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伯爵邸と族長

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「何だと!?一体どういうことだ!!」

静まり返った会場に族長の声が響き渡る。

「そ、それが子供たちを見失わいように街の近くで遊ばせていて大人も数名付いていたんだが、気づいたら大人たちは全員寝ていて、子供たちがいなくなっていたんだ・・・!!」
「何と言う・・・。それはいつの話だ!?」
「わからねぇ・・・が1時間も経ってないはずだ!」

男はそこまで言うと頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

「ウィル!!行くわよ!」

エリザベスは叫ぶとインベントリから馬を取り出し飛び乗る。
突然馬が出てきたことに周りの人たちは驚いていたが僕も構わずにムギを取り出し跨る。

「おい!待ってくれ!俺も乗せてくれないか?」

族長は僕がムギを取り出したのを見て自分も行くとこちらにお願いをしてくる。
だがここちらの馬は四頭、8人いるので彼の乗る席はない・・・。

「・・・そうね。アレクサンドラ、アメリアは待機してて、リリス!二人の護衛をお願いしてもいいかしら?」
「・・・ええ!任せて!」

リリスは「護衛」と言う単語に一瞬疑問を感じたようだが、快く引き受けてくれた。
確かにもしかしたらこれから戦う相手は貴族になるかもしれない。
その時アレクサンドラ達がいたら標的の的にされてしまう。
彼らも状況を理解し、悔しそうな顔をしながらこちらに頷いてくる。
族長が空いたカルロスに跨り、僕らは広場から一気に駆けて街の外まで走りだす・・・。

「・・・あそこに馬車のタイヤ痕よ・・・!!」

クリスが「鷹の目」を使いいち早く人攫いの逃走経路を見つける。
僕らはそのルートに急いで馬を走らせる・・・。

「この道は伯爵邸に進む道だ・・・。」
「という事はやはり犯人は・・・。」
「ああ、貴族の仕業とみてまず間違いないだろう。くそ、洞窟が破壊されたと聞いて浮かれてしまったがまだ帝国へのルートは残ってたのか?」

確かに僕たちが壊した帝国への密入ルートは残っていたのかもしれない。
しばらく走るとだんだん大きな屋敷が見えてきた。
僕らが近づくとこちらに向かって30人ほどの騎士が馬に乗って駆けてきた。

「・・・止まれ!!この先がどこかわかっているのか!?この先は・・・ぐはっ!?」

相手がしゃべり切る前にクリスの矢が相手の額に刺さり相手は光となって消えていく。
・・・あ、話し合わないんだ、と思いながらも確かに馬車のタイヤ痕が真っ直ぐ屋敷の方に伸びている為屋敷の中に子供たちがいることは間違いないと思う。
彼らがどこかに運ばれる前に助け出すのも確かに手だろう。

「そこをどけぇぇぇ!!」

族長は初めから彼らと話す気はないようだ。
仕方ないので
僕らはそのまま一気に騎士に突っ込みそのまま敵を切り裂いていく。
全員を倒すのに5分とかからず、僕らはそのまま伯爵邸の中に堂々と正面の門から入っていった。

「伯爵ぅぅぅぅ!!出て来いーー!!」
「・・・いや、族長そんな叫んだら逆に出てこないでしょ・・・。」
「一体何の騒ぎだ!!ここをどこだと思ってる!」
「あ、出てくるんだ・・・。」

ブクブクに太り煌びやかな服装をした男が、兵士20人程と一緒に出てきた。

「ここに先ほど子供たちが運ばれたのは分かっている!!さっさと解放しろ!!」
「子供だぁ?そんなものは知らん。痛い目見ないうちにさっさと帰ることだな。痛い目を見たくなかったらな。」

伯爵の言葉に合わせて騎士たちは武器を構える。
僕が話をしようと口を開きかけた瞬間、族長とアイリス、レイは敵に斬りかかり相手に反撃の隙も与えぬ間に瞬殺してしまった。
その光景は最早どちらが悪役かわからないほどだった・・・。

「・・・ま、待て待て!!お前達こんなことしてどうなっても知らないぞ!?」
「ぬ?ならば貴様も殺せばここに目撃者はいなくなるという事か。」
「ま、待て!!違う!!儂は誰にも言わないから!子供たちは返すから・・・!命だけは・・・!」

あっさり口を割った伯爵だった。

「・・・ねえ伯爵。ここから帝国に通ずる山脈の洞窟はすでに無くなっていることは知ってる?」
「・・・なんだと!?では儂が攫ってきた事は無駄だったのか・・・?」

またしてもあっさり口を割った伯爵だった。
つまり帝国への隠し通路はあの一つだけらしい・・・、いや、もしかしたらまだ伯爵が知らない経路もあるかもしれないが・・・。

「・・・伯爵、貴方の協力者は誰ですか?あなた一人で帝国と契約してこんなことが出来るとは思えません。必ず協力者がいるはずです。」
「ふ、ふん!!そんな事儂が話すわけ・・・あいたたたた!!!わかった!!話すから!!剣で腹をつんつんするのをやめてくれ!!」

伯爵の態度に腹を立てたレイが彼の腹を剣でつっつき遊びだした。

「・・・もう一度聞きます。貴方の協力者は誰ですか?」
「・・・聞いても他言するなよ・・・?・・・儂の協力者は教会トップの人間「ノア」と言う男だ。証拠もある。」

僕の頭の中は一気に真っ白になった。
・・・ノアが協力者?
一体何の冗談だ・・・?

「・・・これがその証拠だ。」

伯爵を連れ族長は地下の子供たちを助けに、僕らは伯爵の執務室で彼の言っていた証拠の書類を見せてもらいに来ていた。
彼が取り出した一枚の書類には確かにノアのサインがしてあって、そこには帝国と王国の人身売買の契約をするという内容が書かれてあった。

「・・・・そんな・・・。まさか・・・。」
「いや、本当の事だ。儂も初めは疑ったがな。だがその書類は本物だ。そして儂は権力には逆らえずにこの話に乗った。・・・今思えば愚かなことをしたと思っているがな。だが教会の力は強い。最近特に強くなっている。」
「・・・他に協力者はいないのかしら?あなた一人でここまでできるとは思えないけど・・・。」
「ああ・・・いる。この近くの伯爵3人が協力者だ。洞窟までのルートをさりげなく守っている。」
「・・・待って、この書類は貴方の目の前でノアがサインしたもの?」
「そんなわけないだろ。帝国との密会に儂なんかが立ち会えるわけがない。これは後から渡されたものだ。」
「誰に?」
「・・・それは言えない・・・いてててて!!わかった!!言います!!副神官長のブクブクにだ!!」

やはり副神官長はこの一件に絡んでいるようだ。
・・・しかしノアのサインがどうして書かれているのかがわからない・・・。

「・・・という事はこのサインは偽物・・・?」
「そんなわけない。これは「誓いの契約書」だ。嘘は書けない。そういう貴重な書類だ。偽造することなど不可能だ。」

・・・という事はノア本人が契約書を書いたという事になる。
・・・しかしノアは殺されてしまった。
恐らく副神官長のブクブクの作戦によって。

僕はもう何を信じればいいのかわからなくなってしまった・・・。

「・・・その顔はお前たちはノアと面識があるのか?だが勘違いしているようだが奴は悪魔だ。昔から密かに兵を集めて権力を奪おうとしているという話も聞く。それに人攫いなど今時考える奴は頭がどうかしている。・・・まぁ話に乗ってしまった儂が言うことではないが・・・。」

僕らはその後、伯爵に「誓いの契約書」を書かせ屋敷を出る。
契約書の内容はは一つは今回の件を絶対に誰にも話さない。二つ目はエリザベスの言うことに絶対服従するという内容だ。
二つ目の命令がある場合は一つ目の契約は破棄できるという後書きを加えて。
因みに契約書は破ると本人が死に至る、と言う不思議な契約書らしい。
どうしてノアはそんな契約を・・・という事が僕の頭から離れなかった・・・。

「・・・とりあえず今は分からないことを考えても仕方ないわ。残る二人の伯爵邸に行きましょう。」

エリザベスはそんな僕の表情を読んでかそう提案してくる。
確かに今はまだ何も分かっていない状況だ。

パライスの街に戻って僕らは英雄のように歓迎された。
アレクサンドラ達も無事に待機していてくれたようで、僕らの活躍によりパライスに対する人間の悪い印象を少しでも改善できたことを喜んでいた。
街の皆の表情を見るととりあえずはこれでよかったのかも知れないという気持ちにさせられてくる。
その後僕たちは先日訪れた会議場に足を運んだ。

「・・・まずは今回の件色々とありがとう。街を代表してお礼を言わせてもらう。」
「いえ、僕らは僕らのしたいようにしているだけですから。」
「そう言ってもらえると助かる・・・。さて、これからなんだがお前達はどうするんだ?」
「・・・私達はとりあえず他の伯爵邸に行きたいと思います。今はそれしか方法が浮かびません。」
「そうか・・・。何か力が必要なときは言ってくれ。「カンパニー」はすでにこの街の恩人だ。出来る事なら何でもしよう。」
「・・・ありがとうございます。」

洞窟の一件も、二度子供たちを助けたことも僕らが勝手にやったことだが、力になってくれるというならありがたい。
これから先一体どんな敵と戦うことになるのかわからないから・・・。

「・・・ウィルは顔が晴れないようだな。・・・先ほど話してくれたノアと言う男の事か?」
「・・・はい。僕は彼を信用していました。短い付き合いでしたが。それでも本当に言い人だと感じました。・・・なのに。」
「・・・そうか。まぁ人間が本音の部分でなにを考えているかはわからんからな・・・。そうだ。俺達獣人が日ごろから大事にしている考えを一つ教えよう。」
「・・・考えですか?」
「そうだ。馬や羊などの動物が俯き気を塞いだ光景を見たことあるか?・・・ないだろう。それは彼らが「いい格好をせず、常に自分を信じて生きている」からなんだ。仲間にさえ家族にさえいい恰好をせず自分の好きなように生きてる者はは強い。そしてぶれない心を持っている者もな。だからまずは君が信じている者をしっかり信じて思うがままに生きてみなさい。答えはその先にあるはずだ・・・。」

僕らはその後少し話をして会議場からでた。
アレクサンドラ達を置いていこうとしたが、彼らは頑なについてくると言い張るので、この街でしっかり変装道具を買って姿がわからないようにしてだ。
アレクサンドラは狼族に見える装備を。
アメリアは猫の獣人に見える装備をした。

僕らは街で一度ダイブアウトをして午後から伯爵邸を目指した・・・。
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