30 / 56
テツの休日2
しおりを挟む
「俺の名前はテツだ。地球では35歳、今は20歳だ。よろしくな」
日が真上にあった事もあり、二人は個室付きのレストランに入った。その方が少年も話しやすいだろうし、折角出会った年下の少年に美味いものを食べさせてあげたいというテツの想いもあったからだ。
「ダイスケ、地球では20歳の大学生だった。こっちに来たのは5年前、だからこっちでも今は20歳」
ダイスケは俯きながら、ぽつりぽつりと話し始める。相変わらず声が小さかったので、個室にしてなかったら聞こえなかったな、とテツは苦笑する。
「そうか。5年間も一人で大変だったな。どうやって過ごしてたんだ?」
テツは出来るだけ優しくゆっくりと聞く。こういうタイプには、ちょっとした言動で驚かせ傷つけてしまうからだ。
「さっきの奴らも言ってただろ?薬草採取をしてその日暮らしさ。くそ!折角異世界に気て奴隷ハーレムを作ろうと思っていたのに!あのくそ女神が!」
ダイスケは悔しそうに手を強く握る。奴隷ハーレムという新しいワードが出てきたが、とりあえず無視して話しを進めようとすると、今度は少年から話を振ってきた。
「で?アンタは一体どんなチートを貰ったんだ?どうやったらそんな高価そうな身なりになれる?」
「さっきも言ってたがそのチートってなんだ?」
「はぁ!?くそ女神から貰わなかったか!?チートだよチート!それのおかげでアンタは金を稼いでいるんだろ!?」
彼の話を詳しく聞いて漸く思い出す。「年が少し若返り、少しの力を貰う」そして「なにか欲しい能力を貰う」これがチートというやつらしい。
「ああ、それなら俺はこの「包丁」を貰ったな。よく切れて歯もかけない」
「はぁ!?それだけか?嘘をつくな!どうせ「聖剣」とか「創造魔法」とかもらったんだろ!?それで奴隷ハーレムとか作ってんだろ!?くそ!俺だってこんなはずじゃなかったんだ!英雄になってハーレム作って国を作って王女とかにモテる予定だったのに!」
どうしよう、彼が何を言っているのかよく分からない。あれ?セイケン?政権の事か?政権なんかどうするんだ?ソウゾウ魔法?想像の事か?妄想の事か?妄想魔法ってなんだ?最近の子の流行語か何かか?
手を額に当て、天を仰ぐ。料理しかしてこなかったテツには彼が何を言っているのか分からず、話が長引きそうだと深くため息をつくしかなかった。
「成程な。つまり「ラノベ」ってやつでそれらが「王道」なんだな?」
「なんで日本人なのにラノベしらねぇんだよ。本当におっさんなんだなテツは」
運ばれてきた料理を頬張りながら、ダイスケの話を聞いたテツは漸く彼が何を言っているのか理解できた。
彼が貰ったチートは意外な事に「スマートフォン」だという事だ。見せて貰ったが地球のそれと同様、インターネットに接続す出来るようだ。動力源は電気の代わりに魔力で補えるらしい。どうやらそのラノベでそう言った作品があり、その作品の中ではそれが無敵のアイテムらしいのだが、この世界ではそうではないらしい。
「マップを使えば、近くの魔物や生えてる薬草の位置がわかるんだが、戦闘では全く役に立たない。あのくそ女神に文句言ってやりたいよ」
それでも十分凄いが、と言いたいがテツはそれを飲み込む。折角仲良くなれたんだ。彼を怒らせても何の得にもならない。
彼は地球では太っていて引きこもりだったという。死因は運動不足による心筋梗塞。その為、少し若がえり少しの力を貰っても、元々運動が苦手だった彼が少し力を貰ったところで、こちらの平均と変わらなかったらしい。
彼の目標はとりあえずハーレムを作る事。アドルフと同じだ。チートを使い、奴隷を買ってハーレムを目論んでいた彼は、とりあえずラノベ主人公同様冒険者になった。が、運動が苦手な彼は仲なか成果を上げる事が出来なかった。そこで次に挑戦したのが料理、ラノベでもよく地球の料理を作り、それがウケいつの間にか女の子が寄ってくるといった展開があったらしい。
