87 / 166
傷痕
しおりを挟む
「なぁ…」
ふと、思いついたことを聞こうとして口をつむんだ。
これを口にすればさっきみたいに機嫌を悪くさせるかもしれない。
そう思ったからだ。
「なんだよ」
続きを言えと促してくる。
「…傷…そんなに酷かったのか?…瀕死になるぐらいだから酷いのはわかるんだ…その…」
俺の中には菊池侑司という男の傷の酷さまでの記憶はない。
確かに桐渓の一件で俺を助けてたから大なり小なりの怪我を負っていたのはわかる。
だが、あの階段での怪我の酷さは俺の中には残ってないのだ。
俺が目を覚まして時にはすでに菊池は俺の傍からいなかったのだ。記憶を無くしてるからいない存在になってるが、他の病室にも菊池侑司という名前を目にしたことがなかったのだ。
だから、俺が目を覚ます前にこの男はすでにいなくなっていたということになる。
「背中の傷が一番酷かったからな。傷自体は治ってはいるが、強い衝撃とかを受ければ傷口が開くぐらいは酷い。だから今回、階段から落ちたときに真っ赤に染まったんだ。皮膚が少し薄いんだ」
話しながら俺の頭を撫でてくる。自分でもわかる、話を聞きながら変な顔になってたんだなって。
「…ごめん…」
それしか言えなかった。
だって傷痕の原因は全部、俺を助ける為に出来たものだから…。
「だから、本当はヤだったんだよ」
ポツリと言われた言葉に胸がズキリと痛む。
「…ごめん…」
まるで自分が責められてるような感覚に陥る。
「謝るな。俺が自分で考えて行動して勝手に怪我しただけのことだ。好きなヤツを守りたいってい思うのは当たり前のことだろうが。俺は後悔しちゃいねぇよ」
溜め息交じりに言いながら優しく頭を撫でていく。
「それに、俺が後悔するとするならば、今この瞬間だ。俺の怪我のせいでお前を苦しめることだ。記憶を取り戻して、知らない部分の記憶を聞いてお前が傷付くことだ」
菊池の言葉は当たっている。
失くしていた記憶を取り戻して、わからない部分を他のヤツらから聞いて補って、真実をして自分を責める。
自分のせいでこの男を傷だらけにしてきたんだと悔いる。
「だから、ヤだったんだよ。記憶を取り戻せばこうなるってわかってたからな」
ハッキリと言われた言葉にまたズキリと胸が痛む。
「…ごめん…」
それしか言えない自分が情けない。
「だが…俺はお前を手放すつもりはなし、俺だけの特権を放棄するつもりもねぇ。俺はお前に干渉しまくってやる」
そう言いながら両頬を摘ままれ引っ張られる。
「いひゃい、いひゃい、ゆぅ、いひゃい」
引っ張られる頬がちょっと痛い。そんなに強くはないけど摘ままれてる部分が地味に痛い。
「ぶはっ、めっちゃ不細工だな」
笑いながら放され
「むー、うっさい」
痛む両頬をさすりながら文句を言えば
「嘘だ、お前は可愛いよ。昔も今もな」
なんて言いながらい自分で摘まんだ両頬にお詫びだと言わんばかりに軽くキスをくれる。
「可愛いいって…俺は男なんですが?」
ちょっとそこが不満で言い返せば
「知ってるし、わかってる。それでもお前は可愛いんだよ。だから俺の可愛がられてろ」
くつりと笑いながら抱き寄せられた。
「し…仕方がないから可愛がられててやる」
照れ隠しでぶっきらぼうに答えれば
「やっぱお前はそうじゃねぇとな。あんましおらしい梅村はらしくねぇよ。いつものように人に干渉されるのがイヤで、でも俺には干渉してくるお前でいろ」
すっごく楽しそうに告げてくる。
その言葉で少しだけ心が軽くなって救われた感じになるんだから凄いもんだ。
「俺が干渉しまくってやる、覚えてろよ」
だから変な宣言をした。
「まぁ、頑張ってくれ。俺は俺で干渉してやるからよ」
なんて言いながら、また押し倒されてキスされた。
あっ、これヤバいやつ。
「ちょ、たんま、んっ、手加減、ぁ、して、ん、くれ」
「ヤダね」
服の中に入ってきた手を止めながら訴えたが、結局このまま俺はぱっくりと食べられた。
いや、いんだけどさ、嬉しいから。ちゃんと俺のこと見てくれてるってわかるから…
でも恥ずかしいんだよ。いつになくグズグズに甘やかされるから…。
ホント、抜け出せれなくなったらどうしてくれるんだよ!
