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言えない事実

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 まさかという想いが胸に沸き起こる。
 そうだよね。
 あんなだったもん……。
 信じたいけど、貴方に殺されたかもしれない私だよ。
 でも、やっぱりリュークがそんなことする人間じゃないってわかってる。

 「ああ、そうですか……。どうして……忘れられないんですか?」

 ちょっと期待して声が震えてしまう。
 でも、着ぐるみから出す声だ。
 感づかれることはないはず…と思う。

 「…………」

 沈黙のリュークがいる。
 私も下手なことが聞きにくい雰囲気に口ごもってしまう。

 「騎士様、他の方もいるので、一人四半刻と決まっているから……早く相談したほうがいいよ……」

 何故かこんな時にマテオくんがちゃっかりと時間を見ていた。

 「……ああ、すまない」
 「別に無理に話さなくてもいいですよ……」

 思わず口を挟んだ。

 「!!」
 「人間、話したくても、なかなか真実を言えないことってあるし……」

 まるで自分の気持ちを代弁しているかのように話した。
 ここで自分があの咲です、といっても、状況は混乱するだけだと考えた。
 しかもその忘れられない相手が自分でないかもしれない。
 一年の間で、美形騎士のリュークに恋人、又はもう奥さんがいるかもしれないとまで思う。

 ちょっと悲しいけど、それは仕方がない。
 例え、もし、何かの運命の悪戯いたずらで、リュークのひとが、だったとしても、今の自分は見た目も全然違うのだ。
 リュークの想い人を知りたい反面、どんな答えも自分を悲しくさせるものだとわかって、気持ちが落ち込む。
 あの毒殺も、リュークがいい人ってわかっていたから、もしなにかの理由で、リュークが自分を殺したとしても、それはそれなりの理由があったのかもしれないとまで思ってしまう。

 まあ単に惚れた弱みなのかもしれない。
 殺されちゃっても愛してますって、なんか重いわ、私って……。
 
 でも、ちょっとやつれているリュークが心配になる。
 自分の今の姿で、少し癒せたら……。
 お節介心が動いてしまった。

 「あの騎士様、私の顔を見るとちょっとは癒されませんか? みんな喜ぶんですよ?」
 
 せめて励まそうと思って、パンダの首を横にこてんっと曲げて、可愛子ぶりっ子のようなポーズをした。
 この辺の奥様に人気のポーズだ。
 
 「……!」

 リュークが驚きの表情をする。

 「か、可愛いな……」

 きゃーーー、っとパンダの中で唸りそうだった。
 リュークが、リュークが、あの堅物のリュークが!!
 ………。

 パンダのことだけど、嬉しすぎて、コヤツに毒殺されたかもしれないって忘れていまう。

 危ない、危ない。
 二度と失敗したくないのだ。
 でも次の言葉は自分を愕然とさせる。

 「でも、貴殿はなぜなのに、パンティって言うのだ? パンティが本当の名前なのか?  笹の葉を食べるって聞いたんだが……」
 「!!!」

 何故、リュークがそんなことを……と思った瞬間、あることに気がついた。
 そう、それを教えたのは自分だった。
 あのゆるキャラの落書きの中に、パンダがいたのだ。

 白黒に塗っていると、リュークが横から顔を出して、
 『それはなんだ? バケモンか』
 と聞いてきたのだ。

 だから、頭にきて、
 『な、何を言っているのですか! パンダというものは、動物界の超アイドル! 化け物などというものではありません!』
と抗議して、その後、リュークにパンダをもっと説明したような気がした。
 自分の知る限りではこの国にパンダという動物はいないようだから、それ以外考えられなかった。
 だが、パンダが異界の動物という事実に、まだリュークは気がついていないようだった。

 いや、もしかして、自分がと気がついて偵察に来たのだろうかっとビクビクしてしまう。
 もう聖女じゃないって体のが教えているし……又勘違いされて聖女に崇められても、また殺しされちゃったら元も子もないと思う。
 しかも、聖女の召喚は普通、神殿で行われる。
 自分が前回喚ばれた時、神殿の広場で、聖女付きの専属護衛騎士のリューク、神官シオン、魔術師アマイ、第一王子のロランなどの面々がいるなかで行われたのだ。

 実はリュークをというには理由がある。
 魔法陣に落ちてくる聖女を者が選ばれるのだ。

 実は後4名ほど候補がいたらしい。
 それぞれ素晴らしい候補者だったと神官のシオンが教えてくれた。
 そして、空から落っこちてきた自分を見事に受け止めたのが、リュークだった。

 こんな路地裏に、パンダの格好で現われるもんじゃないと思う。
 しかも、尻もちついたし……。
 この時ばかりはこの被り物が有り難く感じた。


 
 話が外れてしまったが、今そのリュークが目の前に微動たりしないでいる。
 何にもまだ話してもいないのに、リュークが立ち上がった。

 「パンティです。パンダって違いますよ。知りませんね~」
と思いっきり嘘をついた。

 「そうか。つい、知っている人から聞いたものによく似ているから……」
 
 はあっと小さくリュークは溜息をついた。
 
 「ありがとう。パンティさん」

 ああ、口元隠れていてもわかる。
 優しいリュークの微笑み……。

 こんな外れの路地裏にもう来てはくれないと思う。
 急にまた胸が痛くなった。

 やっぱり好きなんだ。
 大きな黒い外套の下に隠れていても、彼の大きい肩を感じた。

 (さようなら………リューク……)

 そう心の中で言う。

 でも、彼が振り向いた。

 「また来てもいいか? パンティ?」

 あああ、ひ、否定すればよかった。

 パンダの方が数倍マシなような気がする。
 でも、悲しいかな、惚れた弱味は、いまだに続いていた。

 口からは一言だけ出てきた……。

 「はい、もちろんです。お待ちしてます……」

 
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