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 病み上がりだからなのか、それとも『異能』でいじられた記憶の中にその答えがあるのか、一瞬では判断できない。それでも、わたしが頭痛を起こしているとシオンハイトに悟られれば、話の腰が折れてしまうのは分かり切っているので、わたしは彼に気が付かれないよう、話の続きをうながした。

「それで、わたしの『異能』にも変化がないか、ってこと?」

 わたしの質問に、シオンハイトが首を立てに振る。
 言われてみれば、わたしの『異能』は、長いこと使っていない。それこそ、こちらに来てから一度も使っていない。
 でも、長い間『異能』を使わなかったからといって、使い方を忘れるわけじゃない。呼吸や瞬きの仕方を忘れないのと一緒だ。

「――……。……」

 わたしは少し迷って、近くにあった紙ナフキンをとり、パッと『異能』を使う。真っ白だった紙ナフキンが、白黒の横縞模様に変わる。……うん、普通にいつも通り。一応、もう一度『異能』を使って黒い部分に白を重ねてみたけれど、元の白には戻らず、黒い部分が透けて見える灰色になってしまった。ディナーシャが本物にそっくりな偽札を作れるようになったのなら、わたしは色を変えることができるようになるのかと、少し期待してしまったが、結局は前と変わらない。

「わたしの方は特に変わりない――」

 少しだけ落胆しながらも、紙ナフキンをシオンハイトに見せようとしたら、きらきらとした目でわたしの手の中を見ていた。

「すごい! 『異能』ってこんなふうになるの? ちゃんと見たの、初めて!」

 凄い凄い、と子供の様にはしゃぐシオンハイト。……たかが、ちょっと紙ナフキンの色を変えただけなのに。事前に仕掛けておけば、手品でも全く同じことができてしまいそうな、はずれ『異能』。
 そのはずなのに、シオンハイトの反応を見ると、まるで自分が当たり『異能』に恵まれたような錯覚に落ちいる。

「こ、こんなの、たいしたことないし……」

 わたしはくしゃっと紙ナフキンを握りつぶした。「あっ」とシオンハイトが声を上げる。残念がっているような声に聞こえた。

「いらないのなら欲しかった……」

 ただの紙ナフキンなのに。紙ナフキンが欲しいのなら、シオンハイトの近くにもある。ずらりと並べられたお菓子と一緒に、わたしたちが各々取りやすい位置に置かれているのだ。

「……もう、ゴミだよ」

 『異能』で色を載せたから、紙ナフキンとして普通に使えるが、ぐしゃぐしゃにしてしまったので、新しい物の方が使えるだろう。
 そう思ったのに、「ゴミじゃないよ!」とシオンハイトは言った。
 欲しいな、という無言のおねだりに負けて、わたしは丸めた紙ナフキンを軽く伸ばして、彼に渡した。
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