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婚約
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イーサン団長がずっと荒れていた。
所謂、手詰まりなのだ。
あの晩、正門を通ったものはいない。裏門はこの騎士団員以外のものが通れないように、団員はそれぞれ鍵を持たされていた。
ほとんど夜間はそちらには警備はいない。
「もしかして、内通者がなかにいたのか?」
あのアリスもなにか心労が溜まったといい、長期休みを申請した後、不在だ。
リチャードはその妻を気遣いながら、自宅と職場を行ったり来たりしていた。メイド長も今回の件は、家族の急病で休んだアリスの心情と、代わりの者が配属できなかった自分の不手際を詫び、イブのことは別として、イーサンの口添えによって、かなり恩情措置が取られていた。
ただ、イーサンの心だけが荒波があっていた。
全てがまた行き詰まりだった。
そんな時、王子から直々に謁見にくるように指示される。
「くそ、この忙しい時になにを考えている! あのたぬき王子め!」
イライラしながら、王宮に向かった。
いつもながら、その腹を見せない笑顔で、この国の第一王子カイルがイーサンに話し始める。
この王子は年の割には体が小さいし、童顔なのだが、それに騙されてはいけないとイーサンは知っている。
しかも、昔より幼くなっているような気さえする。
「もうすでに王の許可はとってあるが、お前に結婚話を持ってきた」
「え? なんですか? あなたは私の特質を知った上で、いまさらそんなことを言うのですか?」
「……そうだ。お前ももうすぐ二十七才になる。本来なら、もう子供の一人や二人、いてもおかしくない年だ。それなのに、あのような女遊び、いや言葉を間違えた。君の場合、必要な息抜きだったね。それはやはりこの国の次期将軍として、ふさわしくないのだよ。君にはそれなりの伴侶が必要なのだ。これは王の命令でもある」
この王国の王立騎士団を含む他の部隊を率いるはずの総隊長、つまり、将軍のポジションは未だ不在なのだ。かろうじて、カイル王子が兼任しているが、体力が弱いカイル王子はそこまで追いつかず、いつも何かあるとイーサンを頼っていた。
「……殿下! いまわたしはそのような状態では! それなら、殿下だってご成婚をしていないではないですか?」
「イーサン、私の場合は、国家と私自身の問題だ。それよりもお前の方がよほど心配なのだ。お前は勇者でありながら、ずっとそのような少年の淡い恋心を大人の体に閉じ込めているのだ。それは非常によくない。でも、いまお前がこの相手を知ったら、絶対に拒むことはしないはずだ……それに、我々は君に尊大な犠牲を強いているのだから……」
童顔でありながら、同い年の殿下がイーサンをそのあどけない目で見つめた。
よくない兆候だ。これで以前、殿下の罠にまんまと引っかかり、記憶も曖昧になるぐらいに戦争で爆発してしまった。上手く相手を玉砕したから手柄になったのだが、それを引導したのは、紛れもなくこの殿下だった。
「このお相手の名前を見ろ」
一枚の巻物を差し出される。
これはこの国で、王が直々に命を下す、所謂、勅令が記された正式な書類であった。
その書かれた名前を見て、イーサンの手が震える。
「これは……!!」
喜んでいると勘違いしている第一王子カイルは、ニマニマしていた。
「そうだろ、考えられないだろ。でも、喜べ、もうあちらにもこの達しが届いているはずだ」
「!!!!」
驚愕しているイーサンが殿下を見つめる。
その羊皮紙にかかれた文言はこうだった。
『両者の婚姻を命ずる。
王立騎士団団長、クロス公イーサン、
シントロスキー伯の長女、ディアナ、
両者の婚姻を命じ、それをここに許可する』
下に王の直々の刻印がなされていた。
イーサンは、自分の運命が神に操られているような気がした。
所謂、手詰まりなのだ。
あの晩、正門を通ったものはいない。裏門はこの騎士団員以外のものが通れないように、団員はそれぞれ鍵を持たされていた。
ほとんど夜間はそちらには警備はいない。
「もしかして、内通者がなかにいたのか?」
あのアリスもなにか心労が溜まったといい、長期休みを申請した後、不在だ。
リチャードはその妻を気遣いながら、自宅と職場を行ったり来たりしていた。メイド長も今回の件は、家族の急病で休んだアリスの心情と、代わりの者が配属できなかった自分の不手際を詫び、イブのことは別として、イーサンの口添えによって、かなり恩情措置が取られていた。
ただ、イーサンの心だけが荒波があっていた。
全てがまた行き詰まりだった。
そんな時、王子から直々に謁見にくるように指示される。
「くそ、この忙しい時になにを考えている! あのたぬき王子め!」
イライラしながら、王宮に向かった。
いつもながら、その腹を見せない笑顔で、この国の第一王子カイルがイーサンに話し始める。
この王子は年の割には体が小さいし、童顔なのだが、それに騙されてはいけないとイーサンは知っている。
しかも、昔より幼くなっているような気さえする。
「もうすでに王の許可はとってあるが、お前に結婚話を持ってきた」
「え? なんですか? あなたは私の特質を知った上で、いまさらそんなことを言うのですか?」
「……そうだ。お前ももうすぐ二十七才になる。本来なら、もう子供の一人や二人、いてもおかしくない年だ。それなのに、あのような女遊び、いや言葉を間違えた。君の場合、必要な息抜きだったね。それはやはりこの国の次期将軍として、ふさわしくないのだよ。君にはそれなりの伴侶が必要なのだ。これは王の命令でもある」
この王国の王立騎士団を含む他の部隊を率いるはずの総隊長、つまり、将軍のポジションは未だ不在なのだ。かろうじて、カイル王子が兼任しているが、体力が弱いカイル王子はそこまで追いつかず、いつも何かあるとイーサンを頼っていた。
「……殿下! いまわたしはそのような状態では! それなら、殿下だってご成婚をしていないではないですか?」
「イーサン、私の場合は、国家と私自身の問題だ。それよりもお前の方がよほど心配なのだ。お前は勇者でありながら、ずっとそのような少年の淡い恋心を大人の体に閉じ込めているのだ。それは非常によくない。でも、いまお前がこの相手を知ったら、絶対に拒むことはしないはずだ……それに、我々は君に尊大な犠牲を強いているのだから……」
童顔でありながら、同い年の殿下がイーサンをそのあどけない目で見つめた。
よくない兆候だ。これで以前、殿下の罠にまんまと引っかかり、記憶も曖昧になるぐらいに戦争で爆発してしまった。上手く相手を玉砕したから手柄になったのだが、それを引導したのは、紛れもなくこの殿下だった。
「このお相手の名前を見ろ」
一枚の巻物を差し出される。
これはこの国で、王が直々に命を下す、所謂、勅令が記された正式な書類であった。
その書かれた名前を見て、イーサンの手が震える。
「これは……!!」
喜んでいると勘違いしている第一王子カイルは、ニマニマしていた。
「そうだろ、考えられないだろ。でも、喜べ、もうあちらにもこの達しが届いているはずだ」
「!!!!」
驚愕しているイーサンが殿下を見つめる。
その羊皮紙にかかれた文言はこうだった。
『両者の婚姻を命ずる。
王立騎士団団長、クロス公イーサン、
シントロスキー伯の長女、ディアナ、
両者の婚姻を命じ、それをここに許可する』
下に王の直々の刻印がなされていた。
イーサンは、自分の運命が神に操られているような気がした。
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