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傷痕

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「なぁ…」
ふと、思いついたことを聞こうとして口をつむんだ。


これを口にすればさっきみたいに機嫌を悪くさせるかもしれない。


そう思ったからだ。


「なんだよ」
続きを言えと促してくる。

「…傷…そんなに酷かったのか?…瀕死になるぐらいだから酷いのはわかるんだ…その…」
俺の中には菊池侑司という男の傷の酷さまでの記憶はない。


確かに桐渓の一件で俺を助けてたから大なり小なりの怪我を負っていたのはわかる。

だが、あの階段での怪我の酷さは俺の中には残ってないのだ。


俺が目を覚まして時にはすでに菊池は俺の傍からいなかったのだ。記憶を無くしてるからいない存在になってるが、他の病室にも菊池侑司という名前を目にしたことがなかったのだ。


だから、俺が目を覚ます前にこの男はすでにいなくなっていたということになる。


「背中の傷が一番酷かったからな。傷自体は治ってはいるが、強い衝撃とかを受ければ傷口が開くぐらいは酷い。だから今回、階段から落ちたときに真っ赤に染まったんだ。皮膚が少し薄いんだ」
話しながら俺の頭を撫でてくる。自分でもわかる、話を聞きながら変な顔になってたんだなって。

「…ごめん…」
それしか言えなかった。


だって傷痕の原因は全部、俺を助ける為に出来たものだから…。


「だから、本当はヤだったんだよ」
ポツリと言われた言葉に胸がズキリと痛む。
「…ごめん…」
まるで自分が責められてるような感覚に陥る。

「謝るな。俺が自分で考えて行動して勝手に怪我しただけのことだ。好きなヤツを守りたいってい思うのは当たり前のことだろうが。俺は後悔しちゃいねぇよ」
溜め息交じりに言いながら優しく頭を撫でていく。

「それに、俺が後悔するとするならば、今この瞬間だ。俺の怪我のせいでお前を苦しめることだ。記憶を取り戻して、知らない部分の記憶を聞いてお前が傷付くことだ」
菊池の言葉は当たっている。


失くしていた記憶を取り戻して、わからない部分を他のヤツらから聞いて補って、真実をして自分を責める。
自分のせいでこの男を傷だらけにしてきたんだと悔いる。


「だから、ヤだったんだよ。記憶を取り戻せばこうなるってわかってたからな」
ハッキリと言われた言葉にまたズキリと胸が痛む。
「…ごめん…」
それしか言えない自分が情けない。


「だが…俺はお前を手放すつもりはなし、俺だけの特権を放棄するつもりもねぇ。俺はお前に干渉しまくってやる」
そう言いながら両頬を摘ままれ引っ張られる。

「いひゃい、いひゃい、ゆぅ、いひゃい」
引っ張られる頬がちょっと痛い。そんなに強くはないけど摘ままれてる部分が地味に痛い。
「ぶはっ、めっちゃ不細工だな」
笑いながら放され
「むー、うっさい」
痛む両頬をさすりながら文句を言えば

「嘘だ、お前は可愛いよ。昔も今もな」
なんて言いながらい自分で摘まんだ両頬にお詫びだと言わんばかりに軽くキスをくれる。
「可愛いいって…俺は男なんですが?」
ちょっとそこが不満で言い返せば

「知ってるし、わかってる。それでもお前は可愛いんだよ。だから俺の可愛がられてろ」
くつりと笑いながら抱き寄せられた。
「し…仕方がないから可愛がられててやる」
照れ隠しでぶっきらぼうに答えれば

「やっぱお前はそうじゃねぇとな。あんましおらしい梅村はらしくねぇよ。いつものように人に干渉されるのがイヤで、でも俺には干渉してくるお前でいろ」
すっごく楽しそうに告げてくる。


その言葉で少しだけ心が軽くなって救われた感じになるんだから凄いもんだ。


「俺が干渉しまくってやる、覚えてろよ」
だから変な宣言をした。
「まぁ、頑張ってくれ。俺は俺で干渉してやるからよ」
なんて言いながら、また押し倒されてキスされた。


あっ、これヤバいやつ。


「ちょ、たんま、んっ、手加減、ぁ、して、ん、くれ」
「ヤダね」

服の中に入ってきた手を止めながら訴えたが、結局このまま俺はぱっくりと食べられた。


いや、いんだけどさ、嬉しいから。ちゃんと俺のこと見てくれてるってわかるから…

でも恥ずかしいんだよ。いつになくグズグズに甘やかされるから…。

ホント、抜け出せれなくなったらどうしてくれるんだよ!



本当は侑司の身体にある傷痕を見るのが怖かったんだ。

傷痕で自分を責められてるみたいで…。怖かったんだ。

でも、もう大丈夫。その傷痕を含めて菊池侑司に干渉されるのも悪くない。

そう思う自分がいるから…。



Fin

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