上 下
8 / 12

7話

しおりを挟む
「いつまでそこにいるつもりなの?」
急にそんな声が聞こえて驚いて顔を上げればそこには少しだけ困った顔をした立華さんがいた。


「えっ、あっ、ごめんさない」
立華さんの顔が見れなくて俺は思いっきり顔を逸らした。

「いつまでもそんな所にいたら他の人の迷惑でしょ。立って」
少しだけキツい口調の立華さん。俺は大人しくいうことを聞き立ち上がった。
立華さんは俺が立ち上がると腕を掴んで少し足早に歩きだした。

意味がわからなかった。声をかけようと思ったけど出来なくて黙って立華さんについて行った。


立華さんが連れてきたのは立華さんの部屋だった。


「入って」
やっぱり少しキツい口調で言われ
「お邪魔します」
俺は立華さんの部屋にあがった。


「ここで待ってて」
リビングに俺を残し立華さんはどこかへ行ってしまった。俺はリビングにあるソファの陰に隠れるように座った。


「なんで、そんなところに座ってんだよ」
そんな言葉に驚いて顔を上げればそこには、女性の姿ではなく、男の立華さんがいた。
「えっ?本当に…先輩…なんですか?」
そこに立っているのは間違いなく橘樹先輩だった。

「これで満足か?」
その言葉は冷たい。

「ご…ごめんなさい…俺、あなたの気持ちも考えないで…本当に失礼なことばっかり言って…」
自分のことばかりで立華さんのことを考えてもいなかった。


先輩には先輩の理由があって女性の姿をしていたのに、それなのに俺は先輩に会いたいと言ってしまった。立華さんが困るし、傷付くのをわかっていながら…。


「…俺に会ってどうするつもりだったんだ」
さっきよりも優しい言葉で聞いてくる。
「…ずっと気になってたんです…高2の時の突然いなくなってしまって…変な噂も広まってたし…」
これは本当のこと。ずっと気になってた。忘れてたわけじゃないんだ。でも、先輩を探す術もなくて、他の先輩にも聞けるわけがなくて、結局は今まで会うことも出来ずにいた。

「会ったとして、何も変わらないだろ?」
会っただけでは変わらないかもしれない。でも…
「…先輩のことが憧れでした。でも…その憧れが恋心に変わりました。だからと言って自分の気持ちを押し付ける気はないんです。本当に会いたかったんです。でも…先輩には迷惑ですよね」
会って話がしたかった。ただそれだけだった。

「いいのか?俺は発情してるお前をやっちまった男なんだぞ?」
そんなことを言われ驚いた。でも…
「あの日は俺があなたと離れたくなかったんです。発情してるときに人と会うべきじゃないのはわかってるのに…俺はあなたに会いたくて、傍にいたかったんです。だから俺は後悔してません」
俺はあの時、本当に一緒にいたかったんだ。

「俺が酷い奴だったらどうするんだ。下手したらお前、望まぬ妊娠だってする可能性だってあったんだぞ」
少しだけ苦し気な顔をする。
「俺の知ってる先輩はとても優しい人です。立華さんの姿だったあなたは本当に優しい人でした。そんな人が酷い男なわけないじゃないですか」
口数の少ない人だった。でも優しい人だというのを知っている。立華さんの姿だったときも優しかった。そんな人が酷い男なわけがない。


俺の言葉に先輩が黙り込んでしまった。


俺はやっぱり先輩に会うべきじゃなかったのかな?


俺は小さく溜息をつき自分の膝に顔を埋めた。


先輩、ごめんなさい。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

忍ぶれど… 兄は俺の光――息が届くほど近くにいるのに、けっして触れてはならぬ想い人

志生帆 海
BL
忍ぶれど…(翠・流編 完全版) 兄は俺の光――息が届くほど近くにいるのに、けっして触れてはならぬ想い人 あらすじ 以前投稿した『忍ぶれど』と『色は匂へど』を1本にまとめ『完全版』として、加筆しながら再連載していきます。(旧バージョンの『忍ぶれど』と『色は匂へど』は掲載を終了しています) **** 俺には二つ年上の兄がいる。 実の兄なのに、憧れを通り越した愛を秘かに抱いている。 俺だけの兄だ。 どこにも誰にもやりたくなかったのに どうして行ってしまうんだ? 明日から更に報われない切なる想いを抱いて、生きていく。 一体いつまで待てばいいのか… 「俺の翠」 そう呼べる日が果たして来るのだろうか。 **** しっとりと実の兄弟のもどかしい恋心を描いています。 幼少期から始まるので、かなり焦れったい展開です。 ※『重なる月』https://www.alphapolis.co.jp/novel/492454226/179205590のスピンオフ小説になります。 こちらは『重なる月』の攻、張矢丈の兄達の物語になります。 単独でも読めます。

処理中です...