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「いやあ、彼、格好いいでしょ? 街で見かけたんだけど、ビビっときてうちにスカウトしてきちゃった!」

 そう言って楽しそうにしている店長に、わたしは「はあ、そっすね」としか返せなかった。

「僕はシル。よろしくね、ええと……リノ先輩?」

 第四王子――ソルヴェート・ステラムルが、わたしに握手を求めてきた。
 きらきらと輝くような長い金髪を低い位置で一つに結び、その結んでいるリボンもなかなか質が良さそうな一品。平民では到底手の届かないランクの店のものじゃないのか、それ。快晴の日の海のように澄んだ青い瞳も、平民ではなかなか見ない色だ。
 隠す気あるのか、こいつ、と思いながら、わたしは彼の握手に応じた。

 こんなに第四王子にそっくりな男がいるのか? 絶対本人だよな、これ。

 確かに、街で売られる新聞は一色刷りで王子がどれだけ綺麗な金髪をしていようとも、新聞に載ったら色が分からなくなる。目も同様。
 そして、第四王子ともなれば、平民の前に出る機会も、王族の中でも少ない方になるのだろう。式典のときにいたところで、平民のいる場所からしたら遠すぎて、顔なんて判別付かない。慈善活動を精力的に行っている、という話も聞かないし、彼の顔を至近距離で見る機会がある平民なんて、いないと言い切ってしまえるほど。

 だから、平民の店長は、自分の国の王族だということに気が付かないんだろうけど――わたしには分かる。
 王城のパーティーで見たソルヴェート様そのものだ。

 そう言えば、第四王子には遊び癖がある、とか、聞いたなー。だからこそ、そこそこの年になっても婚約者がいないらしい。婚約者がいない理由を本人に聞いたら、「僕が一人の女性に縛られるなんて、国を揺るがす存在じゃない?」と本気で言い切ったという噂らしいが、本当なのだろうか。聞きて~。今本人目の前にいるし。

「……どうかした?」

 あまりにもじっと彼を見すぎていたからか、怪しまれてしまった。……小首を傾げるだけでもなかなか絵になる男だな。流石、いろんな令嬢と遊んでいるらしい男。女をとっかえひっかえできるだけの顔面を持ってらっしゃる。

 ――ん? いろんな令嬢?

 ……よくよく考えたら、わたしが向こうを判別できる、というのならば、向こうもわたしがコンフィッター家の長女だと、分かってしまうのでは!?
 わたしは王子の適当な変装と違い、結構がっちり変装しているから、すぐにはバレないと思うけど……。

 でも、バレるのだけは、本当にまずい。
 長女が働きに出ないといけないくらい、家が困窮しているのがばれたら、貴族家としての面子云々以前に、周りから一斉に手を引かれて、今度こそ没落してしまうのでは!?

 わたしは別に平民ぐらしは嫌じゃないけど――平民として働くことに慣れていない家族を一気に養うことになったら……。
 嫌、絶対嫌!
 家族仲は良好でも、それとこれとは話が別! たとえどれだけ仲のいい相手でも、一人働いて帰ってきたら、何もしてないのに「晩飯は?」とかやられたらボコボコにぶちのめす自身がある。

 どんな変装だよぷぷぷ~とか内心で笑っている場合ではなかった。
 絶対に、ばれないようにしないと……!
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