上 下
13 / 31

《とある女神の愁嘆》

しおりを挟む
 どうして…どうしてこんな事に…!

 真白な光は己の色。見慣れた物のはずだが、そこに混じる金がそれを否定する。

 熱いのか痛いのかよくわからない。
 神は苦痛など感じないはずなのに。神に苦痛など与えられるはずないのに。

 それを与えられるのは同格の者のみ。

 美しい私の姿が消えていく…。

 何故? と問えど、応えは無い。

 ただただ、強き怒りと悲しみと苦しみに呑まれていくーーー






 私が『神』としてこの『世界』へ送られたのはいつの事だったか。
 ただ、私にとっては初めての『経験』で、同じように初めて『世界』を任される幾人かと、手助けのためのベテランがいると聞いていた。

 『天上』にて他の神々と顔を合わせた際、もう『世界』は『眷族』を降ろすのみまで創り上げられており、手間が省けたと思った。

 各自で己の『眷族』となるモノを創る段になって、やはり私は己と同じようなカタチの者たちにすべしと主張した。
 だって、私は美しいもの。
 他の神々も少し困った顔をしたけど…特に、獣の姿を持つ女神は大分ゴネたけど、結局私の言う通りに賛同したわ。そりゃそうよね、あの姿は美しく無いもの。
 唯一、最古参の、一番力のある男神だけは首を縦に振らなかった。腹が立ったけど、私じゃ勝てないから放っておいた。


 創り上げた『眷族』の出来にとても満足したわ。
 私と同じようなカタチ。でも、私ほど美しくはしない。まぁ私の美しさは創れないけど。女神だもの。

 程々の力・程々の美しさ・程々の賢さ。

 『私』という存在を、頼り、崇めさせなければいけないんだもの。際立つモノは不要だわ。



 そして、『世界』に『眷族』たちが繁栄した。





 好き勝手に『地上』に降りるわけにはいかないから、『天上』から眺めるだけ。つまらない。何もする事が無い。
 ちょっと『魔素』の調整を疎かにしただけなのに、最近じゃ私に手を出させないようにしてるっぽい。仲間外れとか酷いわ。
 『転生』する魂の選別にも携わらせてくれない。私を他の世界の『神』に会わせないようにしてる。酷すぎるわ。

 『力』が足りない。

 暇すぎて『地上』ばっかり見てる。
 『眷族』たちはそれなりに楽しそう。
 『眷族』からの『力』が流れてくるのがわかる。きっと他の神たちも感じているのだろう。どの『眷族』たちもそれぞれの『創造主』へ祈りを捧げているのがわかる。
 でも…

 気に入らないわ。

 私と同じような姿形をした『眷族』たち。
 そう、同じような見た目なのよ。

 なのに、どうして私の『眷族』より強いのかしら? 美しいのかしら? 賢いのかしら?

 そして…信仰する心流れる力が強いのかしら?

 気に入らないわーーー



 私はとてもすごい『神』なのに。美しく強い『神』なのよ。
 だから、私の『眷族』も『特別』になったって構わないわよね。他の『眷族』たちが持たない『力』を与えましょう。
 そうすれば、私に対する『信仰心』も強まるわ。

 ほら、ちょっと手を貸すだけで、私の『眷族』はとても優秀。他の『眷族』よりずっとずっと『強く』なったわ。もちろん私も『強く』なった。ふふ、いい気分だわ。

 強くなった私は、『界』を渡る事も容易になった。あちこちの『世界』をこっそり覗きに行く。色んな『世界』があるけれど、やっぱりお気に入りは『ヒト』が『力』を持つ世界。
 特に、古く強大な神が治めている、『ヒト』のみの信仰を集める世界。『ヒト』たちの中では色んな『神』を信仰してるつもりみたいだけど…カタチを変えた『一柱の神』なだけ。たった一人が崇められている『世界』。

 羨ましいわ…。


 …そうだわ。私もそうなれるようにすれば良いのよ!
 だって、私は偉大なる『神』だもの!




 ほんの少し手を貸すだけで、『眷族』たちは強くなる。
 『転生』だけじゃなく、他世界からそのまま『ヒト』を呼べば、さらに良い刺激になる。
 あぁ、素敵! 私の思い描く『世界』にもうすぐなるはずだわ!


 集まる! 集まってくる! 今まで他に流れてしまっていた、『私』への『力』が!


