47 / 119
47
しおりを挟む
わたしはカインくんに付き添って、救護室に向かう。ベッドがいくつか並び、薬品が置いてるのだろう棚も壁際に置かれていた。どことなく、前世で通っていた学校の保健室を思い出す。ただ、騎士団、という場なだけあって、学校の保健室の倍くらいの広さがあった。
わたしたちが入るなり、ここの場の担当者なのだろう、医者と思わしき白衣を着た獣人がぎょっとした目でわたしたちを見た。
「じみひ――オルテシア嬢!?」
今一瞬、地味姫って言いそうに鳴ってなかったか。この人も貴族界に精通しているんだろうか。
いや、今そんなことはどうでもよくて。
「怪我をしてしまって……」
わたしの言葉に、白衣の獣人が青ざめる。
「オルテシア嬢、顔を洗ってくださいますか、消毒を……」
何故か、白衣の獣人はわたしの化を見ている。いや、どう見たってカインくんの方が重傷だろう。指が取れるほど、とまではいかないが、かなり手のひらが赤くなっているのに。
「わたしなんかより、彼を――」
「『わたしなんか』なんて、貴女、貴族令嬢の自覚があるんですか!? 未婚にも関わらず顔に傷を作って……! 跡が残ったらどうするんです、平民なんか後ですよ」
平民なんか。
わたしはその言葉に、言い返したくなる。
わたしの傷も、カインくんの傷も、どちらも死ぬようなものではないが、素人が見たって、わたしの傷よりカインくんの方が先に治療するべきだと分かるのに。
言い返そうとするわたしを止めたのはカインくんだった。
「オルテシアさん、先に治療を受けてください。傷をつけるな、と団長たちから命令されていたのに、守り切れなかったのは自分の責任です」
「そんなことないです!」
わたしは思わず声を荒げた。
カインくんが前に出てくれなければ、今、カインくんが負った傷はわたしについていたはずだ。カインくんの傷は絶対跡になる。
だから、カインくんの方が先に治療を受けるべき。
そう言い返したいけれど、今、この、二対一の状況でわたしがごねると、いつまでもカインくんに治療の順番が周ってこない。
「――それに、オルテシアさん。確かに貴女は擦り傷ですけど……結構凄いことになってます」
顔だから気が付かないだけかもしれません、とカインくんは言う。
「え――」
思わず擦り傷があるであろう場所を触ると、明らかに、肌へ食い込んでいたと思われる小石が取れる感触がした。指先を見れば、血のついた小さな石の粒がのっている。
「…………」
わたしの想像だと、ちょっと擦っただけだと思ってたんだけど――もしかして、結構、酷い?
「オルテシアさん、自分のためにも、先に治療を受けてください。お願いします」
泣きそうな顔でカインくんに言われてしまうと、もう反論できなかった。ごねた方が彼の治療の時間が遠のく、というのもそうだったけれど、彼の声音が、あまりにも切実だったのだ。
わたしたちが入るなり、ここの場の担当者なのだろう、医者と思わしき白衣を着た獣人がぎょっとした目でわたしたちを見た。
「じみひ――オルテシア嬢!?」
今一瞬、地味姫って言いそうに鳴ってなかったか。この人も貴族界に精通しているんだろうか。
いや、今そんなことはどうでもよくて。
「怪我をしてしまって……」
わたしの言葉に、白衣の獣人が青ざめる。
「オルテシア嬢、顔を洗ってくださいますか、消毒を……」
何故か、白衣の獣人はわたしの化を見ている。いや、どう見たってカインくんの方が重傷だろう。指が取れるほど、とまではいかないが、かなり手のひらが赤くなっているのに。
「わたしなんかより、彼を――」
「『わたしなんか』なんて、貴女、貴族令嬢の自覚があるんですか!? 未婚にも関わらず顔に傷を作って……! 跡が残ったらどうするんです、平民なんか後ですよ」
平民なんか。
わたしはその言葉に、言い返したくなる。
わたしの傷も、カインくんの傷も、どちらも死ぬようなものではないが、素人が見たって、わたしの傷よりカインくんの方が先に治療するべきだと分かるのに。
言い返そうとするわたしを止めたのはカインくんだった。
「オルテシアさん、先に治療を受けてください。傷をつけるな、と団長たちから命令されていたのに、守り切れなかったのは自分の責任です」
「そんなことないです!」
わたしは思わず声を荒げた。
カインくんが前に出てくれなければ、今、カインくんが負った傷はわたしについていたはずだ。カインくんの傷は絶対跡になる。
だから、カインくんの方が先に治療を受けるべき。
そう言い返したいけれど、今、この、二対一の状況でわたしがごねると、いつまでもカインくんに治療の順番が周ってこない。
「――それに、オルテシアさん。確かに貴女は擦り傷ですけど……結構凄いことになってます」
顔だから気が付かないだけかもしれません、とカインくんは言う。
「え――」
思わず擦り傷があるであろう場所を触ると、明らかに、肌へ食い込んでいたと思われる小石が取れる感触がした。指先を見れば、血のついた小さな石の粒がのっている。
「…………」
わたしの想像だと、ちょっと擦っただけだと思ってたんだけど――もしかして、結構、酷い?
「オルテシアさん、自分のためにも、先に治療を受けてください。お願いします」
泣きそうな顔でカインくんに言われてしまうと、もう反論できなかった。ごねた方が彼の治療の時間が遠のく、というのもそうだったけれど、彼の声音が、あまりにも切実だったのだ。
19
お気に入りに追加
4,100
あなたにおすすめの小説
【完結】忘れられた王女は獣人皇帝に溺愛される
雑食ハラミ
恋愛
平民として働くロザリンドは、かつて王女だった。
貴族夫人の付添人としてこき使われる毎日だったロザリンドは、ある日王宮に呼び出される。そこで、父の国王と再会し、獣人が治める国タルホディアの皇帝に嫁ぐようにと命令された。
ロザリンドは戸惑いながらも、王族に復帰して付け焼刃の花嫁修業をすることになる。母が姦淫の罪で処刑された影響で身分をはく奪された彼女は、被差別対象の獣人に嫁がせるにはうってつけの存在であり、周囲の冷ややかな視線に耐えながら隣国タルホディアへと向かった。
しかし、新天地に着くなり早々体調を崩して倒れ、快復した後も夫となるレグルスは姿を現わさなかった。やはり自分は避けられているのだろうと思う彼女だったが、ある日宮殿の庭で放し飼いにされている不思議なライオンと出くわす。そのライオンは、まるで心が通じ合うかのように彼女に懐いたのであった。
これは、虐げられた王女が、様々な障害やすれ違いを乗り越えて、自分の居場所を見つけると共に夫となる皇帝と心を通わすまでのお話。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
今世は精霊姫 〜チートで異世界を謳歌する。冒険者?薬師?...側妃!?番!?〜
Ria★発売中『簡単に聖女に魅了〜』
ファンタジー
チートな精霊姫に転生した主人公が、冒険者になる為の準備をしたり、町興ししたり、義兄とイチャラブしたりするお話。
義兄が徐々に微ヤンデレしてきます。
一章 聖霊姫の誕生
二章 冒険者活動前の下準備
三章 冒険者になるはずが、王太子の側妃になる事に。
四章 思案中(獣人が出てくる予定)
※注意!義兄とは二章で、王太子とは三章で、体の関係があります!朝チュン
※ちょっと設定が一般受けしないので、注意が必要です!
※作者が割となんでも有りな話を書きたかっただけという・・・。
※不倫描写があるので苦手な人は逃げてっ
※見切り発車。
※ご都合主義
※設定ふんわり
※R15は保険
※処女作
◇ ◇ ◇
【あらすじ】
転生先は...人間でも、獣人でもなく...精霊姫!
精霊姫の使命は、世界樹に力を注ぎ世界を維持することのみ。それ以外は、何をどうしようと好きに生きて良し!
何それ!?
冒険者になろうか?薬師になろうか?それとも錬金術師?
町興ししたり、商売して、がっつり稼いだり、自由に満喫中。
義兄様とイチャラブしたり、冒険者になろうとと準備していたはずが、王太子の側妃になっちゃったりする緩いお話。
主人公割と流されやすいです。
◇ ◇ ◇
初めて小説書くのに、一般受けしないの書いてしまったので・・・やっちゃったな!とか思いましたが、好きに書いていきたいと思います♪
自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで
嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。
誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。
でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。
このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。
そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語
執筆済みで完結確約です。
平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって―――
生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話
※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。
※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。
※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
【完結】殺されたくないので好みじゃないイケメン冷徹騎士と結婚します
大森 樹
恋愛
女子高生の大石杏奈は、上田健斗にストーカーのように付き纏われている。
「私あなたみたいな男性好みじゃないの」
「僕から逃げられると思っているの?」
そのまま階段から健斗に突き落とされて命を落としてしまう。
すると女神が現れて『このままでは何度人生をやり直しても、その世界のケントに殺される』と聞いた私は最強の騎士であり魔法使いでもある男に命を守ってもらうため異世界転生をした。
これで生き残れる…!なんて喜んでいたら最強の騎士は女嫌いの冷徹騎士ジルヴェスターだった!イケメンだが好みじゃないし、意地悪で口が悪い彼とは仲良くなれそうにない!
「アンナ、やはり君は私の妻に一番向いている女だ」
嫌いだと言っているのに、彼は『自分を好きにならない女』を妻にしたいと契約結婚を持ちかけて来た。
私は命を守るため。
彼は偽物の妻を得るため。
お互いの利益のための婚約生活。喧嘩ばかりしていた二人だが…少しずつ距離が近付いていく。そこに健斗ことケントが現れアンナに興味を持ってしまう。
「この命に代えても絶対にアンナを守ると誓おう」
アンナは無事生き残り、幸せになれるのか。
転生した恋を知らない女子高生×女嫌いのイケメン冷徹騎士のラブストーリー!?
ハッピーエンド保証します。
お飾り王妃の受難〜陛下からの溺愛?!ちょっと意味がわからないのですが〜
湊未来
恋愛
王に見捨てられた王妃。それが、貴族社会の認識だった。
二脚並べられた玉座に座る王と王妃は、微笑み合う事も、会話を交わす事もなければ、目を合わす事すらしない。そんな二人の様子に王妃ティアナは、いつしか『お飾り王妃』と呼ばれるようになっていた。
そんな中、暗躍する貴族達。彼らの行動は徐々にエスカレートして行き、王妃が参加する夜会であろうとお構いなしに娘を王に、けしかける。
王の周りに沢山の美しい蝶が群がる様子を見つめ、ティアナは考えていた。
『よっしゃ‼︎ お飾り王妃なら、何したって良いわよね。だって、私の存在は空気みたいなものだから………』
1年後……
王宮で働く侍女達の間で囁かれるある噂。
『王妃の間には恋のキューピッドがいる』
王妃付き侍女の間に届けられる大量の手紙を前に侍女頭は頭を抱えていた。
「ティアナ様!この手紙の山どうするんですか⁈ 流石に、さばききれませんよ‼︎」
「まぁまぁ。そんなに怒らないの。皆様、色々とお悩みがあるようだし、昔も今も恋愛事は有益な情報を得る糧よ。あと、ここでは王妃ティアナではなく新人侍女ティナでしょ」
……あら?
この筆跡、陛下のものではなくって?
まさかね……
一通の手紙から始まる恋物語。いや、違う……
お飾り王妃による無自覚プチざまぁが始まる。
愛しい王妃を前にすると無口になってしまう王と、お飾り王妃と勘違いしたティアナのすれ違いラブコメディ&ミステリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる