婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね

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 わたしが獣化した団員を無理に外へ出そうとしたことはなかったからか、異変に気が付いた護衛が「お嬢様、何かありましたか」と声をかけてくる。

「大丈夫じゃない、かも……」

 わたしは団員が穴から出て行ったのを見届けると、わたしも外へ出ようと四つん這いになる。壁自体が厚いので、すぐには出られない。
 外の光が見えているのに、わたしは檻の中へと脚を引っ張られ、戻されてしまった。

 無理に引きずられたことによってめくれたスカートを必死に押さえながら、なんとか抵抗しようとするも、勝てるわけがない。
 元々、騎士団、という体を鍛える団体に所属している上に、男女という性別差、わたし自身が靴も履かずに走り回って疲れ切っている、というのもあって、抵抗という抵抗ができないまま、檻へと逆戻り。

「クソ、こんなところに穴が開いているなんて……!」

「ちょ、離してください!」

 せめて、わたしの脚を掴んだままの手を離してくれないだろうか。中が見える。

「余計なことしやがって!」

 タットさんは、べち、と、脚を床へと叩きつけるように手を離す。なんとか逃げようとしていると、今度は肩をつかまれた。

「オルテシア嬢、貴女に恨みも用もありませんが……アルディ副団長がどこにいるか知りませんか?」

「痛……ッ」

 本人に自覚はないのかもしれないが、わたしの肩を掴む手に、随分と力がこもっている。

「副団長を消すのに協力すれば、オレは第一騎士団に行けるんです。オルテシア嬢は第二騎士団をえらく気に入っているようですし、オレみたいのがいない方がいいでしょう?」

 だから協力してくれ。
 とでも言わんばかりの表情。

 そんなことでアルディさんを差し出せるわけがない。死人が出ていたかもしれないこんな事件に関与していることが明るみに出れば、第一騎士団に行かなくたって、第二騎士団からいなくなる。
 協力をするメリットなんて、何一つない。

「は、離してください!」

 彼の手を振りほどこうにも、がっちりと肩を掴まれていたらどうしようもない。せめて、外に異常を伝えて護衛の人を呼ばないと、と穴へ手を伸ばしたとき――。

「グルルル!」

 穴から、アルディさんが出てきて、低くうなり、タットさんへと威嚇をする。

「ひぃっ!」

 アルディさんの本気のうなり声は、本物の虎と遜色ない。タットさんはおびえたように、わたしから手を離した。
 それでも、アルディさんは止まらない。

 せきを切ったように。タットさんが叫んだ。

「――ッ、だから第二騎士団は嫌だったんだよ! 元は獣人だから、獣化したって大丈夫、なんて言われたって、平気なわけないだろ! 怖いし、人間からしたら、動物になるなんて気持ち悪いんだよ!」

 あまりの言いように、わたしは思わず「馬鹿なこと言わないで!」と言い返してしまっていた。
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