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夜会で魔女はついはしゃぎ
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先程思い出したあのヒルダって令嬢も、その才能もイマイチ夜会では隠れてしまうの。お椀型のお胸の出し方もちょっとお下品だけにとても残念な気がするわ。
殿下が横にいると、とてもつまらない女になってしまうの。
個性がなくなるっていうのかしら。
でも、最後だし、一度はきちんとお話をしてもみたいと思ったわ。なぜなら、前回のスプラッタ物のびっくり箱はかなり巧妙で、鼠の死骸入りと、いう特典付きだったの。
もう!
お茶目すぎる!
お手紙も最高に良かったわ。
『コレがアンタに相応しい。これ以上殿下に構うな。早くこの国から出て行け』
わざわざ血糊のようななぐり書き。
シンプル イズ ザ ベストって感じね。
うーん、さすが私が今一番褒めたい令嬢だわと思ったわ。
ゾクゾクしちゃったわ。
強いて言うなら、もう少し梱包のリボンに毒入りとかにした方がいいんじゃないかしらって思うけど、それだと派手過ぎるから、おやめになったのかしらとも思ったわ。
バランスが難しいのよね。
嫌味にならない技巧を見せるもテクねっと思ったわ。
カーテンから思い切って出たの。
すぐ脇にはあの不機嫌男がガードで立っていたわ。
目が何をするって感じだったけど、無視したの。
会場の視線が一気に自分にきたわ。
まあ最後だから、仕方がないと覚悟はしていたわ。それよりもあの方と話したかったの。
しずしずと玉座に向かったわ。
まるで波が引くように、女達が下がっていくの。
ようやく目の前に目的の人が現れたわ。
一応御前だから、一礼をしたわ。
優雅にね。
殿下のお美しい顔が少し歪まれたけど、気にしないわ。
「ヒルダ様でしたっけ…。お話していいかしら」
周りがざわっとしたわ。
殿下でさえ、「もしや」なんてつぶやいているの。
よく意味がわかりませんこと。
「な、なんですか? リーナ様。ここは殿下が座ってよいとおっしゃってくださったのです」
あら、あのステキな箱をくださる方にしては、なんて初々しい反応。
そんな殿下のお隣の席なんて頼まれても座りたくないから大丈夫よ。
どうぞどうぞ、遠慮なくお座りになってという感じね。
「あの…今までの数々の贈り物…ありがとうございました。大変に気に入ってコレクションとして保管してますのよ」
「な、なにをおっしゃるのかしら」
なぜか、ヒルダ様は顔が引きつってらっしゃるの。
ご謙遜されているのね。
「オホホホッ。そんなご謙遜されなくても。指をスパッと切れる、髪の毛のように薄い小さなナイフ…。こんな高度な技を要求される品物を作れる職人、この国にはいないと思っていましたわ。私も(ほしくて)探しましたの。ようやく貴方に頼まれたっと言う人を見つけましたの」
ヒルダ嬢の顔色がどんどんと青ざめていくの。足も手も震えだしたわ。
どうしてかしら。
「あら、大丈夫? 手がお震えになって…」
「…う、うそよ。なにもしていないわ、私は」
「わあ、ヒルダ様、またまたご謙遜を! あの職人を探し出すのに、私も大変苦労しましたわ。でも、トムっていいましたわね。あんなところにお隠しになるなんて…」
「何をおっしゃっているのですか…。関係ないですわ。お戯れはいい加減に…リーナ様は…」
「またまた、最近の新作もお聞きしてよ。あら、もしかしてまた内緒の贈り物だったのかしら。ごめんなさい! トムに尋ねたら、こんな前代未聞な(素敵な)お話、今じゃないともう貴女とお話し出来る機会がもうないと思いましてよ…」
「おっしゃっている意味が分かりませんわ。リーナ様。や、やめてください!」
まあ、あくまでも控えめなお態度。
そんな頑なに否定なさるなんてますますお話ししたくなってしまうわ。
「…次の道具、まさかの殿下宛らしいですね。あ、言ってしまったわ。ごめんなさいね。素晴らしいほどに切れる隠しナイフ…。しかも今度は毒が染み込ませるって!」
これから殿下のいい妾、嫌な言い方ね、ごめんあそばせ、次期正妃とお呼びした方が良いのかしら。
良いところを殿下にご報告した方が良いわね。
私の離縁届がスンナリといくために、特にね。
とっても想像力が溢れる方なんですから!
「ち、違うわ!」
「箱を開けた相手を瞬時に殺せるって…」
「……!」
きつい目線をした殿下が女の手を振りほどいていたわ。
ヒルダと呼ばれる令嬢がそこから逃げようとしているの。
よくわからないけど、どうやら不味いことを私が言ったみたい。
裏に回った近衛兵が女を囲み始めたわ。
「ヒルダ、どういうことだ? 私に毒入りのナイフのプレゼントだと?」
バタバタと護衛もの者が動いている。
夜会は騒然よ。
ヒルダ様は先ほどから殿下に睨まれて、行き場を失っているわ。
フルフルと震えていらっしゃる。
ソーレが殿下宛に送られていた贈り物の中からそれらしきものを出してきたわ。
動きが早いわね。
え、ヒルダ様の来た馬車にあったの?
あら、ヒルダ様、それってちょっと迂闊すぎません。
殿下あてに来るものは全て従者がどこから来たのかをきちっと確認されるのよ。
シークレットなびっくり箱ならもう少し凝ったサプライズがないとね。
「あら、今回はこんな梱包なの」
私がそのプレゼントを覗き込んだわ。
見た目だけは大層豪華な梱包だったの。
ちょっとだけやり過ぎかしら…。
「ち、違います! こ、殺すなんて聞いておりません」
唇を震えせながらの説明よ。
「きっとリーナ様の仕業です!」
「まあご謙遜を! うちにトムは預かってますのよ。一応彼のご家族もなぜか一緒にと懇願されまして…」
「し、信じられない! あそこからみんなを連れ出したの?」
そうよ、断崖絶壁の孤島の家に閉じ込めるなんて、魔女の私でもちょっとビックリしたわ。
私がスカウトしたら泣いて喜ばれたの。
ちょっと罪悪感にかられたわ。
だって人の物を盗むような気がしたからよ。
「うふふっ。ごめんなさいね。わたし、ちょっとだけ研究熱心なの。あ、いえ、もちろん、使いの者が連れ出したのよ」
一応、アリバイ対策ね。
だってソーレが無言でこちらを見てるから。
わたしが出て行ったとバレると困るでしょ。
ヒルダの顔がもう血の気が引いてしまっているわ。
よほどショックなようね。
サプライズがバレて…。
「ち、違います。王太子妃様を殺すつもりはなかったんです。恐ろしさに逃げてくれればと思って…」
あら、そんな肩書き、久しぶりに聞きましたわ。まあそれもすぐになくなりますけれど。
殺す?
うふふ。
ご冗談が面白すぎるわ。
「ソーレ、確かめろ。離宮の妃の部屋にその同じ箱が保存されているらしいな」
「殿下、違うんです! 殿下の宛のモノは、脅かされて! それに、殺す仕掛けとは…断じて!」
ヒルダ嬢が一生懸命に説明しているわ。
なんなのかしら。
二人が仲良くなるように言ったのに、喧嘩になってしまったの?
「やはり其方が我が妃に対しても同じような物を送ったのか…」
なぜ殿下はそんなに興奮されているの?
話の意図が全然読めないわ。
我が妃だなんて、早く元をつけて欲しいものだし。
「リーナ、今までいくつ送られてきたんだ…その、贈り物やらというのは…」
あら、殿下、うらやましいのかしら。あげないわよ。
しかも、呼び捨て。
ぷんぷん。
ママとパパだってそうは呼ばないのよ。
まあ最後だから許してあげるけど。
「えーとっ、まあ正月盆暮れ、いえいえ、年に三回ぐらいはいただいていますわ」
「っ、なんだと! そんなにか……なぜそれを我に言わない」
「え、なぜ? なぜ言わないといけないのでしょうか? 殿下」
その言葉を聞いて殿下の顔が今までに見たことのないくらいに歪んだわ。
言うわけないでしょ?