 素晴らしいわ! もう他の誰よりも、私は『強い神』になれた!!
 もう、この『世界』は私だけでも治めていける!!
 邪魔なヤツらは要らないわ!
 そうね、私の『眷族』より美しく、賢い『眷族』を創った女神たちは『消して』しまいましょう。そして、あのケダモノ女神は…どうでも良いわね。『力』を削って…私に逆らえないよう『枷』をつけて…でも、ここに居られるのも目障りだから『地上』に堕としましょう。
 残りの男神が煩いわね。無視してたら居なくなったわ。

 …あぁ、でも、あの最古参の神だけは残してやろうかしら。『世界』の面倒な管理を押し付けるためだけに。
 …決して堕とせなかったわけじゃないわ。情けよ、情け。




 なんて素敵なの! 私の『世界』!!






 ーーーおかしいわ。どうして? 何がいけなかったの?

 あの時もいつもと同じだったわ。ただちょっと、顕現するところを間違っただけ。
 仕方ないわ。あの『世界』の『神』が、最近私が来るのを警戒してるみたいだから、いつもより『力』を絞って行動してたせいだもの。
 顕現してすぐ目の前にあんな大きなモノが来るなんて。ビックリしたけどちゃんと避けたわ。でも、誰かにぶつかっちゃった。あんなところにいるのが悪いのよ。鈍臭いわね。
 すぐに姿を隠して、次の転移者探し本来の目的のために移動しようと思ったのに…

 何だかよくわからない状態の魂があるなんて…!!

 さすがに放置したらあっちの『神』にバレちゃうわよね…。仕方ない、この魂だけ持って、ほとぼりが冷めるまでここには来ないようにしよう。
 あ、でも持って帰ってきたはいいけど、どうしようかな、コレ。最古参の『神』に知られちゃったけど…口うるさいわねぇ…どうにかすればいいんでしょ? え? まだ繋がってる? どうでもいいわよ。
 あ、『器』があるわ。アレに入れちゃえば良いわね。ちょうど死にそうだし、適応しても『魔の森』ならすぐ食われるわ、きっと。手間が省けて一石二鳥!
 私ってば頭いいわ。


 全部全部、終わったと思ったのよ。何の問題も無いと思ってたの。
 なのに、少し休んで、起きてみたら、狭間別空間にあの時の『魂』がいた。『器』に適応して。

 驚いたわ。

 適応しただけでなく、『本体』が死んだ消えたにも関わらず消失しないなんて。
 わざわざ『器』を選んだにも関わらず生き残るなんて…悪運が強すぎだわ。

 でも、邪魔なのよね。

 うん、邪魔だもの。消しちゃえばいいわ。
 だってもうあっちの世界との繋がりもないんだもの。不要なモノだわ。



 なのに…なのに…! 何故?! 何故なの?!


 ーーー『私』が、消えていくーーー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

スキル調味料は意外と使える

トロ猫
ファンタジー
2024.7.22頃 二巻出荷予定 2023.11.22 一巻刊行 八代律(やしろ りつ)は、普通の会社員。 ある日、女子大生と乗ったマンションのエレベーター事故で死んでしまう。 気がついたら、真っ白な空間。目の前には古い不親切なタッチパネル。 どうやら俺は転生するようだ。 第二の人生、剣聖でチートライフ予定が、タッチパネル不具合で剣聖ではなく隣の『調味料』を選んでしまう。 おい、嘘だろ! 選び直させてくれ!

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

クラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~

空地大乃
ファンタジー
「殺すと決めたら殺す。容赦なく殺す」 クラスで酷いいじめを受けていた猟牙はある日クラスメート共々異世界に召喚されてしまう。異世界の姫に助けを求められクラスメート達に特別なスキルが与えられる中、猟牙にはスキルが一切なく、無能として召喚した姫や王からも蔑まされクラスメートから馬鹿にされる。 しかし実は猟牙には暗殺者としての力が隠されており次々とクラスメートをその手にかけていく。猟牙の強さを知り命乞いすらしてくる生徒にも一切耳を傾けることなく首を刎ね、心臓を握り潰し、頭を砕きついには召喚した姫や王も含め殺し尽くし全てが終わり血の海が広がる中で猟牙は考える。 「そうだ普通に生きていこう」と――だが猟牙がやってきた異世界は過酷な世界でもあった。Fランク冒険者が行う薬草採取ですら命がけな程であり冒険者として10年生きられる物が一割もいないほど、な筈なのだが猟牙の暗殺者の力は凄まじく周りと驚かせることになり猟牙の望む普通の暮らしは別な意味で輝かしいものになっていく――

処理中です...