本当は侑司の身体にある傷痕を見るのが怖かったんだ。
傷痕で自分を責められてるみたいで…。怖かったんだ。
でも、もう大丈夫。その傷痕を含めて菊池侑司に干渉されるのも悪くない。
そう思う自分がいるから…。
Fin
ふと、思いついたことを聞こうとして口をつむんだ。
これを口にすればさっきみたいに機嫌を悪くさせるかもしれない。
そう思ったからだ。
「なんだよ」
続きを言えと促してくる。
「…傷…そんなに酷かったのか?…瀕死になるぐらいだから酷いのはわかるんだ…その…」
俺の中には菊池侑司という男の傷の酷さまでの記憶はない。
確かに桐渓の一件で俺を助けてたから大なり小なりの怪我を負っていたのはわかる。
だが、あの階段での怪我の酷さは俺の中には残ってないのだ。
俺が目を覚まして時にはすでに菊池は俺の傍からいなかったのだ。記憶を無くしてるからいない存在になってるが、他の病室にも菊池侑司という名前を目にしたことがなかったのだ。
だから、俺が目を覚ます前にこの男はすでにいなくなっていたということになる。
「背中の傷が一番酷かったからな。傷自体は治ってはいるが、強い衝撃とかを受ければ傷口が開くぐらいは酷い。だから今回、階段から落ちたときに真っ赤に染まったんだ。皮膚が少し薄いんだ」
話しながら俺の頭を撫でてくる。自分でもわかる、話を聞きながら変な顔になってたんだなって。
「…ごめん…」
それしか言えなかった。
だって傷痕の原因は全部、俺を助ける為に出来たものだから…。
「だから、本当はヤだったんだよ」
ポツリと言われた言葉に胸がズキリと痛む。
「…ごめん…」
まるで自分が責められてるような感覚に陥る。
「謝るな。俺が自分で考えて行動して勝手に怪我しただけのことだ。好きなヤツを守りたいってい思うのは当たり前のことだろうが。俺は後悔しちゃいねぇよ」
溜め息交じりに言いながら優しく頭を撫でていく。
「それに、俺が後悔するとするならば、今この瞬間だ。俺の怪我のせいでお前を苦しめることだ。記憶を取り戻して、知らない部分の記憶を聞いてお前が傷付くことだ」
菊池の言葉は当たっている。
失くしていた記憶を取り戻して、わからない部分を他のヤツらから聞いて補って、真実をして自分を責める。
自分のせいでこの男を傷だらけにしてきたんだと悔いる。
「だから、ヤだったんだよ。記憶を取り戻せばこうなるってわかってたからな」
ハッキリと言われた言葉にまたズキリと胸が痛む。
「…ごめん…」
それしか言えない自分が情けない。
「だが…俺はお前を手放すつもりはなし、俺だけの特権を放棄するつもりもねぇ。俺はお前に干渉しまくってやる」
そう言いながら両頬を摘ままれ引っ張られる。
「いひゃい、いひゃい、ゆぅ、いひゃい」
引っ張られる頬がちょっと痛い。そんなに強くはないけど摘ままれてる部分が地味に痛い。
「ぶはっ、めっちゃ不細工だな」
笑いながら放され
「むー、うっさい」
痛む両頬をさすりながら文句を言えば
「嘘だ、お前は可愛いよ。昔も今もな」
なんて言いながらい自分で摘まんだ両頬にお詫びだと言わんばかりに軽くキスをくれる。
「可愛いいって…俺は男なんですが?」
ちょっとそこが不満で言い返せば
「知ってるし、わかってる。それでもお前は可愛いんだよ。だから俺の可愛がられてろ」
くつりと笑いながら抱き寄せられた。
「し…仕方がないから可愛がられててやる」
照れ隠しでぶっきらぼうに答えれば
「やっぱお前はそうじゃねぇとな。あんましおらしい梅村はらしくねぇよ。いつものように人に干渉されるのがイヤで、でも俺には干渉してくるお前でいろ」
すっごく楽しそうに告げてくる。
その言葉で少しだけ心が軽くなって救われた感じになるんだから凄いもんだ。
「俺が干渉しまくってやる、覚えてろよ」
だから変な宣言をした。
「まぁ、頑張ってくれ。俺は俺で干渉してやるからよ」
なんて言いながら、また押し倒されてキスされた。
あっ、これヤバいやつ。
「ちょ、たんま、んっ、手加減、ぁ、して、ん、くれ」
「ヤダね」
服の中に入ってきた手を止めながら訴えたが、結局このまま俺はぱっくりと食べられた。
いや、いんだけどさ、嬉しいから。ちゃんと俺のこと見てくれてるってわかるから…
でも恥ずかしいんだよ。いつになくグズグズに甘やかされるから…。
ホント、抜け出せれなくなったらどうしてくれるんだよ!
本当は侑司の身体にある傷痕を見るのが怖かったんだ。
傷痕で自分を責められてるみたいで…。怖かったんだ。
でも、もう大丈夫。その傷痕を含めて菊池侑司に干渉されるのも悪くない。
そう思う自分がいるから…。
Fin
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
もしも○○だったら~らぶえっちシリーズ
中村 心響
恋愛
もしもシリーズと題しまして、オリジナル作品の二次創作。ファンサービスで書いた"もしも、あのキャラとこのキャラがこうだったら~"など、本編では有り得ない夢の妄想短編ストーリーの総集編となっております。
※ 作品
「男装バレてイケメンに~」
「灼熱の砂丘」
「イケメンはずんどうぽっちゃり…」
こちらの作品を先にお読みください。
各、作品のファン様へ。
こちらの作品は、ノリと悪ふざけで作者が書き散らした、らぶえっちだらけの物語りとなっております。
故に、本作品のイメージが崩れた!とか。
あのキャラにこんなことさせないで!とか。
その他諸々の苦情は一切受け付けておりません。(。ᵕᴗᵕ。)
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)
三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。
各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。
第?章は前知識不要。
基本的にエロエロ。
本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。
一旦中断!詳細は近況を!
世界を越えてもその手は
犬派だんぜん
BL
15歳のある日、突然剣と魔法のファンタジーな世界に迷い込んだ僕は、もふもふな神獣のブランと、戦闘奴隷から恋人になってくれた剣士のアルと一緒に、冒険者としてダンジョン攻略で生計を立てている。家族のもとに帰りたいと願いながら。
トラブルを呼び込む希少スキルに振り回されながらも、アルとブランに甘やかされ、支えられ、望郷の念に折り合いをつけて、この世界で共に生きる覚悟を決めていく。
たとえ世界が違っても、差し伸べられる手は温かいものであってほしい。
続編更新中。
(R-18はタイトルに*)
ムーンライトノベルズ様にも掲載
獣狂いの王子様【完】
おはぎ
BL
獣人の国、ジーン国に嫁ぐことになったリューン国の第4王子、ニアノール。極度の獣好きが、それを隠し、極上の毛質を前に触れず悶え苦しみながらものんびりマイペースに暮らします。
美形狼獣人陛下×獣狂い王子
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる