々と持ち上げ思いっきり逆に振り回され地面に叩きつけられる。

「ぐうっ……」

「モウ終ワリカ?」

「ふ……ふざけんなあぁー!」

とべリアルの挑発に頭に血が上り急いで立ち上がり両手の掌を合わせ右足に添える様に触れる。

【Right Foot Clow】

ダビデの機械音と同時に右足に爪の様な物が出てきて更に続けてファウストフォンを開きCLEARボタンを押す。

【Right Foot Energy Charge】

ダビデの機械音と同時に右足にエネルギーが溜まり始めた。

右足のエネルギーが溜まったと同時に跳躍し、ENTERボタンを押す。

【Crusher Open…】

ダビデの機械音と同時にファウストの口元から牙が出てきた。

【…Assault Strike】

アサルトストライクを発動しエネルギーを溜めた右足をべリアルに飛び蹴りを喰らわそうとする。しかし、アサルト・ストライクさえべリアルは片手で受け止めやがる。

「な、何!」

「コンナ攻撃デハ俺ハ倒セナイ!」

今までアサルト・ストライクを喰らって倒せなかった事がないのに……

右足を持ち石像の方へと投げられた。石像に何体も破壊され奥にある壁に叩きつけられた。そして、今までのダメージが蓄積され、またさっきの壁に叩きつけられたダメージでファウストの変身が強制解除された。

「くっ……クソ。」

絶対絶命のピンチ……ファウストの変身は強制解除され敵はカスリ傷が1つもない。むしろ槍で回しながら余裕の様子。だがべリアルは俺の向かわず優菜の方へ……

優菜に何かする気だと思い立ち上がろうとするが立ち上がる事も出来ず、うつ伏せの状態で這うのがやっとだ……

べリアルは鼻唄を唄いながら優菜に近づく。

「てめぇ……優菜に……優菜に何を……する気だ……」

「マァ、貴様二絶望ヲ与エヨウトナ。」

何を企んでいるかすぐにわかったが思う様に身体が動いてくれない。

「ひろ……と……助……けて。まだ、まだ死にたくない……」

早く優菜を助けないと……

俺は優梨をべリアルに殺されて今度は優菜までも……頼むから動いてくれよ。俺の身体……もう俺の周りから大事な人を失いたくない……

俺はどうなっても良いから……二度と動かなくならなくても良い……優菜を……優菜を助けないとまた俺は…頼むから動いてくれ!


身体は既にボロボロ……
心も折れそう……

でも助けなくちゃ……
もう誰も失いたくない!

やっとの事で立ち上がった。だが立っているのがやっと……
優菜の所へ歩き出したが、足がフラフラでおぼつかない……

両手を腹部に当てるように構えファウストバックルをまた出現させた。ファウストフォンを開き、CLEARボタンを押し、さらにENTERボタンを押す。

【Standby OK Master】

ダビデの機械音が鳴ると同時に弱々しい音だ。だけど、そんなの俺には関係ない。

「変……身……」

掛け声と同時にファウストフォンをファウストバックルに入れてる。

【Wake Up Change】

ダビデの機械音と同時にファウストに変身。

「懲リナイ奴ダ。」

呆れた様に言われても関係ない……両手の掌を合わせて左の手首の甲を添える。

【Left Arm Blade】

ダビデの機械音と共に左の手首の甲から剣の刃の部分が出てきてべリアルに突き刺そうとする。

「オオォォー!!」

「遅イ……」

しかし、先にパンチを入れられてしまい倒れ込んだ。もう指一本すら動かせない……


「サァ絶望シロ仮面ノ戦士。絶望シタ後二貴様モ、コノ娘ト一緒ニ逝ク。」

ふざけんなよ……早く、早くまた動けよ俺の身体……自分で決めたんだろ!

もう、もう誰も失いたくない!って……
自分の心に……自分の魂に!

「ゆ……ゆな……」

べリアルは優菜に槍を向けた。そして、勢いよく槍が優菜近付いて……

「優菜ー!!……ハァハァハァハァ……」

えっ……?
ここは旅館?俺は目の前で優菜が……まぁ、考えない方がいいか。んじゃ、さっきの夢か?

悪質極まりない夢だな……でも夢にしても生々しい……何なんだ?あの夢は……?

クソ!どれが夢でどれが現実か解らない!混乱する……

まだ、午前の4時前か……普通に陽もさしてない。真っ暗だし二度寝するか?いや寝れそうにないな……

少し寒いな。明け方前っていうのがあるけど寝汗が凄い……そのまま起きてると風邪引きそうだな。俺が風邪引けばオジサンやオバサン、それに優菜にも迷惑掛けるから朝風呂でも入ろうか。


立ち上がり、温泉に向かう途中やはりあの夢を思い出す。

あのべリアルは他の連中と比べたら桁違いに強い。あれは予知夢って奴か?

もし、これから起こるのなら……いや俺はそんな事をさせない!たとえ運命だとしても運命を俺自身で変えてやるよ!

そう考え事をしていると脱衣場へ着き汗だくの浴衣を脱ぎ露天風呂の方へと行った。外に出ると当たり前だけどスッポンポンだから寒い。

急いで温泉に浸かる。そして、身体の芯まで温かさが伝わり、寒くて強張ってた全身の筋肉が緩む。暫く温泉に浸かっていると、うっすら陽射しが見えてきた。木々に囲まれている森林から少し茜色が見え始め徐々に空も青くなってきた。

夜の景色も良いが明け方の露天風呂の景色も最高。少し時間が経つと陽も上りきり、きりが良いと思い温泉に出ることにする。

陽が上ったと言えど明け方はまだ寒いので急いで脱衣場に行き今度は浴衣ではなく私服に着替え始めた。着替える途中に脱衣場の時計をみるとまだ5時半くらい。

朝食まで少し時間があるのでこの辺りを散策してみよう。着替え終わり旅館の出入口に向かう途中に女将さんと出会った。

「おはようございます。随分とお早いお目覚めで。」

「おはようございます。ちょっと目が覚めてしまって。」

「えぇ、そうですか。それより昨日はハッスル出来ましたか?」

「してません。」

「それは何故ですか?」

「何故もなにも、してないもんはしてないです。」

「はぁ、それでも男ですか?ヘタレ……」

「今、聞き捨てならない事を言ったなオイ!」

「折角、代々と伝わる媚薬を料理の中に入れたというのに。」

「入れたんか!?つーか入れんな!」

「それより此れから何処へ行くのでしょうか?」

「無視かい!まぁ、少しこの辺りを散策しようと。」

「あぁ。そうですか。」

「もし優菜が起きて俺を探しているようなら少し出掛けたと伝えて下さい。」

「かしこまりました。では彼女さんに起床時に出掛けたと、お伝えします。気を付けて。」

俺ば彼女゙という言葉に引っ掛かったが、そこはスルーして外に向かう事にする。


靴を履き行きの道で通った下り坂へ足を運ぶ。行く時は余り気にしていなかったせいか周りは古い商店街だ。まだ早いためか店は開いておらずシャッターが閉まっている。

帰りにお土産を買うときに寄ろうかなと考えていると、いきなり頭の中に耳鳴りみたいな音が響く。

「この感じは……」

「マスター。べリアルが出現しました。」

ダビデがズボンのポケットから出てきて言った。

あんな夢を見た後に…。仕方ない早く行こうと後ろを振り向くと目の前にべリアルが立っていた。

「べリアル……」

「初メマシテ。仮面ノ戦士。ワシノ名前ハ精霊族の長゙ノーム゙ダ。」

俺が軽くドスのきいた声を発しながらも淡々と自己紹介したノーム。俺はあの夢を見た後にべリアルが出たためか今は虫の居所が悪い。

ファウストグローブを嵌めて両手を腹部に当てるように構え、ファウストバックルを出現させて、ファウストフォンを開き、CLEARボタンを押し、さらにENTERボタンを押す。

【Standby OK Master】

ダビデの機械音が鳴る。

「俺は今、機嫌が悪いんでな!直ぐに片付けるぞ!変身!」

大翔が掛け声と同時にファウストフォンをファウストバックルに入れて

【Wake Up Change】

ダビデの機械音と同時にファウストに変身。

突進しながら右のストレートパンチをノームの顔面に喰らわそうとしたが、ノームの前に薄紫色のバリアが出現し右のストレートパンチはノームに届かない。

「何だよ!このバリアは?」

「わかりません。マスター。概ねノームの能力かと。」

「フフフ……」

ノームの不適な笑いをカチンときて両手の掌を合わせ地面に両手を着きしゃがみながら、地面を着き、何かを出す様なイメージで手を挙げた。

地面から銀色の槍が出てノームに向けて槍を突き刺そうとした。しかし、またもやノームはバリアを出現させ槍の攻撃も届かない。

「面倒な能力だな!」

「ドウシタ?ワシハ一歩モ動イテイナイゾ」

「んだと!」

ノームの挑発にムキになり今度は両手の掌を合わせ右足に添える様に触れた。

【Right Foot Clow】

ダビデの機械音と同時に右足に爪の様な物が出てきた。

槍と蹴りの合わせ技でノームに攻撃を試みたが槍を横薙に払うがノームは再びバリアで防御する。

槍を防がれるのは想定内で今度は錬金術と黒魔術を合わせたライト・フット・クロウの右足で蹴る事によりバリアを壊してノームにダメージを与える。しかし、ハイキックを入れてもバリアは破壊されず、むしろ弾き返された。

「コノヤロ。あのバリアが邪魔だな。」

「若造ガ確カニ攻撃ハ悪クナイガ、ワシノ障壁ハ破ラレンゾ。」

「マスター。何か弱点があるはずです。」

「わかってる!」

「マスター。」

「何だ!」

「今のマスターは、頭に血が上り過ぎて、いつも冷静にべリアルを戦うマスターじゃありません。」

「……」

「何か私の知らない所で事が起きたかも知れませんが冷静にならないと倒せる敵も倒せません。」

「……わかった。」

ダビデの言葉にさっきの夢を一旦忘れて少し深呼吸をして冷静さを取り戻し全くダビデに隠し事は出来ないな叶わないぜ。ノームと言うべリアルを倒してからダビデに夢の事を話そう。


まずは奴を倒してからだな!

