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どういうことだってばよ!
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『…どういう事…?』
眼下に広がるのは見慣れた風景。ただ、自分の視点がいつもより高い位置にいるせいで、慣れたはずの景色が違って見える。
『何が…あったっけ…? そう…信号待ちしてて…』
いつものように、近所のスーパーへ買い物へ出かけた。子どもたちが学校と幼稚園へ行ってる間に、食べたがっていたお菓子を買っておこうと思って。
製菓コーナーで目的の物を二つずつ買って、ついでに買い置き用のマヨネーズと、安かったからピーマンも。精算を済ませて、帰途について…最初の交差点で信号待ちをしてた。
今日は、梅雨の晴れ間で。陽射しの強さに思わず手を翳しながら視線を上げたその先にーーー
『…そうだ。トラックが走って来てて…それでーーー』
何となく右側から走って来たトラックに目を向けた時…
『トラックの前方にいきなり何か現れたんだわ!』
そう、いきなり。何も無い空間から白っぽい何かが急に現れ…
こっちに突入してきたのである。
『おっもいだした!! そんで、その白っぽいヤツが私に激突したんだったわ!!』
そして、気を失って…目を覚まして見ればーーー
『何で!『私』が! あっちにいるのよ!!』
…眼下では、同じように信号待ちをしていた人たちに助け起こされてお礼を言っている自分の姿が見えていたのだ。
『どういう事よーーー!!』
叫んだ声は、かなりな声量があったはずだが、誰一人反応する事なく、何と『自分自身』は元気に信号を渡って帰っていくでは無いか。
ついていく事も出来ない、身動きが取れない。どうしたらいい? どうしたら『元』に戻れる?
『待って! ねぇ、待ってったら!』
あぁ、『私』が行ってしまう…!
何か、叫んだ気がする。何を言ったか自分でもわからなかったけど。
それを最後に、私の記憶は途切れたーーー
ゆら…ゆら…
何だか緩く身体が揺れている気がする。小さな船に乗ってるかのよう。
遠くで誰かが言い争っているような声。何を言っているのか、男なのか女なのかもよく分からない。
私は…今どうなっているんだろう…
何があったんだっけ…?
何も…わからない
ただ、逆らう事も出来ず、揺られるだけ
目を開けているのか閉じているのか…それすら認識できないけど…あぁ、何だろう…真っ白な…真っ白な光がーーー
「………」
目が、覚めた。いや、意識が戻った、と言うべきか…?
インフルエンザで寝ていた時か、結膜炎の時か…似たようなことがあったな…
目が、中々開かない。
目脂で固まってるんじゃ無いかな…。目を擦ろうと手を上げようとするが、上手く動かない。寝てる間身体の下敷きにして痺れてる…?
何とか頑張って瞼をこじ開けた私の目に映ったのは…天を覆う木々の枝。隙間から僅かに見える空。そして鼻を掠める青臭い緑のにおい。
「………」
え、どこここ? 何? あれ? 私何でこんな所に…?!
