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××分校デスゲーム事件跡地に迫る。
ろくな動画のタイトルが思いつかないなあ、なんて思いながら、わたしは山道を歩いていた。
山道は人が通らなくなって随分と立つはずなのに、微妙に道のようなものが見える。道の両脇にかろうじてある、ぼろぼろの杭とロープで道だと分かるのはまだ分かるが、その道に生える植物が踏まれているような形跡があるのは、廃墟マニアや肝試しに来た人間が、ここを必ず通るからだろうか。わたしたちのように。
「りっちゃん、待って……」
へろへろとした様子の依鶴(いづる)の声が聞こえて、わたしは足を止める。振り返れば、息も絶え絶えで、××分校につく前にリタイアしそうな依鶴がいた。
「……やっぱり、荷物はわたしが持とうか」
彼女が持っているのは、カメラなどの撮影機材、その他。今時、ごついカメラが必要なわけじゃないけど、三脚もあるし、山奥に行くのだから、とあれこれ必要そうなものを荷物にまとめたら、結構な重量になってしまった。
わたしも依鶴も女ではあるけれど、ずっと山道を小さいリュックのみの荷物で歩いてきたわたしのほうが、まだ体力が残っているように思う。
しかし、依鶴は必死な様子で首を横に振った。
「やだ、先に行きたくない。私が鞄持つから、りっちゃん先に行って」
彼女は山を登り始める前と同じことを言った。普段は交代で鞄を持って廃墟の現場に行くのだが、こうして草木が生い茂る山道だけは、絶対に後に歩くのを譲らない。彼女曰く、蛇が怖いのだとか。先に行って、蛇がいないのを確認してくれと、彼女はいつも言う。
歩く速度を落として再び山道を歩き始めたが、すぐに道の終わりが見えてきた。分校の敷地内には、流石に土が見えないほど草が茂っていることはなかった。木造一階建ての、校舎というには小さく感じてしまう建物の周辺には、背の高い草が生えまくっているが。使われなくなった建物の証明かのように、良く生えている名前の分からない雑草だ。
「つ、ついたー!」
鞄をおいて、へたり込む依鶴。
「撮影前に少し休憩にしようか」
わたしは背負っていたリュックから水のペットボトルを二つ出し、一つ依鶴に渡す。彼女は「ありがとー」とそれを受け取ると、ぐびぐびと勢いよく飲む。
わたしもペットボトルを開けて口をつける。ふと、視線を感じたような気がして、思わず校舎の方を見た。
でも、特に誰もいない。
なんてことのない、普段撮影で取る廃墟と変わらないような、古びた建物があるだけだった。
いつもと違って、『こんな事件があった』という噂ではなく、遥か昔、世間を騒がせた事件が確実にあったと知っているから、そう感じただけだろう。
わたしはそう思い、ペットボトルから口を離して蓋をした。
ろくな動画のタイトルが思いつかないなあ、なんて思いながら、わたしは山道を歩いていた。
山道は人が通らなくなって随分と立つはずなのに、微妙に道のようなものが見える。道の両脇にかろうじてある、ぼろぼろの杭とロープで道だと分かるのはまだ分かるが、その道に生える植物が踏まれているような形跡があるのは、廃墟マニアや肝試しに来た人間が、ここを必ず通るからだろうか。わたしたちのように。
「りっちゃん、待って……」
へろへろとした様子の依鶴(いづる)の声が聞こえて、わたしは足を止める。振り返れば、息も絶え絶えで、××分校につく前にリタイアしそうな依鶴がいた。
「……やっぱり、荷物はわたしが持とうか」
彼女が持っているのは、カメラなどの撮影機材、その他。今時、ごついカメラが必要なわけじゃないけど、三脚もあるし、山奥に行くのだから、とあれこれ必要そうなものを荷物にまとめたら、結構な重量になってしまった。
わたしも依鶴も女ではあるけれど、ずっと山道を小さいリュックのみの荷物で歩いてきたわたしのほうが、まだ体力が残っているように思う。
しかし、依鶴は必死な様子で首を横に振った。
「やだ、先に行きたくない。私が鞄持つから、りっちゃん先に行って」
彼女は山を登り始める前と同じことを言った。普段は交代で鞄を持って廃墟の現場に行くのだが、こうして草木が生い茂る山道だけは、絶対に後に歩くのを譲らない。彼女曰く、蛇が怖いのだとか。先に行って、蛇がいないのを確認してくれと、彼女はいつも言う。
歩く速度を落として再び山道を歩き始めたが、すぐに道の終わりが見えてきた。分校の敷地内には、流石に土が見えないほど草が茂っていることはなかった。木造一階建ての、校舎というには小さく感じてしまう建物の周辺には、背の高い草が生えまくっているが。使われなくなった建物の証明かのように、良く生えている名前の分からない雑草だ。
「つ、ついたー!」
鞄をおいて、へたり込む依鶴。
「撮影前に少し休憩にしようか」
わたしは背負っていたリュックから水のペットボトルを二つ出し、一つ依鶴に渡す。彼女は「ありがとー」とそれを受け取ると、ぐびぐびと勢いよく飲む。
わたしもペットボトルを開けて口をつける。ふと、視線を感じたような気がして、思わず校舎の方を見た。
でも、特に誰もいない。
なんてことのない、普段撮影で取る廃墟と変わらないような、古びた建物があるだけだった。
いつもと違って、『こんな事件があった』という噂ではなく、遥か昔、世間を騒がせた事件が確実にあったと知っているから、そう感じただけだろう。
わたしはそう思い、ペットボトルから口を離して蓋をした。
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