上 下
323 / 436
3章 とこしえの大地亀ベルガド攻略編

322 ざんねんないきもの

しおりを挟む
 その後、他の犯罪についてもヒューヴに話を聞いてみたが、いずれも本人に犯罪の自覚はないようだった。その無自覚犯罪が積もりに積もって懸賞金四百万ゴンスの凶悪犯になったってわけか。さすがかつて伝説を作った男。犯罪者としてもいろんな意味で規格外だぜ。(俺も人のこと言えないがな!)

 また、それらの無自覚犯罪は、ここ一か月に集中していた。なんでも、俺があの暴マーを倒したせいで、ヒューヴがそれまでやってきた討伐などの冒険者の仕事がなくなったのが原因だという。そういや、こいつ、金がないって言ってたな。

「ヒューヴ、お前ほんとバカだな。お前くらいの腕なら、討伐の仕事がなくなっても、どっかの貴族のお抱えスナイパーになるとか仕事はいくらでもあっただろうがよ」
「え、貴族のお抱えって何それ?」
「そんなことも思いつかなかったのかよ。生きるの下手すぎかよ!」

 俺はため息をついた。こいつ、本当に四百歳オーバーのジジイなのか? 頭の中身がお粗末すぎるだろ。

 と、そこで、

「……あのう、勇者様。この男は本当に、あなたのかつてのお知り合いなのですか?」

 刑事が困惑しきった顔で俺に尋ねてきた。

「今のやつの話を聞く限り、なんというか、そのう……非常に残念な頭の持ち主で……」
「まあ、すごいバカだよな」

 こんなやつ相手にこれから取り調べするとか、ちょっと同情してしまう。

「こいつは昔からこうなんだ。俺とパーティ組んでたころと、何も変わっちゃいねえよ」
「そ、そうですか。しかし、彼はあの古代翼人エンシャント・ウィングだというではないですか」
「? それが?」
「いや、古代翼人エンシャント・ウィングというのは、有翼人の中でもひときわ能力の高い種族と決まっているでしょう? それがあんなバ……不自由な知能の持ち主だなんて……」

 と、刑事がつぶやいたところで、

「それは違いますよ、刑事さん」

 と、ヤギが刑事に言った。

「刑事さん、あなたはもしや、古代翼人エンシャント・ウィングというものを誤解しておいでではないでしょうか。あらゆる面で人より秀でた、完璧な種族だ、と」
「え、そうではないのですか?」
「まあ、だいたいにおいてそれは正しいと言えるでしょう。彼らは実際、人よりはるかに秀でた魔力、敏捷性、寿命を持ち、目鼻立ちも整っているものがほどんどだそうです。ただ、ある一つの点だけは大きく人間に劣っており、それゆえ彼らは滅亡の道をたどっているのです」
「ある一つの点?」
「はい。彼らはみな、知能が低いのです」
「種族レベルでバカなのかよ!」

 と、俺は思わずツッコミを入れずにはいられなかった。バカが生まれつきとか、またひどい種族だ。

「な、なるほど……。確かにこの容疑者を見る限り、それは納得するしかないお話ですね。しかし、それで滅亡の道をたどっているとは一体どういう?」

 刑事はさらにヤギに尋ねた。

「実は、有翼人のみが好んで食べる木の実があるのですが、これは約二百年周期で猛毒の赤いカビが発生することがあるのです。もちろん、古代翼人エンシャント・ウィング以外の有翼人の場合は、知能は人間と変わらないのですぐにこのカビの毒に気づいて被害を最小限に抑えることができるのですが、古代翼人エンシャント・ウィングだけは知能の低さゆえに毎回対応が遅れ、赤いカビの発生ごとにその毒で大きく数を減らしてしまうのだそうです」
「え、そんな理由で彼らは滅びかかっているのですか? そんなバカな話があるのですか?」
「あるのです」

 どきっぱりとヤギは言い切った。またなんというバカ極まりない滅亡理由だろう。まあ、正しい自然淘汰のありようとも言えるだろうが。種族まるごとダーウィン賞もらえそうな話だ。

「なるほどなあ。他の能力が高くてもバカだとどうしようもねーって話かあ」

 と、ザックも笑いながら言った。

「なんだよー。みんなでコソコソ話しながら、オレをバカにしてるじゃねえよ。バカって言うやつがバカなんだからな! バーカバーカ!」

 と、バカゆえに絶滅寸前になっている種族の男はぷりぷり怒っている。

「しかし、そのように低知能の種族だとすると、やつの容疑者としての責任能力は……」

 刑事はいよいよ困惑しきっている様子だ。確かに、警察としてはそれは非常に悩ましいところだろう。バカゆえの無自覚犯罪の数々だしなあ。

 と、そのとき、

「刑事、ヒューヴ容疑者の弁護人だと名乗る女性がいらっしゃいました!」

 刑事の部下の巡査らしい男が、そう言いながらこっちに駆け寄ってきた。

「弁護人? そんな話は聞いていないが……とりあえず、面会ならまず予約を――」

 と、刑事が首をかしげた直後、

「あら? 予約が必要でしたの? すみません、もう来ちゃいましたわ、うふふ」

 という女の声が入り口のほうから聞こえてきた。

 見ると、有翼人の若い女がそこに立っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

処理中です...