341 / 436
3章 とこしえの大地亀ベルガド攻略編
340 ヤギ殺しの谷
しおりを挟む
やがて、そんなこんなで、俺たちはそのまま森林地帯を進み始めた。キャゼリーヌというナビがいるので進行は比較的楽だった。切り立った岩場などがあっても、ユリィ以外は問題なく進めるし、ユリィは俺が抱っこすれば問題なかった。むしろ、そういう難所はウェルカムだった。ユリィを抱っこできるんだからな。
ただ、ワンダートレント生息地までは結構距離があり、初日はただ森を進むだけで終わった。そして、野営ののち二日目は、例の谷が俺たちを待っていた。そう、ヤギ殺しの谷とかいう……。
俺たちがたどりついたのは谷の上だったが、そこは見た目には変わったところはなかった。上から見ると谷底は深そうだったが、途中から暗くなっていてよく見えなかった。また、谷の幅はそんなになく、せいぜい30メートルほどで、これまでの難所と同様に俺がユリィを抱っこしていけば、問題なく進めそうだった。
まあ、それでも、そのまま進めない空気しかなかったわけだが……。
「ほほう、ここが『ヤギ殺しの谷』か! なるほど、確かに普通のヤギであれば登り切れずに死んでしまいそうだな。普通のヤギであれば!」
と、険しい?谷を前にして、やはりヤギは野生の本能をむき出しにしている様子だ。
「レオ、お前やっぱり、今からこの谷を攻略するつもり?」
「むろんだ」
ドきっぱりと即答しやがる野獣である。
「いや、それ今の俺たちの目的じゃないでしょ。お前の登りたい欲もわからんでもないけどさあ、今は前に進もうよ!」
「……わかっている。だが、このような谷を目の前にして、俺はこの蹄を腐らせたまま先に進むことなどできない! お前がどうしても急ぐというのなら、俺はここに捨てておいてもかまわん!」
「いや、捨てちゃダメだろ」
ペットはちゃんと最後まで面倒見ないとな。
だが、そこで、
「あ、そっか。この谷って、『ヤギ殺しの谷』っていうんだから、ヤギを捨ててもいいんだよな?」
ヒューヴが何やら納得したように言うと、いきなりヤギの体をひょいと持ち上げ、谷底に投げ捨ててしまった。
「ちょ、おま! 捨てていいって言われたからって、本当に捨てるバカがいるか!」
「いや、よく考えたらオスのヤギって肉が臭くてうまくないかなって」
「それが捨てた理由? お前、一応あいつの仲間でしょう! 昨日、自己紹介しあったでしょう!」
「そんなことあったかなー」
ヒューヴはヘラヘラ笑っている。仲間を谷底に捨てておきながらこの表情。これだからバカは。
だが、そこで、
「トモキどの、ヒューヴどの。レオローンどののことなら、心配はいらないようだぞ」
と、キャゼリーヌが俺たちに言った。見ると、谷底のほうに耳を傾けている様子だ。
「レオローンどのが落下した後の音を聞く限り、彼が谷底に激突した気配はなさそうだ。無事に着地に成功したのだろう」
「まあ、あいつも魔法を使えばこれぐらいの高さ?どうってことないか」
実際どんだけ深いのかよくわからんが。
「おーい、レオ! 生きてるかー!」
と、試しに上から叫んでみると、ややあって下からヤギのものらしい声がかすかに聞こえてきた。反響もあって、なんて言っているのかまではわからないが、確かに死んではいないようだ。
「よし、ヤギも捨てたし、オレたちは先に行こうぜー」
「いや、ここはあいつが登って来るのを待つしかない流れだろ」
俺はヒューヴのポンチョをつかんで、やつが谷の向こうに飛んでいこうとするのを止めた。
「えー、なんで? ヤギ捨てていい場所なんだろ、ここ?」
「いや、どんな場所でも、動物を谷底に突き落としたら駄目でしょう! ライオンのお父さんも本当はそんなこと子供にしないからね! 普通に動物虐待案件だからね、これ!」
「ドウブツギャクタイ……? あ、そうか、たとえまずくても食べ物は捨てちゃいけないってことか!」
「ちげーよ! いい加減あいつを食材扱いすんな!」
なんか俺までそういうふうにしか見えなくなるじゃないの!
