お腐れさまの幸せ

鳥類

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こうしてお腐れさまの幸せは続いていく

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 アルベールがレナリアに気づいたのは、ここがラノベの世界であると知った直後だったという。
 そもそもそれまではこの専用室を使うことなど無かったのだが、己の末路を知って、何とか軌道修正を図ろうと思考を巡らせるために一人になりたかったために通い始めたのだという。
 初めは何を見ているのかわからなかったが、訓練場を穴が開くほどうっとりと眺めているのを見て「あれは仲間だな…」と気づいて以来、何となく気になって見ていたのだという。

「周りから見えないことをいいことに、割と派手に百面相してたからね。そんで、たまに興奮しすぎてペン握りつぶしてたろ」
「…目ぇ良すぎない…?」

 余りの羞恥に顔が上げられないレナリアの頭を、優しく撫でながらアルベールは続ける。

 いつのまにか、レナリアを観察するのが楽しくなっていた。
 己の行く末が真っ暗という点を一時忘れられる程に。
 そして、腐女子であると確信してからは、彼女はどんなシチュが好きなのか、どういったタイプが推しなのかと考えていくうちに、アルベールの中でレナリアが占める割合はどんどん大きくなっていった。

「もうとにかく気になってさ。話がしてみたくて抑えられなくなって。で、今回の作戦を思いついたわけ」

 最初は自分を救うために協力してもらえばいいんじゃないか、というくらいの気持ちだった。
 とりあえず自分の結末を捻じ曲げるために婚約して、もしレナリアが自分以外を望むなら臣籍降下が決まった後に婚約を破棄してもいいと思っていた。

「だけどさ、レナ、思ってた以上におもしろくて。それに…可愛くてさ」

 だから…逃げないでよ―――

 思った以上に逞しい胸に押し付けられるように強まる腕の力に、少し息苦しい気がしたが、触れた胸から響く早い鼓動に己の心臓も速度を上げたのを否が応にも感じて、レナリアは恐る恐る広い背に手を回した。

「…! レナ…! レナ…好きだよ。ねぇ…ちゃんと…今度は『萌え語れる』何て逃げをうたないから…俺と…結婚してくれる? 俺の…お嫁さんになってくれる…?」
「……っうんっ…うんっ! アルと…アルのお嫁さんになる…!」

 今度は嬉しさで流れる涙を止められず、正直見せられるような顔じゃないからこの体勢でよかったなぁ…などと少しズレた感想を持ちながらアルベールの制服にシミをつけ続けるレナリアと、心底安心して力が抜けかけのアルベールを…

 あの日と同じように、夕日が、茜色に染めていた―――



「…ところで、コレットさんはよかったの?」
「…あーー…そういやちゃんと話してなかったっけ?」

 お互いの気持ちを確かめ合い、落ち着いた二人は入れ直した紅茶をまったりとすすっていた。
 そこでレナリアは気になっていたことを聞いてみることにしたのだ。
 ガシガシと頭を掻きながら、バツが悪そうにアルベールが口を開く。

「―――あいつ…俺の姉貴が転生したヤツ」
「え゛…」



 この後、二人は予定通りに結婚し、末永く萌え続けたらしい。
 そして生粋の貴腐人の記憶を保持した男爵令嬢はどこをどうやったのかは謎だが、卒業後は王女さまの侍女となり王宮内で推しであるセドリック王太子を見守り続け、王女さまが隣国へと嫁ぐ際共についていったらしい。
 どうも新たな観察対象を見つけたらしく、嬉々として国を出た、とはアルベールの談である。

 レナリアとアルベールの子どもたちが腐ったかどうかまでは…伝わっていない。



 ―了―
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