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美代 三下り半を飛ばしてみた
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女子トイレの入り口ドアから長い廊下を眺めた。
う、やっぱり奴はいる。
なぜなら、やっぱり5、6人の知らない可愛らしい女子に囲まれている。
女性が群れをなして固まっていれば、蓮司がセンターにいる可能性が高い。
だが、蓮司は座っているせいか足元だけしか見えなかった。
み、みんな目敏い。
しかも婚姻届を持っている男をナンパする勇気。
自分にはない強さだ。
彼女達の可愛らしさを見ていると、なぜか胸がちくんと痛くなる。
自慢じゃないが、自分の外見に自信がない。
自分の外見を考えてしまう感情でさえ、自信過剰に思える。
雑草が雑草でいられた間は楽だった。
だがいま現在、自分は雑草なのに、大舞台、超豪華絢爛なホテルのロビーに飾られているような大輪の花の横に並べと言われているようなもんだった。
本当にこの人にとって私なんかでいいのだろうかと思ってくる。
ああ、この感情、とっても嫌だ。
自分が嫌いになってくる。
好きなのに……好きな人の隣にいるのが、苦痛って、どうしようもない。
女性の人数が少ないせいか、又はここはお役所であるからか、SP達も現れない。
まずはあちらのお姉さま達よりも自分のやるべき事をしなくては……。
例のブツを戸籍係のお姉さんにもらう。
あちらもこう言うのは慣れているようで、見事に冷静に渡してくれた。
急いで必要事項を書き込んだ。 しかもちょうど自分の番号が掲示板に表示され、戸籍ができた事を教えてくれる。戸籍謄本もゲット出来た。よかった。蓮司には女性達が壁となってこちらが見えないらしい。
ああと思いながら、蓮司の方に歩み寄る。
例のブツ、戸籍謄本とは違う紙切れを持っている手が震える。
これで彼は私が言いたい事、わかってくれるだろうか?
いま、自分には、結婚までには、まだ時間が必要なのだ。
蓮司の相応しい相手と思えるだけの自信が欲しかった。
だが、聞こえてきた内容に唖然として、目の前の大きな柱に隠れた。
まだ女達が蓮司の周りにいる。
私が最も一番縁がなさそうなタイプの女性達だった。
「え、もう結婚しちゃうんですか? 残念でぇす~!」
フリフリのワンピースが似合っている女性が話す。
「……まあそうだ」
「いやーー、きっと超美人の素敵な方なんでしょうね……」
ショートカットのスレンダーな美女も話しかけた。
「ああ、かなり可愛い」
「きゃーー妬ける。一緒にきているんですか」
「ああ、来ている」
「ええ、何処何処!?」
「いや、まだちょっと化粧直しに行っているんじゃないか」
柱の陰で美代は震えた。
な、なんなの?
どうして勝手にハードル上げてんのよ!!
い、いま現在、私、黄色のつなぎですから!
しかもお手洗いに行く事を化粧直しって……。
オブラートに包んでくれるのはいいけど、すっぴんですから!
つけるのはまあ、色付きのリップクリームだけですから!
蓮司は役所で問題や混乱を起こすわけにはいかないと思い、辛抱強く美代を待ち続けていた。本人がお手洗いに行ったのに、そこについて行くわけにもいかず、ただこの目の前の壁、いや女性達をどうして良いものかと思案していた。しかも、自分の特性を知ってか、なるべく彼女らに視線を合わさないようにしていた。
柱の後ろで、美代は心の中で唸った。
ああ、もうここは二者択一だ。
いま、こっからトンズラするか……。
歩美の指示したように、このブツを奴に叩きつけ、自分の意地を見せるか……。
先ほど歩美ちゃんには、こう言われたのだ。
あちらが婚姻届で迫るなら、こっちは離婚届で対抗しろって……。
まあそこまではわかる。
歩美ちゃんの演技指導では、これを蓮司会長にチラつかせながら、上目遣いで、
『そ、そんな無理やりだなんて……、蓮司のこと、嫌いになっちゃうかも』
と可愛らしく言えと言われた。ない胸でもいいから寄せろって言われた。
色仕掛けなのか?
