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軍服みたいです!
しおりを挟む「リヒト様、はい、お弁当ですよ。これは、カイン様用です」
「あーー、カナちゃん、ありがとう」
「おい、カイン。おまえ馴れ馴れしすぎないか?」
「リヒトは固すぎるんだよ。まあ騎士で堅物だからね。しょうがないね」
二人はブツブツいいながら、演習場の椅子に座っているカナの両脇にお弁当を持ちながら、ちょこんと座った。
「あれ、きょうは団長いないのね。会議?」
カナがお弁当のごはんをひと口に入れようとしながら言った。
「あー、今日、急遽隣国から王子が視察に来ることになって、まだ七歳だけど、こちらもそれなりの体制を整えることになったらしい。あと、歓迎の夜会も開かれるらしいぞ。お前、出るのか?」
リヒトがお弁当の唐揚げを口に頬張り答える。
「ええ……?? 王子? 夜会」と驚く私。
最近、この世界はまったくゲームと違うっとわかってきた。
はっきり言って、このカインとリヒトも攻略対象だけども、本当ならば、完全にすれているはずの人間嫌いなリヒトもそれなりにやんちゃな普通の少年だし、カインもお茶目なお兄さん的だ。
腐女子だったから、わからなかったけど、同級生や先輩の男の子と話したら、こんな感じなのかなーとカナは感じていた。
年上だけど、割りあいと話しやすい相手であった。
「夜会ね。実はとても苦手です。裏でこっそり見ている分にはいいんですけどね。踊りとか……死にます」
げっそりな表情をみせるカナ。
「そうだね。いつもカナちゃんは夜会に出ませんよね。誘っても断られるし。僕はいつでもカナちゃんと夜会にいきたいなぁ。踊りだって、ぼくがリードできるよ」
カインは色気のある含みのある笑みで、アピールしてきた。
「おい、カイン。おまえ抜け駆けするなよ。おまえはあの公爵令嬢が待っているんじゃねーのか? カナ、おまえが行きたいなら、おれが連れて行くよ」
「あちゃーー。それはいわないでよ、リヒト。本当に、頭痛い問題なんだから」
「え、あの噂は本当なの? わたしも最近聞いたよ。カインは結婚するの?」
「ん……。なんともいえないよ。申し込みがあったのは確かだよ。僕は男爵の次男だから、まったく断る理由がないんだ。でも、あっちは公爵だし、しかも……会ったことがない人なんだよ。どうしていいやらわからないよ」
わたしが、バンッとお弁当を横において、キッとカインを見据える。
「カイン様。なんですか? その態度。それで王立騎士団の私の一押しイケメン騎士なんでしょうか? そんな騎士たるもの……相手の顔がわからないから結婚に悩むなんて、おかしな理由聞いたことありません。確か……詮索お得意ではありませんでしたか? そのお相手をお顔ぐらい、調べられないで、王宮一押しのイケメン騎士なんですか?!」
きょとんとする男ふたり。
ぷぷぷぷっ。
わらうリヒト。
戸惑いながら、カインは喋り出す。
「そ、、そうだよね。カナちゃん。確かにそうだよ。俺は詮索が得意なイケメン王立騎士団の一員だよね。あ、イチオシだよね」
リヒトは何かを思い出したように、カインの肩をたたく。
「おまえ、カナの言うとおりだぞ。おまえはイチオシだ。相手の顔がわからなければ、見つけるまでじゃないか。それぐらい将来の伴侶候補に向き合わないとな」
「もう、まったくリヒトは。他人事だと思っているでしょ。いいよ。でも、おれ調べる。この結婚、おれにとって、余程のことがないと断れないし、もしかしたら、断れる材料があるかもしれないし」
そう言い残すと、お弁当をさっさと食べ終わり、カインは走り去っていった。あの様子だと、午後の座学はさぼりだなっとリヒトは思う。
「カナ、本当にお前、今度の夜会に出ないのか?」
黒群青の髪を前顔に垂らしながら、切れ長の目で流し見てくる。
ごっくん。
思わず生唾を飲んじゃったけど、こんな顔、確かゲームでも見たなとカナは回想する。
フェリスに色目を使う時だったかな?
フェリスXリヒト。
なかなか色気もりもりのカップルだったわ。
どっちが受けだったかな。
カナの脳細胞があちらの世界で浮遊していたが、リヒトの言葉で現実にまた戻らされる。
「カナ。おれの話、聞いてる? もし夜会に出れそうなら、おれと出ない? 嫌じゃなければ……」
またまたフェロモンたっぷりの目で見つめられる。カナもこの世界にきてから、三年が過ぎて、もう十八歳である。
十八歳であればもう結婚していてもおかしくない年齢である。
ただ留学生という立場は微妙で、留学生はあまり王宮主催の夜会に出ることはなかった。
ただし、その留学生が高貴な位の場合は別である。
カナの場合、もしかして舞姫かもしれない立場であったけれども、秘密となっていたため、夜会には呼ばれなかった。
まあカナは気がつかないが、フェリスが隠したがっていたのだ。
フェリスも二十歳なり、こちらの世界でも二十歳は成人として考えられている為、まだ婚約者がいないフェリスは格好の未婚の令嬢のターゲットとなっていた。
「うん、ちょっとまだわからない。ケヴィン様のお許しがでないとなんとも」
ケヴィンは自分の一応師匠となる。
いわゆる担当教授。
しかも、辺境からやってきてる設定なため、親代わりの保証人だ。
だから、この国に留学生としているあいだ、身元引受人はケヴィンなのだ。
「あーー、ぜったいにケヴィン殿はいいって言わないな。前にも断られたいし」
リヒトは唸った。
強引に連れてってしまうおうか。
この可愛らしいカナをどこかに閉じ込めて、自分だけのものにしてしまいたかった。
あの鉄仮面は、なぜかカナのことになると頑なに拒否するのだ。
この前の夜会にカナを誘いにケヴィンにお許しを願ったら、
『わたしの命があるかぎり、許さない……』と氷よりも冷たい表情で返答された。
怖すぎる。
どういうことだよ。
カナを一生独身のままにさせたいのか?
ただ、あの方は単なる家令ではない。
フェリス殿下の右腕なのは一目瞭然だ。
あの方を怒らせるほど怖いものはない。
でも、ここで辞めるのはやっぱり納得いかない。
「わかった。でも、一度カナを夜会に連れて行きたい。きっと気に入ると思うよ。他の奴らに見せるのはまあちょっと癪だけど、カナが好きな正装を皆んなしてるよ。騎士団は基本、みんな正装で参加だし。軍服だよ」
「ええええ! 軍服! 正装ですかぁ! ひゃーーーーー、萌えます! でも、わたしのみっともない姿をみせるのは嫌ですけど、たしかにイケメン、いや皆様の正装姿っ、覗いてみたいです!」
カナのちょっとした趣向、騎士の正装とか、軍服フェチについては少しリヒトは知識があった。以前、夜会帰りの自分たちがちょっと軍服姿で歩いていたら、カナがぼーーーとして、自分達を見つめていた時があったからだ。
カナにどうしたのって聞いてみたら、
「す、、好きなんです。あの、軍服の肩飾りとか……正装姿とか」
あ、そっか。誰それが好きって話ではないんだと悟り、ちょっとホッとするとともに残念と思うリヒトだった。
「わかった。この次の夜会。忍び込もう。ケヴィン様には秘密だよ。また連絡する」
ちょっとドキドキしてきました。
軍服、拝みたいーー-!!
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