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お付き合い編 消えたカナ

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 市井の近くの衛兵から、緊急の伝達が届く。
 その受け取った紙を開くと、驚きのあまり……声が出なくなる。

 「………どういうことだ」

 自分の声とは思えないぐらいの恐ろしい低音だ。
 横でケヴィンもその伝達を読み、自体の深刻さを察する。

 「お前、どういうことだ。どうやってこの伝達をもらってきた! 説明せよ」
 
 怒りと驚きで激昂するケヴィンがこの伝達がどうして起こったのかを追求した。

 「はい、ヴァン団長が至急、殿下にご連絡するよう、我が衛兵隊の詰所から早馬を走らせました。とにかく、一刻を争う事態ということです」

 フェリスは、ケヴィンに一言『忍に連絡しろ』と残し、自分はカナを探すために、すぐに転移の準備をした。

 「おい、おまえ、いま団長がいたところはわかるか?」
 
 フェリスはその汗だくになりながら、説明する衛兵に聞く。
 そして、衛兵が何ブロックのどこであるか説明すると、フェリスが指で小さく円陣を描くと、なにか呪文を唱えた。
 すると、彼の足元から古代語の描かれた魔法陣が現れ、光とともに彼を包む。
 フェリスは、その光と風とともに消え失せた。

 「すげーーーーー」

 あまり、転移の魔法を見たことのない衛兵は、驚いてため息を漏らした。
 反対にケヴィンは、『王宮内では転移禁止なんですけど……』とブツブツ言いながら、自分もしかたなく、ある作業の準備にかかった。

 この魔術はあまり最近使われない。
 この世にあることさえ、知らないものも多い。
 だが、もしもということで、忍がフェリスに、ある魔具を置いていったのだ。
 緊急以外は魔力の使用量が半端ではないから、使うなと念と入れられたものだ。
 使い方は、事前にケヴィンに伝えてある。
 こう見えても、ケヴィンは魔法師でもある。
 ただ、フェリスや忍の前ではあまりにも力量が違うため、自分でもこうやって新たに使うとちょっと気がひける。

 大丈夫。私にでも役にたてる……。
 ケヴィンは自分自身に言い聞かせる。

 「あー、ではやりますか……」

 フェリスの執務室に置いてある引き出しから、黒く薄い石板のようなものを出した。
 まずは手をあてて、魔力を送り込む。
 すると、その黒い石板が光り出す。
 
 「うーーー、これはやっぱりかなりの魔力を使いますね……」

 ちょっと体の力が抜けてきた。

 「なんでしたっけ、パスワード……たしか4649(よろしく)だったな」と言いながら、番号を打つ。

 そして、何回かボタンが現れるたびにそれを押す。
 最後にこう入力する。

 『カナ様が誘拐。忍様、至急、ご帰還願う』

 そして、送信とかかれたボタンを押す。
 送信済みという言葉が出るまで、自分の魔力を流し込む。
 そのサインが出たと同時に床に倒れこんだ。
 忍曰く、その相手の距離まで魔号を飛ばすため、それだけの魔力が消耗されるらしい。
 近くにいた衛兵が、助けをおれの代わりに呼ぶ。

(なさけないが、これが今カナを助けるのに私が一番できることだ……)と床に仰向けにながら、思う。

 カナ、無事でいてくれ。

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