上 下
378 / 436
3章 とこしえの大地亀ベルガド攻略編

377 大氷結の間 Part 5

しおりを挟む
「ちょ、待て! たかが三百年放置プレイされてた間に愛読BL本がクソエンドを迎えてたぐらいで、世界の破滅を願うな! 落ち着け!」
「たかが、ですって! あなたにあの二人の何がわかるって言うのよ!」

 シャラはもはや我慢の限界という表情だった。再び俺たちに向けて魔法を使ってきた。

 ただ、それはさっきの氷の刃を飛ばす魔法ではなかった。シャラの手から飛んできたのは、一陣の冷たい風だけだった。

 だが、直後、俺以外の他の連中の様子は一変した。なんとみんな、その風が吹き抜けたと同時に動きをぴたっと止めてしまったのだ。

「え……?」

 一瞬、何が起こったのかまったくわからなかった。シャラは氷の魔法使いだし、みんな凍らされたのか? しかし、見た感じ氷漬けにはなっていないし、冷たさも感じない。みんな、その場で彫像のように硬直しているだけだ。ただ、なんとなくその色合いはくすんでいるように見えた。まるでSLGの行動を終了したユニットみたいだ。

「お前、一体こいつらに何したんだよ?」
「これは凍結時間フローズン・タイムの術。彼らの周りの空間ごと、時を凍らせたのよ」
「時を……凍らせるだと!」

 そんなのありなのかよ!

「ちょ……待て? お前は氷の魔法使いであって、時空を自在に操る魔法使いじゃねえだろ? なんで氷魔法で時間停止なんてことできるんだよ?」
「私が天才だからよ。言ったでしょう、氷結系最強にして超有能の魔術師だと」
「いや、だからってそんな……」

 おかしい。氷は氷であって、時空とは何の関係もないだろうがよ。時を凍らせる、みたいなしょうもない言葉遊びでそんなことできちゃっていいのかよ!

「言っておくけど、私のこの術は誰であろうと逃れることはできないのよ。なんせ、空間そのものを凍らせて停止させるんですからね。どんなに魔法の耐性が高くたって、自分がいる空間への攻撃は防ぎようがないものね!」

 シャラは高笑いしながら言う。なるほど、それで魔法耐性相当高いであろう変態女と呪術バカにもばっちり効いているのか。

「じゃあ、なんで俺だけそのままなんだよ?」
「そりゃあ当然でしょう。時が止まっている相手には何の攻撃も効かないもの。まず最初にあなたを始末しようと思って、あえてあなただけを残したってわけ」
「ああ、そういうタイプの時間停止か」

 そうそう、時間停止にもいろいろタイプあるよね。時間が止まっている相手にイタズラできるやつと、できないやつ。これはイタズラできないほうなのか。

 俺はそこで、試しに変態女の乳をつかんでみた。コチコチに固かった。別に特別ありがたい乳でもなかったが、むしょうにさみしい気持ちになった。よりによって、夢がないほうの時間停止なんだからな。

「つまり、お前のこの術は、直接の攻撃には使えないってことか。天才とか自分で言う割に、たいしたことねえなー」
「なにを言うの! 現にこうして、四人の敵のうち三人を戦闘不能にしてるじゃない! 複数の敵を各個撃破するときにはすごく使えるわよ!」
「なんだ、お前、相手が俺一人なら勝てると思ってるのかよ?」
「そ、そうに決まってるでしょ!」
「うーん、どうかなー」

 お前に俺が倒せるかなあ?

「あんたなんて、いかにも剣を振ることしか能がない戦闘バカじゃないの。そんなやつ、私の氷魔法の敵じゃないわっ!」

 シャラはそこで、さっきと同じように氷の刃をこっちに飛ばしてきた。俺は当然、それを余裕でよけた。すると、今度は俺の真上にゴツいツララを出して落としてきた。これも余裕でよけた。さらに、猛吹雪をぶつけてきたり、氷でできた狼をけしかけたりしてきたが、やはりすべてノーダメで回避余裕だった。

「な、なんで、私の魔法が効かないのよ!」
「はは、相手が俺一人なら、各個撃破できるんじゃなかったのかよ」

 俺は笑った。時間停止の魔法を使われたときにはさすがにびびったが、どうやら、この女、魔術師としての技術はすごくても根本的に魔法の火力が足りてないようだ。ようするにエリータイプなんだ。

 まあ、エリーみたいな付与魔術エンチャントのスペシャリストならそれでも十分脅威だが、攻撃魔法がメインの属性魔法使いじゃなあ。さすがに俺の敵じゃないかなって。

「お前、そんなに氷ばっかり出してるんだし、そろそろ頭も冷えたころか?」

 何度目かの猛吹雪攻撃をゴミ魔剣で払いながら、俺は改めてシャラに話しかけた。いい加減、無駄な争いは終わりにしたかった。

 しかし、シャラは、

「まだまだよ!」

 なんかもう意地になって、ひたすら氷をこっちにぶつけてくる。どうしよう。やっぱ一発殴るしかないかな。これだけ攻撃されてるんだし、俺もちょっとぐらい反撃してもいいよね?

「いいから、俺の話を聞けって言ってるだろっ!」

 と、そこで俺は殴ってみた。シェラの顔を……ではなく、顔すれすれに拳を前に突き出し、後ろの壁を殴った。ようは壁ドンだ。まあ、いきなり弱い女の顔面を殴るのもな。

 そこまで力を込めたわけじゃないが、俺が殴った壁はひび割れ、大きくへこんだ。

「い……いきなり、何するの……」

 そして、シャラは後ろの壁のそんな惨状を見て、真っ青になってその場にへたり込んでしまった。お、戦意喪失か?

「お前じゃ俺に勝てないってことはよくわかっただろ。とっとと、家に帰るんだ――」
「い、言っておくけど、私を殴ったり殺したりしたら、あなたの仲間は永遠にこのままなんだからねっ!」
「え」
「この術を解けるのは私しかいないんだからね! 私に手を出すなんて、絶対許さないんだから!」
「ちょ、待て……」

 男二人はどうでもいいが、変態女がこのままだとユリィが悲しむんだが! いったい俺、どうすりゃいいんだよ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...