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廊下に出ると、ギィ、と床が軋み、次の一歩がなかなか踏み出せなかった。夏でもないのに、握りしめた拳の中が、汗でじっとりしている。
一瞬。次の部屋まで一瞬だから。
わたしは自分にそう言い聞かせ、なんとか隣の教室までたどり着く。ほんの数歩にも関わらず、一生分の勇気を使いきった気がした。
「――……いない」
そこには誰もいない部屋が広がっていた。
おそらくは職員室だったのだろう。大人用のものと思われるオフィスデスクと椅子が三つあり、壁際には大きな棚。壁には黒板が取り付けられてあるが、日付ついていて、スケジュール表のようになっているので、明らかに授業用のものではない。
天井を見上げれば、やはりこの部屋も電気がついていた。
「……」
わたしはごくり、と唾を飲み込んで、入口の近くにあった、電気のスイッチを押してみる。カチ、カチ、と何度か押したものの、ボタンの上がる部分が左右変わるだけで、電気がついたり消えたりはしない。
この明かりはなんなのか。
わたしには答えられないが、でも、少なくとも、普通に電気が通ってついている、ということでないのは確かなようだ。
「……」
現実では考えられないような状況に、わたしはすっかり萎縮してしまっていた。まだ探したのはたった二部屋。そして、この××分校は決して広いものではない。分校にしても小さい部類の学校だと思う。
分校の間取りは頭の中に入っている。ここに来る前に調べて置いたのだが、有名な殺人事件の現場となっただけあって、当時の新聞やテレビで再現された間取りの画像が一杯出てきたものだ。
生徒用の教室が二部屋、職員室、保健室、理科室。それと、トイレが二か所、大人用と子供用のものがそれぞれ。
全部でそれだけしかない分校。
今、教室一つと、職員室は探したから、あとは部屋が三つとトイレが二か所。それだけなのに、わたしは職員室から出られないでいた。
残りの部屋に依鶴がいなかったらどうしよう。
誰もいなくて、わたし一人だったらどうしよう。
いや、むしろ、わたし以外に、誰かが――『何か』がいたらどうしよう。
自分の心音以外聞こえてこないような静寂の中、そんなマイナスな考えばかりが頭の中をぐるぐる回る。
――と。
「……あの」
わたしは背後から声をかけられ、勢いよく振り向いた。本当に驚いたときは、声もでない、というのは事実らしい。痛いくらいに心臓が暴れている。
振り返った先には、一人の男が立っていた。一瞬、誰か分からなかった。生きている人間なのか、死んでいる人なのかすら、驚きで脳の処理が遅れているようで、目の前の人間を認識するのが遅れた。
しかし、一拍遅れて、頭が動き出してようやく気が付く。
気絶する直前――玄関の前で出会った、あの男だった。
一瞬。次の部屋まで一瞬だから。
わたしは自分にそう言い聞かせ、なんとか隣の教室までたどり着く。ほんの数歩にも関わらず、一生分の勇気を使いきった気がした。
「――……いない」
そこには誰もいない部屋が広がっていた。
おそらくは職員室だったのだろう。大人用のものと思われるオフィスデスクと椅子が三つあり、壁際には大きな棚。壁には黒板が取り付けられてあるが、日付ついていて、スケジュール表のようになっているので、明らかに授業用のものではない。
天井を見上げれば、やはりこの部屋も電気がついていた。
「……」
わたしはごくり、と唾を飲み込んで、入口の近くにあった、電気のスイッチを押してみる。カチ、カチ、と何度か押したものの、ボタンの上がる部分が左右変わるだけで、電気がついたり消えたりはしない。
この明かりはなんなのか。
わたしには答えられないが、でも、少なくとも、普通に電気が通ってついている、ということでないのは確かなようだ。
「……」
現実では考えられないような状況に、わたしはすっかり萎縮してしまっていた。まだ探したのはたった二部屋。そして、この××分校は決して広いものではない。分校にしても小さい部類の学校だと思う。
分校の間取りは頭の中に入っている。ここに来る前に調べて置いたのだが、有名な殺人事件の現場となっただけあって、当時の新聞やテレビで再現された間取りの画像が一杯出てきたものだ。
生徒用の教室が二部屋、職員室、保健室、理科室。それと、トイレが二か所、大人用と子供用のものがそれぞれ。
全部でそれだけしかない分校。
今、教室一つと、職員室は探したから、あとは部屋が三つとトイレが二か所。それだけなのに、わたしは職員室から出られないでいた。
残りの部屋に依鶴がいなかったらどうしよう。
誰もいなくて、わたし一人だったらどうしよう。
いや、むしろ、わたし以外に、誰かが――『何か』がいたらどうしよう。
自分の心音以外聞こえてこないような静寂の中、そんなマイナスな考えばかりが頭の中をぐるぐる回る。
――と。
「……あの」
わたしは背後から声をかけられ、勢いよく振り向いた。本当に驚いたときは、声もでない、というのは事実らしい。痛いくらいに心臓が暴れている。
振り返った先には、一人の男が立っていた。一瞬、誰か分からなかった。生きている人間なのか、死んでいる人なのかすら、驚きで脳の処理が遅れているようで、目の前の人間を認識するのが遅れた。
しかし、一拍遅れて、頭が動き出してようやく気が付く。
気絶する直前――玄関の前で出会った、あの男だった。
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