楽しみを奪われては困るもの…。
「…っ、…そこまで其方は…私の事を。クソっ、ソーレはどこだ!」
会場が騒然としていたわ。
ソーレに猛烈に殿下がお怒りよ。
何故かしら。
もしかして、贈り物を横取りしたかったのかしら?
うきゃー、絶対にだめよ。
あげないから。
ソーレが目配りをし、女を取り立て始めている。
どうやら、先ほど従者の証言通り、それを発見したのが、ヒルダ嬢の馬車からのようだとお話になっているみたい。
「リーナ様、この贈り物に似たものをお持ちなようですね。今から見せてくれませんか…」
陰険黒髪男が聞いてくるわ。
えー、横取りは絶対にさせないわよ。
実はお気に入りは、一個は馬車に入れてあるのよ。
「…み、見るだけよ」
馬車に一個だけ持ってきていると言ったら、すぐに従者が取りにいくことになったわ。
従者に場所を教えたわ。すぐに見えない位置にあるからね。持ち方と開け方の注意点も教えてあげたわ。壊されたら困るでしょ。
でも全てが終わったら返却することもお願いしたの。
「はい、拝見させていただくだけでかまいません。あと、そのトムという職人も…」
「あ、それはどうかしら。トムはわたしにしかお話はしないってことで、今はみんなが知らないところに住まわせているのよ」
「お、お前は自分の命を狙い続けたやつを庇うのか…?」
殿下ってちょっとお言葉がおかしい時があるみたいね。
命を狙うではなくて、命懸けで楽しみを与えてくださった方よ。
全く殿下って変な方だわ。
「あ、でしたらトムのお友達、この国の宰相様、ごめんなさい。お名前を忘れたわ。ヒルダ様のお父様よね。その方にお話を聞いてくださいませ。トムがそう申しておりましたことよ」
ヒルダが泣きくずれたわ。
あ、ソーレとほかの近衛達が、ヒルダ様を連れて行くわ。
これじゃー、もう彼女と話せないじゃないの!
もうソーレってそういう時だけ迅速なのよ。全く陰険よね。人の会話の邪魔が得意なのよ。
ああ、もう!
どうしてこの展開!
だめなの?
彼女、拘束ってこと?
誤解ではないのかしら。
だって私だって人殺しは大反対よ。
そんな非道なこと、絶対わたくしだって許さないわ。
あーん、つまらない!
でも今こんなことを言っている暇はなくなったみたいよ。
「あの色々大変そうですが、殿下、私は、その…ちょっと失礼いたします。もうお持ちだとは思いますが、あとであの書類のサインを…よろしくお願いいたします。わたくし、もう十八歳になりましたので…」
「…待て、リーナ」
あれ、殿下がなぜかずっと苦汁を飲んだような顔でこちらを見つめていらっしゃるわ。そうよね、一番気に入っている愛人が捕まるとはさぞ、苦しいのだと思ったわ。
まあなんでもやり過ぎは誤解を招くわね。
彼女も本気と遊びを履き違えたのかしら。
でもあんな子供騙しで誰も傷つくようには思えないわ。
仕込む方が命懸けなのよ。
そんなことよりも、私は今すぐにここを去らないといけないと思ったわ。
最悪の事態だけど、ダミーで逃げなきゃって…。
だってね、だってね。
感じるの。
巨大よ。
それも特大サイズ。
ぞわぞわしてくるわ。
それは、いい感じのぞわぞわじゃないの。
もう肌がピクピクしているの。
ヤバイ系よ。
絶対、全世の記憶からしたら、ゴンドラで登場しちゃうカップルの結婚式にでてくるよりも大きいやつよ。
どーして誰がこんなレシピ考えたのよと思うわ。
ニンジンケーキよ!
