上 下
286 / 436
3章 とこしえの大地亀ベルガド攻略編

285 例の箱の正体は

しおりを挟む
 俺たちはその後、ザレの村にある道具屋に行った。回復薬ポーションをしこたま消費したので補充しておこうと思ったのだ。クルードに出発するのは明日なので、今日はヒマだしな。日暮れまでまだそこそこ時間もあるし。

 店に入ると、回復薬ポーションを買う前に、まず店主のオヤジに空になった回復薬ポーションの空き瓶を渡し、一つあたり三百ゴンスの金をもらった。これは瓶そのものの代金だ。中身を使い切った後に店に持っていくと返金してもらえるシステムなのだ。普通の日本人の感覚だと二千ゴンスの商品の瓶代が三百ゴンスなんてちょっと高すぎる気もするが、この世界では瓶の素材のガラスはそこそこ貴重なのでこれぐらいは普通だ。

 と、そのとき、道具袋の底に、金属製の四角い箱が入っているのに気づいた。カロンからもらった粗品の貯金箱だ。ドノヴォン国立学院の寄宿舎を出る時、数少ない俺の私物なのでとりあえず一緒に持ってきたわけだが、貯金箱なんてこれから先使う機会はなさそうだ。処分しよう。(もちろん、俺は当然、例の暴マーのレジェンド・コアも持ち歩いている。売れはしないが、どこかで何かの役に立つ機会があると信じて!)

「おい、おっさん、こういうのって買い取ってもらえるか?」

 俺は道具袋から貯金箱を出し、店主に見せた。

「? これはなんだい?」
「貯金箱だよ。ここに金を入れる穴があるだろ」

 俺は箱のてっぺんのコインの投入口を指さした。

「ふむ。確かにコインを入れるのにちょうどよさそうな形の穴だが……。本当にこれ、貯金箱なのかい?」
「え」
「お客さんの出身地じゃどうだったか知らないけど、ここベルガドで貯金箱と言えば、こういう陶器のものが一般的でね」

 と、カウンターの横にちょうど置いてあった陶器製の豚の貯金箱を指さす店主だった。なんというベタな貯金箱。

「まあ、俺もこういうタイプの貯金箱は知ってるけどさ。金属製のやつがあったっていいだろ」

 そうそう、五百円玉入れて十万円たまる金属製の貯金箱とかあったしな。

「……いや、やっぱりこれは貯金箱じゃないだろう。コインを入れたとして、取り出す方法がないよ、これだと」

 店主は俺が差し出した箱を持ち上げ、いろんな角度から眺めつつ、指でトントンと弾きつつ言った。

「バカだなー、おっさん。こういうのは最後に缶きりで開けるんだよ」
「この箱を壊すってことかい? 無理だね、この素材じゃ」
「素材?」
「これはどう見ても、鉄や銅みたいな普通の金属じゃないよ。詳しくはわからないが、相当な強度の素材だ」
「マジか」

 なるほど、確かに貯金箱じゃなさそうだ。普通に缶きりで開けられないんだからな。

「じゃあ、これはいったい何なんだよ、おっさん。あんた道具屋だろ。鑑定してみてくれよ」
「ああ、ちょっと待ってくれ」

 店主は懐から鑑定用と思しきルーペを取り出し、謎の箱をそれ越しにしげしげと見つめ始めた。そして、「うーん?」と難しい顔をしながら首をかしげた。ルーペを使ったところで何もわからないようだ。

「君、これをいったいどこで手に入れたんだい?」
「カロンって女にもらったんだよ」
「カロン?」
「冥府の川の渡し守をしてる女だよ」
「え……そのカロン?」

 店主はたちまちぎょっとしたようだった。

「すげーな、トモキ。カロンって教科書にも載ってるようなやつだぞ。そんなやつとダチだなんてよお!」

 ザックも驚いているようだ。他のみんなも面食らっているようだ。そういや、ヤギが以前、有名人だとかなんとか言ってたな。

「な、なんで君、そのカロンにこんなのもらったの」
「知り合いがためこんでいたツケを俺が代わりに払ってやったから、その礼だよ」
「いや、そもそもなんでそういう話の流れになったの? 普通に生きてたらカロンと会うことなんてないよね?」
「ああ、軽く死んだから」
「えっ」
「いやまあ、実際、軽く死んだのは俺じゃなくてその知り合いだったんだけどさ。そいつの臨死体験に俺の魂が巻き込まれて冥府の川にすっ飛ばされたんだよ。迷惑な話だよな」
「そ、そうか……わかったような、わからないような」

 店主は困惑気味にまた首をかしげた。ちょっと話が浮世離れしすぎたか。

「ということは、だ。おそらくこれは、この世の物質でできてるわけではないんだろうね」

 店主はルーペを懐に戻しながら言った。鑑定あきらめたのかよ。

「じゃあ、結局何なんだよ、これは?」
「さあ? 実際に使ってみればわかるんじゃないか?」
「使う?」
「ここに、いかにもコインを入れてくださいという感じの穴があるじゃないか」

 店主は箱のてっぺんの穴を指でトントンと叩いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ブラック宮廷から解放されたので、のんびりスローライフを始めます! ~最強ゴーレム使いの気ままな森暮らし~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「クレイ・ウェスタ―! 貴様を宮廷から追放する!」  ブラック宮廷に勤めるゴーレム使いのクレイ・ウェスターはある日突然クビを宣告される。  理由は『不当に高い素材を買いあさったこと』とされたが……それはクレイに嫉妬する、宮廷魔術師団長の策略だった。  追放されたクレイは、自由なスローライフを求めて辺境の森へと向かう。  そこで主人公は得意のゴーレム魔術を生かしてあっという間に快適な生活を手に入れる。    一方宮廷では、クレイがいなくなったことで様々なトラブルが発生。  宮廷魔術師団長は知らなかった。  クレイがどれほど宮廷にとって重要な人物だったのか。  そして、自分では穴埋めできないほどにクレイと実力が離れていたことも。  「こんなはずでは……」と嘆きながら宮廷魔術師団長はクレイの元に向かい、戻ってくるように懇願するが、すでに理想の生活を手に入れたクレイにあっさり断られてしまう。  これはブラック宮廷から解放された天才ゴーレム使いの青年が、念願の自由なスローライフを満喫する話。 ーーーーーー ーーー ※4/29HOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※推敲はしていますが、誤字脱字があるかもしれません。 見つけた際はご報告いただけますと幸いです……

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...