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回想 シモンの告白 王子と神官の思惑
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聖女サキが血を流して倒れた時、思わず、殿下の顔をのぞき見た。
彼の顔が引き攣っていたことを見逃せなかった。
「医者を! 早く!」
自分が叫んだ。
リュークは茫然として使いものになりそうに無かった。
──こんなに時期尚早にコレがやってくる全く想像していなかった。
サキ様はきっと自分に何が起きているか分からないのだ。
こんなまだ幼い少女に、国のためとは言え、こんなことができる殿下の心中が分からなかった。
いや、これが彼の最高の慈悲であるということもわかっている。
もっと友好的な方法で、聖女様やこの国を救う方法が無かったのだろうかと思う。
王子の手が震えていたのを見ると、彼も人の子だと感じた。
聖女を助けようと思わず動いて、薬草のエキスが入っている水をサキ様に飲まそうとした。
殿下が自分を怒鳴る。
わかっている。
苦しみを伸ばしたくないのだろう。
聖女様の口にするものは厳重に管理されている。
なぜなら、彼女の体の特質があるからだ。
聖女とは、存在自体が世界の癒し。
身体がまるで闇に対する浄化装置のような物なのだ。
でも、こんな幼気な少女が目の前で血を吐きながら、死に絶えそうなのをほっておけるだろうか?
聖女の召喚が成功したのは、奇跡だった。
もう何十年もしているのに、現れなかったのだ。
すでに亡くなった前神官ミルトの言葉を思い出した。
『受け手が悪いのかもしれん……』
どういう意味ですかと、まだ若い頃の神官見習いの自分がミルトに問う。
彼が、今までの召喚の失敗を探すため、昔の文献を探って色々研究した結果、全ての今までの聖女は、皆深い絆で、受け手と繋がったらしいと記述されていたようだった。ほとんどの受け手が強靭な戦士だったり、英雄だったことを考えると、武力は一つの必要事項だとミルトは説明する。
ミルト曰く、今までのような、聖女付き護衛候補の選び方を変えなくてはいけないという。
家柄や階級だけではなく、真の実力。
真のリーダーシップ。
カリスマ性を備えた勇者が必要なのだと……。
そのために、王国全土でのトーナメントの開催が始められたのだ。
より多くの戦士を候補にするためだ。
そんな中で、行われたトーナメントももうすでに十年以上たっていた。
十八歳だった私も、すでに二十八歳になってしまった。
毎年、召喚行事が行われたが、すでにただの儀式になっていた。
誰も、本当に聖女が現われるとは思わなくなっていたくらいだ。
だが、あの男が圧倒的な強さで優勝した時、何かが違った。
彼は過去を語りがらない。
ただ、自分は平民上がりで、両親も遠い昔に死んだと言っていた。
リューク・グレイ。
初戦から圧倒的な強さを魅せた。
観客がその独特の剣使いに熱狂する。
しかも、この男、魔術師の術をはね返せるのだ。
剣士の中には多少の魔力を使えるものが時々いる。
珍しいケースだが、違反ではない。
だが、魔力と剣力が交じり合うと、ただの人間にとってはとてつもない不利になる。
リュークはそんなのは御構い無しのだ。
ますますこの男が気になり始めた。
すでに殿下にも魔術師のアマイにも伝達をした。
とうとう受け手の真の候補が現れたと……。
そして、思った通り、リュークは聖女に選ばれた。
現れてからのサキの聖女としての活躍は素晴らしかった。
いてくれるだけで、世界が浄化されていく。竜のほうも目覚ましい活躍してくれた。