だがそれはあくまで想像の物だ、とテツは言いたい。そんな事なら三ツ星レストランのシェフにまで上り詰めた自分は何故結婚していないんだと。実際料理ができる男はモテるのかもしれない。だがそれは「ある程度」できる男性だ。本格的にできてしまうと「私より料理が上手い」「作っても美味しいって言われなさそう」などの理由からそもそも敬遠される。
つまり彼は手っ取り早く強くなってお金持ちになってモテたい、そう言いたいのだろう。それを理解するのに既に3時間近く経っている。これがジェネレーションギャップという奴か。
「最後に、大会ってのはなんだ?11時からだ、とか言ってなかったか?」
その話をすると、ダイスケは露骨に嫌そうな顔をする。
「ああ、あれな。料理の大会だよ」
「料理?」
ジュースを木で出来たストローで吸っているダイスケは気が付かないが、テツの目つきが変わる。
「明日あるんだ。料理の大会が。で、昔俺があいつらに話しちまったんだよ。「地球の料理は凄いんだ」って。そしたらそれを覚えていたあいつらが、勝手に大会に申し込んで、しかも予選なしのシード扱いにしやがったんだ!まぁ行かないけどな」
つまり明日11時から決勝戦が始まるという事だ。詳しく話を聞くと、出場者は「流れ人」となっていいて、大会運営側は、ダイスケの事をあまりよく知らないらしい。まぁ子供の嫌がらせといったところだろう。
「ケッ。そんなのに出て大恥かいたら、俺によって来るはずの女たちが寄ってこなくなっちまうよ」
「……なら俺が出る」
「は?」
「なら、俺が出よう。その大会、俺が出る」
馬鹿言うなよ、と言いかけたダイスケは口を開いたまま固まってしまう。何故なら目の前の男性が目をキラキラと光らせて自分を見ているからだ。だが同時に考える。別にいいんじゃないか?別にこいつが負けても自分に何のリスクもない。寧ろ約束は守ったんだ。全て解決じゃないか、と。
「ああ、いいぜ。地球人の力、見せてやれよ」
「任せろ。交渉成立だな」
二人はがっちりと握手をして、話は纏まった。
だが大会は明日だ。今はまだ昼過ぎ、食材も大会側が用意するらしいので、二人はダイスケがいつもやっている薬草採取のクエストに出かけることにした。
「ああ、こっちだ。今日はこっちに沢山生えている」
もう見ることもないだろうと思っていたスマートフォンを片手に、ダイスケはテツを先導する。スマートフォンのマップは「探す対象を正確に入力しなければならない」らしいので、組織の事を調べようとしたテツは断念した。
ネット検索で地球人の知識を調べられ、マップで対象の場所がわかる。十分チートだなと思いながらテツは彼に付いていった。
「なぁ、なんで引きこもっていたんだ?大学でいじめられたか?」
テツの何気ない質問にダイスケは顔を顰めるが、それでも答えてくれた。ちょっと変わった性格をしているが、この子は悪い事ではない。それにこの数時間で大分心も開いてくれたようだ。
「確かに虐められた時期はあったが、そんな大したことじゃなかった。一部のグループから無視されたくらいだ」
じゃあなんで?と問おうと思ったが、その前にダイスケは色々と話はじめた。
「地球ってクソみたいな世界だったろ?子供の頃から朝から晩まで勉強させられて競わされて。友達だって将来つるむことなんてない仮の物。見掛け倒しの友情だろ?何もかも疲れたのさ。頑張ったって無駄。かっこ悪いだけだろ」
彼の両親は毎日喧嘩ばかりだったそうだ。喧嘩は毎日平行線、そして両親の怒りは一人息子のダイスケに向けられた。虐待はなかったが、毎日意味もなく怒鳴られ、学校に行けば仮初の友情に何のためか分からない勉強の毎日。
「両親はかなりいい大学を出てさ。それでも結果、会社の下っ端、安月給に借金だらけ。世の中そんなもんだろ。年収1000万以上貰っている人間なんか日本全体で2%だけ。あとの人間は毎日馬鹿な上司に怒られながらぺこぺこ頭下げてアリンコみたいに働いてる。くだらなくないか?何のために人生の四分の一も使って勉強してるのか。結局努力したって無駄なのさ。そんなかっこ悪い事するなら、引きこもって好きなゲームしてラノベ読んでた方がマシだね」
成程な、そういう理由かとテツは納得する。つまり、彼は早々に諦めてしまったんだ。見限ってしまったんだ。人生に。世界に。大人としてはちゃんと説教して構成させてあげたいが、でも気持ちは分からんでもない。
