51 / 114
51
しおりを挟む
シオンハイトの気が済む頃には、わたしはすっかり息が上がり切っていた。キスって、こんなに体力使うものだっけ……?
わたしのほうは満身創痍と言ってもいいくらいへろへろなのに、シオンハイトはリラックスしたのか気が緩んだのか知らないが、少し眠そうな表情をしていた。
わたしは息を整えながら、根性でベッドに上がり、寝ころぶ。
「――ほら、もう寝ようよ」
「……ララが鬼だ……」
「寝たくない」というシオンハイトだったが、目はすっかりとろんとしている。寝ろ。
しかし、ベッドに寝ころんだシオンハイトは、わたしに抱き着く。
「ちょっ……」
「……ちゃんと寝るってば。分かってる。流石にそろそろ本気でヨルクに怒られる……」
「ヨルク?」
聞いたことない名前を聞き返すと、第三騎士団の副団長の名前らしい。そりゃあ、こんなに濃いクマを作っていたら、誰だって心配するだろう。……その原因はわたしなんだけど。
わたしの胸に顔をうずめているシオンハイトが、深く息を吸う。匂いを嗅ぐな。抱き着かれるのは構わないけれど、風呂あがりでもないのだから、匂いを嗅ぐのはやめてほしい。しかも、一週間寝た切りだったんだから……。一週間意識がなかった、とはいえ、体に不快感があまりないので、多少は拭いて綺麗にしてくれてたのかもしれないけども。
引きはがそうと手を伸ばすが、シオンハイトの吐き出した息が震えて聞こえて、わたしの手は止まった。
「――夢じゃないよね」
彼の声は震えていた。わたしの胸元には、濡れた感触。また泣かせてしまった。
「夢じゃないよ」
わたしは彼の頭を軽く撫でる。ふわふわの毛並み。獣人だからか、人の髪の毛というよりも、動物の頭を撫でているような感触だった。
「そんなに泣くくらいなら、最初から全部言えばいいのに」
「だって、ララって呼んだら『初対面で馴れ馴れしいなこいつ』って目で見るんだもん。絶対言っても信じなかったでしょ」
否定できない。というか、まさにその通りである。自力で思い出せた以上、何か強いきっかけがあれば『異能』で消された記憶を取り戻せたとは思うのだが、全部説明されても思い出せなかったとき、絶対シオンハイトの言葉を信用することは出来なかったと思う。
なんなら、わたしを手なずけるためになにか言い出したぞ、くらいに思うかもしれない。
「……ねえ、ララ。どうしてそんな風になったのか、聞いてもいい? 君、昔は結構素直だったでしょう」
……確かに、シオンハイトと一緒にいたあの頃は、素直になんでも信じていたと思う。転生したばかりで、まだ前世の意識が強かった、というか、『自分が生まれた世界』ではなく、『どこかの異世界』という認識だったから、何でもかんでも、そういうものなんだ、と納得してしまっていたのだ。
今とは正反対である。
「別にいいけど……面白い話でもないよ」
寝物語にはふさわしくないと思うのだが。
わたしのほうは満身創痍と言ってもいいくらいへろへろなのに、シオンハイトはリラックスしたのか気が緩んだのか知らないが、少し眠そうな表情をしていた。
わたしは息を整えながら、根性でベッドに上がり、寝ころぶ。
「――ほら、もう寝ようよ」
「……ララが鬼だ……」
「寝たくない」というシオンハイトだったが、目はすっかりとろんとしている。寝ろ。
しかし、ベッドに寝ころんだシオンハイトは、わたしに抱き着く。
「ちょっ……」
「……ちゃんと寝るってば。分かってる。流石にそろそろ本気でヨルクに怒られる……」
「ヨルク?」
聞いたことない名前を聞き返すと、第三騎士団の副団長の名前らしい。そりゃあ、こんなに濃いクマを作っていたら、誰だって心配するだろう。……その原因はわたしなんだけど。
わたしの胸に顔をうずめているシオンハイトが、深く息を吸う。匂いを嗅ぐな。抱き着かれるのは構わないけれど、風呂あがりでもないのだから、匂いを嗅ぐのはやめてほしい。しかも、一週間寝た切りだったんだから……。一週間意識がなかった、とはいえ、体に不快感があまりないので、多少は拭いて綺麗にしてくれてたのかもしれないけども。
引きはがそうと手を伸ばすが、シオンハイトの吐き出した息が震えて聞こえて、わたしの手は止まった。
「――夢じゃないよね」
彼の声は震えていた。わたしの胸元には、濡れた感触。また泣かせてしまった。
「夢じゃないよ」
わたしは彼の頭を軽く撫でる。ふわふわの毛並み。獣人だからか、人の髪の毛というよりも、動物の頭を撫でているような感触だった。
「そんなに泣くくらいなら、最初から全部言えばいいのに」
「だって、ララって呼んだら『初対面で馴れ馴れしいなこいつ』って目で見るんだもん。絶対言っても信じなかったでしょ」
否定できない。というか、まさにその通りである。自力で思い出せた以上、何か強いきっかけがあれば『異能』で消された記憶を取り戻せたとは思うのだが、全部説明されても思い出せなかったとき、絶対シオンハイトの言葉を信用することは出来なかったと思う。
なんなら、わたしを手なずけるためになにか言い出したぞ、くらいに思うかもしれない。
「……ねえ、ララ。どうしてそんな風になったのか、聞いてもいい? 君、昔は結構素直だったでしょう」
……確かに、シオンハイトと一緒にいたあの頃は、素直になんでも信じていたと思う。転生したばかりで、まだ前世の意識が強かった、というか、『自分が生まれた世界』ではなく、『どこかの異世界』という認識だったから、何でもかんでも、そういうものなんだ、と納得してしまっていたのだ。
今とは正反対である。
「別にいいけど……面白い話でもないよ」
寝物語にはふさわしくないと思うのだが。
0
お気に入りに追加
329
あなたにおすすめの小説
前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る
花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。
その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。
何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。
“傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。
背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。
7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。
長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。
守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。
この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。
※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。
(C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。
暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ
Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます!
ステラの恋と成長の物語です。
*女性蔑視の台詞や場面があります。
秘密の多い令嬢は幸せになりたい
完菜
恋愛
前髪で瞳を隠して暮らす少女は、子爵家の長女でキャスティナ・クラーク・エジャートンと言う。少女の実の母は、7歳の時に亡くなり、父親が再婚すると生活が一変する。義母に存在を否定され貴族令嬢としての生活をさせてもらえない。そんなある日、ある夜会で素敵な出逢いを果たす。そこで出会った侯爵家の子息に、新しい生活を与えられる。新しい生活で出会った人々に導かれながら、努力と前向きな性格で、自分の居場所を作り上げて行く。そして、少女には秘密がある。幻の魔法と呼ばれる、癒し系魔法が使えるのだ。その魔法を使ってしまう事で、国を揺るがす事件に巻き込まれて行く。
完結が確定しています。全105話。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
転生令嬢はのんびりしたい!〜その愛はお断りします〜
咲宮
恋愛
私はオルティアナ公爵家に生まれた長女、アイシアと申します。
実は前世持ちでいわゆる転生令嬢なんです。前世でもかなりいいところのお嬢様でした。今回でもお嬢様、これまたいいところの!前世はなんだかんだ忙しかったので、今回はのんびりライフを楽しもう!…そう思っていたのに。
どうして貴方まで同じ世界に転生してるの?
しかも王子ってどういうこと!?
お願いだから私ののんびりライフを邪魔しないで!
その愛はお断りしますから!
※更新が不定期です。
※誤字脱字の指摘や感想、よろしければお願いします。
※完結から結構経ちましたが、番外編を始めます!
【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り
楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。
たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。
婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。
しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。
なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。
せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。
「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」
「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」
かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。
執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?!
見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。
*全16話+番外編の予定です
*あまあです(ざまあはありません)
*2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる