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嫌な夢
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夢を見た。
真っ暗な世界で
まるで走馬灯のような夢を見た。
真っ暗な世界に浮かび上がったパネル。
そこに浮かぶのは大我と見知らぬ女性。
楽しそうに笑いあう二人。
幸せそうに微笑む二人。
愛おしそうに子供を抱く二人。
右を見ても、左を見ても、上を向いても、下を向いても、前を見ても、後ろを見ても、それは全部同じ。
自分とは違う誰かと一緒にいる大我。
『あー!!』
頭を抱えて泣き叫んでもそのパネルは変わることがなかった。
「っ!」
うなされて飛び起きて気が付いた。寝汗がヒドイ。バクバクという心臓は破裂しそうなほど痛い。
ズキズキと痛む頭。ガンガンとなる耳鳴り。どれもこれも気持ちが悪い。
指が、手が、足が、身体が震える。
怖い、怖い、怖い
現実になるんじゃないかってそんな恐怖が俺を襲う。
ダメだ、隠さなきゃ。こんなのバレちゃいけない。
「…時間…」
一人呟くと、時計を見た。午前7時。もう少ししたら学校へ行く時間だ。
隠さないと、誰にもバレないように…
溜め息をつくとベッドから降りて、汗でべとつく身体を洗うために着替えを持ってバスルームに向かった。
バスルームから戻って来て、また溜め息をついた。食欲がない。食べなくてもいいか。なんて思いながら俺は制服に着替えた。
いつも通りの時間に出ないと大我に不審に思われるから、俺は何もないように装っていつもの時間に部屋を出た。
「おはよう」
大我を見て、小さく笑いながら挨拶をすれば
「あぁ、おはよう」
同じように挨拶をしてくれるけど一瞬だけ険しい顔になった。
気付かれた?
「体調が悪いなら煌太さんとこに行って少しだけ休ませてもらえよ」
小さく息を吐きながら言われた言葉に
「あぁ、わかった」
内心ヒヤヒヤしながら返事をして大我と一緒に学校へと向かった。
授業もなんとなくうまくこなして、放課後まで普通に過ごしてたんだ。
でも、それは突然に俺を襲った。
今日は定例会議の日で、生徒会や風紀そして、他の委員会のやつらと会議をする日だった。
初めはよかったんだ。初めは…。
不意に、大我と他の誰かが楽し気に談笑してるのを見てから俺の中で何かが崩れ落ちた。
ザワザワと耳元で大きな音がして、目の前が真っ暗になって、何もわからなくなった。バクバクと痛くなる心臓。自分が何処にいるのかもわからない。そんな状態。
「…じり…聖…唯斗!」
突然、耳元で大我の声がして、何かが壊れて真っ暗だった世界が壊れて、心配そうに見つめる大我の顔を見て、俺は意識を手放した。
「…んっ…」
沈んでいた意識が戻って来て、目を開ければそこは薄暗い世界だった。どこだろうって見渡そうと顔を動かせば自分の傍にうつ伏して寝てる塊を見つけた。しっかりと手を握られているのがわかる。そこで気が付いた。
あぁ、すっすり寝れたのも、あの真っ暗な世界を見なかったのも大我のおかげか
握られている手をそっと握り返してみた。ピクリと動き大我が起きた。
「大丈夫か?」
起きて、俺の顔を見て聞いてくる。俺は頷こうかと思ったけど、小さく首を振った。
「そうか、今度は何を見たんだ?」
俺の手を握ったまま頭を優しく撫でていく。俺がイヤな夢を見たのを知ってるかのような口ぶり。
「どぉして?」
それが不思議で聞いてみたら
「朝、顔を見た時から気付いてた。何も言わないから様子見てたんだけどな。まさか倒れるまで我慢してるとは思わなかった」
苦笑を浮かべながら言われた言葉に、朝のあの険しい顔の理由がこれかと思った。
「…大我が…俺じゃない誰かと…幸せそうにしてた…愛おしそうに子供抱いてた…すごく楽しそうだった…っ…」
そこまで言ったらもうダメだった。泣くつもりなんてなかったのに、ボロボロと涙が零れ落ちた。
「そっか」
短く言って大我は俺の身体を抱き起しそっと抱きしめてくれた。俺は大我に抱き着き、離れていかないようにギュッと服を掴んで大泣きした。俺が泣いてる間、大我はずっと俺の頭や背中をそっとそっと撫でてていてくれた。
「少しは落ち着いたか?」
大泣きして、やっと涙が止まった頃、大我に聞かれて小さく頷いた。
「なぁ、唯斗。俺はお前じゃない誰かと幸せになるつもりも、子供を作るつもりはない。だから、心配になったらちゃんと口に出して何度でも確認しろ。お前にはそれが出来るんだから。その権利がお前にはあるんだからな」
俺を抱きしめ告げてくる言葉に喜びと安心が生まれる。俺は何度も頷いた。
「唯斗、俺はお前が好きだ。やっと手に入れた存在をそうやすやすと手放すものか。だから心配するな。まぁ、少しでも不安になったら俺に聞け、その度に何度でもお前に言ってやるから」
小さく笑いながら言われる言葉は、突然、自分でもよくわからない迷宮に陥る俺へ宛てられた言葉。俺をよく見ている大我だからこその言葉。
「そんなこと言うと俺、本当に何度でも聞くぞ?ウザいって思うぐらい聞くぞ?」
「どうぞ。その度に唯斗がもうムリって真っ赤になって逃げだすぐらいに答えてやるから」
俺の言葉に笑いながら答える大我。
不思議なもので、それだけの事なのに、あれだけ沈んでいた俺の気持ちが浮上してくるんだから凄いものだ。
「大我…俺…大我が好きだ」
そろっと大我を見上げて告げてみた。その言葉を聞きすっと嬉しそうに細められる瞳。その仕草がカッコいいもんだから俺は赤面しちゃったよ。
「俺も唯斗が好きだ」
同じように好きだと告げてそっとキスをくれた。
「しかしまぁ、随分とけったいな夢を見たなお前」
大我に慰められて随分と落ち着きを取り戻した俺に大我が呟く。
「ん、俺もビックリした。なんていう夢見たんだろうって」
大我の足の間で大我に凭れながら抱きしめられながら、大我の手を触りながら俺が答えれば
「案外、その他の誰かが唯斗自身だった可能性もあるぞ?」
なんて、俺の首筋に唇を寄せながら言ってくる言葉に
「えぇぇ!!!どういうことぉぉ!!!」
俺はビックリして叫んじゃった。
「ん?イヤ、唯斗自身が女性になってたって可能性もあるよなってこと」
「あっ、そっち?そっちかぁ」
大我の言葉になんだか納得しちゃったよ。
「まぁ、俺は男だろうと、女だろうと、聖唯斗ならそれでいいけどな。俺は聖唯斗という人物に惚れたんだしな」
なんて笑う大我に俺は惚れ直したのだった。
大我さん、あなた一体どれだけ俺を惚れさせるんですか?
ホント、こんなんだから俺が訳のわからない迷宮にはまるんだな。とか思う。
好きになりすぎて、自分で訳のわからない迷宮にはまる。
そして、大我自身に助けられてまた俺が惚れるんだ。
あれ?これって一生抜け出せない迷宮じゃないのか?
まぁ、いっか。
傍に大我がずっといてくれれば…。
Fin
真っ暗な世界で
まるで走馬灯のような夢を見た。
真っ暗な世界に浮かび上がったパネル。
そこに浮かぶのは大我と見知らぬ女性。
楽しそうに笑いあう二人。
幸せそうに微笑む二人。
愛おしそうに子供を抱く二人。
右を見ても、左を見ても、上を向いても、下を向いても、前を見ても、後ろを見ても、それは全部同じ。
自分とは違う誰かと一緒にいる大我。
『あー!!』
頭を抱えて泣き叫んでもそのパネルは変わることがなかった。
「っ!」
うなされて飛び起きて気が付いた。寝汗がヒドイ。バクバクという心臓は破裂しそうなほど痛い。
ズキズキと痛む頭。ガンガンとなる耳鳴り。どれもこれも気持ちが悪い。
指が、手が、足が、身体が震える。
怖い、怖い、怖い
現実になるんじゃないかってそんな恐怖が俺を襲う。
ダメだ、隠さなきゃ。こんなのバレちゃいけない。
「…時間…」
一人呟くと、時計を見た。午前7時。もう少ししたら学校へ行く時間だ。
隠さないと、誰にもバレないように…
溜め息をつくとベッドから降りて、汗でべとつく身体を洗うために着替えを持ってバスルームに向かった。
バスルームから戻って来て、また溜め息をついた。食欲がない。食べなくてもいいか。なんて思いながら俺は制服に着替えた。
いつも通りの時間に出ないと大我に不審に思われるから、俺は何もないように装っていつもの時間に部屋を出た。
「おはよう」
大我を見て、小さく笑いながら挨拶をすれば
「あぁ、おはよう」
同じように挨拶をしてくれるけど一瞬だけ険しい顔になった。
気付かれた?
「体調が悪いなら煌太さんとこに行って少しだけ休ませてもらえよ」
小さく息を吐きながら言われた言葉に
「あぁ、わかった」
内心ヒヤヒヤしながら返事をして大我と一緒に学校へと向かった。
授業もなんとなくうまくこなして、放課後まで普通に過ごしてたんだ。
でも、それは突然に俺を襲った。
今日は定例会議の日で、生徒会や風紀そして、他の委員会のやつらと会議をする日だった。
初めはよかったんだ。初めは…。
不意に、大我と他の誰かが楽し気に談笑してるのを見てから俺の中で何かが崩れ落ちた。
ザワザワと耳元で大きな音がして、目の前が真っ暗になって、何もわからなくなった。バクバクと痛くなる心臓。自分が何処にいるのかもわからない。そんな状態。
「…じり…聖…唯斗!」
突然、耳元で大我の声がして、何かが壊れて真っ暗だった世界が壊れて、心配そうに見つめる大我の顔を見て、俺は意識を手放した。
「…んっ…」
沈んでいた意識が戻って来て、目を開ければそこは薄暗い世界だった。どこだろうって見渡そうと顔を動かせば自分の傍にうつ伏して寝てる塊を見つけた。しっかりと手を握られているのがわかる。そこで気が付いた。
あぁ、すっすり寝れたのも、あの真っ暗な世界を見なかったのも大我のおかげか
握られている手をそっと握り返してみた。ピクリと動き大我が起きた。
「大丈夫か?」
起きて、俺の顔を見て聞いてくる。俺は頷こうかと思ったけど、小さく首を振った。
「そうか、今度は何を見たんだ?」
俺の手を握ったまま頭を優しく撫でていく。俺がイヤな夢を見たのを知ってるかのような口ぶり。
「どぉして?」
それが不思議で聞いてみたら
「朝、顔を見た時から気付いてた。何も言わないから様子見てたんだけどな。まさか倒れるまで我慢してるとは思わなかった」
苦笑を浮かべながら言われた言葉に、朝のあの険しい顔の理由がこれかと思った。
「…大我が…俺じゃない誰かと…幸せそうにしてた…愛おしそうに子供抱いてた…すごく楽しそうだった…っ…」
そこまで言ったらもうダメだった。泣くつもりなんてなかったのに、ボロボロと涙が零れ落ちた。
「そっか」
短く言って大我は俺の身体を抱き起しそっと抱きしめてくれた。俺は大我に抱き着き、離れていかないようにギュッと服を掴んで大泣きした。俺が泣いてる間、大我はずっと俺の頭や背中をそっとそっと撫でてていてくれた。
「少しは落ち着いたか?」
大泣きして、やっと涙が止まった頃、大我に聞かれて小さく頷いた。
「なぁ、唯斗。俺はお前じゃない誰かと幸せになるつもりも、子供を作るつもりはない。だから、心配になったらちゃんと口に出して何度でも確認しろ。お前にはそれが出来るんだから。その権利がお前にはあるんだからな」
俺を抱きしめ告げてくる言葉に喜びと安心が生まれる。俺は何度も頷いた。
「唯斗、俺はお前が好きだ。やっと手に入れた存在をそうやすやすと手放すものか。だから心配するな。まぁ、少しでも不安になったら俺に聞け、その度に何度でもお前に言ってやるから」
小さく笑いながら言われる言葉は、突然、自分でもよくわからない迷宮に陥る俺へ宛てられた言葉。俺をよく見ている大我だからこその言葉。
「そんなこと言うと俺、本当に何度でも聞くぞ?ウザいって思うぐらい聞くぞ?」
「どうぞ。その度に唯斗がもうムリって真っ赤になって逃げだすぐらいに答えてやるから」
俺の言葉に笑いながら答える大我。
不思議なもので、それだけの事なのに、あれだけ沈んでいた俺の気持ちが浮上してくるんだから凄いものだ。
「大我…俺…大我が好きだ」
そろっと大我を見上げて告げてみた。その言葉を聞きすっと嬉しそうに細められる瞳。その仕草がカッコいいもんだから俺は赤面しちゃったよ。
「俺も唯斗が好きだ」
同じように好きだと告げてそっとキスをくれた。
「しかしまぁ、随分とけったいな夢を見たなお前」
大我に慰められて随分と落ち着きを取り戻した俺に大我が呟く。
「ん、俺もビックリした。なんていう夢見たんだろうって」
大我の足の間で大我に凭れながら抱きしめられながら、大我の手を触りながら俺が答えれば
「案外、その他の誰かが唯斗自身だった可能性もあるぞ?」
なんて、俺の首筋に唇を寄せながら言ってくる言葉に
「えぇぇ!!!どういうことぉぉ!!!」
俺はビックリして叫んじゃった。
「ん?イヤ、唯斗自身が女性になってたって可能性もあるよなってこと」
「あっ、そっち?そっちかぁ」
大我の言葉になんだか納得しちゃったよ。
「まぁ、俺は男だろうと、女だろうと、聖唯斗ならそれでいいけどな。俺は聖唯斗という人物に惚れたんだしな」
なんて笑う大我に俺は惚れ直したのだった。
大我さん、あなた一体どれだけ俺を惚れさせるんですか?
ホント、こんなんだから俺が訳のわからない迷宮にはまるんだな。とか思う。
好きになりすぎて、自分で訳のわからない迷宮にはまる。
そして、大我自身に助けられてまた俺が惚れるんだ。
あれ?これって一生抜け出せない迷宮じゃないのか?
まぁ、いっか。
傍に大我がずっといてくれれば…。
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