「なんだよ。他の大人たちみたいに説教しないのか?引きこもって何になる、とか、立派な大人にならないといけません。みたいに。だったらまずは立派な大人ってやつを見せてくれよな。そんな奴見たことねぇよ。TVに映る政治家たちだって悪さばっかりしてんじゃん。芸能人は毎日不倫に麻薬のニュースばかり。どこに立派な人間がいるんだよ。働いてあんなクズになるくらいなら引きこもって犯罪に手を染めない方がまともだ」
最近の子供は聡い。大人たちはよく「最近の子供は」と言うが、寧ろいい年した大人たちより子供たちの方が賢いと思う事は沢山ある。
大人達が必死に人差し指でキーボードを打っているのに対し、子供はすぐに順応しPCを使いこなす。小学生のころからプログラミングを学び使いこなし、外国語だって喋れる。考え方も自由で、その可能性は無限大だ。今の大人たちが夢見た世界だって、彼らが大人になったらあっさり実現させてしまうだろう。
「何黙ってんだよ。ほら、着いたぜ?」
気が付けば辺り一面に葉の尖った特徴的な草が生い茂っていた。これが薬草なのだろう。二人は黙々とそれを切り取っていく。根っこからとったら次が生えなくなるからだそうだ。
彼は悪くない。いや、引きこもり、自分の可能性を否定してしまったことは良くない事だ。彼にだって、自分では知らない何かがあるだろう。人間環境が大事だ。環境で人間の性格なんて簡単に変わってしまう。彼が悪いんじゃない、彼の居た環境がたまたま悪かっただけだ。だが、だからといって諦めてしまうのは良くない。聡いからこそ、頭がいいからこそ、彼には色々見えすぎているのだろう。彼にはかっこいい大人の背中が必要だったんだ。一人、一人だけでいいから、彼に未来を見せてくれる大人が近くにいれば、それだけで彼は変われたんだろう。
だがテツにはうまく彼を説得できなかった。なんて言葉をかけていいのか分からなかった。その日は黙々と薬草を採取し、そしてギルドに足を運んだあと、宿に泊まることにした。
日が真上にあった事もあり、二人は個室付きのレストランに入った。その方が少年も話しやすいだろうし、折角出会った年下の少年に美味いものを食べさせてあげたいというテツの想いもあったからだ。
「ダイスケ、地球では20歳の大学生だった。こっちに来たのは5年前、だからこっちでも今は20歳」
ダイスケは俯きながら、ぽつりぽつりと話し始める。相変わらず声が小さかったので、個室にしてなかったら聞こえなかったな、とテツは苦笑する。
「そうか。5年間も一人で大変だったな。どうやって過ごしてたんだ?」
テツは出来るだけ優しくゆっくりと聞く。こういうタイプには、ちょっとした言動で驚かせ傷つけてしまうからだ。
「さっきの奴らも言ってただろ?薬草採取をしてその日暮らしさ。くそ!折角異世界に気て奴隷ハーレムを作ろうと思っていたのに!あのくそ女神が!」
ダイスケは悔しそうに手を強く握る。奴隷ハーレムという新しいワードが出てきたが、とりあえず無視して話しを進めようとすると、今度は少年から話を振ってきた。
「で?アンタは一体どんなチートを貰ったんだ?どうやったらそんな高価そうな身なりになれる?」
「さっきも言ってたがそのチートってなんだ?」
「はぁ!?くそ女神から貰わなかったか!?チートだよチート!それのおかげでアンタは金を稼いでいるんだろ!?」
彼の話を詳しく聞いて漸く思い出す。「年が少し若返り、少しの力を貰う」そして「なにか欲しい能力を貰う」これがチートというやつらしい。
「ああ、それなら俺はこの「包丁」を貰ったな。よく切れて歯もかけない」
「はぁ!?それだけか?嘘をつくな!どうせ「聖剣」とか「創造魔法」とかもらったんだろ!?それで奴隷ハーレムとか作ってんだろ!?くそ!俺だってこんなはずじゃなかったんだ!英雄になってハーレム作って国を作って王女とかにモテる予定だったのに!」
どうしよう、彼が何を言っているのかよく分からない。あれ?セイケン?政権の事か?政権なんかどうするんだ?ソウゾウ魔法?想像の事か?妄想の事か?妄想魔法ってなんだ?最近の子の流行語か何かか?
