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伝説の魔女の末裔。
そりゃあ、どこかにいるだろうとは思っていたけれど、まさかそれがオクトール様だとは思わなかった。
わたしが驚いて固まっていると、オクトール様は眼鏡を外した。その眼鏡を、握りこむ。驚愕の行動に、そんな握り方したら、眼鏡のレンズに指紋がつくんじゃないか、なんて、場違いで馬鹿なことしか考えられなかった。
眼鏡を持つオクトール様の手は、少しばかり震えているように見えた。
「無理に眼鏡を外さなくても……」
わたしの言葉に、オクトール様は首を軽く横に振った。
「……ううん。ちゃ、ちゃんと僕の言葉で話したいから」
声も少しばかり震えていたが、ちゃんと話せている。少なくとも、出会った頃のように卒倒しそうな雰囲気はないし、ベルデリーンに眼鏡を壊されたときのようなおびえっぷりは見えない。
「僕が眼鏡をかけているのは、他人が信用出来ないからなんだ。他の人との壁、とか、視界をさえぎる為に使ってる」
眼鏡をかけたオクトール様とは違う、少し幼い口調。それでも、しっかりと、わたしに言葉を伝えようとしてくれている。
眼鏡が、他人との壁。確かに、オクトール様は動揺すると眼鏡のふちを撫でたり、ブリッジを押し上げたり、という癖があった。しかも、ことさら、眼鏡を手で覆うようにして。目を塞ぎたいとき、ごく自然に目元に手をやれるための眼鏡なのだ、と。
それを今外した、ということは、少なくとも、わたしはオクトール様にとって、信用に足る人物だと認定されたわけだ。
「誰も信用できないから、誰にも母上の話をするつもりはなかった。……僕が王に近付ける手段だとは分かっていたけど、王になんてなれると本気で思っていなかったから。そんな僕が、母上から受け継いだ、伝説の魔女が使う旧魔女の魔法を再現した魔法道具や文献を残したところで、また、いいように利用されるだけだろう、って」
「――『また?』」
妙に引っかかる言い方だ。まるで、以前、誰かにいいようにされたことがあるような。
「幼い頃に母上が亡くなって、僕は必死だった。母上の出自が出自だからね。何か認められるようなことをしないと、平民の子だと、城から追い出されると本気で思っていたんだ。だから、小さい頃から、認められるために必死になって、魔法道具の勉強をしたんだ」
魔法道具が一番僕にあっていたから、とオクトール様が言う。
その話は、以前にも少しだけ聞いたことがある。
「結果は出た。でも――どこの世界も面倒なものでね。子供が新たな魔法道具を発表したところで、一部の大人は素直に認めようとしなかった」
オクトール様の言い方に、嫌な予感を覚える。
そして、その嫌な予感は的中した。
「僕の作った魔法道具を、自分の手柄として奪おうとした人が、結構な人数いたんだ」
当時のことを思い出したのか、オクトール様が少し、手に力を入れたようだ。キシ、と眼鏡が音を出した。
そりゃあ、どこかにいるだろうとは思っていたけれど、まさかそれがオクトール様だとは思わなかった。
わたしが驚いて固まっていると、オクトール様は眼鏡を外した。その眼鏡を、握りこむ。驚愕の行動に、そんな握り方したら、眼鏡のレンズに指紋がつくんじゃないか、なんて、場違いで馬鹿なことしか考えられなかった。
眼鏡を持つオクトール様の手は、少しばかり震えているように見えた。
「無理に眼鏡を外さなくても……」
わたしの言葉に、オクトール様は首を軽く横に振った。
「……ううん。ちゃ、ちゃんと僕の言葉で話したいから」
声も少しばかり震えていたが、ちゃんと話せている。少なくとも、出会った頃のように卒倒しそうな雰囲気はないし、ベルデリーンに眼鏡を壊されたときのようなおびえっぷりは見えない。
「僕が眼鏡をかけているのは、他人が信用出来ないからなんだ。他の人との壁、とか、視界をさえぎる為に使ってる」
眼鏡をかけたオクトール様とは違う、少し幼い口調。それでも、しっかりと、わたしに言葉を伝えようとしてくれている。
眼鏡が、他人との壁。確かに、オクトール様は動揺すると眼鏡のふちを撫でたり、ブリッジを押し上げたり、という癖があった。しかも、ことさら、眼鏡を手で覆うようにして。目を塞ぎたいとき、ごく自然に目元に手をやれるための眼鏡なのだ、と。
それを今外した、ということは、少なくとも、わたしはオクトール様にとって、信用に足る人物だと認定されたわけだ。
「誰も信用できないから、誰にも母上の話をするつもりはなかった。……僕が王に近付ける手段だとは分かっていたけど、王になんてなれると本気で思っていなかったから。そんな僕が、母上から受け継いだ、伝説の魔女が使う旧魔女の魔法を再現した魔法道具や文献を残したところで、また、いいように利用されるだけだろう、って」
「――『また?』」
妙に引っかかる言い方だ。まるで、以前、誰かにいいようにされたことがあるような。
「幼い頃に母上が亡くなって、僕は必死だった。母上の出自が出自だからね。何か認められるようなことをしないと、平民の子だと、城から追い出されると本気で思っていたんだ。だから、小さい頃から、認められるために必死になって、魔法道具の勉強をしたんだ」
魔法道具が一番僕にあっていたから、とオクトール様が言う。
その話は、以前にも少しだけ聞いたことがある。
「結果は出た。でも――どこの世界も面倒なものでね。子供が新たな魔法道具を発表したところで、一部の大人は素直に認めようとしなかった」
オクトール様の言い方に、嫌な予感を覚える。
そして、その嫌な予感は的中した。
「僕の作った魔法道具を、自分の手柄として奪おうとした人が、結構な人数いたんだ」
当時のことを思い出したのか、オクトール様が少し、手に力を入れたようだ。キシ、と眼鏡が音を出した。
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