どんどんと竜たちを洞窟の奥へと戻していく。
想像以上の活躍だった。
だが、聖女というものはいずれ消えていくものだった。
それは、どの秘宝の文献でもそう書いてあった。
聖女とは、仮の器のようなもの。
いずれ、闇の力を知らないうちに体に溜め込み、尽き果てると……。
あのリュークも知っていたはずだ。
サキは、いずれ早かれ遅かれ死ぬのだと……。
ただ、過去に結婚して子をなした聖女もいた。
しかし、彼女はやはり短命で、子をなしたあと、すぐに命を落とした。彼女の最後は壮絶だったと、噂に聞いた。なぜなら、彼女は城を抜け出し、名もない騎士と駆け落ちしたのだ。
つまり、この無邪気な少女は知らないが、聖女とは、存在自体が犠牲となるものだ。
ドラゴンの退治などは、重要ではあるが、二の次だった。
死する聖女に、その事実を伝えるのは禁忌だった。
過去にそれを試みたものがいたが、結局、聖女の精神を犯してしまった。
しかし、殿下も自分も知っていた。
この世界がほころび始めている事を……。
なぜなら、ある深刻な状態が起きている事を耳にする。
世界の端が消えてきていると……。
神官の自分でも一番恐ろしいことが起きていると感じた。
暗闇が世界を包むのも時間の問題だった。
だから、聖女の召喚は、その聖女の最後を考えると、自分達の総意ではなかったが、この世界には必要だったのだ。
本来なら、まだ聖女としての余命は残っていたはずだ。
聖女はある食物を口にすることでその毒素を体の外にだす。
だが、それを行なっている間には、彼女は生き延びるのだ。
それは殿下の意思だった。
私は彼が初めて自分の前で泣く姿を見た。
長く聖女を無理やり生かすと、それだけ、聖女が無くなる時に長く苦しむのだ。
殿下は無邪気で、いつも陽気なサキ様をとても好意的に思っていた。
だから、彼女がこれ以上苦しんで死んでいく宿命を終わらせたかったのだと思う。
「これ以上、無意味な聖女の召喚はやめるべきだ……。滅びる国であれば、滅びるべきだ……」
もう、彼女が亡くなれば、この国はいずれ消え失せると思っていた。
それなのに、なぜだろうか。
聖女様が消えてから、すでに五年。
世界の淵がほとんど戻りつつあった。
奇跡としか言いようがない。
あのサキ様が自らの犠牲で、すべての闇を取り払ってくださったような感じだ。
殿下がサキ様がいなくなった後に、ある望みを口から漏らしたのだ。
「私は、昔の伝説にかけてみる。この国の運命を」
しかも、朗報が続く。
最近になって、竜の出没が一気に減ったのだという。
彼の顔が引き攣っていたことを見逃せなかった。
「医者を! 早く!」
自分が叫んだ。
リュークは茫然として使いものになりそうに無かった。
──こんなに時期尚早にコレがやってくる全く想像していなかった。
サキ様はきっと自分に何が起きているか分からないのだ。
こんなまだ幼い少女に、国のためとは言え、こんなことができる殿下の心中が分からなかった。
いや、これが彼の最高の慈悲であるということもわかっている。
もっと友好的な方法で、聖女様やこの国を救う方法が無かったのだろうかと思う。
王子の手が震えていたのを見ると、彼も人の子だと感じた。
聖女を助けようと思わず動いて、薬草のエキスが入っている水をサキ様に飲まそうとした。
殿下が自分を怒鳴る。
わかっている。
苦しみを伸ばしたくないのだろう。
聖女様の口にするものは厳重に管理されている。
なぜなら、彼女の体の特質があるからだ。
聖女とは、存在自体が世界の癒し。
身体がまるで闇に対する浄化装置のような物なのだ。
でも、こんな幼気な少女が目の前で血を吐きながら、死に絶えそうなのをほっておけるだろうか?
聖女の召喚が成功したのは、奇跡だった。
もう何十年もしているのに、現れなかったのだ。
すでに亡くなった前神官ミルトの言葉を思い出した。
『受け手が悪いのかもしれん……』
どういう意味ですかと、まだ若い頃の神官見習いの自分がミルトに問う。
彼が、今までの召喚の失敗を探すため、昔の文献を探って色々研究した結果、全ての今までの聖女は、皆深い絆で、受け手と繋がったらしいと記述されていたようだった。ほとんどの受け手が強靭な戦士だったり、英雄だったことを考えると、武力は一つの必要事項だとミルトは説明する。
ミルト曰く、今までのような、聖女付き護衛候補の選び方を変えなくてはいけないという。
家柄や階級だけではなく、真の実力。
真のリーダーシップ。
カリスマ性を備えた勇者が必要なのだと……。
そのために、王国全土でのトーナメントの開催が始められたのだ。
より多くの戦士を候補にするためだ。
そんな中で、行われたトーナメントももうすでに十年以上たっていた。
十八歳だった私も、すでに二十八歳になってしまった。
毎年、召喚行事が行われたが、すでにただの儀式になっていた。
誰も、本当に聖女が現われるとは思わなくなっていたくらいだ。
だが、あの男が圧倒的な強さで優勝した時、何かが違った。
彼は過去を語りがらない。
ただ、自分は平民上がりで、両親も遠い昔に死んだと言っていた。
リューク・グレイ。
初戦から圧倒的な強さを魅せた。
観客がその独特の剣使いに熱狂する。
しかも、この男、魔術師の術をはね返せるのだ。
剣士の中には多少の魔力を使えるものが時々いる。
珍しいケースだが、違反ではない。
だが、魔力と剣力が交じり合うと、ただの人間にとってはとてつもない不利になる。
リュークはそんなのは御構い無しのだ。
ますますこの男が気になり始めた。
すでに殿下にも魔術師のアマイにも伝達をした。
とうとう受け手の真の候補が現れたと……。
そして、思った通り、リュークは聖女に選ばれた。
現れてからのサキの聖女としての活躍は素晴らしかった。
いてくれるだけで、世界が浄化されていく。竜のほうも目覚ましい活躍してくれた。
どんどんと竜たちを洞窟の奥へと戻していく。
想像以上の活躍だった。
だが、聖女というものはいずれ消えていくものだった。
それは、どの秘宝の文献でもそう書いてあった。
聖女とは、仮の器のようなもの。
いずれ、闇の力を知らないうちに体に溜め込み、尽き果てると……。
あのリュークも知っていたはずだ。
サキは、いずれ早かれ遅かれ死ぬのだと……。
ただ、過去に結婚して子をなした聖女もいた。
しかし、彼女はやはり短命で、子をなしたあと、すぐに命を落とした。彼女の最後は壮絶だったと、噂に聞いた。なぜなら、彼女は城を抜け出し、名もない騎士と駆け落ちしたのだ。
つまり、この無邪気な少女は知らないが、聖女とは、存在自体が犠牲となるものだ。
ドラゴンの退治などは、重要ではあるが、二の次だった。
死する聖女に、その事実を伝えるのは禁忌だった。
過去にそれを試みたものがいたが、結局、聖女の精神を犯してしまった。
しかし、殿下も自分も知っていた。
この世界がほころび始めている事を……。
なぜなら、ある深刻な状態が起きている事を耳にする。
世界の端が消えてきていると……。
神官の自分でも一番恐ろしいことが起きていると感じた。
暗闇が世界を包むのも時間の問題だった。
だから、聖女の召喚は、その聖女の最後を考えると、自分達の総意ではなかったが、この世界には必要だったのだ。
本来なら、まだ聖女としての余命は残っていたはずだ。
聖女はある食物を口にすることでその毒素を体の外にだす。
だが、それを行なっている間には、彼女は生き延びるのだ。
それは殿下の意思だった。
私は彼が初めて自分の前で泣く姿を見た。
長く聖女を無理やり生かすと、それだけ、聖女が無くなる時に長く苦しむのだ。
殿下は無邪気で、いつも陽気なサキ様をとても好意的に思っていた。
だから、彼女がこれ以上苦しんで死んでいく宿命を終わらせたかったのだと思う。
「これ以上、無意味な聖女の召喚はやめるべきだ……。滅びる国であれば、滅びるべきだ……」
もう、彼女が亡くなれば、この国はいずれ消え失せると思っていた。
それなのに、なぜだろうか。
聖女様が消えてから、すでに五年。
世界の淵がほとんど戻りつつあった。
奇跡としか言いようがない。
あのサキ様が自らの犠牲で、すべての闇を取り払ってくださったような感じだ。
殿下がサキ様がいなくなった後に、ある望みを口から漏らしたのだ。
「私は、昔の伝説にかけてみる。この国の運命を」
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