幸福の花束を

天空

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狂い咲けゼラニウム

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「こっちは出ませんでした、先輩は?」

 町田さんがスマホを仕舞う間も無常にコール音は耳に鳴り続けた。

 こっちも出ない。

 あきらめて受話器を下ろそうとした瞬間。

『はい』

 繋がった!

「渋染さん! 良かった……一体どこにいるの? 大丈夫なの?」

『青園さん? えーっと、病院です。あっ勝手に出てってすいません』

「それもそうだけど、病院? どこの? 大丈夫なの?」

『渋沢くんが体調を悪くしてたので、連れて行きました。病院は黄合薔きりば診療所です』

 その声からは当初の明るい雰囲気は消え去っており、それだけ渋沢君のことが心配なのが分かった。

「そう、今度からは一声かけてからにしなさいね。私も迎えに行きましょうか?」

『いえ、大丈夫です。もう2人で帰るところなので、ご迷惑おかけしてすみませんでした』

「そう、学校にはこっちから連絡しておくから。元気になったらまた2人で実習に来なさい。いつでも待ってるから」

『っ……ありがとうございます』

 受話器を下ろすと、2人の所在が分かった事で張り詰めていた気持ちが緩まり、大きなため息が口から溢れた。

「繋がったんですか?」

「えぇ、渋沢君が体調悪くなったから病院に連れてってるんですって」

「渋沢君がですか?」

「そうらしいわ。でもきっと元気になってまた2人で来るわ。早速学校に連絡しないとだから先帰ってて良いわよ」

「分かりました」

 私が学校に連絡し終え外を見ると、寒空の中町田さんが立って待っていた。

「外で待ってるなら言ってよ、寒いでしょ?」

 私は町田さんに選んでもらった黒いコートを着て外へ出た。

「いえ、私が勝手に待ってただけなので」

 手も耳も真っ赤にして何を強がってるのやら。

「そう、なら早く帰りましょ」

 あれ以来気付けば町田さんと帰るのが日課になっていた。

「では、また明日!」

 笑顔で階段を上がっていく町田さんを見送って帰路に着いた。
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