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日影射すカスミソウ
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そんなとても甘美な日々も卒業と共に終わってしまう。そう思うと、何か行動しないといけないという気持ちがどんどんと男の心に積もっていった。
「いやーついに卒業かぁ」
胸元に付いた造花を弄りながら神妙そうに彼女は呟いた。
「ねぇ、ちょっと公園で休憩してかない? 少し話したい事有るんだけど」
「うん! 僕も丁度話したい事有ったし大丈夫だよ」
その時の男はカツアゲの時なんて目じゃない程、心臓がバクバクと動いて、痛くて、煩くて仕方なかった。
「それで、話って何?」
僕はベンチに座ると、先に聞いておこうと思った。
「実はさぁ……」
そう言って彼女はポケットから1枚の写真を取り出した。
「その写真には」
ピンポーン
その無機質な音で、鬼灯はいつの間にか青園の父親の話に引き込まれていた事に気がついた。
「おい、何が来たんだ?」
「君達が一番待ってたものかな。思ってたよりだいぶ早いけどね」
「俺達が待ってた?」
「そうだ、娘に近づくなって話だが、快く受け入れよう、信じられないかも知れないけど、今後僕から君達に近付く事も干渉する事も一生しないとここに誓うよ。でもあの家には盗聴器とか絶対バレない所に色々仕掛けてるしなぁ。刑務所ではそれを楽しみに生きようかな」
そう笑って、青園の父親は俺達の横を素通りして玄関から外へ出た。
「青園行こう。青園、青園?」
呼びかけるも、いきなりの展開に固まってしまっていた。
「青園! 追いかけるぞ」
「う、うん」
俺の声に体を一瞬振るわせ、うなづいたのを確認して、俺は青園の手を取って、外へ出た。
俺達が外に出ると、そこには確かに俺達が望んでいた。しかし、呼んでもないのに来るわけ無い筈の白黒の車に、青い制服の警察が何人も来ていた。
「こ、これは」
「だから言ったろ? 君達が望んだものだって」
「この家の方で有ってますか? ここに人が監禁されてるという通報がありまして……」
「あぁ、それ僕です。僕が後ろの2人を監禁してました。呼び出した手紙は後ろの2人が持ってますよ。計画書は家の中です」
「なっ?」
てっきりはぐらかすのかと思ったが、あっさりと白状して、流れる様に手錠にかけられてしまった。
その流れる様な仕草に俺達だけでなく、警察も肩透かしを食らってる様だ。
「あぁ、そうだ、これを君達に渡そう」
そう言って青園父はポッケから何かをこちらへ放り投げた。
俺がキャッチしたそれは、青い薔薇で出来た小さな花束のストラップだった。
「それ、プレゼント、幸せにするんだよ?」
青園の父親はその言葉を最後にパトカーで連れられてしまった。
それから俺達も別のパトカーで事情聴取の為、警察署に連れられ、手紙の事や閉じ込められた事を話し、午後7時頃になってやっと車を停めた駐車場まで送ってもらえた。
「やっと終わったなぁ」
「うん」
にしても、あの父親が話してた話の男って、絶対青園の父親の事だよな。
「なぁ、あの話」
「やっぱり木那乃もおかしいと思った?」
「え? まぁ、そんな臆病で虐められる人とは思えなかったなぁ」
「それもだけど、お父さんの家、貧乏でも何でもないし、そもそもお母さんと同い年じゃないよ?」
「……え?」
なら、あの話は一体……。
「ま、まぁ! そもそも誘拐してきた人間を信じるのも馬鹿馬鹿しい話だな! そんな事より町田さんに無事だって伝えてあげないとね」
「うん。それに、私達の結婚式の準備だってしなくちゃだしね」
青園は少し考えた様に俯いてたと思ったら、してやったりと言わんばかりの笑顔でこちらを見上げてそう言った。
「ばっおま……全く。町田さんにそれも報告しないとだな。さっ車戻ろうぜ」
俺は青園の手を取って車に戻った。
「そういや、何で俺の事は大丈夫なんだ?」
俺は車を式場に走らせながらふと気になり青園に聞いた。
「そんなの……男性が怖くなる前から好きだったからに決まってるじゃん。言わせないでよ」
「かっ……わい過ぎないか? それは」
「やめてよ、あー言わなきゃ良かった」
「悪いって、ん? じゃあ何で高校の時、俺に男性が苦手って言った時、あんなに辛そうな顔してたんだ?」
「辛そうな? あーあの時は、告白しようと思ってたのよ、でもどうしても緊張して言えなかったから、それじゃないかしら?」
「じゃあ、俺のこの女装って完全に無駄な訳?」
「私は嬉しかったよ? そこまでしてくれるって思ってなかったもの」
「あの時言ってくれりゃあ……」
「だって、あの頃私の事全然構ってくれて無かったから」
そう言ってむくれてしまった。
こいつ……まぁ取り敢えず青園が俺に対して無理してなかったてのが分かっただけよかったか。
「せんぱーい!!!!」
式場の駐車場に車が停まったのに気付いた町田さんが、エントランスから飛び出して、車を降りた青園へ飛び掛かった。
「町田さん。ごめんなさいね、心配かけちゃって」
突っ込んできた町田さんを優しく捕まえてそう言った。
「本当ですよ! 鬼灯さんに連絡しても返事無いし、本当に心配したんですからね!」
「ごめんなさいね」
「お詫びに今度買い物一緒に行って下さいね」
「えぇ、勿論よ」
「2人とも、そろそろ中戻りましょ、寒いったらありゃしないもの」
「えぇ、そうしましょうか」
俺は青園の手を取ると、エントランスへ歩きだした。
「……なんだか先輩達距離近く有りません?」
俺と青園はそれを待ってたと言わんばかりに2人で顔を見合わせクスリと笑った。
「実はね———」
「いやーついに卒業かぁ」
胸元に付いた造花を弄りながら神妙そうに彼女は呟いた。
「ねぇ、ちょっと公園で休憩してかない? 少し話したい事有るんだけど」
「うん! 僕も丁度話したい事有ったし大丈夫だよ」
その時の男はカツアゲの時なんて目じゃない程、心臓がバクバクと動いて、痛くて、煩くて仕方なかった。
「それで、話って何?」
僕はベンチに座ると、先に聞いておこうと思った。
「実はさぁ……」
そう言って彼女はポケットから1枚の写真を取り出した。
「その写真には」
ピンポーン
その無機質な音で、鬼灯はいつの間にか青園の父親の話に引き込まれていた事に気がついた。
「おい、何が来たんだ?」
「君達が一番待ってたものかな。思ってたよりだいぶ早いけどね」
「俺達が待ってた?」
「そうだ、娘に近づくなって話だが、快く受け入れよう、信じられないかも知れないけど、今後僕から君達に近付く事も干渉する事も一生しないとここに誓うよ。でもあの家には盗聴器とか絶対バレない所に色々仕掛けてるしなぁ。刑務所ではそれを楽しみに生きようかな」
そう笑って、青園の父親は俺達の横を素通りして玄関から外へ出た。
「青園行こう。青園、青園?」
呼びかけるも、いきなりの展開に固まってしまっていた。
「青園! 追いかけるぞ」
「う、うん」
俺の声に体を一瞬振るわせ、うなづいたのを確認して、俺は青園の手を取って、外へ出た。
俺達が外に出ると、そこには確かに俺達が望んでいた。しかし、呼んでもないのに来るわけ無い筈の白黒の車に、青い制服の警察が何人も来ていた。
「こ、これは」
「だから言ったろ? 君達が望んだものだって」
「この家の方で有ってますか? ここに人が監禁されてるという通報がありまして……」
「あぁ、それ僕です。僕が後ろの2人を監禁してました。呼び出した手紙は後ろの2人が持ってますよ。計画書は家の中です」
「なっ?」
てっきりはぐらかすのかと思ったが、あっさりと白状して、流れる様に手錠にかけられてしまった。
その流れる様な仕草に俺達だけでなく、警察も肩透かしを食らってる様だ。
「あぁ、そうだ、これを君達に渡そう」
そう言って青園父はポッケから何かをこちらへ放り投げた。
俺がキャッチしたそれは、青い薔薇で出来た小さな花束のストラップだった。
「それ、プレゼント、幸せにするんだよ?」
青園の父親はその言葉を最後にパトカーで連れられてしまった。
それから俺達も別のパトカーで事情聴取の為、警察署に連れられ、手紙の事や閉じ込められた事を話し、午後7時頃になってやっと車を停めた駐車場まで送ってもらえた。
「やっと終わったなぁ」
「うん」
にしても、あの父親が話してた話の男って、絶対青園の父親の事だよな。
「なぁ、あの話」
「やっぱり木那乃もおかしいと思った?」
「え? まぁ、そんな臆病で虐められる人とは思えなかったなぁ」
「それもだけど、お父さんの家、貧乏でも何でもないし、そもそもお母さんと同い年じゃないよ?」
「……え?」
なら、あの話は一体……。
「ま、まぁ! そもそも誘拐してきた人間を信じるのも馬鹿馬鹿しい話だな! そんな事より町田さんに無事だって伝えてあげないとね」
「うん。それに、私達の結婚式の準備だってしなくちゃだしね」
青園は少し考えた様に俯いてたと思ったら、してやったりと言わんばかりの笑顔でこちらを見上げてそう言った。
「ばっおま……全く。町田さんにそれも報告しないとだな。さっ車戻ろうぜ」
俺は青園の手を取って車に戻った。
「そういや、何で俺の事は大丈夫なんだ?」
俺は車を式場に走らせながらふと気になり青園に聞いた。
「そんなの……男性が怖くなる前から好きだったからに決まってるじゃん。言わせないでよ」
「かっ……わい過ぎないか? それは」
「やめてよ、あー言わなきゃ良かった」
「悪いって、ん? じゃあ何で高校の時、俺に男性が苦手って言った時、あんなに辛そうな顔してたんだ?」
「辛そうな? あーあの時は、告白しようと思ってたのよ、でもどうしても緊張して言えなかったから、それじゃないかしら?」
「じゃあ、俺のこの女装って完全に無駄な訳?」
「私は嬉しかったよ? そこまでしてくれるって思ってなかったもの」
「あの時言ってくれりゃあ……」
「だって、あの頃私の事全然構ってくれて無かったから」
そう言ってむくれてしまった。
こいつ……まぁ取り敢えず青園が俺に対して無理してなかったてのが分かっただけよかったか。
「せんぱーい!!!!」
式場の駐車場に車が停まったのに気付いた町田さんが、エントランスから飛び出して、車を降りた青園へ飛び掛かった。
「町田さん。ごめんなさいね、心配かけちゃって」
突っ込んできた町田さんを優しく捕まえてそう言った。
「本当ですよ! 鬼灯さんに連絡しても返事無いし、本当に心配したんですからね!」
「ごめんなさいね」
「お詫びに今度買い物一緒に行って下さいね」
「えぇ、勿論よ」
「2人とも、そろそろ中戻りましょ、寒いったらありゃしないもの」
「えぇ、そうしましょうか」
俺は青園の手を取ると、エントランスへ歩きだした。
「……なんだか先輩達距離近く有りません?」
俺と青園はそれを待ってたと言わんばかりに2人で顔を見合わせクスリと笑った。
「実はね———」
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