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籠の中のカナリア
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星を見てその目を煌めかせている彼女を見て、思わず頬が緩んだ。
ここにわざわざ連れてきてよかったと思う。
アベルの事は万事上手くいきそうだった。
まあ、いかなかったら、いかせるように仕組むだけだ。
問題はないはずだ。
旅の疲れもあったが、ここまでの道のりを思ってシャンパンを開ける。
彼女の自由の門出を祝いたかった。
呆然としている彼女は可愛らしい……。
でも、それと同時に彼女の驚きの表情が自分の良心を刺激した。
私はアベルや彼女の祖母と同じだけかもしれない。
彼女は本当に特別だ。
もちろん、見た目の美少女としての美しさは神がかっていた。
でも、蓮司のもとで働いていれば、そういう類の女性にも稀に出会う。
だが、歩美の場合、根本的ななにかが違っていた。
彼女には見た目の美しさだけでない何かがある。
凛とした美しさだ。
それが何なのか、最初はわからなかった。
強烈な芯の強さとまた自分を強いと信じ込んでいる健気な少女が混在していた。
その危うさが自分を魅了するのか?
カナリア?
鳥籠の中で、一生を終える事をわかっているような鳥のカナリアか?
自分の運命を見極めたものからしか出せないような、一種の覚悟と悲壮感から醸し出されるものかもしれない。
皆がそれを所有することを望む……。
自分は………?
籠の中のカナリアをただ、他の籠に移したいだけなのか?
私という名の籠に君を閉じ込めたい。
否めない感情を持て余した。
そして、自分には真田家の跡取りとしての責任があった。
自由という言葉を噛みしめている彼女の姿が胸にくる。
無理をして全てを頑張っている歩美が可愛くて仕方がない。
むくれて男言葉を使う歩美も、友達思い過ぎて、自分の立場まで投げ出してしまううっかり屋さんの歩美も、どちらの歩美からも目が離せない自分がいた。
ああ、ここまで来て、蓮司様の気持ちがわかってきた。
あの部屋を出る前に、彼に言われたのだ。
『俺も、お前の助言がなかったら、うっかり間違えそうだった……』
えっと思って彼を凝視する。
『慎一郎、器だけ貰ってくるなよ。中身がない器は、味がない。後で大後悔するっと祖父が言っていた……』
『!!!』
蓮司様が自分の名前を呼ぶときは、友人として、助言したい時だ。
お互いの立場を小さな時から自覚している我々は、あまりない行為だった。
蓮司様が美代様に見初めた時、蓮司様が背負われている物の重さと、美代様の若さを考えて、あの猛獣化した我が主を止めに何度も入った。
それが、正しい行為に見えた。
まだうら若き乙女に考える時間を与えたかった。
しかも、その当時の美代様は全く、仕事に追われて、それ以外のことには全く考えも及ばぬ生活をされていた。
今でもその行為は間違っているようには思えなかった。
だが、自分はどうだろう?
誰も止めるものはいない。
いくら彼女が賢くても、男性のずる賢さに巻き込まれたら、きっと敵わないだろう。
実際、その方法も考えた。
惚れて欲しいのだ。
いくらでも持っている技は使いたい。
でも、それで彼女がまた籠の中のカナリアに戻ってしまったと、気がついたら……。
絶望するだろうか?
逃げてしまうだろうか?
不安がよぎる。
煮え滾る想いを抑えたいために、彼女に星観察の授業を頼んだ。
このまま、コテージの部屋に入ったら、確実に彼女を抱いてしまいそうだった。
ちょっと口を開けながら自分を『安上がりな男』と表現する貴方には自分の邪な考えを見抜かれたくなかった。
作り笑いをする。
飽きれながら驚いている彼女の顔がまた胸にくる。
自分自身に命令する。
これを褒美とするんだ……。
一生懸命に星を説明する貴方は、本当に可愛らしい。
思わず星を観ないで、貴方をずっと見つめていたいと思ってしまう。
でも、あんまり熱心に説明するから、一応、星を見つめる。
このまま時間を止めたいと思った。
寝てしまった君を寝室に移す。
軽い君の体の熱が自分を浸食する。
熱にうなされそうだ。
今晩は……。
そっと彼女をベットに下ろした。
シーツの上に広がる、流れるような髪の毛が自分を誘う。
慎一郎、去るんだ……。
何度も想像してしまった画像が目の前にあった。
いや、自分の想像はもっと醜い。
恥ずかしくなって頬が赤くなる。
去るべきだとわかっているのに、去れない自分がいた。
キングサイズのベットには、もちろん、もう一人が寝れるだけのスペースが充分にあった。
「ごめん、歩美さん。やっぱりもう一つだけ褒美が欲しい……」
ベットが軋んだ。
少しウェーブがかかった彼女の髪の毛を少し掻き上げた。
その愛らしい、ぷくりとした唇が自分を惹きつける。
胸が痛んだ。
でも、それは甘美で悪くない痛みだった。
彼女の寝息が、肌で感じる距離だった。
「……愛している。歩美……」
自分の唇を彼女のものと重ねた。
その唇に感じる柔らかな弾力が、自分の熱を上げてしまう。
この熱を君に分け与えたい……。
募る想いが、唇から溢れてしまう。
「んんんっ……」
寝ている歩美が声を漏らした。
思わず、唇を離した。
君の寝顔を凝視した。
ふうっと大きな溜息をついた。
この部屋にいるだけでとんでもない事をしそうだった。
あの美代様が大原邸に初めて泊まった時の蓮司の行動が再び理解できた。
ああ、本当に、私は蓮司様に酷なことを強制したんだなっと反省する。
別室に寝る決心をする。
「おやすみなさい。歩美さん……。いい夢を見るんだよ」
自分はその寝室を後にした……。
そして、ただ自分に質問を投げかける……。
私は貴方を諦められるのか?
胸の息苦しさは止まらなかった……。
ここにわざわざ連れてきてよかったと思う。
アベルの事は万事上手くいきそうだった。
まあ、いかなかったら、いかせるように仕組むだけだ。
問題はないはずだ。
旅の疲れもあったが、ここまでの道のりを思ってシャンパンを開ける。
彼女の自由の門出を祝いたかった。
呆然としている彼女は可愛らしい……。
でも、それと同時に彼女の驚きの表情が自分の良心を刺激した。
私はアベルや彼女の祖母と同じだけかもしれない。
彼女は本当に特別だ。
もちろん、見た目の美少女としての美しさは神がかっていた。
でも、蓮司のもとで働いていれば、そういう類の女性にも稀に出会う。
だが、歩美の場合、根本的ななにかが違っていた。
彼女には見た目の美しさだけでない何かがある。
凛とした美しさだ。
それが何なのか、最初はわからなかった。
強烈な芯の強さとまた自分を強いと信じ込んでいる健気な少女が混在していた。
その危うさが自分を魅了するのか?
カナリア?
鳥籠の中で、一生を終える事をわかっているような鳥のカナリアか?
自分の運命を見極めたものからしか出せないような、一種の覚悟と悲壮感から醸し出されるものかもしれない。
皆がそれを所有することを望む……。
自分は………?
籠の中のカナリアをただ、他の籠に移したいだけなのか?
私という名の籠に君を閉じ込めたい。
否めない感情を持て余した。
そして、自分には真田家の跡取りとしての責任があった。
自由という言葉を噛みしめている彼女の姿が胸にくる。
無理をして全てを頑張っている歩美が可愛くて仕方がない。
むくれて男言葉を使う歩美も、友達思い過ぎて、自分の立場まで投げ出してしまううっかり屋さんの歩美も、どちらの歩美からも目が離せない自分がいた。
ああ、ここまで来て、蓮司様の気持ちがわかってきた。
あの部屋を出る前に、彼に言われたのだ。
『俺も、お前の助言がなかったら、うっかり間違えそうだった……』
えっと思って彼を凝視する。
『慎一郎、器だけ貰ってくるなよ。中身がない器は、味がない。後で大後悔するっと祖父が言っていた……』
『!!!』
蓮司様が自分の名前を呼ぶときは、友人として、助言したい時だ。
お互いの立場を小さな時から自覚している我々は、あまりない行為だった。
蓮司様が美代様に見初めた時、蓮司様が背負われている物の重さと、美代様の若さを考えて、あの猛獣化した我が主を止めに何度も入った。
それが、正しい行為に見えた。
まだうら若き乙女に考える時間を与えたかった。
しかも、その当時の美代様は全く、仕事に追われて、それ以外のことには全く考えも及ばぬ生活をされていた。
今でもその行為は間違っているようには思えなかった。
だが、自分はどうだろう?
誰も止めるものはいない。
いくら彼女が賢くても、男性のずる賢さに巻き込まれたら、きっと敵わないだろう。
実際、その方法も考えた。
惚れて欲しいのだ。
いくらでも持っている技は使いたい。
でも、それで彼女がまた籠の中のカナリアに戻ってしまったと、気がついたら……。
絶望するだろうか?
逃げてしまうだろうか?
不安がよぎる。
煮え滾る想いを抑えたいために、彼女に星観察の授業を頼んだ。
このまま、コテージの部屋に入ったら、確実に彼女を抱いてしまいそうだった。
ちょっと口を開けながら自分を『安上がりな男』と表現する貴方には自分の邪な考えを見抜かれたくなかった。
作り笑いをする。
飽きれながら驚いている彼女の顔がまた胸にくる。
自分自身に命令する。
これを褒美とするんだ……。
一生懸命に星を説明する貴方は、本当に可愛らしい。
思わず星を観ないで、貴方をずっと見つめていたいと思ってしまう。
でも、あんまり熱心に説明するから、一応、星を見つめる。
このまま時間を止めたいと思った。
寝てしまった君を寝室に移す。
軽い君の体の熱が自分を浸食する。
熱にうなされそうだ。
今晩は……。
そっと彼女をベットに下ろした。
シーツの上に広がる、流れるような髪の毛が自分を誘う。
慎一郎、去るんだ……。
何度も想像してしまった画像が目の前にあった。
いや、自分の想像はもっと醜い。
恥ずかしくなって頬が赤くなる。
去るべきだとわかっているのに、去れない自分がいた。
キングサイズのベットには、もちろん、もう一人が寝れるだけのスペースが充分にあった。
「ごめん、歩美さん。やっぱりもう一つだけ褒美が欲しい……」
ベットが軋んだ。
少しウェーブがかかった彼女の髪の毛を少し掻き上げた。
その愛らしい、ぷくりとした唇が自分を惹きつける。
胸が痛んだ。
でも、それは甘美で悪くない痛みだった。
彼女の寝息が、肌で感じる距離だった。
「……愛している。歩美……」
自分の唇を彼女のものと重ねた。
その唇に感じる柔らかな弾力が、自分の熱を上げてしまう。
この熱を君に分け与えたい……。
募る想いが、唇から溢れてしまう。
「んんんっ……」
寝ている歩美が声を漏らした。
思わず、唇を離した。
君の寝顔を凝視した。
ふうっと大きな溜息をついた。
この部屋にいるだけでとんでもない事をしそうだった。
あの美代様が大原邸に初めて泊まった時の蓮司の行動が再び理解できた。
ああ、本当に、私は蓮司様に酷なことを強制したんだなっと反省する。
別室に寝る決心をする。
「おやすみなさい。歩美さん……。いい夢を見るんだよ」
自分はその寝室を後にした……。
そして、ただ自分に質問を投げかける……。
私は貴方を諦められるのか?
胸の息苦しさは止まらなかった……。
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