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<閑話> 母と父と息子
しおりを挟む父ことキリエは、息子を散歩に呼び出した。
二人は王宮の外れの裏庭を歩き出した。空は夕暮れ時だったため、茜色をしていた。
二人は、いろいろ昔話をしながら、歩いていた。
キリエは、ちょっと戸惑いながら尋ねる。
「忍、お前はどうするつもりだ?」
父の率直な質問に少し驚く。
「え、父さん。どういう意味?」
キリエ、こと功は、地面を見ながら続ける。
「このままでいいのか? 母さんからチョロっと聞いたぞ。何人もの男性に交際を申し込まれているらしいじゃないか?」
肝心な対象者の名前を出さないところが、父の気遣いなのかと思い、ちょっと笑ってしまう。
「ああ、そのことか。とうさん。大丈夫。ぼくが必ず守る」
「守るって……はぁ。おまえはいつもカナに対しては『守るか一緒にいるの一点張りだな……』」
「ふ、父さん。そうだよ。それはいまでも変わらない」
「父さんは、カナには幸せになって欲しい。まあお前がそばについているんだからな。それは大丈夫なような気がするよ。でもな……おまえも一緒に幸せになって欲しいんだ……おれの唯一の息子だ……お前は……」
「父さん……」
「いいんだ。この世界はお前が作り出したものだ。せいぜい楽しめ。お前はお前の道を歩め。父さんと母さんは見守っているよ・・」
「心配かけて……ごめん。父さん……」
二人の親子はお互いに抱きしめあった。
「でもさ、お前のその銀髪すげーよな。なんか輝いてしまっているし……」
「はははっ。父さんだって、見かけはおれと同い年かそれか年下にみえるよ。そのオレンジ色の髪、いけているし。」
二人は笑いながら、固く握手をした。
その後、忍は母に呼び出される。お茶を誘われ、二人でお茶を静かにいただく。
「忍ちゃん。ちょっといいかしら……」
「母さん……ちょっとなんだか怖いな……」
「わかっているわよね……」
ジロっと母親から睨まれる。
「え、まあ、なんとなく……」
「カナちゃん……のことだけど……」
「ああ、やっぱり。さっきも父さんにも言ったけど、大丈夫。おれがキチンと守るよ。」
「え、っまあ、そうでしょうね。お兄ちゃんはいつもカナちゃんには溺愛だから……」
「あ、ありがとう。信用してくれて。
」
「あのね。そういう話じゃないのよ……実はね……」
「え、そうなの。じゃー、なんだい、母さん……」
「あのね、忍ちゃん、このゲームなんだけどね……」
「うん……」
「あの、どうしよう……いっちゃうっ」
「え、なんだよ。どうしたの?」
「かあ……さんにも、ゲームの世界・・作って欲しい!お兄ちゃんに!」
忍は、思わずブーーっとお茶を思いっきり吹き出した。
「え、母さんなんだって」
「……別にね~、カナちゃんみたくモテなくていいから、なんていうの?
中年の女性が、活躍しちゃう素敵な世界に行ってみたいの!」
唖然とした顔のしのぶが、目が点となっている。
「あははははっ」
「もう……お兄ちゃんたら、そんなに笑うことないじゃない・・・」
「母さんも、さすがおれの母さんだ。カナの相手について、つっこまれるかと思った。」
「あら、その点はなんにも心配していないわ。だって、あなたがいるでしょ? なんの心配があるの。」
「ふふふ。そう心配ないよ……」
二人はそんな会話をしながら、楽しくお茶の時間をすごした。
作るかどうかは知らないが、母は勝手に題名をきめ、『中年女子——異界でばっちり生きていきます』となった。
****
父と母は最後の日になって、我々の前から消えた。
忍がたぶん、もうそろそろっといってから、そのあたりにはお互いに最後の言葉を掛け合っていたから、問題ない。朝になって、侍女のマリアが、ゲスト用の寝室に行ってみたら、二人とも消えていたらしい。ただ、隠された魔法陣があって、それをフェリスが解いてみると、二人からの立体メッセージが現れた。
思いっきり『幸せになってね~!カナも忍も!』と熱々のふたりがしゃべって消えた。
ちょっと考えてみるとバカっぽい親だが、愛情はあったし、家は開けがちだったが、楽しかったことにはかわりない。
「あーあ、とうとう帰りましたね…あのふたりは」
忍がつぶやく。
「うん、でも会えてよかった。きっと心配していたんだよ。」
「たぶん、そうなんでしょうね。カナとあってから、僕は人間の感情っていうものがだんだんわかるようになってきたよ。」と言って、忍はやさしくカナの頭にキスをした。
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