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エル、男達は使えないと思った件。
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「どうぞエメラルド様、ギデオン様、ミハエル王太子がお待ちかねです」
従者が荘厳なドアを開いた。
エルがギデオンだけに聞こえる声で、騒いでる。
(すげーー、これ本物の金だぞ。ああ、自分の掘った金、こんなとこに使われていたんだな……くっそー)
などと言っている。
もちろん、後からついて来るマティアスにもそれは聞こえていた。
「ぶっ」と笑いを堪えるマティアスとは対照的に、ギデオンはただ咳をした。
(エメラルド……。お前は今公爵令嬢だからな……)
(……)
ギデオンの一言はいつも重い。
それがわかっているエルは、ただ口を閉じた。
頭を下げて王太子が現れるのを待つ。
エルがイライラする前に、彼は現れた。
それには、ギデオンもマティアスも感謝した。
堪忍袋の切れたエルは、本当に誰の手にも負えないからだ。
「あああ! え、エメラルド! やっと会えたね。嬉しいよ」
ミハエルがその玉座から親しげに話しかけてくる。
その様子に周りの警備のものも、マティアスも驚いている。
ギデオンはすでに彼の性格を熟知しているかのように、驚いてはいないようだった。
「ミハエル殿下、こちらをお返しに上がりました……」
エルが自分の手の中にある、美しい装飾がなされた外套を差し出す。
ミハエルの目が喜びに溢れていた。
取りに行こうとするミハエルをギデオンが中に入り、外套を玉座の上の殿下に渡した。
「……ああ、ありがとう。覚えてくれていたんだね……」
ちょっとエルに接触しようとしていたミハエルは少し拗ねた顔を見せる。
だが、その行為は未婚の女性なら当たり前だった。
しかも殿下も未婚であり、一応、まだ婚約者がいるのだ。
「あの時は、助かりました」
エルが目線を下げながら、話す。
「…ああ、君は……う、その、大変な目にあっていたからね」
あの時のエルの見事な肢体を思い出したのか、ミハエルの頬が赤くなる。
なぜか玉座からの視線が激しいことに気がついたエルはどうしようかと焦った。
なんなんだ? この茶番。
訳わからん空気だ。
ああ、なんだか虫酸が走る!
散々マティアスにくる前に脅かされたので、なるべくその表情を見せないようにするべく、手元の扇で顔を隠した。
本来なら、王族の謁見ではあまり推奨されない行為だが、まだ十六歳という年齢が、なにか恥ずかしがってしている動作に見え、エルを初々しく周りに見せていた。
「ああ、エメラルド嬢、体の調子はどうなの? ギデオンがかなり具合が悪いって言っていたから、心配してお見舞いに行こうかと思ったら、まあ、いろいろ周りから止められてね……」
まさか婚約もしていない十六歳の娘のために、殿下が出かけるというのは王家的に大問題であるから、ミハエルは王宮から抜け出せなかったのだ。
「しかも、ギデオンが、『エメラルドはとても心身虚弱体質だから、殿下に見舞いなんていただいたら、かえって具合が悪くなる』なんて言うんだよ。彼が君の後見人じゃなかったら、まったく無視していたけどね……」
ぶぶっと言う声が後ろからわずかに聞こえる。
くそ、絶対マティアスだな。
あとでしばくぞとエルは思う。
ああ、なんだよ、その設定!!
ギデオンを扇越しに睨みながら、わかったよ、やってやるよその、なんだ、ヨワヨワ乙女設定だろ!!と思う。
「ええ、申し訳……あ、ありません……ミハエル様とは、そのあんなことがあった上……」
演技を続けるエルをギデオンとマティアスが呆然としながら、見ていた。
エルの会心の演技は二人のだいの男を驚かせた。
本当に、儚い少女にみえるからだ。
マティアスなんて、顎が外れそうなくらいに驚いている。
エルは思う。
バカめ。
どんだけ海賊なめてんのかよ。
まだ年齢が幼い頃から、このか弱い設定はけっこう海賊の間でもお気に入りの役だった。
相手の船に「漂流中の幼子」を演じる。
狙いの船に隙を作るためだ。
みんな大丈夫かと優しい。
そりゃーそうだ。
海にたった一隻の小舟の中で、子供が一人乗ってれば、大体の船乗りの男たちは優しくなる。
それで、キリウスたちがやってくるのだ。
違う海賊の本船で……。
だから、いざとなれば演技くらい出来るんだよ、バカやろう!!
ああ、面倒だ。もう帰りてぇーーー!
「ああああ!! どうしましょう、なんだか、具合が……!!」
ここでエルはちょっと計算違いをした。
本当ならここで、倒れて、ギデオンかマティアスが自分を抱きしめてくれる予定をしていた。
それでおさらばだ。
ギデオンが言う社交辞令というのがまったく意味がわからないし、興味がないのだ。
だから、それを全部トンズラしたいがためにうった策が全くの不発、いや大失敗だと、すぐに気がつかされた。
完全にこいつらが使えねー。
なぜなら、ギデオンの横で倒れたはずなのに、意外にも、このひ弱そうな金髪頭の男が、ありえないくらいくらいの速い動きで、王座から降り立ち、自分を抱き止めたからだ。
「だいじょうぶか!? エメラルド!!」
ミハエルに抱かれながら、叫ばれた。
まじ、死にたい。
こんな、なんかチャラそうなやつに抱かれているだけで、虫酸が走る。
意識を失っているふりをしているのに、エルの心は憤慨していた。
ばっかやろーー!!
ギデオンもマティアスも使えーーっん!!!
これじゃー悪化だろ! 悪化!
「ああ、やっぱりエメラルドは女神のように美しくて儚い……。はやく医者を呼べ!」
その声を聞きながら、エルはその抱かれている相手を蹴りたい気持ちを抑えていた。
従者が荘厳なドアを開いた。
エルがギデオンだけに聞こえる声で、騒いでる。
(すげーー、これ本物の金だぞ。ああ、自分の掘った金、こんなとこに使われていたんだな……くっそー)
などと言っている。
もちろん、後からついて来るマティアスにもそれは聞こえていた。
「ぶっ」と笑いを堪えるマティアスとは対照的に、ギデオンはただ咳をした。
(エメラルド……。お前は今公爵令嬢だからな……)
(……)
ギデオンの一言はいつも重い。
それがわかっているエルは、ただ口を閉じた。
頭を下げて王太子が現れるのを待つ。
エルがイライラする前に、彼は現れた。
それには、ギデオンもマティアスも感謝した。
堪忍袋の切れたエルは、本当に誰の手にも負えないからだ。
「あああ! え、エメラルド! やっと会えたね。嬉しいよ」
ミハエルがその玉座から親しげに話しかけてくる。
その様子に周りの警備のものも、マティアスも驚いている。
ギデオンはすでに彼の性格を熟知しているかのように、驚いてはいないようだった。
「ミハエル殿下、こちらをお返しに上がりました……」
エルが自分の手の中にある、美しい装飾がなされた外套を差し出す。
ミハエルの目が喜びに溢れていた。
取りに行こうとするミハエルをギデオンが中に入り、外套を玉座の上の殿下に渡した。
「……ああ、ありがとう。覚えてくれていたんだね……」
ちょっとエルに接触しようとしていたミハエルは少し拗ねた顔を見せる。
だが、その行為は未婚の女性なら当たり前だった。
しかも殿下も未婚であり、一応、まだ婚約者がいるのだ。
「あの時は、助かりました」
エルが目線を下げながら、話す。
「…ああ、君は……う、その、大変な目にあっていたからね」
あの時のエルの見事な肢体を思い出したのか、ミハエルの頬が赤くなる。
なぜか玉座からの視線が激しいことに気がついたエルはどうしようかと焦った。
なんなんだ? この茶番。
訳わからん空気だ。
ああ、なんだか虫酸が走る!
散々マティアスにくる前に脅かされたので、なるべくその表情を見せないようにするべく、手元の扇で顔を隠した。
本来なら、王族の謁見ではあまり推奨されない行為だが、まだ十六歳という年齢が、なにか恥ずかしがってしている動作に見え、エルを初々しく周りに見せていた。
「ああ、エメラルド嬢、体の調子はどうなの? ギデオンがかなり具合が悪いって言っていたから、心配してお見舞いに行こうかと思ったら、まあ、いろいろ周りから止められてね……」
まさか婚約もしていない十六歳の娘のために、殿下が出かけるというのは王家的に大問題であるから、ミハエルは王宮から抜け出せなかったのだ。
「しかも、ギデオンが、『エメラルドはとても心身虚弱体質だから、殿下に見舞いなんていただいたら、かえって具合が悪くなる』なんて言うんだよ。彼が君の後見人じゃなかったら、まったく無視していたけどね……」
ぶぶっと言う声が後ろからわずかに聞こえる。
くそ、絶対マティアスだな。
あとでしばくぞとエルは思う。
ああ、なんだよ、その設定!!
ギデオンを扇越しに睨みながら、わかったよ、やってやるよその、なんだ、ヨワヨワ乙女設定だろ!!と思う。
「ええ、申し訳……あ、ありません……ミハエル様とは、そのあんなことがあった上……」
演技を続けるエルをギデオンとマティアスが呆然としながら、見ていた。
エルの会心の演技は二人のだいの男を驚かせた。
本当に、儚い少女にみえるからだ。
マティアスなんて、顎が外れそうなくらいに驚いている。
エルは思う。
バカめ。
どんだけ海賊なめてんのかよ。
まだ年齢が幼い頃から、このか弱い設定はけっこう海賊の間でもお気に入りの役だった。
相手の船に「漂流中の幼子」を演じる。
狙いの船に隙を作るためだ。
みんな大丈夫かと優しい。
そりゃーそうだ。
海にたった一隻の小舟の中で、子供が一人乗ってれば、大体の船乗りの男たちは優しくなる。
それで、キリウスたちがやってくるのだ。
違う海賊の本船で……。
だから、いざとなれば演技くらい出来るんだよ、バカやろう!!
ああ、面倒だ。もう帰りてぇーーー!
「ああああ!! どうしましょう、なんだか、具合が……!!」
ここでエルはちょっと計算違いをした。
本当ならここで、倒れて、ギデオンかマティアスが自分を抱きしめてくれる予定をしていた。
それでおさらばだ。
ギデオンが言う社交辞令というのがまったく意味がわからないし、興味がないのだ。
だから、それを全部トンズラしたいがためにうった策が全くの不発、いや大失敗だと、すぐに気がつかされた。
完全にこいつらが使えねー。
なぜなら、ギデオンの横で倒れたはずなのに、意外にも、このひ弱そうな金髪頭の男が、ありえないくらいくらいの速い動きで、王座から降り立ち、自分を抱き止めたからだ。
「だいじょうぶか!? エメラルド!!」
ミハエルに抱かれながら、叫ばれた。
まじ、死にたい。
こんな、なんかチャラそうなやつに抱かれているだけで、虫酸が走る。
意識を失っているふりをしているのに、エルの心は憤慨していた。
ばっかやろーー!!
ギデオンもマティアスも使えーーっん!!!
これじゃー悪化だろ! 悪化!
「ああ、やっぱりエメラルドは女神のように美しくて儚い……。はやく医者を呼べ!」
その声を聞きながら、エルはその抱かれている相手を蹴りたい気持ちを抑えていた。
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