死痕

安眠にどね

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 まだ、と言うことは、わたしと彼以外にも誰かいる、ということ。

「い、依鶴もいるの!?」

 わたしは思わず大声を上げてしまった。しかし、男はそれを気にした様子もなく、小首を傾げる。

「イヅル、という名前かは知らないけれど……昼間、君と一緒にいた女の子なら無事だよ」

 その言葉を聞いて、わたしは、一瞬安堵して、まだ男を信用しきっては駄目だ、と思いなおす。それでも、依鶴が無事だと聞いて、多少なりとも安心してしまう。

「あ、あの、依鶴はどこにいるの?」

 早く彼女の顔を見て安心したい。

「中学生用の教室だよ。君が目を覚ましたという隣の教室が小学生用のもの。その隣だね」
 
……ということは、こっち側ではなく、反対側に行っていれば、すぐに合流できたということか。
 運がない、と思う半面、それは結果を知っているからそう言えるだけ。

「ここから出るなら協力するべきだと思うし、皆待っているから、向こうの教室に行こう」

「……皆、待ってる?」

 ここから出るために協力する、というのには納得できる。本当に依鶴が彼の言う教室にいるのなら、多少は端島さんのことを信用して、共に手を取り合うのもやぶさかではない。むしろ、異常なまでに落ち着いている男が一人いるのだ。女二人でいるよりも、よっぽど頼りになるだろう。
 でも、皆、ってなに? まるで依鶴以外にも誰かがいるような言い方が妙に引っかかる。

「うん、全員そろっていると思ったんだけど、妙に物音がするから。僕が見に来たんだ」

 わたしの言い方が悪かったのだろうか。妙にずれた回答が返ってきた。
 望んでいる説明とは全く違うけれど、依鶴以外にも人がいることは確定だろう、この言い方では。
 しかも、彼女たち、という言い方をしない辺り、結構な人数がいる、ということじゃないだろうか。少なくとも、依鶴を含め、二、三人、という感じではない。実際はどうなのか、分からないが。

 でも、昼間、廃校の中で物音を聞いたときは、わたしと依鶴、端島さんしかいなかったし、学校の中にいたのだとしても、そこまで大人数いるような物音ではなかった。何人くらい教室にいるというのだろう。

 ……まあいいや。中学生用の教室、とやらに行けばわかるはずだ。

 端島さんのことを信用しきったわけじゃないけど、それはそれとして、こんな状況では普通に会話ができる相手がいるというだけで、少し安心して、落ち着きを取り戻すことができる。
 きょろきょろ、と廊下を確認してから教室へと向かう端島さんの後をついていった。わたしの他にも人がいる、という安堵感からか、少なくとも先ほどよりは、ずっと心臓が落ち着いたまま、廊下を歩くことができた。
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