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第105話 グライムに教えられる 25
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飽きる事無く突き出される手刀。
それは那念が物心つく頃から叩き込まれた格闘術の基本だった。
格闘術――いやその先に求められていたのは殺人術であり、ニアンは両親の顔も覚えてない頃にある組織に売られ、将来を優秀な殺し屋となるべく育て上げられた。
那念という名前はその組織で付けられたものでは無く、組織から殺し屋として――いや、商品として派遣されたマフィア組織で名乗っていた名前の一つだ。
何個目の名前かはニアン本人も覚えていなかった。
飽きる事無く突き出される手刀。
石造りの壁に向かい、皮膚が裂けようと、爪が割れようと、指が折れようと叩き込み鍛えてきた。
ニアンと同じように売られたり拾われたりした子供達と横並びになり、何千何万と叩き込み、鍛えてきた。
幼き手刀はやがて、石を砕き、鉄をも穿《つらぬ》いた。
そして、派遣された末に遭った兄弟弟子も穿いた。
兄弟子も、姉弟子も、弟弟子も、妹弟子も。
名乗らなくてもわかる同門の構え。
両親に売られたニアンにとっていわば家族だと言える存在の彼ら彼女らを、ニアンは自分が生きてく為にと、組織に教えられるがままに穿いていった。
瞳に焼きついた彼ら彼女らの最期の表情は、何の感情も無い、ただ無表情であった。
生への懇願も、死への諦めも抱かない、ただそうであると受け入れた最期。
自分もこうやって死ぬのかと、何人目かの家族を殺した後にニアンはふと疑問に思った。
疑問に思えど、受け入れてる自分もいる。
受け入れてはいるが、疑問に思う自分もいる。
何の為にこのような死に方をするのか。
腕の中で息を引き取る兄弟子を看取った後、ニアンの疑問は深まっていった。
それからニアンは逃げ出す形で、所属していたマフィア組織を抜け出した。
逃げ出した先に何があるかはわからないが、何かを得るまではあの様な死に方は出来ない。
生き方は限られている、仕込まれたものは殺人術のみだ。
マフィア組織で得た知識を使って、裏の世界で生きていくと覚悟を決めた。
飽きる事無く突き出される手刀。
それを回避しながら勝は反撃の瞬間を待っていた。
ニアンはこれまで戦った誰よりもタフな相手だ、体力が無尽蔵にあるんじゃないかと止まない攻撃に思う。
だけど、勝が与えたダメージは確かにニアンの動きに影響を与えていた。
僅かな隙も生むことが難しかった左足のダメージが、じわじわとニアンの踏み込みを甘くしている。
半拍ズラすようなニアンの独特な動きも、そのリズムを乱し始めていて、繰り出される手刀も僅かに避けやすくなってきていた。
一撃、手刀をまともにくらったおかげで、右肩は痺れ右腕は未だに力が入らず動かなかった。
殴り合い、というわけにもいかないのならば。
勝は僅かに生まれだした反撃の隙を掴む。
狙いはニアンの右足、左のローキック。
手刀を避けた身体を器用に捻り、放ち、当てる。
頭に浮かべたのは、昨日受けた須藤のローキックだ。
重ねて当てることで折りにいく、下段回し蹴り。
バッチン、と脚と脚がぶつかり合う音。
たまらずニアンが体勢を崩しながら後ろへと跳ねる。
勝はそれをすぐに追いかけず、開いた距離に合わせた次の構えを取る。
「俺はさ、十六の時にこの街に来て以来、ずっと喧嘩の毎日でさ――」
急に何を言い出したのかとニアンは勝を訝しげに見ていた。
勝はそんなニアンに構うことなく言葉を続ける。
聞こうが聞くまいが構いはしない、単なる頭の整理だ。
掴んだ勝機の確認だ。
「それまで格闘技とか習ってきたわけじゃねぇからさ、この街でチンピラ相手に喧嘩し続けるのは大変でさ。でもこれまで何とか勝ち続けてこれてんだ」
「何が言いたいか知らんが、お前の話に付き合う気は無いぞ」
飽きる事無く突き出す手刀――いやもう右腕が動かない以上、ニアンには手刀を繰り出すしか有効な一手目が無かった。
折られた右腕を何度と強引に動かしたが、開花双打掌の威力が弱かった事でハッキリとした。
いや、それ以前の掌底へと動かした右腕がそもそも機能してなかった。
今ニアンの目の前に勝が立っているのは、もう無理やり動かした右腕では添え物にもならないという証左であった。
「アンタに勝つ為の方法が何かって、ずっと考えててさ。ここまでじっくり勝ち方を考えたってのが初めてで、俺は今までを振り返ったわけ――」
突き出させれる手刀を避け、勝はローキックを狙いに前踏み込み身体を捻る。
ニアンはそれを警戒して即座に手刀を引くと、半歩下がった。
「格闘技を全く知らない俺はさ、戦ったヤツから学んできたんだよ。不器用だからさ、ガッツリ食らわないと真似出来ないんだけどさ」
ローキックの軌道を、ミドルキックの軌道へと変える勝。
頭に浮かべたのは、昨日戦った大男の大木の様な蹴り。
真似する相手との体格差を、踏み込みや捻りなど、その優れた身体能力で補う。
大木が――勝の放つ中段回し蹴りが、ニアンの身体を捉えた。
ニアンの身体が強い衝撃に押し飛ばされる。
「この受けてきた痛みがっ! 俺の強みだって事だ!!」
満身創痍の身体、刻みつけられた戦いの経験値。
それは那念が物心つく頃から叩き込まれた格闘術の基本だった。
格闘術――いやその先に求められていたのは殺人術であり、ニアンは両親の顔も覚えてない頃にある組織に売られ、将来を優秀な殺し屋となるべく育て上げられた。
那念という名前はその組織で付けられたものでは無く、組織から殺し屋として――いや、商品として派遣されたマフィア組織で名乗っていた名前の一つだ。
何個目の名前かはニアン本人も覚えていなかった。
飽きる事無く突き出される手刀。
石造りの壁に向かい、皮膚が裂けようと、爪が割れようと、指が折れようと叩き込み鍛えてきた。
ニアンと同じように売られたり拾われたりした子供達と横並びになり、何千何万と叩き込み、鍛えてきた。
幼き手刀はやがて、石を砕き、鉄をも穿《つらぬ》いた。
そして、派遣された末に遭った兄弟弟子も穿いた。
兄弟子も、姉弟子も、弟弟子も、妹弟子も。
名乗らなくてもわかる同門の構え。
両親に売られたニアンにとっていわば家族だと言える存在の彼ら彼女らを、ニアンは自分が生きてく為にと、組織に教えられるがままに穿いていった。
瞳に焼きついた彼ら彼女らの最期の表情は、何の感情も無い、ただ無表情であった。
生への懇願も、死への諦めも抱かない、ただそうであると受け入れた最期。
自分もこうやって死ぬのかと、何人目かの家族を殺した後にニアンはふと疑問に思った。
疑問に思えど、受け入れてる自分もいる。
受け入れてはいるが、疑問に思う自分もいる。
何の為にこのような死に方をするのか。
腕の中で息を引き取る兄弟子を看取った後、ニアンの疑問は深まっていった。
それからニアンは逃げ出す形で、所属していたマフィア組織を抜け出した。
逃げ出した先に何があるかはわからないが、何かを得るまではあの様な死に方は出来ない。
生き方は限られている、仕込まれたものは殺人術のみだ。
マフィア組織で得た知識を使って、裏の世界で生きていくと覚悟を決めた。
飽きる事無く突き出される手刀。
それを回避しながら勝は反撃の瞬間を待っていた。
ニアンはこれまで戦った誰よりもタフな相手だ、体力が無尽蔵にあるんじゃないかと止まない攻撃に思う。
だけど、勝が与えたダメージは確かにニアンの動きに影響を与えていた。
僅かな隙も生むことが難しかった左足のダメージが、じわじわとニアンの踏み込みを甘くしている。
半拍ズラすようなニアンの独特な動きも、そのリズムを乱し始めていて、繰り出される手刀も僅かに避けやすくなってきていた。
一撃、手刀をまともにくらったおかげで、右肩は痺れ右腕は未だに力が入らず動かなかった。
殴り合い、というわけにもいかないのならば。
勝は僅かに生まれだした反撃の隙を掴む。
狙いはニアンの右足、左のローキック。
手刀を避けた身体を器用に捻り、放ち、当てる。
頭に浮かべたのは、昨日受けた須藤のローキックだ。
重ねて当てることで折りにいく、下段回し蹴り。
バッチン、と脚と脚がぶつかり合う音。
たまらずニアンが体勢を崩しながら後ろへと跳ねる。
勝はそれをすぐに追いかけず、開いた距離に合わせた次の構えを取る。
「俺はさ、十六の時にこの街に来て以来、ずっと喧嘩の毎日でさ――」
急に何を言い出したのかとニアンは勝を訝しげに見ていた。
勝はそんなニアンに構うことなく言葉を続ける。
聞こうが聞くまいが構いはしない、単なる頭の整理だ。
掴んだ勝機の確認だ。
「それまで格闘技とか習ってきたわけじゃねぇからさ、この街でチンピラ相手に喧嘩し続けるのは大変でさ。でもこれまで何とか勝ち続けてこれてんだ」
「何が言いたいか知らんが、お前の話に付き合う気は無いぞ」
飽きる事無く突き出す手刀――いやもう右腕が動かない以上、ニアンには手刀を繰り出すしか有効な一手目が無かった。
折られた右腕を何度と強引に動かしたが、開花双打掌の威力が弱かった事でハッキリとした。
いや、それ以前の掌底へと動かした右腕がそもそも機能してなかった。
今ニアンの目の前に勝が立っているのは、もう無理やり動かした右腕では添え物にもならないという証左であった。
「アンタに勝つ為の方法が何かって、ずっと考えててさ。ここまでじっくり勝ち方を考えたってのが初めてで、俺は今までを振り返ったわけ――」
突き出させれる手刀を避け、勝はローキックを狙いに前踏み込み身体を捻る。
ニアンはそれを警戒して即座に手刀を引くと、半歩下がった。
「格闘技を全く知らない俺はさ、戦ったヤツから学んできたんだよ。不器用だからさ、ガッツリ食らわないと真似出来ないんだけどさ」
ローキックの軌道を、ミドルキックの軌道へと変える勝。
頭に浮かべたのは、昨日戦った大男の大木の様な蹴り。
真似する相手との体格差を、踏み込みや捻りなど、その優れた身体能力で補う。
大木が――勝の放つ中段回し蹴りが、ニアンの身体を捉えた。
ニアンの身体が強い衝撃に押し飛ばされる。
「この受けてきた痛みがっ! 俺の強みだって事だ!!」
満身創痍の身体、刻みつけられた戦いの経験値。
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