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助っ人、歩美が行く

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 朝食の時間がやって来たので、歩美と下のダイニングルームに降りていった。
 でも、本当は朝食なんてスキップして、こっそりと学校に行きたかった。
 昨日、蓮司を区役所に置き去りにしたことについての罪悪感が自分を責めていた。

 ど、どうしよう。
 どんな顔で会ったらいいのかわからなかった。

 そんな美代の気持ちを察したのか、歩美がゲキを飛ばす。
 「美代、もっと堂々としなさい! 悪いのは、あっちなんだから!」
 「え、でも、何も言わないで置いていちゃったのは事実だし」
 「馬鹿ね、いきなり婚姻届を出してくるような単細胞、いや、奴の場合は、獣かしら、まあ、ちょっとお灸が必要だったから、いいのよ」
 「あ、歩美ちゃん!!」
 美代は半分半べそになりながら、歩美に抱きついた。
 二人はゆっくりとダイニングルームの部屋を開けた。

 開けた瞬間、ぶわっと花の香りが部屋中に香った。
 いたるところ、色とりどりの美しい花をけてあり、まるで花屋のように華やかであった。
 すると、美代の目の前にも、薄紫の小さなブーケが現れた。

 足元を見ると、蓮司がひざまずいて、美代の間にそのブーケ、釣鐘草ツリガネソウ、カンパニュラの花束を美代に差し出している。

 「っ、蓮司!」
 「ああ、まだ僕の名をそうやって呼んでくれる? 美代、昨日は本当に悪かった。許してくれ!」

 歩美と美代が唖然としている。
 え? 蓮司がいま、僕って言った。
 歩美が放心状態の美代の代わりに、言葉を発する。

 「馬鹿ね、あんた! 本当に! 単細胞、ぼけなす、美代の旦那になりたいだと! 本人の了諾なく婚姻届けなど!恥を知れ!!! この御曹司!」

 激昂する歩美の声がダイニングルームに響き渡る。
 まるで悪代官をやっつける御老公様のようだ。
 あ、そういえば、歩美ちゃん、御老公様も超タイプって言ってたなと、歩美の怒りの文言を聞きながら、美代は思った。

 静まる空気に、怒りを吐き出した歩美がふっと息をつく。

 「釣鐘草ツリガネソウね。花言葉は、謝罪と後悔……。そうでしょうね。懺悔しかないわよ!」

 歩美の言葉が終わりを告げたと同時に、今まで下を向いていた蓮司がまた言葉を発した。

 「歩美さんの言葉は、正しい。本当に僕は愚かだった。君がいなくなるくらいなら、正直、何もいらない。総裁である意味さえ、君のことを思うとその価値がわからなくなる。婚姻届はもちろん、保留にする。学校もそのままいっていい。だけど、僕から離れることは許さない」

 とにかく蓮司がおかしくなった。面白い方のおかしいではない。完全に壊れたの方だ。
 ようやく、様子見で壁に立っていた真田がみんなの前に出てくる。

「皆様、もう朝食の準備が出来ていますので、どうぞお座りください」

 慇懃に礼をしながら、皆をテーブルの方へと招き入れる。

 「あ、歩美様もおはようございます。昨日は寝れましたでしょうか? 美代様のお帰りが思ったよりも遅くなってしまい、女子会にはならなかったですね」

 「……おはようございます。真田さん。寝れたわよ。昨晩、あなたが淹れてくれたハーブティーも美味しかったし……」

 蓮司はただ美代に言葉をかけて欲しいのか、床をじっと見ながら、まだ美代の前に跪いていた。
 美代も思い余って、自分の膝を床につけた。

 「ごめんなさい。蓮司。昨日は置いてけぼりにして……。まだ気持ちがそこまで整理できないの。婚姻届はまだ出せない」
 「美代!! ごめん。君をそこまで追いやってしまい、僕は……」

 いつものS系の俺様御曹司がどこかに消えてしまったようで、思わず美代がプッと吹き出した。

 「な、何か変ですよ。蓮司会長っぽくないというか……、いつもの『オレ様~っ』て感じがなくて……」

 美代は自分の言った言葉を後悔した。
 何故か目の前の男が床を見ながら、ふっと笑ったような気がした。

「そう、美代……。やっぱり物足りない? そうだよな、俺もそう思う。バカだな、美代。チャンスをやったのに」

 ええ? っと思ったのが、最後だった。

 真田も、歩美も、配膳中の松田も部屋の中にいるのに、蓮司が美代の腰をぐいっと持ち上げて自分の目の前に立たせると、あの馴染みのあるフェロモン全開の艶やかな笑みを浮かべて、口元が開いた。

 「……美代。心配させた罰だ。受け取れ」
 「んんっーー!!」

 後頭部をガシッと捕まれ、蓮司の唇が美代のと重なる。
 皆んなの前で、しかもダイニングルームなのに、腰が抜けそうなキスを蓮司は美代にしまくった。

 「ばぁ、馬鹿!!」

っと叫んでも、止めてくれない。

 キスの狭間に、蓮司が脅迫する。
 
 「逃げるな、俺から二度と!」
 「ええ! そんな、はぁんっ」

 歩美が美代を助け用とすると、その腕を真田に掴まれる。松田は最初は唖然としていたが、そそくさと触らぬが神の祟りなしという感じで、厨房に逃げた。

 「さ、真田さん! 美代を助けないと!」
 「……歩美さん、これについては我々は一つの方法でしか、美代様を助けられません」

 隣で激しくキスされている美代を横目に歩美が動揺している。

 「何よ、早く言いなさいよ」
 真田は自分の席について、ナイフとフォークを掴んだ。

 「ここで、平然と朝食を食べるんです。それしか申し訳ありませんが、できません……」

 隣の情事が気になってしょうがない歩美は、声を荒げる。

 「だって、美代が!!」
 「お互い相思相愛なんですよ……」
 「あ!」
 「でも、ここを私たちが出てしまえば、美代様が望まなくても、ここで蓮司会長に抱かれてしまう」
 「……」
 「でも、我々がここにいれば、熱りが冷めたら、冷静になって元に戻るでしょう……、多分ですが」

 隣ですごいキスの音が聞こえてくるのに、真田は平然と食事を取り始めた。ビジネススーツを着込んでいる様子から、まだ総裁代行として、会社に出勤する様子だった。

 歩美は半分納得できない様子で、なるべく隣を見ないで、席につく。
 聴きたくない友達の発する声にゲンナリして耳を手で塞いだが、目の前の物を見て、考えが変わった。

 しかも、かすかに「……ちゃん!」と聞こえた。
 それだけで、十分だった。
 急に歩美は立ち上がり、花瓶をもち、その中の水だけを蓮司にかけた。
 ジャーっという音と共に、蓮司の頭もスーツの洋服も全部濡れていた。

 「ふ、ふざけんな! この鬼畜変態御曹司! 私が前に言ったこと、忘れたか? 女友達の方が、彼氏や旦那より特別なんだぞ!」






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