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この世界には、不思議な異能があって、それは九割が女性に発現する。だから、基本的に家は女性が継ぐもの、とされている。
でも、お母様はなかなか子供ができなくて、そのため、わたしを妹から貰わないといけなかった。
大嫌いな妹から譲られた子供を、自分の子供として、家を継ぐ者として、育てなければいけない。
相当に屈辱だったことだろう。
だからこそ、わたしがこの家にやってきた後で生まれたスノーティアを、より一層可愛がるのは分かる。
――そうは言っても、納得はできない。自分の身に、災難が降りかかるのが分かり切っているから。
何のために死に物狂いで縁談を探したのか。
そんなの、国を出たくないからに決まっている。
今、この国は戦争の真っ最中。国の外に嫁ぐということは、同盟国との結びつきの強化に使われる道具になるということだ。
そして、今はまだ同盟国かもしれないが、何かの拍子に脱退したり、敗戦国となっったりしてしまえば――わたしがどんな扱いをされるか分かったものじゃない。
この国内では、連座という制度はなくなったものの、同盟国の中には、連座制が現役な国はいくつもある。
せめて、せめてこの国と似たような政治形態、文化の国に行ければ。
そんなわたしの淡い期待は、簡単に打ち砕かれる。
「お前には、リンゼガッド王国に行ってもらうわ」
リンゼガッド王国。その言葉を聞いて、わたしは今度こそ、その場に崩れ落ちた。
リンゼガッド王国は、わたしたちの同盟国ではない。――敵国だ。
「王国との休戦が決まったの。その間、和平交渉の開始の印として、何件か婚姻を結ぶことになったのよ」
平和の象徴なんですって、と笑うお母様の笑顔が、怖くてたまらない。
平和の象徴、なんて、耳障りのいい嘘だ。ただの人質にすぎない。そんなの、お母様だって分かっているだろうに――。
何をされるか分からない。どれだけ冷遇されても、貴族として扱われるだけまだマシ。捕虜と同じ扱いがきっと待っているはず。
それなのに、どうしてお母様は笑っていられるのだろうか。
――ああ、そうか。
お母様は、きっと、わたしを通して、彼女の妹に復讐を果たそうとしているのだ。憎くて憎くてたまらない、妹に似た、妹の実子をどんな扱いをされるか分からない敵国に送り込む。休戦が偶然だったとしても――同じようなことをするつもりだったんだろう。
シディール様との婚約が決まって喜び、安堵していたわたしを、お母様は腹の底では笑っていたに違いない。
いつか、こうして絶望するわたしの顔を見るために、彼女はシディール様との婚約を決め、わたしをぬか喜びさせていたのだろう。同時に、スノーティアの為の婚約者をキープしておく役目もあったのかもしれない。
それなのに、これで国を出なくて済むと喜んでいたわたしの、なんて馬鹿なことか。
絶望する顔なんて見せたくない、と思うのに、わたしは、涙を止めることができなかった。
でも、お母様はなかなか子供ができなくて、そのため、わたしを妹から貰わないといけなかった。
大嫌いな妹から譲られた子供を、自分の子供として、家を継ぐ者として、育てなければいけない。
相当に屈辱だったことだろう。
だからこそ、わたしがこの家にやってきた後で生まれたスノーティアを、より一層可愛がるのは分かる。
――そうは言っても、納得はできない。自分の身に、災難が降りかかるのが分かり切っているから。
何のために死に物狂いで縁談を探したのか。
そんなの、国を出たくないからに決まっている。
今、この国は戦争の真っ最中。国の外に嫁ぐということは、同盟国との結びつきの強化に使われる道具になるということだ。
そして、今はまだ同盟国かもしれないが、何かの拍子に脱退したり、敗戦国となっったりしてしまえば――わたしがどんな扱いをされるか分かったものじゃない。
この国内では、連座という制度はなくなったものの、同盟国の中には、連座制が現役な国はいくつもある。
せめて、せめてこの国と似たような政治形態、文化の国に行ければ。
そんなわたしの淡い期待は、簡単に打ち砕かれる。
「お前には、リンゼガッド王国に行ってもらうわ」
リンゼガッド王国。その言葉を聞いて、わたしは今度こそ、その場に崩れ落ちた。
リンゼガッド王国は、わたしたちの同盟国ではない。――敵国だ。
「王国との休戦が決まったの。その間、和平交渉の開始の印として、何件か婚姻を結ぶことになったのよ」
平和の象徴なんですって、と笑うお母様の笑顔が、怖くてたまらない。
平和の象徴、なんて、耳障りのいい嘘だ。ただの人質にすぎない。そんなの、お母様だって分かっているだろうに――。
何をされるか分からない。どれだけ冷遇されても、貴族として扱われるだけまだマシ。捕虜と同じ扱いがきっと待っているはず。
それなのに、どうしてお母様は笑っていられるのだろうか。
――ああ、そうか。
お母様は、きっと、わたしを通して、彼女の妹に復讐を果たそうとしているのだ。憎くて憎くてたまらない、妹に似た、妹の実子をどんな扱いをされるか分からない敵国に送り込む。休戦が偶然だったとしても――同じようなことをするつもりだったんだろう。
シディール様との婚約が決まって喜び、安堵していたわたしを、お母様は腹の底では笑っていたに違いない。
いつか、こうして絶望するわたしの顔を見るために、彼女はシディール様との婚約を決め、わたしをぬか喜びさせていたのだろう。同時に、スノーティアの為の婚約者をキープしておく役目もあったのかもしれない。
それなのに、これで国を出なくて済むと喜んでいたわたしの、なんて馬鹿なことか。
絶望する顔なんて見せたくない、と思うのに、わたしは、涙を止めることができなかった。
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