そのにおいがするの!
姫としての優雅な動作でフッと具合悪そうなフリをしてそこから逃げ出したの。
ああ離縁届! サイン欲しいのに!
馬鹿馬鹿!
人参の馬鹿!
殿下が横にいると、とてもつまらない女になってしまうの。
個性がなくなるっていうのかしら。
でも、最後だし、一度はきちんとお話をしてもみたいと思ったわ。なぜなら、前回のスプラッタ物のびっくり箱はかなり巧妙で、鼠の死骸入りと、いう特典付きだったの。
もう!
お茶目すぎる!
お手紙も最高に良かったわ。
『コレがアンタに相応しい。これ以上殿下に構うな。早くこの国から出て行け』
わざわざ血糊のようななぐり書き。
シンプル イズ ザ ベストって感じね。
うーん、さすが私が今一番褒めたい令嬢だわと思ったわ。
ゾクゾクしちゃったわ。
強いて言うなら、もう少し梱包のリボンに毒入りとかにした方がいいんじゃないかしらって思うけど、それだと派手過ぎるから、おやめになったのかしらとも思ったわ。
バランスが難しいのよね。
嫌味にならない技巧を見せるもテクねっと思ったわ。
カーテンから思い切って出たの。
すぐ脇にはあの不機嫌男がガードで立っていたわ。
目が何をするって感じだったけど、無視したの。
会場の視線が一気に自分にきたわ。
まあ最後だから、仕方がないと覚悟はしていたわ。それよりもあの方と話したかったの。
しずしずと玉座に向かったわ。
まるで波が引くように、女達が下がっていくの。
ようやく目の前に目的の人が現れたわ。
一応御前だから、一礼をしたわ。
優雅にね。
殿下のお美しい顔が少し歪まれたけど、気にしないわ。
「ヒルダ様でしたっけ…。お話していいかしら」
周りがざわっとしたわ。
殿下でさえ、「もしや」なんてつぶやいているの。
よく意味がわかりませんこと。
「な、なんですか? リーナ様。ここは殿下が座ってよいとおっしゃってくださったのです」
あら、あのステキな箱をくださる方にしては、なんて初々しい反応。
そんな殿下のお隣の席なんて頼まれても座りたくないから大丈夫よ。
どうぞどうぞ、遠慮なくお座りになってという感じね。
「あの…今までの数々の贈り物…ありがとうございました。大変に気に入ってコレクションとして保管してますのよ」
「な、なにをおっしゃるのかしら」
なぜか、ヒルダ様は顔が引きつってらっしゃるの。
ご謙遜されているのね。
「オホホホッ。そんなご謙遜されなくても。指をスパッと切れる、髪の毛のように薄い小さなナイフ…。こんな高度な技を要求される品物を作れる職人、この国にはいないと思っていましたわ。私も(ほしくて)探しましたの。ようやく貴方に頼まれたっと言う人を見つけましたの」
ヒルダ嬢の顔色がどんどんと青ざめていくの。足も手も震えだしたわ。
どうしてかしら。
「あら、大丈夫? 手がお震えになって…」
「…う、うそよ。なにもしていないわ、私は」
「わあ、ヒルダ様、またまたご謙遜を! あの職人を探し出すのに、私も大変苦労しましたわ。でも、トムっていいましたわね。あんなところにお隠しになるなんて…」
「何をおっしゃっているのですか…。関係ないですわ。お戯れはいい加減に…リーナ様は…」
「またまた、最近の新作もお聞きしてよ。あら、もしかしてまた内緒の贈り物だったのかしら。ごめんなさい! トムに尋ねたら、こんな前代未聞な(素敵な)お話、今じゃないともう貴女とお話し出来る機会がもうないと思いましてよ…」
「おっしゃっている意味が分かりませんわ。リーナ様。や、やめてください!」
まあ、あくまでも控えめなお態度。
そんな頑なに否定なさるなんてますますお話ししたくなってしまうわ。
「…次の道具、まさかの殿下宛らしいですね。あ、言ってしまったわ。ごめんなさいね。素晴らしいほどに切れる隠しナイフ…。しかも今度は毒が染み込ませるって!」
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良いところを殿下にご報告した方が良いわね。
私の離縁届がスンナリといくために、特にね。
とっても想像力が溢れる方なんですから!
「ち、違うわ!」
「箱を開けた相手を瞬時に殺せるって…」
「……!」
きつい目線をした殿下が女の手を振りほどいていたわ。
ヒルダと呼ばれる令嬢がそこから逃げようとしているの。
よくわからないけど、どうやら不味いことを私が言ったみたい。
裏に回った近衛兵が女を囲み始めたわ。
「ヒルダ、どういうことだ? 私に毒入りのナイフのプレゼントだと?」
バタバタと護衛もの者が動いている。
夜会は騒然よ。
ヒルダ様は先ほどから殿下に睨まれて、行き場を失っているわ。
フルフルと震えていらっしゃる。
ソーレが殿下宛に送られていた贈り物の中からそれらしきものを出してきたわ。
動きが早いわね。
え、ヒルダ様の来た馬車にあったの?
あら、ヒルダ様、それってちょっと迂闊すぎません。
殿下あてに来るものは全て従者がどこから来たのかをきちっと確認されるのよ。
シークレットなびっくり箱ならもう少し凝ったサプライズがないとね。
「あら、今回はこんな梱包なの」
私がそのプレゼントを覗き込んだわ。
見た目だけは大層豪華な梱包だったの。
ちょっとだけやり過ぎかしら…。
「ち、違います! こ、殺すなんて聞いておりません」
唇を震えせながらの説明よ。
「きっとリーナ様の仕業です!」
「まあご謙遜を! うちにトムは預かってますのよ。一応彼のご家族もなぜか一緒にと懇願されまして…」
「し、信じられない! あそこからみんなを連れ出したの?」
そうよ、断崖絶壁の孤島の家に閉じ込めるなんて、魔女の私でもちょっとビックリしたわ。
私がスカウトしたら泣いて喜ばれたの。
ちょっと罪悪感にかられたわ。
だって人の物を盗むような気がしたからよ。
「うふふっ。ごめんなさいね。わたし、ちょっとだけ研究熱心なの。あ、いえ、もちろん、使いの者が連れ出したのよ」
一応、アリバイ対策ね。
だってソーレが無言でこちらを見てるから。
わたしが出て行ったとバレると困るでしょ。
ヒルダの顔がもう血の気が引いてしまっているわ。
よほどショックなようね。
サプライズがバレて…。
「ち、違います。王太子妃様を殺すつもりはなかったんです。恐ろしさに逃げてくれればと思って…」
あら、そんな肩書き、久しぶりに聞きましたわ。まあそれもすぐになくなりますけれど。
殺す?
うふふ。
ご冗談が面白すぎるわ。
「ソーレ、確かめろ。離宮の妃の部屋にその同じ箱が保存されているらしいな」
「殿下、違うんです! 殿下の宛のモノは、脅かされて! それに、殺す仕掛けとは…断じて!」
ヒルダ嬢が一生懸命に説明しているわ。
なんなのかしら。
二人が仲良くなるように言ったのに、喧嘩になってしまったの?
「やはり其方が我が妃に対しても同じような物を送ったのか…」
なぜ殿下はそんなに興奮されているの?
話の意図が全然読めないわ。
我が妃だなんて、早く元をつけて欲しいものだし。
「リーナ、今までいくつ送られてきたんだ…その、贈り物やらというのは…」
あら、殿下、うらやましいのかしら。あげないわよ。
しかも、呼び捨て。
ぷんぷん。
ママとパパだってそうは呼ばないのよ。
まあ最後だから許してあげるけど。
「えーとっ、まあ正月盆暮れ、いえいえ、年に三回ぐらいはいただいていますわ」
「っ、なんだと! そんなにか……なぜそれを我に言わない」
「え、なぜ? なぜ言わないといけないのでしょうか? 殿下」
その言葉を聞いて殿下の顔が今までに見たことのないくらいに歪んだわ。
言うわけないでしょ?
楽しみを奪われては困るもの…。
「…っ、…そこまで其方は…私の事を。クソっ、ソーレはどこだ!」
会場が騒然としていたわ。
ソーレに猛烈に殿下がお怒りよ。
何故かしら。
もしかして、贈り物を横取りしたかったのかしら?
うきゃー、絶対にだめよ。
あげないから。
ソーレが目配りをし、女を取り立て始めている。
どうやら、先ほど従者の証言通り、それを発見したのが、ヒルダ嬢の馬車からのようだとお話になっているみたい。
「リーナ様、この贈り物に似たものをお持ちなようですね。今から見せてくれませんか…」
陰険黒髪男が聞いてくるわ。
えー、横取りは絶対にさせないわよ。
実はお気に入りは、一個は馬車に入れてあるのよ。
「…み、見るだけよ」
馬車に一個だけ持ってきていると言ったら、すぐに従者が取りにいくことになったわ。
従者に場所を教えたわ。すぐに見えない位置にあるからね。持ち方と開け方の注意点も教えてあげたわ。壊されたら困るでしょ。
でも全てが終わったら返却することもお願いしたの。
「はい、拝見させていただくだけでかまいません。あと、そのトムという職人も…」
「あ、それはどうかしら。トムはわたしにしかお話はしないってことで、今はみんなが知らないところに住まわせているのよ」
「お、お前は自分の命を狙い続けたやつを庇うのか…?」
殿下ってちょっとお言葉がおかしい時があるみたいね。
命を狙うではなくて、命懸けで楽しみを与えてくださった方よ。
全く殿下って変な方だわ。
「あ、でしたらトムのお友達、この国の宰相様、ごめんなさい。お名前を忘れたわ。ヒルダ様のお父様よね。その方にお話を聞いてくださいませ。トムがそう申しておりましたことよ」
ヒルダが泣きくずれたわ。
あ、ソーレとほかの近衛達が、ヒルダ様を連れて行くわ。
これじゃー、もう彼女と話せないじゃないの!
もうソーレってそういう時だけ迅速なのよ。全く陰険よね。人の会話の邪魔が得意なのよ。
ああ、もう!
どうしてこの展開!
だめなの?
彼女、拘束ってこと?
誤解ではないのかしら。
だって私だって人殺しは大反対よ。
そんな非道なこと、絶対わたくしだって許さないわ。
あーん、つまらない!
でも今こんなことを言っている暇はなくなったみたいよ。
「あの色々大変そうですが、殿下、私は、その…ちょっと失礼いたします。もうお持ちだとは思いますが、あとであの書類のサインを…よろしくお願いいたします。わたくし、もう十八歳になりましたので…」
「…待て、リーナ」
あれ、殿下がなぜかずっと苦汁を飲んだような顔でこちらを見つめていらっしゃるわ。そうよね、一番気に入っている愛人が捕まるとはさぞ、苦しいのだと思ったわ。
まあなんでもやり過ぎは誤解を招くわね。
彼女も本気と遊びを履き違えたのかしら。
でもあんな子供騙しで誰も傷つくようには思えないわ。
仕込む方が命懸けなのよ。
そんなことよりも、私は今すぐにここを去らないといけないと思ったわ。
最悪の事態だけど、ダミーで逃げなきゃって…。
だってね、だってね。
感じるの。
巨大よ。
それも特大サイズ。
ぞわぞわしてくるわ。
それは、いい感じのぞわぞわじゃないの。
もう肌がピクピクしているの。
ヤバイ系よ。
絶対、全世の記憶からしたら、ゴンドラで登場しちゃうカップルの結婚式にでてくるよりも大きいやつよ。
どーして誰がこんなレシピ考えたのよと思うわ。
ニンジンケーキよ!
そのにおいがするの!
姫としての優雅な動作でフッと具合悪そうなフリをしてそこから逃げ出したの。
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