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第2話 魔法使い(仮)
しおりを挟むここは何処だろう?
僕は和風の家屋の敷地内に居たはずなのに何故か鬱蒼とした林の中に立ち尽くしている。
「確か僕はジィジの蔵の中を整理してて懐中時計を見つけて、ネジを巻いたら時計が動き出したけど、時計の針の方向が逆に動き出して……ダメだ訳が分からない。」
僕は頭を抱えて考えてみるが考えれば考えるほど訳が分からなくなって混乱するばかり。
服は道場で稽古する袴に下駄を履いており、右手にはジィジの蔵で見つけた黒い懐中時計。それにさっきから僕の周りを飛んでいる機械のカブト虫……
「余計に訳が分からないよ!!」
すると飛んでいるカブト虫が僕の手に止まるとカブト虫から画面が開かれ順番を追って見ていく。
あなたの職業【魔法使い(仮)】。
あなたの武器【金剛の杖】。
あなたのお名前【テラシマ ヤストラ】。
私の名前【ビート】。
レベル5。
攻撃50。
防御38。
速さ40。
特攻10。
特防13。
スキル。
【シュリンゲジ–縮地–】
なんか、見た事あるんだけどさ。これって世に言うアレなのかな?ファンタジーっていうやつなのかな?魔法使い?それにカッコ仮カッコ閉じってなに?!
魔法使いってアレでしょ?女の子と付き合わず30歳まで童貞を貫いた人がなるんでしょ!僕はまだ22歳だから8年の執行猶予があるよ!女の子と手を繋いだ事は無いけどさ……
「はぁ~……」
僕は頭の中で状況を整理しながらもテクテクと林の中を歩いて行くと小さな村に辿り着く。だけど村人達は僕を見るなり、あんまり良い顔はしていない。どっちかって言えば僕と目が合うと視線を逸らしてしまう。
いったい、ここは何処なんだろう?僕はどうすれば元の家に帰れるんだろう?
僕はそう考えながら途方もなくトボトボと歩いていくと村から外れていき林を抜けて行くと周りが岩壁で覆われた一本道へとなっていた。コレも昔ゲームや漫画やアニメで見た事ある風景。
すると、さっき僕が歩いていた村から何か轟音が響いてくる。
何やら悲鳴まで聞こえてくるのが分かるから僕は急いで村に戻るために走り出す。
「ヒャッハーー!!お前ら金と食料を渡しな!!」
「辞めてください!それ以上、取られては我々が飢え死に……」
すると村の人が頭から銃弾を打ち込まれ恐怖に怯えた顔と溢れ出す血から何とも言えない光景が僕を瞳に写り出す。
「なんだよ……コレ……」
僕は思わず開いた口が塞がらない状態。本当に人ってあまりに驚愕な出来事に遭遇すると開いた口が塞がらないんだね。
「お父さん!お父さん!!死んじゃ嫌!!死んじゃ嫌だよぉ!!」
その途端、さっき世紀末に出てきそうな賊に銃で撃たれた男性の娘なんだろう。小さい女の子がこんな出来事を体験してはいけない。あっちゃイケナイんだ……
「へへ~ん。お嬢ちゃんも一緒にパパと一緒の所に行こうかぁ~ん~行きたいよね~?」
まさに世紀末の賊はよく見るゲスな笑顔で小さい女の子を見ている。胸糞悪い。
僕は林の茂みからユックリと歩き出す。
「おい!なんだテメェ!動くな!!動くと打つぞっ!!」
「やってみろよ。」
「チッ!」
世紀末の賊1人が僕に向かって銃口を向けて、ユックリと引き金を引いたと同時に銃声が響きあたりは物静かになる。
しかし僕には擦り傷一つもなく世紀末の賊達に向かって歩き出している。何をしたかって?答えは簡単だよ。古武術で使う【見切り】ってやつだよ。単純に言えば相手が銃の引き金を引いたと同時に半身で入り身をして避ける。
その為には相手が来るって瞬間を見極めなくちゃイケナイ。その来るって言うのは殺気であり、武芸者が身に付ける第六感とも言われている。
「な、な、な何なんだ?!あの小僧!!」
「撃て!良いから撃てっ!!」
世紀末の賊達は僕の不可解な行動に不安と恐怖に駆られて慌てふためき銃を続けて撃ち込み、もう1人の賊は弓を引き矢を放ち、また、もう1人の別は小型のダガーナイフを僕に向かって数本投げ込む。
だけど僕はスルリと何事もなく擦り傷を一つも無く避け、僕は自分よりも大きく筋肉質な体格の賊達を目の前まで距離を詰めて立つ。
「なんだ?小僧!その目は!」
「ガキのくせに生意気なんだよ!」
「大人相手に子供が勝てると思ってるのか?!」
僕は賊3人に囲まれる形になる。普通なら自分より大きな見た目が屈強な男達に囲まれたらビビって腰が抜けてしまうだろう。でも、僕は違う。
常に平常心。感情を押し殺し殺気を心の内に留め僕は膝を抜き右の肩甲骨を内に引き、弓の弦を引く要領で掌底を賊の1人に打ち込む。
「ゴフッ……」
賊の鳩尾に掌底を打ち込んだ瞬間は賊は白目を剥いて口からは胃液が滴り落ち倒れこむ。
「ジィジが言ってたよ……弱いものを虐めるのは自分が弱く醜いと自覚している事だ。」
「なんだと!このガキッ!!」
賊の1人が剣を鞘から抜いて僕の頭から目掛けて一刀両断しようとするが、僕は左へ入り身に抜けて賊の手首を極めて剣の柄を持ちそのまま、賊の右側へと回り込み剣の刀身で賊の首を斬り落とす。
その技は【無手返し】。自分が素手で相手が斬り込んだ瞬間のカウンター技とも言える古武術の技の一つ。
「おい!て、て、テメェ!タダで済むと思うなよ!ちっ!」
賊が何かギャーギャー喚いているけど関係ない。僕の頰には賊の返り血が滴り落ちる。初めて人を殺めたけど気分は良いもんじゃない。だけど僕には、この娘を守らなくちゃだから……
賊は血相を描きながらスボンのポケットから呼び笛を力一杯鳴らすと、続々と本当に世紀末みたいな感じな賊達を呼び寄せ辺りいったいに囲む形でざっと50人の賊が現れた。
「おいおい仲間達が死んでるじゃねぇーかよ。」
「まさかガキに殺されたとか?」
「このガキをどうやって殺す~?」
「ヒャッハー血祭りに上げようぜ~」
「人身売買の競売でもいいんじゃねぇ?!」
「そりゃ良いなぁ!」
「顔の良いガキは高値が付くし!」
「何処ぞの偉い国の人の慰み者とかさ!」
「それか俺達の奴隷とかさ!」
「あぁ!それも良いよなぁ!憂さ晴らしにもなりそうだわ!!」
「さて、どうやって痛め付けてやろうか?」
さっきから怒号の如く世紀末の賊達はゲスく醜いこの他ない真性なクズのような顔をしては、もはや人とは思えない非道徳的な発言。聞いていて胸糞悪い。
僕が聞く分には胸糞悪いで済むけど小さい女の子の目の前で大人がそういう発言をするとは、どんな教育をされて生きてきたんだ?って疑問に思う。
「その口、閉じろ……」
「あん?なんだって……」
僕はその瞬間に下段の構えから【無拍子突き】を下腹部に繰り出す。簡単に言えばノーモーション突き。
剣は賊の身体を貫通してドクドクと血を流して力無く倒れこむと一瞬だけ賊達が何が起きたのか訳が分からず立ち尽くす。
少しだけ間を置いた後に賊達は気付く、僕のやった行為は仲間殺し。つまりは宣戦布告を意味する。
「やっちまえぇぇええッ!!」
すると賊達は一斉に僕に斬りかかろうとするが正直な話だが動きが遅い……門下生の中学生より動きが遅い。
僕は剣の柄を1人の賊の顎に打ち込むと綺麗に入ったのか目が白眼を剥いて倒れこみ、また別の賊が上から剣を振り向いた時、そのまま右側に入り身をしながら【しのぎ】という受け流しの技で賊の右脇へ切り込む。
僕は女の子の手を取り走り出す。このままだと女の子を巻き込んじゃうかもしれない。そうなると知らないとは言え夢見が悪いし胸糞悪い。
「お兄ちゃん!」
「チッ!」
賊の1人が弓矢で射殺そうと背後から狙ったが女の子の一声でなんとかギリギリで避けられた。女の子を連れて林の中に逃げ込む。
手を繋いで逃げるのは少し面倒だからこうする!
「え?!お兄ちゃん?!」
「良いから少しだけ!」
うん。お姫様抱っこである。おんぶだとさっきみたいに後ろから弓矢で刺される可能性がある。走って行くと洞窟を発見し女の子をその中に入れる。
「良い。絶対に自分から出てきちゃダメだよ?」
「お兄ちゃんは?」
「僕は外の悪い奴等を成敗しに行く。」
「お兄ちゃん……」
すると女の子はお父さんの事を思い出して怖くなったのかクリっとした可愛い目から涙をボロボロと流す。
「お兄ちゃん……死んじゃ嫌だよ?」
「約束する。絶対に僕は死なないよ?」
段々と賊達の声が近付いてきたので、そろそろ僕は賊の元へと顔を出す。
「へへーん!やっと顔を出しやがったな!」
僕は賊から奪った剣を八相の構えで持ちながら攻撃を仕掛ける僕は剣を振り下ろし賊の剣を叩き落とす。【雷落とし】。一瞬にして物凄い圧力が掛かったように剣が手元から離れてしまう技。
「な?!」
賊が驚いた瞬間に賊の顔に目掛けて剣を突き刺し突き刺した部分から血の噴水が湧き上がる。あと、何人居るか分からないけど、この場は皆殺しする他なさそうだね。
「レベルアップしました。レベル6。攻撃55。防御41。速さ45。特攻12。特防17。スキル【シュリンゲジ–縮地–】。スキルを使って戦闘をスムーズに使いましょう。」
ビートの機械的な声によって分かったが、どうやら僕は賊を倒した事によってレベルアップしたみたい。本当にゲームみたいな感じだ。だけどスキルを使うって言われても……
「スキルはマスター自身が口から発して唱えれば発動出来ます。」
どうやらビートは僕の考えている事を汲み取って説明してくれるみたいだ。
「シュリンゲジ–縮地–。」
僕はスキルを唱えると少し離れた賊の元へと一瞬で辿り着き僕は左側へ入り身をして賊の鎖骨から斬り込み、また賊は切り口から血飛沫を上げて僕は返り血を浴びて倒れこむ。
なるほど、これがスキルってやつか。これなら一々、間合いを詰めなくても一瞬で仕留められるから便利だ。
僕は次々に現れる賊を手当たり次第に殺していく。もう何人切ったか分からないし殺めた人数も覚えていないし、人を切った感覚も血生臭い鉄の匂いにも慣れた。
かつての僕のご先祖様もこういう血生臭い戦場に居たのだろうと思うと、ある意味尊敬する。人が平気で死んでいくのが分かるから気がおかしくなりそう……
「いまだ!」
「ぐっ……」
僕は賊を切り倒した血の池で一瞬だけ足を滑らせて体勢が悪くなり踏み止まったが、その一瞬の隙に弓矢を僕の左腕に打ち込まれてしまう。
痛い……だけど、倒れたら死んでしまう。死んじゃダメだ。死んだら女の子との約束を破る事になる。
僕は痛み耐えながら剣を下段に構えてスキルを唱える。
「シュリンゲジ–縮地–。」
スキルを使って賊との距離を詰めて無拍子突きを相手の下腹部に突き刺し腰の辺りまで貫通させ引き抜く。賊はいくらか減ったが、まだまだ居るのは確か。疲労を見え始めているが僕は自分を奮い立たせる。
さっきからビートがレベルアップの知らせをしているが気にならなくなるが、また賊を1人。また1人と確実に息の根を止める。確実に殺さなければ、こっちが殺される。
「レベルアップしました。レベル10。攻撃75。防御53。速さ65。特攻20。特防33。スキル【シュリンゲジ–縮地–】。【フィズクス・キャンセル-物理無効-】。」
どうやら新しいスキルを覚えたようだ。物理無効?つまり物理の法則を無視して物を壊せるって奴?試しに使ってみよう。
賊が僕に斬りかかろうとしているのが分かるので僕はそれを受ける。硬直して鍔迫り合いの状態となるが、僕はスキルを唱える。
「フィズクス・キャンセル-物理無効-。」
「なに?!!」
僕がスキルを発動した途端に賊の剣はバタのようにグネリとひん曲がり、賊の剣は使い物にならなくなって、その瞬間を見逃さず僕は斬り込み賊は絶命する。
それから僕はシュリンゲジ–縮地–とフィズクス・キャンセル-物理無効-のスキルを使いながら賊の壊滅へ事を運ばせるが、途中で弓矢やナイフの奇襲や伏兵にも襲われて僕もダメージが着実に蓄積されていく。
「はぁ……はぁ……」
僕は剣を地面に突き刺し座り込む。少し休憩。目の前の賊は見ての通りぼぼ全滅させた。周りは賊の死体の山だし血の池って言うより血の海だねこれは。
「はははは……」
自分でも笑えてくるよ。かつて、ご先祖様の知恵を捻り出して作られた対殺人用の武術を継承された僕が使う事になるなんてさ。僕の居る日本なんて正統の理由なしに相手に傷一つ付けたら犯罪だからね。
それに至って言えば罪があるとは言え、こんなにも人を殺めてしまったから世界レベルで言えば犯罪史上最悪の人殺しに当たるよね。
すると僕は殺気を感じ立ち上がる。
「おい……道理でウチの連中が残らないって思えば、このざまか。」
「どうやら、あそこに立っているガキの仕業みたいだな。」
「おいおい嘘だろ?ガキ1人に仲間殺されたんか?」
「見所あるガキだがどうする?」
「仲間を殺された以上。死あるのみだ。」
どうやら3人は世紀末の賊の仲間みたいだけど、さっきの連中とはまるで違う。コイツら強い……
僕は地面から刺し込んだ剣を抜き取り八相に構えで敵を待つ事にする。
「やるつもりだ。殺すぞ。」
賊の1人がそう言った後に剣を抜き走り込んで来る。剣を振りかぶり打ちつけようとした瞬間に僕は相手の剣をすり抜ける様に相手の腕を切り落とす。
「ぎゃぁっ!腕がッ!腕がぁああ!ゲフッ……」
僕は古武術の【影縫い】という剣を受けようとした瞬間にすり抜けて剣が腕に斬りかかる技で相手は何が起きたのか分からないと言ったところだろう。
その後に賊の胸に剣を突き刺し酷い表情をしながら賊はドサッと倒れこむ。
「このガキ……何者だ?」
「名乗るもんじゃないさ。喧嘩を売られたから買っただけ。ただし、高価買い取り返品不可だからね。」
「面白い。」
賊はマサカリを構えて僕に向かって走り出す。僕はスキルを唱える。
「シュリンゲジ–縮地–。」
「なに?!」
スキルを使い一瞬で賊との距離を縮めていくが、流石に勘が良いのか僕の一撃を読まれて避けるが僕はすかさずスキルを唱える。
「シュリンゲジ–縮地–。」
「またかよ。芸がない!」
タイミングを見計らい賊はマサカリを振り下ろすが僕は再びスキルを唱える。
「フィズクス・キャンセル-物理無効-。」
僕は賊のマサカリを物理無効する事によって鉄製のマサカリは溶けたバターの様にグネリ真っ二つにして、賊の喉元に剣を切り裂き首が飛び、首から下は両膝をついて倒れこむ。
一方、その村に訪れた若い女性の騎士と白髪で髭を生やした老紳士が現れると先の村の現状を見ると、あたりは死体の山で雰囲気は凍りついている。
「おい爺や。これは……」
「コレは恐らく、本来ならお嬢が討伐するはずの賊の連中だと思われます。」
「それに賊の連中達、大体は一太刀で斬り伏せているという腕前。どんな豪傑な剣士なのか?」
「お嬢。あそこを見てみなされ。」
爺やが指を差すと賊の死体は林の茂みの方まで続いている。意を決したお嬢は林の茂みの中へと足を踏み入れる。
「爺や。行くぞ。」
「承知致しました。」
お嬢がそう言った後、爺やは一言だけ発した後はお嬢に着いて行く形で2人は林の中へと足を踏み入れると、そこにも数多くの賊の死体と足の踏み場の無いほどの血の海が出来上がってる。
「此奴らは全員、賊ではないか。」
「はい。皇帝バルガ様の直筆の任務より『国境付近の村人を襲い金品を奪い食料を我が物とし若い女または子供を人身売買する不届きな賊を討伐を命じる。 マーロ皇帝 バルガより。』っと。」
「何か旅人がたまたま通りかかって出くわしたのではないでしょうか?それに血が固まってないので今も戦闘をしている可能性があります。」
「そうだな。グズグズしてられない。すぐに行こう!」
「はっ!」
そうしてお嬢と爺やは走り出す。
その頃、僕は世紀末の賊の最後の1人と交戦中。やはり数十人の賊を束ねるだけあって流石に相手するには骨が折れそうだし、何よりも強い。
「ほらほら、どうしたぁああ!!」
「ぐっ……」
1人で数十人を相手にしてからのラスボスって戦う前に回復薬で体力を回復してからセーブしてからやるよね?それが無いのって無理ゲー過ぎない?
弓矢とかナイフの小さな傷が無数にあるしずっと戦いっぱなしだからスタミナも削られてる。ビートのステータスを見るとHPとか見ると赤くなり始めてるし、スキル回数も残り少ない。
これじゃ詰んでジ・エンドだ。それに賊の剣捌きは早くて重いし勘が今までの奴より良いのか僕の剣も避けられる。何処か隙を作らなくちゃ……
賊のラスボスは容赦なく僕に剣を振りかぶる。ここだ!
僕は【しのぎ】で振り上げてから降ろすラスボスの剣を受け流しながら右側へ入り身をしてから袈裟斬りで鎖骨から腹部まで斬り下ろす。
「はぁ……はぁ、はぁ……やっと全員……倒せたぞ……」
僕は剣を突き刺し剣を杖代わりにするように立っている。正直、立っているのがやっとだし、目が霞んできて朦朧としてきたよ……これ以上の戦闘は無理そうだ……
「おい!爺や!!あの少年!」
「はい!お嬢!」
どうしよう……僕は虚ろな目でも闘志は消えずに剣を抜き下段に構える。それに驚いたのかお嬢と呼ばれた人と爺やと呼ばれた人は僕に詰め寄る。
「安心しろ坊主。ワシらは敵ではない。此奴らは全員、坊主がやったのか?」
僕は声が全身の痛みと疲労困憊で上手く声が出せないので縦にイエスと頷く事しか出来なかった。
「立派だったぞ。だからもう剣を手放せ。手当てをしよう。」
爺やさんにそう言われて剣を手放そうとしたが賊の1人が立ち上がり、その前に居るお嬢っていう人に襲い掛かろうとしている。
「おい、どうした坊主?!」
再び剣を握り敵に向かおうとするが上手く歩けない。クソ……動け。動けよ僕の足……上手く動けない僕の身体だけどスキルがあったのを思い出しスキルを唱える。
「し……シシ……シュリンゲジ–縮地–。」
最後の力を振り絞ってスキルを発動させてお嬢さんの背後から襲い掛かろうとする賊の胸に剣を突き刺し、今度こそ絶命した。
ヤバイ……今ので緊張の糸が切れて立てなくなりそう……そんな時、柔らかく優しくて血生臭い僕の匂いが薔薇の香りが僕を包み込んでくれる様な気がした。
「私を助けてくれたんだな。ありがとう。」
お嬢と呼ばれる人が倒れかけた僕を抱き上げてくれたのが、すぐに分かった。
「お嬢。」
「この子の手当ては私の家でやろう。」
「はっ!すぐに戻ります。」
その後、僕は安心しきってしまったのか眠りについてしまった。
だけど僕の耳元で囁く声が聞こえたような気がした。
「惚れちゃうじゃない。ウフフ。」
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