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温泉の都道中後編

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「「じゃぶじゃぶの里」まではどのくらいかかるんだ?」
「徒歩で5時間くらいって聞いたわよ」
「ん。なら1~2時間で付きそう」
「そうね。この子たち本当に早いわ」

 ムギとホップとバクガは爽快に草原を走る。道なりに行ってもいいのだがこの子たちならこっちの方がいいと判断したからだ。固い舗装された地面より柔らかい土の上の方が足を痛めないだろう。

 そしてこの子達は軽く走っているつもりだろうがとても速かった。

 視界には何匹かの魔物が見えるがすべて置き去りにする。LVは「古代の島」でできるだけ上げてきた。なのでここら辺の魔物は弱く感じおそらくドロップアイテムはいいものがないだろう。

 この装備よりいい装備はなかなかお目にかかれない。

 装備は+10というアドバンテージ以上のものはなかなかなく、あってもとても高い。100万G以上は確実だろう。

 ミスリルに限っては加工前で100Gはする。そして加工できる職人が少ない。

 僕らの装備、そしてMr.、とレヴィ、テイラーは現在確実にトップレベルだろう。

 寝坊助ウルフLV24
 ちょい悪ホースLV26
 突撃牛LV30

 こんな感じの魔物ばかりだ。

 僕のLVは47。

 きっとLV上げにもならないだろう。

「のどかねぇ」
「そだねぇ」
「山がきれい」
「そだねぇ」
「いい景色」
「そだねぇ」


 そんな感じの会話ばかりだ。

 皆かなり気を抜いている。

「何か来たわ。大きな鳥」

 クリスの声に皆はっとする。そう言えばAOLの中だった。あまりにのどのどかすぎて忘れていた。

 ……別に背中に感じるアイリスの吐息と胸の感触を楽しんでいたわけじゃないよ?押し付けてくるのは彼女だ。僕は何も悪くない。無罪だ。

 ・ゴシップ好きの鷲 LV24

 大きな鳥の正体は鷲だった。なにかいいスクープは持っているのだろうか?

「グァァ!!」

 残念ながら持っていないようだ。なんて言っているのかわからないし。

 鷲は僕らの頭上を一回りした後どこかに消えていく。

「ねぇ。ここらで休憩にしない?」

 出発してから一時間。

 確かになれない馬上でお尻もいたくなってきた。エリザベスの一言で一度「ムギ」から降りる。

 ムギの頭を撫でてやると気持ちよさそうに目を細める。可愛いやないの。

 うりうりと両手で撫でると嬉しそうに顔を押し付けてくる。すると他二匹も近づいて来て顔をぺろぺろと舐めてくる。

 ゲームの中なので口は臭くなく病気も気にする必要がない。むしろくすぐったい。

 3匹を交互に撫でまわす。

 うりうりううり……。意外と毛がふわふわしていて気持ちいい。いつまでもこうしていたい。

「なるほどねって聞いてる?ウィル?」

 クリスの言葉で我に返る。夢中で撫でまわしていたようだ。

「ごめんごめん。聞いてなかった」

「はぁ。だと思ったわ」
「お兄ちゃん私たちも撫でまわして可愛がって!!」
「ん。なでなでを所望する」
「それは後でリアルでね。まずは食事時にしながら話をしましょう」

 リアルでやりませんよ?

 む~~と膨れるアイリスとエリーゼをほっといて食事の準備をする。馬たちはそこら辺の草を食べている。

 まだ少し肌寒く、見渡す限りに草原に大きな山脈があるといえば僕の中でメニューは決まる。

 食材の加工と買い出しは王都で山ほどやった。2、300人は余裕で食べられるほどに。

 鍋を用意し白ワインを入れる。本場を意識して少し酸味が強いものにする。そしてアルコールが飛んだあと3種類ほどチーズを入れる。ワインが酸味が強いのでできるだけ、まろやかな味わいのする奴だ。

 そしてゆっくりかき混ぜチーズが溶けたら、コショウにナツメグを入れる。

 これで本格チーズフォンデュの完成だ。後は適当にパンや、恐竜の肉、野菜などを並べて完成だ。


「わ~おいしい!!」
「ほんとね!!本格的な味がするわ!!」
「ん。スイスのレストランで食べた味がする」
「ほんと。毎日でも食べたいくらいだわ」

 チーズは女性の味方だ。大抵の人は好きだろう。

「このレシピは昔おじさんたちにスイスに連れて行ってもらったときに教わったレシピだからね。まぁその時は「恐竜の肉」が合うとは聞かなかったけどね」

 僕らは楽しく談笑をしているとエリザベスが真剣な顔つきになる。

「おそらくさっきの鷲は偵察よ。これから大群と戦うんじゃないかしら」
「それにもうすぐ、きっとエリアボスのいるゾーンよ」
「ん。今までの経験からしたらあと10分くらい?」
「そだね!きっと鷲の大群だとアイリスは予想します!!」

 きっとみんな同じ予想だろう……。

 つまり僕らが来たことがゴシップってことか?

 そんな騒ぐような有名人でもないのに……。
 少しエリーゼに触れている感覚に浸っていただけなのに……。

「エリアボスのとこに入ったら馬はどうなるんだ?」
「おそらく「石化」するんじゃないかしら」
「この子たちはパーティに入ってないから戦闘はなしよね」
「ん。この子たちは元から戦闘はできない」
「とりあえず行ってみよー!!」

 皆食べ終わって満足したのか、いい笑顔で立ち上がりかたずけ始める。まぁ確かに行かないとわからないな。

 再びムギに乗る。乗る馬はみんなさっきと同じだ。馬たちは爽快に駆け出した……。

 しばらく走ると視界が歪む。

・ゴシップクィーンな鷲LV38
・ゴシップ好きな鷲LV24×20

 お前がゴシップ取られてんのかい、しかも仲間に。

 アホだな。

「来るわよ!!」

 ムギから降りる間もなく鷲たちは襲い掛かかってくる。

「「「ヒヒヒーーーン!!」」」

 ムギたちは叫び、走り出す。

 このまま戦う気か!?
 しかし好都合だ。相手は早くてなかなかとらえられない。

 が、僕も手が塞がって剣が向けないことに気づく。
 意味ねぇ。

「ん。ウィル、手綱を放して後ろに下がって」
「へ?」

 突然後ろからエリーゼが肩をつかみ僕を飛び越えて前になる。僕はエリーゼによって後ろに下がり、落ちそうになるがエリーゼにつかみ難を逃れる。

 ぷにゅ

「んっ。ウィル。んはっ。そういうのは帰ってからにっ」
「わ、悪い!!」

 思わず胸をもんでしまった。とても、とても柔らかった。

 さて、気を取り直して剣を抜き、すれ違いざまに「かまいたち」で何匹か撃ち落とす。エリーゼの巧みな馬捌きによりこちらはダメージを受けない。ムギも一応鑑定してみるがHPは1000のままだ。

 というか、この中で一番HPが多い。
 心配するだけ無駄かもしれない

 クリスも次々に矢で撃ち落とし、エリザベスは手綱を握りながら器用に片手で杖を振るい魔法で撃ち落として行く。さすが女王様。向こうは心配ないな。

 鷲達は動きが速いが防御力が全くない。LV差もあるからここは楽勝かもしれない。

 攻撃してくるとこを馬の方向転換でかわしながら「かまいたち」で落とす。

 あっという間に残りはゴシップクィーンの一羽になった。

 あまりの速さに驚いたのか、ゴシップクィーンは羽で体を隠し固まり静止する。

 いや、撮らねぇよ?鷲のゴシップなんか興味ないから。鷲の裸見て興奮するってどんな変態なんだ?

 固まる鷲にクリスの燃えた矢が刺さる。

「ギャウウウウウ!!」

 燃えた鷲は叫び羽が全て燃えてしまった。

「ギャウ!!」

 また「見るな」という風に体を隠す鷲。

 だから撮らないよ。この鷲自意識過剰だな。羽のない鷲なんか誰得なんだよ。

 もういいや。飛べないなら一気に畳みかけよう。

 何とか飛んで逃げようとする鷲にエリザベスのファイアウォールで逃げ道をふさぐ。

 相変わらず魔法の使い方がうまい。僕は急いでムギから降り走り寄り、別方向に飛ぼうとする鷲に「捨て身」と「乱れ切り」をする。

 鷲はなすすべなく、特にゴシップもなく、消えていく。

 なんだったんだアイツ。ボスの中で一番アホだったな……。

 いや、今回は馬が合ったからこんなに早く終わったんだ。
 それがなければあのスピードは脅威だったろう。ムギたちをしっかり撫でておこう。

 うりうりうりうり……。
 ふさふさふさ……。

 馬たちはこちらに駆け寄り「撫でて撫でて」と言ってくる。テイマーに切り替えると言葉がわかる。

「う~んもっと撫でて~」
「うは~、そこそこ~。すっごい気持ち~」

 と言っている。……なんて可愛いんだこいつら。

 うりうりううり。
 ふさふさふさ。

 そんな顔しても撫でないからな皆は。

 子供みたいに拗ねんな。

 何で魔法持つわずに僕の心の声がわかるんだ。

 そんなこんなで僕らは「じゃぶじゃぶの里」にたどり着くのだった。

 尚、結局みんなのことも撫でさせられた。
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