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 流石王族、とでも言うべきか。馬車を降りた瞬間から、オクトール様はまるで別人のようだった。完璧にエスコートをこなし、会場についても、周りからの視線にも動じないでいる――ように見える。

 なんだ、全然わたしのフォローとかいらないじゃないか。
 初対面でぶっ倒れられ、その後挙動不審な彼を見て、つつけば簡単に崩れそうな虚勢を張る彼と接してばかりいたから、悪いイメージがついていたらしい。

 でも、たしかに王族だものな。
 よく捕らえれば、彼がわたしには気を許してくれている、悪く言えば、わたしがオクトール様を侮っていた、ということか。

 これはわたしが出る幕もないかな、と、彼の腕にまわした手を緩めると、軽く、オクトール様の腕が動いたような気がした。彼の腕を持っているわたしだから気が付いただけで、周りからしたら察することもできないだろう。
 なんだろう、とわたしが彼を見ると、オクトール様が眼鏡のブリッジを押し上げて、わたしに笑いかけていた。完璧な笑顔だったけれど、わたしには、「大丈夫じゃないから気を抜かないでくれ」と言っているようにしか見えなかった。
 わたしすらも騙せる仮面をつけただけだったらしい。平気なように見えるだけだった。

 わたしが気を入れなおすと、わたしたちに近付く影があった。オクトール様とわたしの護衛が動く前に、「シルヴィア!」とわたしは声をかける。
 長い銀髪と空色のドレスが似合うシルヴィアは、今日も元気そうだ。銀髪、という一見して白髪にも見える髪を持ちながらも、一切老けて見えないのは、本人が元気ではつらつとしているからだろう。

「ごきげんよう、ベルメ様」

 シルヴィアの綺麗なカーテシー。普段はわたしをベルちゃんと呼び、一般的な子爵家令嬢と侯爵家令嬢では考えられないほど気安い仲ではあるのだが、流石にオクトール様の前ではそうもできないらしい。
 まあ、この世界でならば、そのうちオクトール様がいても普段の態度になりそうなものだけれど。マナーを守っていれば、口調が崩れるくらい、許されるので。
 オクトール様にシルヴィアの紹介を済ませ、挨拶が一段落したところでシルヴィアがこそっとわたしに話しかけてくる。

「ベルちゃん、随分素敵なドレスね。レインリース?」

 変わり身早! と思いつつも、わたしは彼女のこういう直球なところが好きで友人をしているので、文句はない。こういう態度が許されない世界だったらうわああ、と慌てるだろうが、そうでもないし。

「オクトール様が贈ってくださったの」

「まあ」

 にんまりと、シルヴィアが笑みを深める。『おさがり』になることへの愚痴を、わたしは彼女にしたことがない。最初からアインアルド王子に好意がないことを知っている彼女だ。今のやりとりで完全に勘違いしてくれたことだろう。
 シルヴィアは、すす、とわたしから離れて、にっこりと笑みを浮かべ、オクトール様に話しかける。

「本日は半分近くの参加者が平民ですので、貴族のみのパーティーとは雰囲気が違うとは思いますが、是非楽しんでいってくださいませ。国外からの来客も多いですから、興味深い話が聞けると思いますわ」

 そう言って、シルヴィアはまた軽く挨拶すると、去っていった。主催者側だし、いろいろとやることがあるのだろう。
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