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プクプク

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 突然の神官長エヴァンナの死の話は一瞬で街全体に広がった。皆悲しみ涙を流しながら大通りに集まりだした。これを見ただけでもエヴァンナがどれだけ人々に慕われていたのかがわかる。仕事中の人も店を閉め、最後に彼女を見送ろうと通りに並ぶ。

 エヴァンナの死後、数時間後には棺に入れられ神官達に担がれて大通りを歩く。町中の人々がお別れを言うためだ。

 神官たちが歩く道には花が投げられ、神官たちはそれを踏みしめながら歩く。これがこの国のお別れの仕方らしい。

 そしてだんだんと棺は僕らがいる大通りまでやってくる。

 するとそこで止まり一人の男が集まった民衆に向かって話し出した。

「皆の者!!よくぞ集まってくれた!!我らが神官長エヴァンナがフィリア様の元に向かわれた……。だが悲しんではいけない。下を向いてはいけない!死は誰にでも訪れるもの、そして死は終わりであり始まりなのだから!彼女はこれからはフィリア様の元で幸せに暮らしていくだろう!!」

 よく通る声だった。民衆は泣きながらも顔を上げ祈りを捧げている。

「死者には悲しみではなく感謝を!そして残された我々は彼女が安心して眠れるようにこれからより一層励まなければならない!!そこで、神官長の座は私「プクプク」が引き継ぐことになる!皆の者よろしく頼む!」

 プクプクはガリガリにやせ細ったな男だった。完全に名前負けで残念である。

「ここで一つ重大な話がある!!皆の者の耳にも届いているだろう!!この国の王子アレクサンドラ様と王女であるエミリア様が現在反逆罪で指名手配になっている!そしてその二人はなんと先日エヴァンナの元を訪れていたのだ!!」

 民衆はざわざわと話だした。「噂は本当だったのか」「怖いわ」など皆様々口にする。

「そして突然のエヴァンナの死!!彼女は病気で亡くなったのではない!!なんと毒を盛られて死んでいたのだ!!」

 ここでより一層民衆は騒ぎ出した。さすがにこんな話を聞かされたら「犯人は王子」だと言っているようなものだ。

「そして王子達は先ほどまで教会におり、そして現在は姿を消している!!我々は王子達が毒を盛った張本人だと確信している!!皆の者気をつけておくれ!そして探してほしい!!我らが愛しきエヴァンナの命を奪った犯人を!!」

 民衆は怒りのままに声を荒げ、これは完全にプクプクのペースだろう。

「更に!!先日のアニの街を襲ったスタンピートも王子達の作戦だと聞いた!!彼らは悪魔だ!!だが王子達だけであれほどのスタンピートを起こせるとは考えられない!!そこで私は調べた!!そして意外な人物にたどり着くことが出来た!!それは!!なんとこの国の国王様だった!!」

 怒り狂った民衆は再び驚き静寂に包まれる。信頼していた自国の国王が大量虐殺をやってのけたのだ。驚いて当然である。

「そして私がこの事に気づくことが出来たのは第一王子であるイスカリテオ王子様である!!彼は命懸けでこの情報を集め私に教えてくださった!!皆の衆!!国王を許してはならぬ!そして第一王子を守らねばこの国に未来はない!!」

 僕はエリザベスを見る。彼女は頷いて見せ杖を空に向けファイアーボールを放つ。

 しかしよくもまぁここまでベラベラ喋ってくれたものだ。これでかなり見えてきた。

 空でファイアーボールが爆発したのをきっかけに棺の蓋が勢いよく開く。

「ふぁ~よく寝たわ。たまには死んでみるのも悪くないかもしれないわね」
「……は?」

 棺からは死んだはずのエヴァンナが立ち上がり、神官、民衆、そしてプクプクまでもが固まり言葉を失う。エリザベスは満面の笑みだ。全く末恐ろしい。

 作戦は実に簡単なものだった。

 エヴァンナは毒を盛られ死期が近かった為、側近を使い王子が彼女を訪れ姿を消した事、そしてエヴァンナが死んだ事を教会内に広させた。

 彼女に毒を盛っていると知っているのは僕らやエヴァンナ、そして犯人だけだ。

 そしてこの葬儀のやり方を聞いたエリザベスは彼女に死んだことにしてもらい犯人が自ら名乗り出ると予想したわけだ。

 単純なやり方だが、だからこそ引っかかりやすい手法だ。

 とにかく見事にプクプクはベラベラ喋り彼の計画は全て把握できた。

「さて、皆の者!!私は生きている!!これが何を意味するのかすでに賢い皆ならわかっているだろう!!プクプクは嘘をついている!!それも大きな悪質な嘘をだ!!確かに王子は訪れた!だが毒を盛ったのではなく彼らは私の毒を直してくれたのだ!!そして我々の他に私に毒を飲ませていることを知っているのは犯人しかいない!そうだろうプクプクよ!」

 プクプクは顔面蒼白で今にも倒れてしまいそうだった。僕らは笑いをこらえるので必死だった。

「そしてスタンピートの話も嘘だ!!あれは副神官長でプクプクの従妹に当たるブクブク副神官長によって行われたものだ!!証拠もある!!」
「ば、ばかな!!証拠なんかあるものか!!あれは…・・!!」
「あれは、なんだ?とにかく証拠はすでに我々が持っている。ブクブクは今プクプクが話した通り第一王子と結託してこの国の国王を殺しその座を奪おうとしている!皆の者そんなことが許せるだろうか!?現に私は殺されかけた!!」

 民衆は矢っと何が起きたか理解したようだ。その顔にはプクプクに対する怒りが見える。

「だ、だが待て!!私がエヴァンナに毒を盛った証拠は!?そして第一王子と結託している証拠はあるのか!?」
「ある!!エリザベスよ。もういいだろう」
「分かったわ」

 その合図で僕らはピエロや執事の衣装を脱ぎ捨てエヴァンナのそばに行く。

「お、王子!?なぜそこに!?」
「皆の者!!先ほどまでここでピエロの格好をして騒いでいたのがこの国の王子だ!!という事は王子達には先ほど死んだ私に毒を盛ることは不可能だ!!そしてもう一つの証拠がこれだ!!」

 エリザベスが二枚の「誓いの契約書」をプクプクにみせる。彼はそれに目を通すと膝をつき俯いた。

「ここにはスタンピートを計画した者のサインが書かれた書類がある!!そこにはこのプクプクの名前もある。そして先ほど言ったように毒を盛ったのは我々の他に犯人しか知らないはずだ!!つまりお前が犯人何だよ!プクプクよ!!」

 書類は先日僕とエリザベスで盗み出したものだ。これで最早彼に言い訳はできないだろう。

「衛兵!!この男を捕らえろ!!」

 エヴァンナの号令によりプクプクは捕まり一件落着となった。

「ありがとう。あなた達のおかげで奴を捕らえさらには計画まで分かったわ」
「いえ。まぁ計画までしゃべるとは思わなかったけどね」

 教会で神官たちが集まる中、エヴァンナとエリザベスは楽しそうに談笑をしていた。

「それでエヴァンナさん。これからの事だけど……」
「大丈夫よ。わかってる。ブクブクなんかにこの国は渡さないわ。政治に宗教が口を出しても碌なことにならない。それは歴史が証明しているわ。私はこれからパランケ伯爵の所に行き、その後パライスに寄ってから王都を目指すわ。数日かかってしまうけどそれだけいいかしら?」
「大丈夫よ。それとパライスの北にある3件の伯爵邸も寄ってくださる?彼らも力になってくれるわ」
「彼らが?そんな風には見えないけど」
「脅してあるから大丈夫よ。「エリザベスが兵を連れて王都まで来い」と言っていたと伝えればすぐに動くわ」
「あら、悪い子ね」

 すでに伯爵達にはエリザベスのいう事を聞くという「誓いの契約書」にサインをさせてある。本当に悪い子だと思う。

「わら僕らは一足先に王都へ向かってる?」
「そうね。その周辺で待機していたほうがいいかもしれないわ」
「王子様、王女様、どうかお気をつけて。貴方達はまだ指名手配いつどこで誰が襲ってくるかわかりません。」
「わたってるよエヴァンナさん。ありがとう。この国を取り返そう!」
「そうね。この国を悪い奴らの好きになんかさせないわ!」
「そうですね。しかし久しぶりに会いましたがお二人とも本当に強くなられましたね」

 エヴァンナはアレクサンドラとエミリアの手を取ってそのその両手を重ねる。その眼はどこか母親が我が子を見ているような温かく優しいものだった。

「俺達はこの旅で「カンパニー」の皆さんから沢山の物を学びました。諦めない事、そして強く生きる事、沢山です」
「そうね。この人達は信用できるわ。流れ人じゃなかったら私の部下にしたいくらい」
「そうですか。「カンパニー」の皆さん。本当にありがとうございます」

 エヴァンナは立ち上がりこちらに深々とお辞儀をする。

「頭を下げるのは早いわエヴァンナさん。本当の戦いはこれからよ」
「そうでしたね。私ったらつい。それでは私はこれで。一刻でも早く準備を整えなければ。プクプクが民衆に宣言した時点であちら側の準備はもうほとんど整っているのでしょう。時間がありません。それでは皆様。後程」

 彼女はすでに先ほどの暖かく優しい母のような表情とは打って変わって厳しくこの国の未来を見据えた神官長の眼をしていた。

 僕らは今日はここでダイブアウトし、明日王都に向けて出発することにした……。

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