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 二人してアインアルド王子を見返してやろう、と言い出したのはわたしなのに、自己管理もできずに倒れるなんて恥ずかしい。
 わたしがそう言うと、オクトール様は「そうじゃない」と首を横に振った。

「……親しい人が倒れたら、普通に心配くらいするだろう」

 親しい人。まさかそんな風に言われるとは思ってもみなかった。じゃあどんな風に言われると思ってたのか、と聞かれると困ってしまうけど。
 オクトール様は人見知りで、他人と接するのが苦手で、魔法道具が好きな人。そんなイメージしかなかったけれど……そうか、別に、他人と接するのが苦手でも、誰かを心配することがないわけじゃないのか。

 それにしても、親しい人、か。
 親しい相手になら、ドレスに対して誉め言葉の一つや二つ、言ってもおかしくはない。なるほど、単純に、オクトール様との距離が縮まっただけだったのか。それがどういう形でかは分からないが。

 ……親しい人。

 わたしの顔を見て、婚約者だと聞いて失神し、その後の挙動不審っぷりを見たら、確かに『親しく』なったように思う。
 でも、オクトール様の口から直接、そういう風に聞いてしまうと、逆に遠くなってしまったように感じるのは何故だろう。

 『シックス・パレット』の世界は一夫多妻が常識。それでいて、貴族は政略結婚が当たり前。アインアルド王子は主人公補正と制作陣の一人であるわたしの影からのサポートがあって、好きな令嬢たちとの結婚が決まったが、あんなの異例中の異例である。
 こうして、一夫一妻を貫けそうなオクトール様との婚約が決まっただけでも幸運だというのに。
 その先を望んでしまうのはどうしてだろう。

「……すまない、体調が悪いんだったな。もう帰るとしよう」

 わたしが黙ってしまったのを、ただの体調不良だと勘違いしたらしい。無理もないが。
 オクトール様は鏡台前の椅子から立ち上がる。

「早く元気になって、いつもの君に戻ってくれ」

「いつもの、わたし……」

「ああ。貴族令嬢に言う言葉ではないと思うが、あまり大人しいと、らしくない」

 オクトール様からわたしはどう見えているのだろう。元気になってくれ、ということばからして、けなされているわけじゃないんだろうけど。

 ――でも、そうか。わたしらしくないのか。

 確かに、あまりうじうじ悩むのは、わたしらしくないようにも思える。そりゃあわたしだって悩むこともあるし、落ち込んでやけになることもあるけど――でも、現状に諦めて、悪あがきをやめるのは、確かにらしくない。
 本当にわたしが諦めきって、わきまえていたら、もっと昔――それこそ、アインアルド王子との婚約が決まったときに、そういうものだと諦めて、彼をハーレムエンドにまで誘導したりしない。

 恋愛結婚ができないからどうした?
 彼を落とせばいいだけの話じゃないか。

 わたしはオクトール様をベッドから見送ると、布団を被って目を閉じた。
 絶対に今日中に体調を治す。そして、明日から、また勉強を再開して、体調管理もしっかりして――オクトール様に、わたしの王子様になってもらうために、努力するのだ!
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