パニックである。
いや、一部冷静な自分も居て、最後の記憶を探り当てている。
「…た…か…ん……まち…で」
…声が出ない。『確か信号待ちで』と言ったはず。掠れ切った声は声とも言えない。ついでに身体は未だ動かせない。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。何が何だかさっぱり分からない。
そんな私の額に…ポツリ…と水滴のような物が落ちた…と、思ったら、あっという間にそれは大粒の雨となり、視界を覆う葉の隙間を抜けて私の全身を濡らしていく。
半開きだった口の中に落ちてきた水滴が、驚く程美味しくて。気づけば口を開けて夢中で水を飲み込んだ。
どれ程の渇きだったのか。気づかなかったが身体は水分を求めていたようだ。それが満たされて初めて、私の身体は動くようになった。
…が。
「…なっ…なんじゃこりゃーーー!!」
往年の大スターと同じセリフを、同じような格好で叫ぶ事になるとは、カケラも予想していなかった。
だがそれも仕方のない事だ。
「ちっ…小さい…! 私小さい…! そんで血塗れ…!」
パニック再び。短時間でこれだけ混乱する機会はかれこれ30ウン年生きてきて経験した事は無い。そもそも、こんな事普通起こらない。
「何で…! 子どもになってんの?! そんで、何でこんな服…な上、血に塗れてんのよっ!」
目の前にあるのは小さな手。元々、身長の割に小さめの手ではあったが、それとは全く違う、節の無い丸みのある手はどう考えても子どものものだ。
その上、見える範囲で身体に目を走らせれば、これまた幼い身体が見える訳だが…その身体が纏っているのは恐らくドレスと言われる衣服。但し、左の肩口から右脇腹にかけて大きく裂け、腹の辺りにも刺したかのような穴、その周辺は血を含んでドス黒く汚れている。
だが…私の身体に今その血が噴き出したであろう傷は…無い。
この状態で冷静に状況判断ができる訳がない。ごく普通のアラサー引きこもり主婦に何を求めているのか。
頭もぐるぐる、多分目もぐるぐるしてるんじゃなかろうか…。しかし、何の解決策も浮かびはしない。
「…ふ…ふぇっくし!!」
解決策は出てこないがくしゃみは出た。そりゃそうだろう、びしょ濡れだ。ちなみに雨は止んだ。
くしゃみで一時ぐるぐるが止まった私は周囲を見渡してみた。
…木。木、木、草、蔓…とりあえず山か森の中っぽい。
「…とりあえず…どこか休めそうな所を探そう…」
このままではいつまた雨に降られるかもわからないし、何より…獣が寄ってくる可能性がある。いくら雨に流されたと言えど、自分の服には未だ血糊が付いているのだ。
さっき周りを見渡した時に見つけた、少し離れた所に落ちている大きな麻袋(?)を手に、下草を踏みながら傾斜を下った。
この時はまだ、訳の分からない状態ではあるけど、そこまで自身の境遇を悲観してはいなかった。
だが、そんな楽観的な心境は、あっという間に砕け散ることになるーーー
眼下に広がるのは見慣れた風景。ただ、自分の視点がいつもより高い位置にいるせいで、慣れたはずの景色が違って見える。
『何が…あったっけ…? そう…信号待ちしてて…』
いつものように、近所のスーパーへ買い物へ出かけた。子どもたちが学校と幼稚園へ行ってる間に、食べたがっていたお菓子を買っておこうと思って。
製菓コーナーで目的の物を二つずつ買って、ついでに買い置き用のマヨネーズと、安かったからピーマンも。精算を済ませて、帰途について…最初の交差点で信号待ちをしてた。
今日は、梅雨の晴れ間で。陽射しの強さに思わず手を翳しながら視線を上げたその先にーーー
『…そうだ。トラックが走って来てて…それでーーー』
何となく右側から走って来たトラックに目を向けた時…
『トラックの前方にいきなり何か現れたんだわ!』
そう、いきなり。何も無い空間から白っぽい何かが急に現れ…
こっちに突入してきたのである。
『おっもいだした!! そんで、その白っぽいヤツが私に激突したんだったわ!!』
そして、気を失って…目を覚まして見ればーーー
『何で!『私』が! あっちにいるのよ!!』
…眼下では、同じように信号待ちをしていた人たちに助け起こされてお礼を言っている自分の姿が見えていたのだ。
『どういう事よーーー!!』
叫んだ声は、かなりな声量があったはずだが、誰一人反応する事なく、何と『自分自身』は元気に信号を渡って帰っていくでは無いか。
ついていく事も出来ない、身動きが取れない。どうしたらいい? どうしたら『元』に戻れる?
『待って! ねぇ、待ってったら!』
あぁ、『私』が行ってしまう…!
何か、叫んだ気がする。何を言ったか自分でもわからなかったけど。
それを最後に、私の記憶は途切れたーーー
ゆら…ゆら…
何だか緩く身体が揺れている気がする。小さな船に乗ってるかのよう。
遠くで誰かが言い争っているような声。何を言っているのか、男なのか女なのかもよく分からない。
私は…今どうなっているんだろう…
何があったんだっけ…?
何も…わからない
ただ、逆らう事も出来ず、揺られるだけ
目を開けているのか閉じているのか…それすら認識できないけど…あぁ、何だろう…真っ白な…真っ白な光がーーー
「………」
目が、覚めた。いや、意識が戻った、と言うべきか…?
インフルエンザで寝ていた時か、結膜炎の時か…似たようなことがあったな…
目が、中々開かない。
目脂で固まってるんじゃ無いかな…。目を擦ろうと手を上げようとするが、上手く動かない。寝てる間身体の下敷きにして痺れてる…?
何とか頑張って瞼をこじ開けた私の目に映ったのは…天を覆う木々の枝。隙間から僅かに見える空。そして鼻を掠める青臭い緑のにおい。
「………」
え、どこここ? 何? あれ? 私何でこんな所に…?!
パニックである。
いや、一部冷静な自分も居て、最後の記憶を探り当てている。
「…た…か…ん……まち…で」
…声が出ない。『確か信号待ちで』と言ったはず。掠れ切った声は声とも言えない。ついでに身体は未だ動かせない。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。何が何だかさっぱり分からない。
そんな私の額に…ポツリ…と水滴のような物が落ちた…と、思ったら、あっという間にそれは大粒の雨となり、視界を覆う葉の隙間を抜けて私の全身を濡らしていく。
半開きだった口の中に落ちてきた水滴が、驚く程美味しくて。気づけば口を開けて夢中で水を飲み込んだ。
どれ程の渇きだったのか。気づかなかったが身体は水分を求めていたようだ。それが満たされて初めて、私の身体は動くようになった。
…が。
「…なっ…なんじゃこりゃーーー!!」
往年の大スターと同じセリフを、同じような格好で叫ぶ事になるとは、カケラも予想していなかった。
だがそれも仕方のない事だ。
「ちっ…小さい…! 私小さい…! そんで血塗れ…!」
パニック再び。短時間でこれだけ混乱する機会はかれこれ30ウン年生きてきて経験した事は無い。そもそも、こんな事普通起こらない。
「何で…! 子どもになってんの?! そんで、何でこんな服…な上、血に塗れてんのよっ!」
目の前にあるのは小さな手。元々、身長の割に小さめの手ではあったが、それとは全く違う、節の無い丸みのある手はどう考えても子どものものだ。
その上、見える範囲で身体に目を走らせれば、これまた幼い身体が見える訳だが…その身体が纏っているのは恐らくドレスと言われる衣服。但し、左の肩口から右脇腹にかけて大きく裂け、腹の辺りにも刺したかのような穴、その周辺は血を含んでドス黒く汚れている。
だが…私の身体に今その血が噴き出したであろう傷は…無い。
この状態で冷静に状況判断ができる訳がない。ごく普通のアラサー引きこもり主婦に何を求めているのか。
頭もぐるぐる、多分目もぐるぐるしてるんじゃなかろうか…。しかし、何の解決策も浮かびはしない。
「…ふ…ふぇっくし!!」
解決策は出てこないがくしゃみは出た。そりゃそうだろう、びしょ濡れだ。ちなみに雨は止んだ。
くしゃみで一時ぐるぐるが止まった私は周囲を見渡してみた。
…木。木、木、草、蔓…とりあえず山か森の中っぽい。
「…とりあえず…どこか休めそうな所を探そう…」
このままではいつまた雨に降られるかもわからないし、何より…獣が寄ってくる可能性がある。いくら雨に流されたと言えど、自分の服には未だ血糊が付いているのだ。
さっき周りを見渡した時に見つけた、少し離れた所に落ちている大きな麻袋(?)を手に、下草を踏みながら傾斜を下った。
この時はまだ、訳の分からない状態ではあるけど、そこまで自身の境遇を悲観してはいなかった。
だが、そんな楽観的な心境は、あっという間に砕け散ることになるーーー
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