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公爵に怒られる
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「バカモン!!」
大男の大声はまじに五月蝿い。
エルは顔をカンカンに真っ赤にさせて怒っているギデオンを上目遣いで見ながら、思った。
今日の公爵の怒りは、エルがまた下着姿で木に登り、本を読んでいたことについてだった。ちょうど王都から早めに帰還したギデオンに見つかり、大目玉を喰らう。
誰だよ、初対面で、私の服を破ったのは…お前じゃんか……とかなりふて腐れながら聞く。
ただいまギデオンの執務室で説教が始まってしまったらしい。
「お前は令嬢の何たるかを全くわかってない!」
「あーー、やっぱり無理じゃん。この計画。やっぱり令嬢とか無理だわ」
「ああ、わかっている。刑務所暮らしが長いお前が、令嬢になるなどと難しいのはわかっている。でも、多少なりとも努力してもらわないとな……」
「そうそう、諦めが肝心だよ…」
「おい!」
正直、この公爵領はかなり気に入った。ここに入ってもう三カ月が過ぎた。この領土に入ってから、あの声が全く聞こえない。布団もふかふか、ご飯も美味しく、何度もがっつり食べ過ぎて見張りのマティアスに、令嬢らしからずと叱られた。
三カ月前のあの裸脱走事件のあと、渋々ドレスというものを着てみたが、1日が終わってみると見るも無残、ドレスが泥だらけ、または切れ切れになっているのだ。またマティアスに笑わられる。
お前を殺しかけた暗殺者を笑うとはいい度胸じゃないかと言い放つと、体をびくんとさせながら、胸の辺りを両手でマティアスが隠すのだ。
しかし、「こんなチンタラ令嬢ごっこして、大丈夫なのか?」とギデオンに聞くと、「今は王都にさほど混乱はない。警備を増員してるし、私も時々見回っているから心配ない」と言われる。
「だが、状況はすぐにでも悪化するかも、しれない。だがら、早くお前も令嬢になりきれ。それに目のコントロールの訓練も時期に始める」と言われる。
どうやら、毎年その社交界で女神リディアの王冠という催しが開催され、その優勝を狙い、令嬢達が競うらしい。それは、見た目、礼儀作法、レディとしての振る舞いなどが見られて、審査するのは、10人のジャッジと、貴族達の投票で決まるものだった。
それに優勝すると、一年間王宮の出入りを許される許可証をもらえた。それは王族でも立ち入り禁止区域、神殿にまで入れるという特別な許可証であった。これさえあれば、自由自在に王宮を動ける。みんなそれを狙いに令嬢たちが美や作法などに力を入れていた。それは地位が低いものでも、高貴な身分のものと知り合うことができると言う、所謂、玉の輿を狙う令嬢達にとっては夢の証書だったのだ。
説教ついでなのか、ギデオンが一枚の手紙を出してきた。高級なクリーム色の封筒に、王家の紋章が刻印されている。ああ、まただよっとエルが面倒に思う。毎週、ギデオンが王都に出向くともらって帰って来る。
「いらないよ。あの王子はしつっこいね。くだらないことばかりが書いてあるんだ。ギデオン、お前が適当に返事を書いてくれよ」
「エメラルド、それはできない。一応、この国のミハエル王子からのプライベートな手紙だ。何遍も言っとくが、まあ、まだお前の年だと、普通は親が確認してから渡すことになっている。ずっと返事を書いてないだろ。今回こそ書いてくれ、殿下にも何度も念を押された。たまったもんじゃないな」
「えーー! またあれやるのか? 聞いているだけで鳥肌がたつぞ」
海賊時代にキリウスに習ったから、読み書きはできるのだが、何せ海賊的な識字なので、この王宮に使われる高貴な文言が全然エルには通じない。
「一応、返事を書かなければならない。いくぞ」
手紙をギデオンが読み上げる。
『麗しの姫君エメラルドへ
朝焼けの刻に、その輝ける光を見て、一番に君のことを想う。
美しいあなたはなにをしているのだろうかと……。そして、いつまた逢えるのかと胸が苦しく切なくなる』
まだまだ続きを読もうとするギデオンに対して、ひゃーとか言って全然まともに取り合っていないエルがいた。
「む、無理だ。全く意味がわからない! なぜあの王子は私が朝一になにをしているのか知りたいのか? わかるか? ギデオン? 変態っていうか、超、暇なんだな。胸が痛いなら、医者に見せろよ。わざわざ私に知らせる必要ないんじゃないか?」
「……」
ギデオンはなんと説明していいかわからない様子で無言だった。
「わかった。返事はこう書く」
エルが決心したかのように答えた。
「本当はプライベートなことだから、聞きたくはないが、悪いが聞かせてほしい」
「お、驚くな……完璧だ」
なにか紙にサラサラとエルが書いている。
それをギデオンに渡した。それを読んでいるギデオンが硬直している。
こんなような内容だった。
『ミハエル王子様。
手紙ありがとう。質問に答えよう。俺は朝起きたら、まずクソして、もう一回寝る。
あと、胸が痛いなら、早く医者に行け。金なら王子なんだから、あるんだろ?
しばらく会えないから何回も聞くな』
と手紙に書いてあった。
「どうだ。いいだろ? きちんと要点を押さえているし、しかも奴の金の心配まで解決してやっているじゃないか?」
もうこの点に関しては、なにも言うことがないとギデオンは諦めた。
「わかった。お前は、しばらく持病が悪化して返事が書けないことにする」
「な、なんだよ、それ。まあでもそれだったら、返事書かなくていいな」
はぁっと溜息を公爵はつきながら、悪びれなさそうにしているエルを見つめた。
大男の大声はまじに五月蝿い。
エルは顔をカンカンに真っ赤にさせて怒っているギデオンを上目遣いで見ながら、思った。
今日の公爵の怒りは、エルがまた下着姿で木に登り、本を読んでいたことについてだった。ちょうど王都から早めに帰還したギデオンに見つかり、大目玉を喰らう。
誰だよ、初対面で、私の服を破ったのは…お前じゃんか……とかなりふて腐れながら聞く。
ただいまギデオンの執務室で説教が始まってしまったらしい。
「お前は令嬢の何たるかを全くわかってない!」
「あーー、やっぱり無理じゃん。この計画。やっぱり令嬢とか無理だわ」
「ああ、わかっている。刑務所暮らしが長いお前が、令嬢になるなどと難しいのはわかっている。でも、多少なりとも努力してもらわないとな……」
「そうそう、諦めが肝心だよ…」
「おい!」
正直、この公爵領はかなり気に入った。ここに入ってもう三カ月が過ぎた。この領土に入ってから、あの声が全く聞こえない。布団もふかふか、ご飯も美味しく、何度もがっつり食べ過ぎて見張りのマティアスに、令嬢らしからずと叱られた。
三カ月前のあの裸脱走事件のあと、渋々ドレスというものを着てみたが、1日が終わってみると見るも無残、ドレスが泥だらけ、または切れ切れになっているのだ。またマティアスに笑わられる。
お前を殺しかけた暗殺者を笑うとはいい度胸じゃないかと言い放つと、体をびくんとさせながら、胸の辺りを両手でマティアスが隠すのだ。
しかし、「こんなチンタラ令嬢ごっこして、大丈夫なのか?」とギデオンに聞くと、「今は王都にさほど混乱はない。警備を増員してるし、私も時々見回っているから心配ない」と言われる。
「だが、状況はすぐにでも悪化するかも、しれない。だがら、早くお前も令嬢になりきれ。それに目のコントロールの訓練も時期に始める」と言われる。
どうやら、毎年その社交界で女神リディアの王冠という催しが開催され、その優勝を狙い、令嬢達が競うらしい。それは、見た目、礼儀作法、レディとしての振る舞いなどが見られて、審査するのは、10人のジャッジと、貴族達の投票で決まるものだった。
それに優勝すると、一年間王宮の出入りを許される許可証をもらえた。それは王族でも立ち入り禁止区域、神殿にまで入れるという特別な許可証であった。これさえあれば、自由自在に王宮を動ける。みんなそれを狙いに令嬢たちが美や作法などに力を入れていた。それは地位が低いものでも、高貴な身分のものと知り合うことができると言う、所謂、玉の輿を狙う令嬢達にとっては夢の証書だったのだ。
説教ついでなのか、ギデオンが一枚の手紙を出してきた。高級なクリーム色の封筒に、王家の紋章が刻印されている。ああ、まただよっとエルが面倒に思う。毎週、ギデオンが王都に出向くともらって帰って来る。
「いらないよ。あの王子はしつっこいね。くだらないことばかりが書いてあるんだ。ギデオン、お前が適当に返事を書いてくれよ」
「エメラルド、それはできない。一応、この国のミハエル王子からのプライベートな手紙だ。何遍も言っとくが、まあ、まだお前の年だと、普通は親が確認してから渡すことになっている。ずっと返事を書いてないだろ。今回こそ書いてくれ、殿下にも何度も念を押された。たまったもんじゃないな」
「えーー! またあれやるのか? 聞いているだけで鳥肌がたつぞ」
海賊時代にキリウスに習ったから、読み書きはできるのだが、何せ海賊的な識字なので、この王宮に使われる高貴な文言が全然エルには通じない。
「一応、返事を書かなければならない。いくぞ」
手紙をギデオンが読み上げる。
『麗しの姫君エメラルドへ
朝焼けの刻に、その輝ける光を見て、一番に君のことを想う。
美しいあなたはなにをしているのだろうかと……。そして、いつまた逢えるのかと胸が苦しく切なくなる』
まだまだ続きを読もうとするギデオンに対して、ひゃーとか言って全然まともに取り合っていないエルがいた。
「む、無理だ。全く意味がわからない! なぜあの王子は私が朝一になにをしているのか知りたいのか? わかるか? ギデオン? 変態っていうか、超、暇なんだな。胸が痛いなら、医者に見せろよ。わざわざ私に知らせる必要ないんじゃないか?」
「……」
ギデオンはなんと説明していいかわからない様子で無言だった。
「わかった。返事はこう書く」
エルが決心したかのように答えた。
「本当はプライベートなことだから、聞きたくはないが、悪いが聞かせてほしい」
「お、驚くな……完璧だ」
なにか紙にサラサラとエルが書いている。
それをギデオンに渡した。それを読んでいるギデオンが硬直している。
こんなような内容だった。
『ミハエル王子様。
手紙ありがとう。質問に答えよう。俺は朝起きたら、まずクソして、もう一回寝る。
あと、胸が痛いなら、早く医者に行け。金なら王子なんだから、あるんだろ?
しばらく会えないから何回も聞くな』
と手紙に書いてあった。
「どうだ。いいだろ? きちんと要点を押さえているし、しかも奴の金の心配まで解決してやっているじゃないか?」
もうこの点に関しては、なにも言うことがないとギデオンは諦めた。
「わかった。お前は、しばらく持病が悪化して返事が書けないことにする」
「な、なんだよ、それ。まあでもそれだったら、返事書かなくていいな」
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