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 こつこつと足音が近付いてきているはずなのに、自分の心臓がうるさすぎて、彼の足音が遠くに聞こえるようだった。
 まさかこんな場所で、求婚を、なんてアルディさんが言うとは、夢にも見ていなかった。

 お父様にアルディさんとの結婚話が出たとき、今のうちに外堀から埋めていくべきかな、なんて思っていたわたしの数段上をいってしまった。全ての貴族が出席するこの召集で、しかも国王の許可付き。
 もはやわたしとの結婚は確定である。彼もまた、それが分かって、このタイミングで言ったんだろうか。

 いや、断るつもりもないし、ここでアルディさんが求婚してこなかったとしても、後でお父様の方から話がいっただろうから、結果は同じになったのかもしれないが――過程が全然違う。

「オルテシア嬢」

「は、はいっ」

 わたしの前にひざまずいたアルディさんが、名前を呼ぶ。返事をしたが、情けないくらい声が裏返った。
 人生で一番、心臓が早く動いている気がする。もはや痛いくらいだ。
 前世のことを思い出したときだって、ここまで動揺しなかった。

「爵位は伯爵ですし、貴族家の始祖ということで、貴女には苦労をかけてしまうかもしれません。侯爵家よりも、自由にさせてあげられないかもしれない。ですが――誰よりも貴女を慕い、大切にすることを、王よりたまわった伯爵位に誓います」

 場所が場所だからか、それとも、求婚と言う大事な話だからか、いつもよりかしこまった言い回しで、アルディさんは言う。
 そして、彼は、わたしに手を差し出した。

「どうか、私と結婚していただけませんか」

「――っ」

 わたしは、ためらいなく、差し出されたアルディさんの手を取った。緊張で、酷く手が震えてしまったけれど、今、この手を取らない理由がない。

「その話、お受け致します。わたしも――貴方のことを、その、お慕いしているので」

 声が震える。
 頬が熱い。
 気恥ずかしくて、緊張して、彼の顔を見るのもやっとなのに、まっすぐなその瞳から、目が離せなかった。

 上手く手に力が入らないなりに、彼の手を握ると、パッと明るい笑顔を見せてくれたアルディさんが、わたしの手を握り返してくれた。
 嬉しくて仕方がない、と言わんばかりの笑みに、つい、見惚れてしまう。

「愛しています、オルテシア嬢」

 『地味姫』と散々笑われてきたわたしだったが、プロポーズだけは、派手らしい。だって、こんなに大勢の前で求婚された令嬢、今のところ、他に見たことも聞いたこともないのだから。
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