そして、槍を持ち再びノームに突進して槍を突き刺そうとする。

ノームは無論、障壁を張るが、その瞬間に槍を地面に突き刺し棒高跳びの要領でノームを飛び越える。

「ナ、何!」

そして、飛び越えたと同時にノームの背後に入り込み回し蹴りを喰らわす。

「おらっ!」

フェイクからの不意討ちはさすがのノームも障壁を張れずに回し蹴りを直撃しうずくまった。

「ウゥ、若造ガ……」

「フン!随分と悔しそうだな!」

ノームは直ぐに立ち上がる。

「黙レ!若造ガ!コノ攻撃デ仕留メナカッタ事ヲ後悔シロ!ワシハ同ジ手ハ二度モ喰ラワンゾ。」

「ほざけ。」

俺は両手の掌を合わせ地面に刺したままの槍を触れると槍は平たぐくの字゙に曲がりなり更に再び両手の掌を合わし左の手首の甲を添えた。

【Left Arm Blade】

ダビデの機械音と共に左の手首の甲から剣の刃の部分が出てきて地面に突き刺した武器を右手に取りノームに向かって走り出す。

ノームに少し近付いて右手に持っている武器をノームに投げつけたが軌道はノームから大きく外れた。

「フン!何処ヲ狙ッテイル!」

ノームの視界は投げられた武器の方向へと向いている。

「よそ見してんじゃねぇよ!」

ノームに剣を突き刺そうとしたがまるで手の内が張れた様に障壁を張り剣の刃は届く事はなかった。

「油断シタト思ッタカ?コレハ余裕ト言ウモノダ!」

だが俺の真の狙いはこれじゃないんだよな。

「ククク。馬鹿は死んでも治らないってこれの事か。」

「何ガ可笑シイ若造?」

「あんたブーメランって知ってるか?」

「何?」


ノームは後ろに振り替えるとなんと最初に投げられた武器がノームの背後から迫ってきている。

「オノレ!」

余りにも焦っていたのか俺が目の前に居るのを忘れてしまったのかその瞬間に一回障壁を解いて背後の武器に障壁を張り着けた。

俺は障壁を解いた瞬間を見逃さない。

「シ、シマッタ!グッ!」

ノームに剣を数回斬り込む。

「あんた。若造だからって嘗めんなよ。年寄りの痴呆と徘徊ほど悪質なものはないぜ。」

「ク、クソガッ!」

ノームは殺気を放ち怒声をあげるが俺には負け犬の遠吠えで哀れに思う。ついでに揺さぶりを掛けて精神的に追い打ちをかけてみる。

「ついでにあの厄介な障壁のタネでも俺が言ってやるよ。」

「ホォ、若造二コノ障壁ガ解ルト?」

「あぁ、結構簡単な手品だぜ」

「……」

俺の人をおちょくった台詞にノームは黙り俺はあの障壁のタネを言う。

「アンタの障壁は確かに防御力は凄い。だが、弱点がある。まずは物体の攻撃を自分の視界から認識しないと発動が出来ない。さっきあのブーメランを投げてた後に俺の剣の攻撃を障壁でガードしているにも関わらず後ろから返ってくるブーメランを見てガードした。普通なら適当にまた障壁を張れば後ろからの攻撃も防御は出来る。次はアンタの障壁は同時に2つは張れない。俺が槍での攻撃をフェイントにしてアンタの背後に回り込み、攻撃をした。アンタの障壁は物体の攻撃を自分の視界に認識が出来れば障壁は張れた。だが、俺は背後に回り込んで蹴りを浴びせたがアンタは俺を認知したにも関わらず障壁を張らず、俺の攻撃を食らった。以上が障壁の…いや、手品のタネ明かしだ。まぁ、当たらずと雖も遠からず だろ?」


二人の間に沈黙が走る。

「「フフフ……フゥハハッハアァーー!!」」

同時にお互いに狂った様に笑い出す。

「何ガ可笑シイ!!」

「ふぅ……」

ノームの怒り狂う怒声に溜め息をつき挑発させる。

「仮面ノ戦士。確カニ貴様ノ洞察力ハ認メル。」

「そりゃ~どうもぉ~」

「ダガ、ココマデ儂ヲ怒ラセタ事ヲ後悔シロ!」

「年寄りは穏やかって聞くけど、ありゃただのガキだな。」

「ブチ殺ス!」

「やってみな!」

そして、ノームは何やら杖みたいのを右手に持った。

「何やるか知らないが、すぐに片付けてやる!」

左手の剣を構えてノームに向かって走り出すがノームは少しニヤリと笑う。

「フン、儂ハ精霊族ノ長老ダ。アンナ若イ連中ト違ッテ肉体デ戦ワナイ。食ラエ!焼キツク業火。ブレイズ!」

ノームがそう言った瞬間に杖の先から炎が出てきた。

ノームの攻撃は俺の予想とは全く違うもので、咄嗟の出来事だったので反応が遅れて避けたため、右肩に少し攻撃を喰らった。

「あつぅ!」

「ドウジャ?儂ハ魔法デ戦ウ堕天使デノウ。近距離ヨリ遠距離ノ戦イガ得意デノウ。」

得意気に話すノーム。確かに遠距離の攻撃が得意な相手には自分は近距離に持ち込んで戦うのが定石だ。しかし、ノームには障壁があるため、下手に近距離に持ち込んで攻撃しても障壁で防がれカウンターを喰らう。

さて、どうする?

「サア、考エテイル時間ハナイゾ!」

ノームはそう言い放ち、杖を俺に向けた。

「貫ケ雷。サンダー!」

そう言った瞬間に杖の先に魔力が溜まり始めた。俺はさすがにヤバイと思い、両手の掌を合わせ、地面に掌を着き、壁を出すイメージをする。

雷が俺に当たる前に地面から厚い壁が出てきてノームの攻撃を防いが長い間、戦っているせいか、そろそろ体力と魔力が少なくなってきた。

このまま持久戦に持ち込まれたら確実に俺が負けるのは火を見るより明らかだ。そこで俺は少しダビデと作戦を練る事を考える。

さらに身を隠す様に再び両手の掌を合わせ地面から複数の壁を作り作戦を練る事にした。

「フン。無駄ナ足掻キヲ!」

ノームも暫く様子を伺う事にしたのか攻撃してこない。攻撃しないと見てダビデに話し掛けてみる。

「なぁダビデ。」

「なんでしょうか?マスター。」

「俺の体力も魔力もそろそろヤバくなってきた。そこでだ。ダビデ。」

「はい。」

「なんとか遠距離で尚且つあの障壁の弱点を突く方法はないか?」

はっきり言えば無茶苦茶な作戦だが他に何も思い付かない。果たしてそんな事が可能なのか?

「えぇ、ありますよ。」

ダビデは無茶苦茶とも言える作戦をそんな簡単に言ってしまい、流石に驚きを隠せなかった。

「お、おい。そんな簡単に出来るのかよ?」

「何を言うんですマスター。マスターの従者たるもの、そのくらい出来て当然です。」

「頼もしい従者だぜ!どうすれば良い?」

「まずは両手の掌を合わして下さい。」

ダビデに言われた通り両手の掌を合わした。

続けてダビデは言う。

「次は左手で右手の甲を触れて下さい。」

続けてダビデに言われた通り左手で右手の甲を触れる。

【Right Arm Rifle】

ダビデの機械音と共に右手の甲からライフルの銃口が出てくる。

「これは?」

「遠距離の専用武器です。マスターが念じれば撃てる仕組みになっています。」

確かに遠距離の専用武器なのは解る。
しかし、これだと少しネックな部分がある。

「もし、撃ったとしてもノームの障壁に防がれちまうぞ?」

「大丈夫ですよマスター。その辺も安心して下さい。」

「……そうか。」

ダビデが言うのなら大丈夫だろう。
正直な所、少し心配だが、ダビデを信用する事にして俺は壁から出てノームの前に現れる。

「悪足掻キノ準備ハ終ワッタカ?」

ノームは待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに話す。

「あぁ、行くぞ。」

それに答える様に短く答え銃口をノームに向けて撃ち出した。

「ソンナ攻撃ハ効カヌゾ!」

ノームは半分呆れた様に障壁を張る。ノームは当然、あの銃弾を防ぐと確信していた。だが、銃弾が障壁に当たる寸前に軌道を変えはじめる。そして、銃弾はノームの後頭部に当たった。


「ナ、何!キ、貴様ナニヲシタ!」

そんな事を言われても正直、俺にも解らない。そして、ふとダビデの言っていた事を思い出す。

つまり『遠距離で尚且つあの障壁の弱点を突く方法』これが答えと言う事みたいだな。この武器の能力は弾の軌道を変則に変える事で攻撃を防がれず確実にダメージを与える武器みたいだ。

そして、俺は5発ほどノームに撃ち、それぞれ弾の軌道を変えて5発ともノームに当たる。

「グゥ……ハアハア……」

ノームはとうとう片膝を着きはじめ、それを見計らう様にダビデは俺に叫ぶ。

「マスター。止めです!」

ダビデが言うと同時にファウストフォンを開きCLEARボタンを押した。

【Right Arm Energy Charge】

ダビデの機械音と同時に右手にエネルギーが溜まり始める。右手のエネルギーが溜まったと同時に銃口をノームに向けて、ENTERボタンを押す。

【Crusher Open…】

ダビデの機械音と同時にファウストの口元から牙が出てきた。

【…Assault Bullet】

アサルトバレットを発動しエネルギーを溜めた右手の銃口からノームに向かってエネルギー弾を発射しエネルギー弾はノームに向かう途中で無数の弾に別れ、軌道を変え四方八方に別れ最終的にノームに直撃した。

「終わりだ!」

ノームに死刑宣告を言い、ノームは四方八方から来るエネルギー弾に戸惑っていた。

「ナ、ナンダ!?コレハ!儂ハマダ死ヌワケニワ……」

そう言いかけた所でノームは爆発し消滅する。


俺は変身を解きダビデも俺の右肩に乗った。

「お疲れ様です。マスター。」

「あぁ、今回は結構、危なかった。ありがとよダビデ。」

「いえいえ。」

ふと、腕時計を見てみると、そろそろ旅館の朝飯の時間時だ。戻ろうとしたところ、何やら空が歪み出し俺はもう一度ファウストバックルを出現させてダビデを右手に持った。

このタイミングでべリアルか……さっきの戦いで魔力がほとんど無い。どうする?

空にヒビが入り込み、ヒビから徐々に空が割れだし、そこから、ひょっこり顔を出した男がいた。

「やあ、大翔さんにダビデ。お久しぶりです。」

明らかに人をおちょっくた様な顔に丁寧な言葉遣い、それは紛れもなく…

「ヨハネ!何でここに!?」

「ヨハネ様。お久しぶりです。」

「皆さんお久しぶりです。まぁ何でここに来たのかと言うですとね……」










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