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『たすけて』。
赤い塗料で書かれた言葉は、それこそ廃墟でよく見る落書きそのものだけれど、でも、これだけ落書きが少ない壁に書かれていると、目立って見えて仕方がない。
「縁起悪いっていうか、質悪いっていうか……」
この××分校は、事件が起きた十五年前から既に廃墟だった。だから、この落書きがいつ書かれたものなのか、わたしにはさっぱり分からない。事件が起きる前からあったのかもしれないし、事件が起きた後に誰かが書いたものなのかもしれない。
それでも、殺人事件が起きたこの現場でこの言葉は、何かうすら寒いものを感じてしまう。
「み、皆も落書きは場所と言葉を考えて――」
――ざり。
背後から足音が聞こえた気がして、わたしは振り返る。依鶴はすぐ隣にいる。明らかに、依鶴の方ではない場所から音が聞こえた。
「りっちゃん?」
「……今、足音しなかった?」
依鶴は首を傾げたまま。彼女には聞こえなかったようだ。
聞こえたのはわたしだけだったのか、気のせいか、とコメント欄を見ると、『やらせ?』『音したね』という、足音が聞こえた派と、『マジ? わからん』『場所が場所だから過敏になってんじゃね』という、聞こえなかった派で分かれている。若干聞こえた、というコメントが多いような気がするのは、足音が事実なのか、それとわたしが聞こえた気がしたから、同じ意見のコメントを目が拾ってしまうだけなのか。
『場所が場所だし、たぬきとか?』
そのコメントが流れると、『たぬき見たい』『ワンチャンあるな』と一気に野生動物説へとコメントが流れていく。
そうだ、ビビり過ぎなのだ。
凄惨な殺人事件が起きた場所だから、普段よりも怖く感じてしまうだけだ。自殺の名所とされている場所や、もっと心霊スポットとして有名な場所にも行ったことがあるけど、幽霊なんて見たことない。
だから、今回も大丈夫。どうせたぬきでしょ。
「じゃあ、たぬきが見たいというコメントに応えて見に行ってみましょうか~。あ、いなかったらごめんね」
わたしは明るい声を作って、校舎の玄関の方へと向かう。
足音はそこまで大きくなかったし、気のせいか、たぬきか、大きくても鹿とかだろう。……一応、熊が出る、という話は聞いていないから大丈夫だとは思うけど。熊なんかが出たら撮影どころじゃない。幽霊なんかより、熊の方がよっぽど危ないくらいだ。
そこまで大きい建物じゃないから、校舎もぐるっと回れてしまう。来たのとは反対側からわたしたちは表の方を目指す。
しかし、校舎裏から表に戻ってわたしたちが見たのは、昇降口に立つ、一人の男性だった。
赤い塗料で書かれた言葉は、それこそ廃墟でよく見る落書きそのものだけれど、でも、これだけ落書きが少ない壁に書かれていると、目立って見えて仕方がない。
「縁起悪いっていうか、質悪いっていうか……」
この××分校は、事件が起きた十五年前から既に廃墟だった。だから、この落書きがいつ書かれたものなのか、わたしにはさっぱり分からない。事件が起きる前からあったのかもしれないし、事件が起きた後に誰かが書いたものなのかもしれない。
それでも、殺人事件が起きたこの現場でこの言葉は、何かうすら寒いものを感じてしまう。
「み、皆も落書きは場所と言葉を考えて――」
――ざり。
背後から足音が聞こえた気がして、わたしは振り返る。依鶴はすぐ隣にいる。明らかに、依鶴の方ではない場所から音が聞こえた。
「りっちゃん?」
「……今、足音しなかった?」
依鶴は首を傾げたまま。彼女には聞こえなかったようだ。
聞こえたのはわたしだけだったのか、気のせいか、とコメント欄を見ると、『やらせ?』『音したね』という、足音が聞こえた派と、『マジ? わからん』『場所が場所だから過敏になってんじゃね』という、聞こえなかった派で分かれている。若干聞こえた、というコメントが多いような気がするのは、足音が事実なのか、それとわたしが聞こえた気がしたから、同じ意見のコメントを目が拾ってしまうだけなのか。
『場所が場所だし、たぬきとか?』
そのコメントが流れると、『たぬき見たい』『ワンチャンあるな』と一気に野生動物説へとコメントが流れていく。
そうだ、ビビり過ぎなのだ。
凄惨な殺人事件が起きた場所だから、普段よりも怖く感じてしまうだけだ。自殺の名所とされている場所や、もっと心霊スポットとして有名な場所にも行ったことがあるけど、幽霊なんて見たことない。
だから、今回も大丈夫。どうせたぬきでしょ。
「じゃあ、たぬきが見たいというコメントに応えて見に行ってみましょうか~。あ、いなかったらごめんね」
わたしは明るい声を作って、校舎の玄関の方へと向かう。
足音はそこまで大きくなかったし、気のせいか、たぬきか、大きくても鹿とかだろう。……一応、熊が出る、という話は聞いていないから大丈夫だとは思うけど。熊なんかが出たら撮影どころじゃない。幽霊なんかより、熊の方がよっぽど危ないくらいだ。
そこまで大きい建物じゃないから、校舎もぐるっと回れてしまう。来たのとは反対側からわたしたちは表の方を目指す。
しかし、校舎裏から表に戻ってわたしたちが見たのは、昇降口に立つ、一人の男性だった。
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