歩美ちゃんに言うのを忘れた。
黄色のつなぎだがら、今の私。
胸の寄せポーズだって、ただのシワにしかならないから。
それに、今の状態、む、難しい。だってそんな観客がいるようなところでは出来ないと思う。
しかも、歩美ちゃんが『多分、それで奴は撃沈する。その後、おかしな行動をするかも、しれないけれど、なんとしてもそれを阻止して、婚姻届を出させないで廃棄させれば、いいから!』
こんな蓮司をハートマークの目線で見つめているような観客を目の前に、刺激されたエロ大魔神様がなにを仕掛けてくるかと思うだけで、顔が赤くなる。
その時、歩美ちゃんからメールが届く。
『本人が取り消しに今日か明日来れば、休学届けは取り消ししてくれるって! よかったよ。早く学校に行け!』
歩美ちゃん。
ありがとう。
彼に意思を伝えるよ。歩美ちゃんとは違う方法だけど……。
結婚は、まだ嫌。
学校も行きたい。
手元の一枚の離婚届の紙を見る。
ショック受けるかなーと思う。
結婚もしてないのに離婚届ってやっぱりおかしいっと思ったけど、あっちがそうなら、こっちもその覚悟なんだと教えたかった。
どうやって彼に見せそうかと考えた挙句、自分の名前、しかもきちんと大原美代って書いてあるそれを丁寧に紙飛行機にしてみた。
そして奴がいる塊の集団にその紙飛行機を飛ばしてみた。
薄い一枚の紙飛行機が風のない役所の中で空を描いた。
コツンっ。
あ、ダメだ。隣の方のおじいさんのハゲ頭に直撃してしまった。
お、おじいさんが唖然として、頭を撫でている。
コントロールが悪かった! ダメだ!
に、逃げよう!
あの集団と蓮司と婚姻届……三つとやりあう自信がなくなった。
思った瞬間、自分の足がすでに反対方向に走り始めていた。
そして、関係者出入口と書かれていたところが見えてきた。
ちょっとよそ見をしている守衛さんを横目に出口を突進する。
先ほどまで両思いでラブラブだったはずの美代が区役所から逃げ去る。
そして、美代はこの婚姻届の本当の真意を知らず、蓮司の前から消え去った。
う、やっぱり奴はいる。
なぜなら、やっぱり5、6人の知らない可愛らしい女子に囲まれている。
女性が群れをなして固まっていれば、蓮司がセンターにいる可能性が高い。
だが、蓮司は座っているせいか足元だけしか見えなかった。
み、みんな目敏い。
しかも婚姻届を持っている男をナンパする勇気。
自分にはない強さだ。
彼女達の可愛らしさを見ていると、なぜか胸がちくんと痛くなる。
自慢じゃないが、自分の外見に自信がない。
自分の外見を考えてしまう感情でさえ、自信過剰に思える。
雑草が雑草でいられた間は楽だった。
だがいま現在、自分は雑草なのに、大舞台、超豪華絢爛なホテルのロビーに飾られているような大輪の花の横に並べと言われているようなもんだった。
本当にこの人にとって私なんかでいいのだろうかと思ってくる。
ああ、この感情、とっても嫌だ。
自分が嫌いになってくる。
好きなのに……好きな人の隣にいるのが、苦痛って、どうしようもない。
女性の人数が少ないせいか、又はここはお役所であるからか、SP達も現れない。
まずはあちらのお姉さま達よりも自分のやるべき事をしなくては……。
例のブツを戸籍係のお姉さんにもらう。
あちらもこう言うのは慣れているようで、見事に冷静に渡してくれた。
急いで必要事項を書き込んだ。 しかもちょうど自分の番号が掲示板に表示され、戸籍ができた事を教えてくれる。戸籍謄本もゲット出来た。よかった。蓮司には女性達が壁となってこちらが見えないらしい。
ああと思いながら、蓮司の方に歩み寄る。
例のブツ、戸籍謄本とは違う紙切れを持っている手が震える。
これで彼は私が言いたい事、わかってくれるだろうか?
いま、自分には、結婚までには、まだ時間が必要なのだ。
蓮司の相応しい相手と思えるだけの自信が欲しかった。
だが、聞こえてきた内容に唖然として、目の前の大きな柱に隠れた。
まだ女達が蓮司の周りにいる。
私が最も一番縁がなさそうなタイプの女性達だった。
「え、もう結婚しちゃうんですか? 残念でぇす~!」
フリフリのワンピースが似合っている女性が話す。
「……まあそうだ」
「いやーー、きっと超美人の素敵な方なんでしょうね……」
ショートカットのスレンダーな美女も話しかけた。
「ああ、かなり可愛い」
「きゃーー妬ける。一緒にきているんですか」
「ああ、来ている」
「ええ、何処何処!?」
「いや、まだちょっと化粧直しに行っているんじゃないか」
柱の陰で美代は震えた。
な、なんなの?
どうして勝手にハードル上げてんのよ!!
い、いま現在、私、黄色のつなぎですから!
しかもお手洗いに行く事を化粧直しって……。
オブラートに包んでくれるのはいいけど、すっぴんですから!
つけるのはまあ、色付きのリップクリームだけですから!
蓮司は役所で問題や混乱を起こすわけにはいかないと思い、辛抱強く美代を待ち続けていた。本人がお手洗いに行ったのに、そこについて行くわけにもいかず、ただこの目の前の壁、いや女性達をどうして良いものかと思案していた。しかも、自分の特性を知ってか、なるべく彼女らに視線を合わさないようにしていた。
柱の後ろで、美代は心の中で唸った。
ああ、もうここは二者択一だ。
いま、こっからトンズラするか……。
歩美の指示したように、このブツを奴に叩きつけ、自分の意地を見せるか……。
先ほど歩美ちゃんには、こう言われたのだ。
あちらが婚姻届で迫るなら、こっちは離婚届で対抗しろって……。
まあそこまではわかる。
歩美ちゃんの演技指導では、これを蓮司会長にチラつかせながら、上目遣いで、
『そ、そんな無理やりだなんて……、蓮司のこと、嫌いになっちゃうかも』
と可愛らしく言えと言われた。ない胸でもいいから寄せろって言われた。
色仕掛けなのか?
歩美ちゃんに言うのを忘れた。
黄色のつなぎだがら、今の私。
胸の寄せポーズだって、ただのシワにしかならないから。
それに、今の状態、む、難しい。だってそんな観客がいるようなところでは出来ないと思う。
しかも、歩美ちゃんが『多分、それで奴は撃沈する。その後、おかしな行動をするかも、しれないけれど、なんとしてもそれを阻止して、婚姻届を出させないで廃棄させれば、いいから!』
こんな蓮司をハートマークの目線で見つめているような観客を目の前に、刺激されたエロ大魔神様がなにを仕掛けてくるかと思うだけで、顔が赤くなる。
その時、歩美ちゃんからメールが届く。
『本人が取り消しに今日か明日来れば、休学届けは取り消ししてくれるって! よかったよ。早く学校に行け!』
歩美ちゃん。
ありがとう。
彼に意思を伝えるよ。歩美ちゃんとは違う方法だけど……。
結婚は、まだ嫌。
学校も行きたい。
手元の一枚の離婚届の紙を見る。
ショック受けるかなーと思う。
結婚もしてないのに離婚届ってやっぱりおかしいっと思ったけど、あっちがそうなら、こっちもその覚悟なんだと教えたかった。
どうやって彼に見せそうかと考えた挙句、自分の名前、しかもきちんと大原美代って書いてあるそれを丁寧に紙飛行機にしてみた。
そして奴がいる塊の集団にその紙飛行機を飛ばしてみた。
薄い一枚の紙飛行機が風のない役所の中で空を描いた。
コツンっ。
あ、ダメだ。隣の方のおじいさんのハゲ頭に直撃してしまった。
お、おじいさんが唖然として、頭を撫でている。
コントロールが悪かった! ダメだ!
に、逃げよう!
あの集団と蓮司と婚姻届……三つとやりあう自信がなくなった。
思った瞬間、自分の足がすでに反対方向に走り始めていた。
そして、関係者出入口と書かれていたところが見えてきた。
ちょっとよそ見をしている守衛さんを横目に出口を突進する。
先ほどまで両思いでラブラブだったはずの美代が区役所から逃げ去る。
そして、美代はこの婚姻届の本当の真意を知らず、蓮司の前から消え去った。
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