手を額に当て、天を仰ぐ。料理しかしてこなかったテツには彼が何を言っているのか分からず、話が長引きそうだと深くため息をつくしかなかった。
「成程な。つまり「ラノベ」ってやつでそれらが「王道」なんだな?」
「なんで日本人なのにラノベしらねぇんだよ。本当におっさんなんだなテツは」
運ばれてきた料理を頬張りながら、ダイスケの話を聞いたテツは漸く彼が何を言っているのか理解できた。
彼が貰ったチートは意外な事に「スマートフォン」だという事だ。見せて貰ったが地球のそれと同様、インターネットに接続す出来るようだ。動力源は電気の代わりに魔力で補えるらしい。どうやらそのラノベでそう言った作品があり、その作品の中ではそれが無敵のアイテムらしいのだが、この世界ではそうではないらしい。
「マップを使えば、近くの魔物や生えてる薬草の位置がわかるんだが、戦闘では全く役に立たない。あのくそ女神に文句言ってやりたいよ」
それでも十分凄いが、と言いたいがテツはそれを飲み込む。折角仲良くなれたんだ。彼を怒らせても何の得にもならない。
彼は地球では太っていて引きこもりだったという。死因は運動不足による心筋梗塞。その為、少し若がえり少しの力を貰っても、元々運動が苦手だった彼が少し力を貰ったところで、こちらの平均と変わらなかったらしい。
彼の目標はとりあえずハーレムを作る事。アドルフと同じだ。チートを使い、奴隷を買ってハーレムを目論んでいた彼は、とりあえずラノベ主人公同様冒険者になった。が、運動が苦手な彼は仲なか成果を上げる事が出来なかった。そこで次に挑戦したのが料理、ラノベでもよく地球の料理を作り、それがウケいつの間にか女の子が寄ってくるといった展開があったらしい。
だがそれはあくまで想像の物だ、とテツは言いたい。そんな事なら三ツ星レストランのシェフにまで上り詰めた自分は何故結婚していないんだと。実際料理ができる男はモテるのかもしれない。だがそれは「ある程度」できる男性だ。本格的にできてしまうと「私より料理が上手い」「作っても美味しいって言われなさそう」などの理由からそもそも敬遠される。
つまり彼は手っ取り早く強くなってお金持ちになってモテたい、そう言いたいのだろう。それを理解するのに既に3時間近く経っている。これがジェネレーションギャップという奴か。
「最後に、大会ってのはなんだ?11時からだ、とか言ってなかったか?」
その話をすると、ダイスケは露骨に嫌そうな顔をする。
「ああ、あれな。料理の大会だよ」
「料理?」
ジュースを木で出来たストローで吸っているダイスケは気が付かないが、テツの目つきが変わる。
「明日あるんだ。料理の大会が。で、昔俺があいつらに話しちまったんだよ。「地球の料理は凄いんだ」って。そしたらそれを覚えていたあいつらが、勝手に大会に申し込んで、しかも予選なしのシード扱いにしやがったんだ!まぁ行かないけどな」
つまり明日11時から決勝戦が始まるという事だ。詳しく話を聞くと、出場者は「流れ人」となっていいて、大会運営側は、ダイスケの事をあまりよく知らないらしい。まぁ子供の嫌がらせといったところだろう。
「ケッ。そんなのに出て大恥かいたら、俺によって来るはずの女たちが寄ってこなくなっちまうよ」
「……なら俺が出る」
「は?」
「なら、俺が出よう。その大会、俺が出る」
馬鹿言うなよ、と言いかけたダイスケは口を開いたまま固まってしまう。何故なら目の前の男性が目をキラキラと光らせて自分を見ているからだ。だが同時に考える。別にいいんじゃないか?別にこいつが負けても自分に何のリスクもない。寧ろ約束は守ったんだ。全て解決じゃないか、と。
「ああ、いいぜ。地球人の力、見せてやれよ」
「任せろ。交渉成立だな」
二人はがっちりと握手をして、話は纏まった。
だが大会は明日だ。今はまだ昼過ぎ、食材も大会側が用意するらしいので、二人はダイスケがいつもやっている薬草採取のクエストに出かけることにした。
「ああ、こっちだ。今日はこっちに沢山生えている」
もう見ることもないだろうと思っていたスマートフォンを片手に、ダイスケはテツを先導する。スマートフォンのマップは「探す対象を正確に入力しなければならない」らしいので、組織の事を調べようとしたテツは断念した。
ネット検索で地球人の知識を調べられ、マップで対象の場所がわかる。十分チートだなと思いながらテツは彼に付いていった。
「なぁ、なんで引きこもっていたんだ?大学でいじめられたか?」
テツの何気ない質問にダイスケは顔を顰めるが、それでも答えてくれた。ちょっと変わった性格をしているが、この子は悪い事ではない。それにこの数時間で大分心も開いてくれたようだ。
「確かに虐められた時期はあったが、そんな大したことじゃなかった。一部のグループから無視されたくらいだ」
じゃあなんで?と問おうと思ったが、その前にダイスケは色々と話はじめた。
「地球ってクソみたいな世界だったろ?子供の頃から朝から晩まで勉強させられて競わされて。友達だって将来つるむことなんてない仮の物。見掛け倒しの友情だろ?何もかも疲れたのさ。頑張ったって無駄。かっこ悪いだけだろ」
彼の両親は毎日喧嘩ばかりだったそうだ。喧嘩は毎日平行線、そして両親の怒りは一人息子のダイスケに向けられた。虐待はなかったが、毎日意味もなく怒鳴られ、学校に行けば仮初の友情に何のためか分からない勉強の毎日。
「両親はかなりいい大学を出てさ。それでも結果、会社の下っ端、安月給に借金だらけ。世の中そんなもんだろ。年収1000万以上貰っている人間なんか日本全体で2%だけ。あとの人間は毎日馬鹿な上司に怒られながらぺこぺこ頭下げてアリンコみたいに働いてる。くだらなくないか?何のために人生の四分の一も使って勉強してるのか。結局努力したって無駄なのさ。そんなかっこ悪い事するなら、引きこもって好きなゲームしてラノベ読んでた方がマシだね」
成程な、そういう理由かとテツは納得する。つまり、彼は早々に諦めてしまったんだ。見限ってしまったんだ。人生に。世界に。大人としてはちゃんと説教して構成させてあげたいが、でも気持ちは分からんでもない。
「なんだよ。他の大人たちみたいに説教しないのか?引きこもって何になる、とか、立派な大人にならないといけません。みたいに。だったらまずは立派な大人ってやつを見せてくれよな。そんな奴見たことねぇよ。TVに映る政治家たちだって悪さばっかりしてんじゃん。芸能人は毎日不倫に麻薬のニュースばかり。どこに立派な人間がいるんだよ。働いてあんなクズになるくらいなら引きこもって犯罪に手を染めない方がまともだ」
最近の子供は聡い。大人たちはよく「最近の子供は」と言うが、寧ろいい年した大人たちより子供たちの方が賢いと思う事は沢山ある。
大人達が必死に人差し指でキーボードを打っているのに対し、子供はすぐに順応しPCを使いこなす。小学生のころからプログラミングを学び使いこなし、外国語だって喋れる。考え方も自由で、その可能性は無限大だ。今の大人たちが夢見た世界だって、彼らが大人になったらあっさり実現させてしまうだろう。
「何黙ってんだよ。ほら、着いたぜ?」
気が付けば辺り一面に葉の尖った特徴的な草が生い茂っていた。これが薬草なのだろう。二人は黙々とそれを切り取っていく。根っこからとったら次が生えなくなるからだそうだ。
彼は悪くない。いや、引きこもり、自分の可能性を否定してしまったことは良くない事だ。彼にだって、自分では知らない何かがあるだろう。人間環境が大事だ。環境で人間の性格なんて簡単に変わってしまう。彼が悪いんじゃない、彼の居た環境がたまたま悪かっただけだ。だが、だからといって諦めてしまうのは良くない。聡いからこそ、頭がいいからこそ、彼には色々見えすぎているのだろう。彼にはかっこいい大人の背中が必要だったんだ。一人、一人だけでいいから、彼に未来を見せてくれる大人が近くにいれば、それだけで彼は変われたんだろう。
だがテツにはうまく彼を説得できなかった。なんて言葉をかけていいのか分からなかった。その日は黙々と薬草を採取し、そしてギルドに足を運んだあと、宿に泊まることにした。
10
お気に入りに追加
1,897
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる