19 / 114
19
しおりを挟む
翌日。シオンハイトが「人払いしたから、今日はしばらく使用人はいないよ!」というので、わたしは部屋の外へと出ることとなる。
わたしがこの部屋の外を見たのは、ここに来たときぶり。二か月前のことなんかすっかり忘れてしまった。あのときは、今以上に周りを警戒していたから、周囲を見る余裕なんて、全くなかった。
廊下は流石王城、綺麗に保たれていて、豪華である。でも、どことなく、古びた印象を受けるのは、それだけ、このリンゼガッド王国が歴史あるものだ、ということなのだろう。この館が、臣下に下った王子達の居住空間として使われているのは古くからのことらしいし。
廊下に、等間隔で絵が飾られているのに目が止まる。
「絵を集めるのが趣味なんだ」
わたしが絵を見ていたのに気が付いたらしいシオンハイトが、そんな説明をしてくれる。
飾られている絵は、人物画だったり、風景画だったり、あるいは明らかに想像で書かれたものなど、ジャンルに制限がない。加えて、作家もバラバラなので、絵を集めるのが趣味でも、特別こだわりのようなものはないらしい。
これが敵国の王城の中、ということを忘れてしまえば、豪華な美術館に来ているような気分だった。
一つひとつ、解説をしながら、シオンハイトが絵を見せてくれる。どこの作家で、どんな背景で描かれたものなのか、とか。
中には、オアセマーレの同盟国の画家の絵もいくつか飾ってあった。戦争と芸術を切り離して考えているらしく、たとえ敵国でも素晴らしいものは素晴らしいと考えるタイプの人間のようだ。親しい人を直接殺した人物以外に恨みは持たないらしい。
ただ、そういうものを集めるのが、周りからどう見られるかは気になるようで、この絵の作家全ては、使用人に教えていないらしい。まあ、わたしでも知っているような有名画家の絵もあって、こんなところに無造作に飾っていいような絵ではないものもあるし、バレたら盗まれる可能性もあるから、確かにその方がいいのかも。
美術館で、警備員が横に立っていて、一定の距離近付けないように対処しないとといけないような、高額の絵画が、ただ額縁に飾られて、パネルで保護もされずに飾られているのには驚きしかない。
「――で、これが僕の一番のお気に入り」
そう言って、シオンハイトは、並べて飾ってある絵の中でも、ひと際小さめな絵画を一枚指さした。
随分と見覚えのある絵に、わたしは思わず、息を飲んだ。
見覚えがある? そんなの、当然だ。
――だって、これは、子供の頃のわたしが描いた絵だからだ。
わたしがこの部屋の外を見たのは、ここに来たときぶり。二か月前のことなんかすっかり忘れてしまった。あのときは、今以上に周りを警戒していたから、周囲を見る余裕なんて、全くなかった。
廊下は流石王城、綺麗に保たれていて、豪華である。でも、どことなく、古びた印象を受けるのは、それだけ、このリンゼガッド王国が歴史あるものだ、ということなのだろう。この館が、臣下に下った王子達の居住空間として使われているのは古くからのことらしいし。
廊下に、等間隔で絵が飾られているのに目が止まる。
「絵を集めるのが趣味なんだ」
わたしが絵を見ていたのに気が付いたらしいシオンハイトが、そんな説明をしてくれる。
飾られている絵は、人物画だったり、風景画だったり、あるいは明らかに想像で書かれたものなど、ジャンルに制限がない。加えて、作家もバラバラなので、絵を集めるのが趣味でも、特別こだわりのようなものはないらしい。
これが敵国の王城の中、ということを忘れてしまえば、豪華な美術館に来ているような気分だった。
一つひとつ、解説をしながら、シオンハイトが絵を見せてくれる。どこの作家で、どんな背景で描かれたものなのか、とか。
中には、オアセマーレの同盟国の画家の絵もいくつか飾ってあった。戦争と芸術を切り離して考えているらしく、たとえ敵国でも素晴らしいものは素晴らしいと考えるタイプの人間のようだ。親しい人を直接殺した人物以外に恨みは持たないらしい。
ただ、そういうものを集めるのが、周りからどう見られるかは気になるようで、この絵の作家全ては、使用人に教えていないらしい。まあ、わたしでも知っているような有名画家の絵もあって、こんなところに無造作に飾っていいような絵ではないものもあるし、バレたら盗まれる可能性もあるから、確かにその方がいいのかも。
美術館で、警備員が横に立っていて、一定の距離近付けないように対処しないとといけないような、高額の絵画が、ただ額縁に飾られて、パネルで保護もされずに飾られているのには驚きしかない。
「――で、これが僕の一番のお気に入り」
そう言って、シオンハイトは、並べて飾ってある絵の中でも、ひと際小さめな絵画を一枚指さした。
随分と見覚えのある絵に、わたしは思わず、息を飲んだ。
見覚えがある? そんなの、当然だ。
――だって、これは、子供の頃のわたしが描いた絵だからだ。
1
お気に入りに追加
328
あなたにおすすめの小説
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています
平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。
生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。
絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。
しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる