死痕

安眠にどね

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「急にどうしたんだよ」

 笠置さんが、端島さんに声を投げかけた。……確かに、急に掃除用具入れを覗いて、何かあるんだろうか? 普通、扉や窓など、教室から出られそうな場所を一番に調べないだろうか。
 しかし、端島さんは何も答えない。むしろ、わたしに、「りっちゃんさん、なにか見える?」と掃除用具入れの中を指さし、問いかけてきた。

「な、何かって……」

 少なくとも、わたしの位置から、掃除用具入れの中は見えない。角度的に。
 でも、急に不自然な行動をした彼の元へ近付くのはためらわれる。わけの分からない状況で、完全に信頼しきれていない人のところへ簡単に行こうとは思えない。

「――さっき、『見えた』君なら見えると思って」

 しかし、そんなわたしの戸惑いも無視して、端島さんは話を続ける。この人、恐怖心だけじゃなくて、いくつか感情をなくしているんじゃないのか。
 迷って周りを見回すも、誰も助け舟を出してくれない。唯一、依鶴だけが、「一緒に見に行こ」と手を握ってくれた。
 依鶴と一緒に、端島さんから距離を取りつつ、掃除用具入れの中が見える位置に移動すると――。

「あれ、包丁――包丁? 違う?」

 一瞬、包丁のようなものが掃除用具入れの中に立てかけてあるように見えた、気がした。確かに包丁があったはずなのに、包丁があると認識して、瞬きをしたら、跡形もなく消えてしまった。さっきの、端島さんに向かって倒れ込んできた人影のように。
 不思議に思って、依鶴の方を見てしまうと、「何もないよ?」と彼女は首を傾げた。……やっぱり、依鶴には見えてないんだ。

「あっちは?」

 今度は端島さんが窓の方を指さす。……やめてくれ、目を覚ましたときに、顔が映っていないかって怖い想像をしてしまったんだ。本当に何か映ってたらどうするの。
 しかし、部屋の雰囲気は、わたしに確認しろ、というような圧が、あるような気がした。

 わたしは黙って抵抗することができなくて、依鶴の手を握りこむと、少し、窓際に近付く。教室の中ほどまで来たところで、窓に何かが打ち付けられているように錯覚した。

「――え」

 一瞬、窓に板が打ち付けられていると思い込んだ。わたしと依鶴の顔が、他の人たちの人影が、窓に反射しなかった。明らかに、何かの遮蔽物がある。
 窓に打ち付けられた板も、わたしが認識して少しすると消えたのに、窓には何も移らないままだった。何故だか、外の様子も見えない、と、思ってしまう。実際、真っ暗で何も見えない。これが、外に明かりが全くなく、陽の沈んだ森だからそう見えるのか、今、この××分校に働いている、謎の力の一つなのか、分からない。個人的には、いまだにこの状況を飲み込めていないので、前者だとは思うのだが――見えた空といって、一体、何だと言うのだ。
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