「大丈夫ですよ、ヒューヴさん。レオローンさんならきっとすぐにここまで戻ってきますよ。そんなに時間がかからないうちに」
と、ユリィがヒューヴに言うと、
「そっかあ。ユリィちゃんがそう言うなら、オレもあいつの帰りをここで待つことにするよ。ユリィちゃんと一緒に」
と、超なれなれしくユリィの肩に腕を回すヒューヴだった。俺はすぐにヒューヴに頭突きし、ユリィから引きはがした。
ただ、ワンダートレント生息地までは結構距離があり、初日はただ森を進むだけで終わった。そして、野営ののち二日目は、例の谷が俺たちを待っていた。そう、ヤギ殺しの谷とかいう……。
俺たちがたどりついたのは谷の上だったが、そこは見た目には変わったところはなかった。上から見ると谷底は深そうだったが、途中から暗くなっていてよく見えなかった。また、谷の幅はそんなになく、せいぜい30メートルほどで、これまでの難所と同様に俺がユリィを抱っこしていけば、問題なく進めそうだった。
まあ、それでも、そのまま進めない空気しかなかったわけだが……。
「ほほう、ここが『ヤギ殺しの谷』か! なるほど、確かに普通のヤギであれば登り切れずに死んでしまいそうだな。普通のヤギであれば!」
と、険しい?谷を前にして、やはりヤギは野生の本能をむき出しにしている様子だ。
「レオ、お前やっぱり、今からこの谷を攻略するつもり?」
「むろんだ」
ドきっぱりと即答しやがる野獣である。
「いや、それ今の俺たちの目的じゃないでしょ。お前の登りたい欲もわからんでもないけどさあ、今は前に進もうよ!」
「……わかっている。だが、このような谷を目の前にして、俺はこの蹄を腐らせたまま先に進むことなどできない! お前がどうしても急ぐというのなら、俺はここに捨てておいてもかまわん!」
「いや、捨てちゃダメだろ」
ペットはちゃんと最後まで面倒見ないとな。
だが、そこで、
「あ、そっか。この谷って、『ヤギ殺しの谷』っていうんだから、ヤギを捨ててもいいんだよな?」
ヒューヴが何やら納得したように言うと、いきなりヤギの体をひょいと持ち上げ、谷底に投げ捨ててしまった。
「ちょ、おま! 捨てていいって言われたからって、本当に捨てるバカがいるか!」
「いや、よく考えたらオスのヤギって肉が臭くてうまくないかなって」
「それが捨てた理由? お前、一応あいつの仲間でしょう! 昨日、自己紹介しあったでしょう!」
「そんなことあったかなー」
ヒューヴはヘラヘラ笑っている。仲間を谷底に捨てておきながらこの表情。これだからバカは。
だが、そこで、
「トモキどの、ヒューヴどの。レオローンどののことなら、心配はいらないようだぞ」
と、キャゼリーヌが俺たちに言った。見ると、谷底のほうに耳を傾けている様子だ。
「レオローンどのが落下した後の音を聞く限り、彼が谷底に激突した気配はなさそうだ。無事に着地に成功したのだろう」
「まあ、あいつも魔法を使えばこれぐらいの高さ?どうってことないか」
実際どんだけ深いのかよくわからんが。
「おーい、レオ! 生きてるかー!」
と、試しに上から叫んでみると、ややあって下からヤギのものらしい声がかすかに聞こえてきた。反響もあって、なんて言っているのかまではわからないが、確かに死んではいないようだ。
「よし、ヤギも捨てたし、オレたちは先に行こうぜー」
「いや、ここはあいつが登って来るのを待つしかない流れだろ」
俺はヒューヴのポンチョをつかんで、やつが谷の向こうに飛んでいこうとするのを止めた。
「えー、なんで? ヤギ捨てていい場所なんだろ、ここ?」
「いや、どんな場所でも、動物を谷底に突き落としたら駄目でしょう! ライオンのお父さんも本当はそんなこと子供にしないからね! 普通に動物虐待案件だからね、これ!」
「ドウブツギャクタイ……? あ、そうか、たとえまずくても食べ物は捨てちゃいけないってことか!」
「ちげーよ! いい加減あいつを食材扱いすんな!」
なんか俺までそういうふうにしか見えなくなるじゃないの!
「大丈夫ですよ、ヒューヴさん。レオローンさんならきっとすぐにここまで戻ってきますよ。そんなに時間がかからないうちに」
と、ユリィがヒューヴに言うと、
「そっかあ。ユリィちゃんがそう言うなら、オレもあいつの帰りをここで待つことにするよ。ユリィちゃんと一緒に」
と、超なれなれしくユリィの肩に腕を回すヒューヴだった。俺はすぐにヒューヴに頭突きし、ユリィから引きはがした。
0
お気に入りに追加
211
あなたにおすすめの小説
ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~
ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」
ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。
理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。
追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。
そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。
一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。
宮廷魔術師団長は知らなかった。
クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。
そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。
「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。
これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。
ーーーーーー
ーーー
※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。
見つけた際はご報告いただけますと幸いです……
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる